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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2020.08.18

ウィズ・アフターコロナの戦略提言|今こそ、経営者リーダーシップの発揮を。国と地域のトランスフォーメーション②:タナベコンサルティング 若松 孝彦

 

 

【図表】リージョン経済圏の総生産(名目)と国際比較

※県内総生産は年度、各国GDPは暦年。単位:10億米ドル、2016年
出所:内閣府「平成28年度県民経済計算について」(2019年11月29日)

 

 

5.リージョン経済圏をデザインせよ

 

私たちタナベ経営は、コンサルティングファーム(以降、ファーム)として創業63年の歴史がある。「日本の経営コンサルティングのパイオニア」といわれる所以である。その歴史の中で、日本全国(札幌・仙台・新潟・東京・名古屋・大阪・金沢・広島・福岡・那覇の10カ所)にファームスタイルで事業所を持つに至っている。全国の各主要都市に均等に拠点を展開しているファームはタナベ経営だけだ。

 

また、各地域ファームの創立年数は平均50年前後。「地方創生」が叫ばれるずっと以前から、地域密着で中堅・中小企業の成長発展や再生に携わってきた。その結果、コンサルティング実績社数は7000社を超える。タナベ経営ほど各地域の中堅・中小企業を熟知しているファームはないだろう。

 

私自身も、10拠点を訪ねながら1000社超の企業へアドバイスを行い、多くの経営者仲間やクライアントと膝を交えてきた。年間の移動距離を換算してみると日本20周分、つまり地球を6周したことになる。日本経済のセミマクロ経済に、誰よりも、どこよりも精通すると自負している。新型コロナ禍の「休業不況」でも、地域展開という分散投資をしてきた当社は、10拠点それぞれが地域企業へ貢献価値を発揮している。

 

新型コロナウイルスの感染者数は依然、世界中で拡大している。日本は他国に比べて被害が少ないとはいえ、海外渡航などの行動規制を解除するには至っていない。完全な往来ステージにはまだ時間がかかりそうだ。したがって前回(2020年8月号)で指摘したように日本はしばらく「内需型経済(鎖国型経済)」にならざるを得ない。しかし、外出自粛やそれに伴う消費抑制がかかった環境での内需型経済の回復は難しい。その対策の一つが「リージョン経済圏のデザイン」である。国や地域の新しい法整備、ルールづくりと言える。

 

今、新型コロナウイルスの感染拡大防止策で、東京都は「命」を起点にして神奈川県や埼玉県、千葉県と強く連携せねばならなくなった。これらの地域と安全な形で連携しない限り、東京の経済や観光は機能せず、感染対策も成立しない。まさに新しい「関東リージョン(行政区域)」である。

 

大阪府も、京都府や兵庫県、滋賀県、和歌山県などと一体の経済圏であり、その域内での人の完全往来を実現しなければ安全を確保できなくなるだろう。「関西リージョン」である。福岡県と九州圏、愛知県と東海圏も、同じ状況だ。そうしなければ経済が回らなくなる。道・府・県をつなぐことで単位を大きくし、経済や観光、感染症対策を打っていくしか方法がない。

 

コロナショックで「8割経済」(ピーク時の8割の水準になる経済)に陥る中、従来の都市機能や地域単位では税収、ビジネス、観光、物流などが成り立たなくなる。例えば、観光は海外から顧客を取り込むインバウンドではなく、「安近短観光(マイクロツーリズム)」から始めるべきだ。口コミや近くの地域でなければ、本当の安全対策は分からない。リージョン経済圏の観光旅行を優先的にデザインしながら補助する。リージョン圏という地域観光を掘り下げることで、地域(細部)から日本(全体)の良さも発見できるし、数年後のインバウンド需要時には、より充実した情報発信が可能な観光立国となるだろう。

 

ビジネス全体では、関東圏や関西圏などのリージョン経済圏単位が結びつくこと。そして、その単位で世界の地域ともつながることである。【図表】のようにリージョン経済圏の国際競争力はある。人口減少が止まらない中、今の地域連携を常態化させ、新しいリージョン経済圏へと発展すべきなのである。

 

新型コロナ禍で地域への機能分散と権限委譲がいかに大事か、身をもって実感した。これまでの震災や豪雨などの自然災害による局地的なショックとも異なる体験だ。前回、私が「戦後」になぞらえ「染後経済復興が始まる」と言った本質はここにある。

 

ニューノーマル(新常態)の経済活動の単位として地域を関東圏・関西圏・中部圏・東北圏・九州圏などの「リージョン圏経済へトランスフォーメーション(変容)」することが、国のサステナブルなビジョンとなる。

 

 

6.リージョン経済圏への権限委譲と投資

 

コロナショックで国と地域の役割分担の不整合が露呈した。それは今も続いている。企業経営におけるホールディング会社(持ち株会社)やグループ組織といった経営システムの技術が、国や地域の経営に必要になっている。

 

このグループ経営では、傘下企業各社へできるだけ権限委譲し、各社が決めるべきことと、ホールディングやグループ本社(コーポレート)が決めるべきことを明確にする。経営理念、事業領域の策定、ポートフォリオ、取締役や経営職の人事、グループ業績連結会計、戦略投資判断、人材育成(共通と各社専門領域)などはコーポレート本社が担う。戦術や戦闘に当たる経営活動の細部に関しては各社に権限委譲し、グループ全体として成長することである。

 

国家経営をグループ経営に例えると、国がなすことを明確にし、後は各リージョンに任せる自由度が大切だ。国防、金融(税金)、国土、災害、宇宙科学、教育、デジタル通信、そして労働厚生(感染対策を含む)など、国の戦略に関わる領域を定め、それ以外(交通、メディア、物流、学校、病院など)はリージョン経済圏に任せる行政スタイルのデザインである。

 

例えば、大阪府が「都」になって東京都と首都機能の分散を図るのも、その一策だろう。賛否の問題ではなく、国や地域の経営解題として、例えば、東京都が感染拡大や自然災害、紛争などで一時的に機能しなくなっても国家経営ができるような「戦略的分散投資」が必要である。同様に、九州圏の福岡県や中部圏の愛知県を中心にリージョン経済圏をデザインし、首都機能の中核役割以外の権限を委譲していく。

 

要するに、地域のトランスフォーメーションが必要なのだ。グローバル市場に対して、自立・自走できる経済圏を一つの単位としてデザインすることが急務である。国内総生産(GDP)が減少するということは、それらを構成する従来の地域経済も縮むという意味であり、コロナショックで人口減少はさらに加速する。市場規模が減少していく中で、47の子会社(都道府県)は多すぎる。47の子会社をなくすのではなく、束ねてくくり直す。全ての都道府県を束ねるのではなく、中核リージョン圏から束ねることがポイントである。

 

タナベ経営が日本全国を10のリージョン圏に区分して拠点を置いていることは冒頭で説明した。コンサルティングの際に全国展開している会社の組織を経営分析すると、規模にかかわらず、同様の地域に中核拠点を持つ組織は多い。

 

これからやって来る「染後復興」の社会へ備える必要がある。万一、現在のような“迷走”が続けば、消費税率を20%台にまで引き上げても、日本と地域経済が構造的な危機に陥る可能性は高い。リージョン経済圏が自立・自走できる制度設計(都市機能のデザイン)が必要となる。戦略的分散投資で国と地域の形をトランスフォーメーションすべきだ。

 

 

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