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【メソッド】

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タナベコンサルティンググループ、タナベ経営の社長・若松が、現在の経営環境を踏まえ、企業の経営戦略に関する提言や今後の展望を発信します。
メソッド2020.12.28

レジリエンス戦略 アップデートしよう、新しい社会のために:若松 孝彦

2021年 年頭指針

 

未曾有のコロナショックがもたらした、経済と価値観の世界同時リセット。これによって休業不況、変化の加速、ニューノーマル(新常態)が世界中で発生し混乱は収まるところを知らない。有事の中でも会社をサステナブルに回復・成長させる「レジリエンス戦略」の推進を決断し、自社をアップデートする時が来た。新しい社会のためにファーストコールカンパニーへの道を切り拓こう。

 

 

世界同時リセットに対応した“しなやかに強い経営”を

 

2019年末から流行し始めた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、これまでの世界経済と価値観は同時リセットされました。それが新型コロナパンデミックであり、コロナショックです。

 

世界中で同時に起きた現象は3つあります。1つ目が「休業不況」。観光や交通、サービスなどの需要が消え、社会文化や経済活動がストップしました。

 

2つ目が「変化の加速」。先進国・新興国の区別なくデジタル化が一気に進みました。SDGsやグリーンニューディール政策といった社会課題解決へ向けた取り組みが加速します。

 

3つ目が「ニューノーマル」(新常態)です。コミュニケーションスタイルはオンライン化が進み、テレビ会議、テレワーク、オンライン教育などが急速に普及。都市から地方へ、集中から分散へのシフトに基づく新しい生活様式が生まれました。

 

そして、私たちはまだ有事のさなかにいます。だからこそ、「レジリエンス戦略」が必要なのです。

 

レジリエンス(Resilience)とは、「復元する力、回復力」を意味します。これから復元していく会社や組織には、いかなる変化にも速やかにトランスフォーメーション(変身)できる“竹”のようにしなやかで強靭な体質への転換が求められます。竹がしなやかで強いのは、“節”があるからです。当社の創業者・田辺昇一は「事業経営は竹の節のごとし」とよく言っていました。今、必要なのは、しなやかに強くなるための節を「経営者のリーダーシップでつくる」ことです。

 

私たちが向き合うべき有事は、3つのキーワードでまとめることができます。1つ目は「低成長」です。日本経済は長期の低成長時代に突入し、その中で経営を行わなくてはなりません。マーケティング視点で「社会に問い掛ける新しいカテゴリー」を定義して「事業の多角化」に取り組む必要があります。

 

2つ目は「非連続」。あらゆる分野でゲームチェンジが起こり、定石が変わっていきます。一言で表現すれば「業界再編」です。今後は「危機に強いポートフォリオ経営」へと大胆に組み替えていく必要があります。

 

3つ目は「高速変化」。その代表が「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。さらに、業界再編やワークスタイルなど、さまざまな分野での高速変化に対応する必要があります。

 

私は「100年続く会社は、変化を経営する会社」と定義していますが、今こそ変化が必要なのです。「新しいカテゴリー」「多角化」「ポートフォリオ経営」「DX」を新しい経営軸に、ピンチをチャンスに変える“しなやかに強い経営”のためのアップデートを提言します。

 

 

壊滅的な経済の中デジタル化が急加速

 

まず、世界経済から見ていきます。IMF(国際通貨基金)の「世界経済見通し(WEO)改訂見通し」(2020年10月)によれば、2020年の世界経済成長率(実質GDP)は前年比4.4%減と世界大恐慌以来の大きなマイナス成長。米国は同4.3%減、ユーロ圏が8.3%減、日本5.3%減、英国9.8%減、いち早く感染拡大から抜け出した中国は回復基調で1.9%増の予測となりました。2021年の世界の実質GDP予測は5.2%増と回復を見込んでいますが、感染拡大状況によっては経済活動がストップ&ゴーを繰り返して下方修正の可能性もありますし、ワクチン開発やその供給スピードによっては上方修正もあり得るのです。

 

このような波乱の世界経済を3つの視点でまとめましょう。

 

(1)「コロナショックで起きたこと」としては、①これまでにない危機パターン、②観光立国への大ダメージ、③サプライチェーンの寸断、④消費の大幅ダウン、⑤企業業績の悪化、⑥失業率の悪化・労働時間の大幅減、⑦高まる金融リスクが挙げられます。

 

(2)「今、起きていること」については、①トレンドの逆転、②コミュニケーションの効率化、③ライフスタイル・ワークスタイルの変化、④グローバルサプライチェーンの再構築、⑤非接触サービスの開発競争、⑥SDGs・ESGへの取り組み加速、⑦各産業のコロナ対応があります。

 

さらに、(3)「これからの変化」としては、①五感がインターネットにつながる、②最後のフロンティア「アフリカ」、③中国の製造・テクノロジー・環境分野でのリーダーシップ、④米中貿易摩擦の長期化・貿易の停滞が予想されます。

 

次に、世界経済の潮流を踏まえて日本経済を検証しましょう。

 

コロナショックにより、日本経済は急速に落ち込みました。内閣府によると、2020年4~6月の実質GDP成長率は前期比8.3%減、年率換算で29.2%減、同7~9月(2次速報値)は前期比5.3%増、年率換算で22.9%増となりました。新型コロナのワクチンや治療薬が開発されて劇的な効果が上がらない限り感染拡大の完全収束は難しく、2021年の国内経済は部分的な回復にとどまり、IMFの予測では、日本の実質GDPがコロナ禍前の水準に回復するのは2024年ごろと見込まれています。

 

日本経済に(1)「コロナショックで起きたこと」としては、①上場企業の業績下方修正ラッシュ、②休廃業・解散数は過去最高見込み、倒産は今後3年が要注意、③雇用・所得は踏ん張っている、④産業別に業績格差が広がる、⑤国・地方のプライマリーバランス(基礎的財政収支)悪化が挙げられます。

 

(2)「今、起きていること」は、①都市から地方の時代へ、②リージョン(地方)経済圏としての成長、③デジタル化の加速(5G・AI・ビッグデータ)、④加速する企業淘汰と市場再編、⑤ワークスタイルの変化(【図表1】)です。

 

【図表1】コロナ禍におけるワークスタイルの変化

 

 

(3)「これからの変化」としては、3つの「2025年問題」が挙げられます。①超高齢社会:後期高齢者人口が約2200万人に達して国民の4人に1人が75歳以上になり企業は人材確保が困難に、②中小企業の約半数が消滅の危機:経営者の6割以上の約245万人が70歳以上になり、その約半数の127万社が後継者不在、③ITシステム2025年の崖:DXが実現できない場合、2025年以降は年間最大12兆円の経済損失が生じる、ということです。

 

 

 

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Profile
若松 孝彦Takahiko Wakamatsu
タナベ経営グループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。
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