経営戦略を軸に人材ポートフォリオを再定義する
ポストコロナ時代の人事制度
川島 克也

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2020年10月号

 

 

【図表1】OECD加盟諸国の時間当たり労働生産性(2018年/36カ国比較)

単位:購買力平価換算USドル
出所:日本生産性本部「労働生産性の国際比較2019」

 

 

「生産性」という視点で見つめ直し、
改革・改善を進めることが必要

 

 

働く場所を規定する日本企業の実態

 

コロナショックは、企業の雇用や人事に対して大きなインパクトを与えており、実際、2020年4月7日の緊急事態宣言発出後には「テレワーク」などのニューノーマル(新常態)な働き方が広まっている。

 

日本生産性本部の調査※1によると、「コロナ禍収束後もテレワークを行いたいか」との質問への回答は、「そう思う」が27.9%、「どちらかといえばそう思う」が47.7%で、前向きな回答が75.6%に上った。

 

内閣府の調査※2でも、東京23区では調査対象者のうち55.5%がテレワークを経験、このうち約9割が継続したいと回答している。これは、テレワークによって、これまで当たり前だった満員電車での通勤がなくなったり、少なくなったりして、快適な生活を体験したことが大きな要因になっているといわれている。

 

しかしながら、5月25日に緊急事態宣言が全国的に解除された後は、テレワークが継続されていないのが実情である。日立製作所や富士通など一部の大手企業では、在宅勤務を恒常的な仕組みとして導入しようと取り組んでいるが、まだまだ少数派だ。

 

第2波がピークに達した7~8月においても、日本では従業員がオフィスへ復帰する姿が目立った。これは、テレワークができるインフラが十分に整っていない企業や、そもそもテレワークに向かない業種の企業が多いこと、また、職務の定義の曖昧さや、評価制度などの人事制度が未整備な状況、テレワークに対して否定的な組織風土といった日本的な雇用環境が背景にあると思われる。その結果、テレワークを継続したいという従業員のニーズに応えきれていない「ミスマッチ」な状況が生じている。

 

さらに、日本企業の時間当たり労働生産性は、米国の6割強の水準にとどまり、OECD(経済協力開発機構)加盟36カ国中21位。主要先進7カ国の中では最下位の状況が続いている。(【図表1】)

 

前述の通り、日本企業は労働集約的でテレワークに向かない業種も多く、中小企業の割合が多い産業構造であることや、「サービス無料」の風土が醸成されていることなども、生産性が上がりづらい要因である。

 

しかしながら、必ず出社して、狭い職場空間の中で仕事をしなければならないのか。全ての商談・打ち合わせを顧客企業へ訪問して行わなければならないのか。こうした現状を「生産性」という視点から厳しく見つめ直し、改革・改善を進めることが必要である。

 

ここで、電力関連製品を製造している中堅メーカーA社の事例を紹介したい。A社では、コロナ禍に対応してテレワークを推進したが、モノづくりの業態であるため、工場の従業員はシフト勤務までで、テレワークを完全に導入できたのは管理職と営業職だけだった。

 

A社社長に「テレワーク導入によって、業務や生産性に影響は出ていますか?」と質問すると、次のような回答があった。

 

「不思議なもので、営業担当者が顧客企業へ訪問しなくてもまったく業績に影響がないんですよ。また、管理職が目の前にいなくても、大きなトラブルもなく仕事が回っているようだし、逆に、管理職からの突発的な指示もなくなって、仕事に集中できているようなんですよね。今回のテレワーク導入が、営業の仕事を見直し、管理職の本来の役割とは何かを考えるきっかけになりました」

 

今回テレワークやシフトワークを導入した企業の方々には、共感する部分も多い話なのではないだろうか。

 

そうした中、A社は「所管組織の方針・目標の実現に向けて、生産性の最大化を図る」という管理職本来の役割、「顧客ニーズと自社製品のマッチングを図り業績を上げる」という営業職本来の役割から鑑み、主体業務(=本来の役割・付加価値を上げるための業務)に集中できる業務改善を通した生産性向上に取り組んでいる。

 

 

※1…日本生産性本部「第2回 働く人の意識に関する調査」(2020年7月21日)
※2…内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(2020年6月21日)

 

 

 

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