Vol.45 今こそ、日本企業復活のブランド戦略が必要
ジャパンブランドの新しい価値で市場を開く
モバイルクルーズ 代表取締役 安西 洋之 氏 × タナベ経営 若松 孝彦

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2020年11月号

 

 

 

 

コロナショックが起きている今こそ、日本の中堅・中小企業が国内外の市場で復活するためのブランド戦略が求められている。再度、企業価値の本質にフォーカスし、その価値と顧客との持続的関係性を築く真のブランディングが必要である。ビジネスプランナーの安西洋之氏とともに、ジャパンブランド復活のシナリオに迫る。

 

 

危機だからこそ強いラグジュアリーな価値

 

若松 新型コロナウイルスが世界的に流行し始めた2020年3月、感染者数の多かったイタリアでは都市を封鎖するなど緊迫した状況だったと思います。イタリアを拠点にビジネスを展開なさっている安西さんは、現在のイタリアをどのように見ていらっしゃいますか。

 

安西 ロックダウン(都市封鎖)後、初めてリアルの見本市が開催されるなど、9月に入ったころから街にだいぶ人が戻ってきました。6月にロックダウンが解除されても、8月までミラノの公共交通機関は定員の30%までしか乗車できなかったのですが、9月からはそれが80%に引き上げられました。

 

若松 街に少しずつ活気が出てきた様子がうかがえます。企業の活動についてはどうですか?

 

安西 スマートワーキングやビデオミーティングは継続中ですが、「仕方がない」という意識から当たり前の習慣へと変わってきています。一方、感染防止策の徹底に関しては「オフラインで動くべきことはオフラインでやるノウハウを確立しよう」と、各企業の覚悟が見て取れます。ニューノーマル(新常態)を受け入れ、対策を講じているのは日本企業もイタリア企業も同じですね。

 

若松 ビジネスプランナーとして日本企業と欧州企業のビジネスの現場を見ていらっしゃるからこその視点ですね。安西さんの知見は本誌でも長年連載いただいています。ありがとうございます。連載の中で、特に共感するキーワードは「ラグジュアリー」という価値観です。同市場は世界中に広がりを見せ、あらゆる業界が高い関心を寄せています。まず、どのような市場を意味するのかをご紹介ください。

 

安西 観光などの体験領域も含めた2019年の世界のラグジュアリー市場は1兆2600億ユーロ(約152兆4600億円)に達すると推計されています。

 

地域別の内訳を見ると欧州が880億ユーロ(約10兆6480億円)と依然としてトップに立っていますが、変化の兆しとして中国人による消費が前年に引き続き拡大しており、高級ファッションブランドは各地域のテイストを尊重する方針へとかじを切りつつあります。国・地域ごとに独自のECサイトを立ち上げる動きは、そうした変化の表れと言えるでしょう。

 

また、ECの成長や顧客の若年化も市場に変化をもたらすと考えられます。ECの浸透によって実店舗の位置付けがタッチポイント(リアルに商品と接触しブランドを経験する場所)へ変化する可能性のほか、市場貢献度が高まっているZ世代(米国で1990年代後半から2000年に生まれた世代)に対応したコミュニケーションやメディア戦略が欠かせないでしょう。彼・彼女らが、オリジナルや伝統的なラグジュアリーに近いものを求め始めている点は注目すべきです。消費者の関心が機能的欲求から「心が満たされる質」に向かう傾向は顕著になっており、それがラグジュアリーを求める動きを後押ししています。

 

若松 私は以前より、日本経済は「モノ余りでコト不足の時代」に入ったと定義してきました。だからこそブランド戦略の中で心が満たされる質が重要になっているという点は非常に共感します。

 

「良店不変客、良客不変店――(良い店は客を変えない、良い客は店を変えない)」という言葉を使ってブランディングの本質を語ることも多いのですが、心が満たされる質を体感した顧客と価値提供する店とのOne-On-One(一対一)の関係性がまさにそれに当たるように感じます。

 

安西 ラグジュアリーを論じる際は、LVMH(エルヴェエムアッシュ モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)に代表される、複数のラグジュアリーブランドを擁す大手コングロマリットの戦略に注目が集まりがちです。また、量のビジネスを重視する米国的なプレミアム戦略とも混同されがちです。

 

しかし、本来のラグジュアリーとは希少性があり、限られた人たちのためのもの。欧州や米国にも中堅・中小規模ながら本来のラグジュアリーとして高く評価されている企業が数多く存在しています。日本の中堅・中小企業は、ここを目指すべきだというのが私の考えです。

 

 

※米国ベイン・アンド・カンパニーとイタリアのアルタガンマ財団の「アルタガンマ・ワールドワイド・ラグジュアリーマーケットモニター」(2019年調査)。2019年当時の為替レート(1ユーロ当たり121円換算)による試算

 

 

 

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