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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2020.08.18

ウィズ・アフターコロナの戦略提言|今こそ、経営者リーダーシップの発揮を。国と地域のトランスフォーメーション②:タナベコンサルティング 若松 孝彦

 

7.コンパクト×スマートな都市機能への戦略投資
――自然災害・感染予防、地域包括医療、5Gインフラへの投資

 

日本の国土面積は世界の0.28%にすぎず、人口も全世界の1.9%程度である。ところが、世界における日本の災害発生割合を見ると、マグニチュード6.0以上の地震回数18.5%、活火山数7.1%、災害死者数1.5%、災害被害額17.5%など(内閣府「2014年版防災白書」)、国土面積と比べて非常に高い。

 

堤防の整備や防災技術の進歩もあり、一度に1000人以上の犠牲者を出すような災害は減ったが、死者・行方不明者が6000人を超えた1995年の阪神・淡路大震災、2万人の死者・行方不明者が出た2011年の東日本大震災をはじめ、直近では今年7月に九州で発生した「令和2年7月豪雨」のほか各地での集中豪雨などによる水害、また火山の噴火といった大規模災害が頻発している。

 

これは、日本という国が、自然災害に関して他のどの国よりもしっかりと対策を打たねばならないことを示唆している。防災対策へ取り組むことに異論の出ない国が日本である。

 

未来の日本は、「都市機能を集約することと合わせて住居を集約していく都市づくり」(=コンパクトシティー)と、「ITや環境技術などの先端技術を駆使して街全体の電力の有効利用を図ることで、省資源化を徹底した環境配慮型の都市づくり」(=スマートシティー)を、リージョン経済圏の中でデザインし直す必要がある。

 

先般、トヨタ自動車がパートナー企業や研究者と連携しながら、自動運転、MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)、パーソナルモビリティー、ロボット、スマートホーム技術、人工知能(AI)技術などを導入・検証できる街「Woven City(ウーブン・シティ)」を静岡県裾野市に建設すると発表した(2021年初頭に着工予定)。未来のスマートシティーへの取り組みは、国や地域を挙げて支援すべきだ。

 

自然災害が起きやすいエリアを避け、できるだけ安全なエリアへの移住を促進する政策も重要だ。「国土強靭化」と言っても、日本中の海岸や河川に防波堤を完全整備することはできない。だからこそ、「コンパクト×スマートシティー」という受け皿を、国土ビジョンとして明確に持って取り組むべきだろう。

 

医療体制もひっ迫している。病院3団体(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会)が6月に公表した緊急調査結果「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況緊急調査(追加報告)」によると、全病院の3分の2に当たる66.7%が赤字である。このうち、コロナ患者を受け入れた病院は8割近く(78.2%)が赤字に苦しむなど、極めて厳しい状況にある。

 

私はコンサルティングで多くの病院組織へもアドバイスを行ってきたので、構造的な経営上の問題に新型コロナ禍が追い打ちをかけたと理解している。前述の調査では、東京の病院は他道府県の病院よりも赤字率が高い。一般の公共サービスのような地方の問題とも違う、構造的な要因と考えられる。命に関わる医療体制へのリージョン経済圏への戦略投資は「待ったなし」なのである。

 

一方、医療費および診療費は増加の一途をたどっており、GDPに占める比率も上昇している。いわゆる「団塊の世代」(1947~49年生まれ)が75歳以上となる2025年をめどに、重度の要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けられるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築が必要なのである。これらの医療体制のトランスフォーメーションにも、「リージョン経済圏」のデザインと併せて取り組むしかない。

 

ただし、高齢化には地域差が生じている。地域包括ケアシステムは、保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じてつくり上げなければならない。そのため、病院経営におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)やオンライン診療への戦略投資も不可欠となる。

 

感染症対策としては、米国の疾病予防管理センター(CDC)を参考に、緊急事態での司令塔機能の強化策として、政府の関係各省の権限を1カ所に集中させる「日本版CDC」の創設は必然だろう。

 

さらに、これは金融面においても同様だ。現政権が2014年に策定した成長戦略には「日本版スーパーリージョナルバンク」構想の実現が盛り込まれ、現在まで買収による地方銀行の拡大が進んだ(この大規模化した地方銀行のことをスーパーリージョナルバンクと呼ぶ)。コロナショックの融資支援で一時的に多忙な状態になっても、地域の人口や企業数が増えていない現実を直視すると、地域のオーバーバンク状況の本質は何ら変わらない。必要な時に、必要な場所で、適正な数の金融機関のある状況をリデザインしなければ総崩れになる。ICT(情報通信技術)やデジタル化されたスマートリージョン都市を構築できれば、この問題も併せて解決できるのだ。

 

 

8.サステナブル・SDGsテック戦略で貢献価値を発揮せよ

 

ウィズコロナ時代の今こそ、SDGs(持続可能な開発目標)へ積極的に取り組み、世界経済を支援していくことが大切になる。東京オリンピック・パラリンピック(2021年開催予定)、大阪万博(2025年開催予定)に向けたメインテーマとなり得るだろう。

 

2020年の世界経済フォーラム「ダボス会議」で「世界で最も持続可能性のある企業100社」(コーポレート・ナイツ社)が発表されたが、トップ100にはアジアから16社がランクインし、日本からは積水化学工業、武田薬品工業、コニカミノルタ、花王、パナソニック、トヨタ自動車の6社がランクインした。アジア・太平洋地域内ではトップの社数である。私は、日本が世界で勝ち残るためには、「サステナブル企業」としてブランディングをすることが大切だと考える。

 

スイスのIMD(国際経営開発研究所)の世界競争力ランキングで、日本の順位は年々低くなり、2020年は過去最低の34位であった。ただし、235項目の長期的な基準において「環境関連の技術」が2位だった。

 

私は、日本という国の貢献価値は、サステナブル(持続的成長)・SDGsテックにおいて、国も企業もファーストコールになることだと考える。結果、世界からリスペクトされる国・企業になる。これらをポストコロナ時代におけるグローバルな戦略ポジションとし、そのためのロードマップをビジョンの中に組み込んで策定することだ。SDGsに取り組むサステナブルテック戦略を、日本が世界に向けて発信する基本戦略としなければならない。

 

以上の8つの戦略を「国と地域のトランスフォーメーション 日本経済編」として提言する。「朝の来ない夜はない」。ポストコロナの新しいグローバル社会の中で、日本や地域が貢献価値を発揮できる枠組みをリデザインすることが急がれる。提言した8つ以外にも多くのアイデアや施策を日本の「One Vision」として策定し、その中で大切な税金や資源を戦略的に再配分することが「国と地域のトランスフォーメーション戦略」となる。

 

「未来は創るためにある」。今こそ、国や地域の経営においても、ビジョン策定、発信という経営者リーダーシップが求められている。

 

 

 

 

 

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

 

 

 

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