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【対談】

チームコンサルティング対談

クライアント企業などとタナベコンサルティンググループのプロフェッショナル・コンサルチームによる経営対談。企業成長の施策と成果を紹介します。
対談2020.02.28

農林水産省:新たなJASで日本の“食”をブランド化

 

障がい者が生産に携わった食品について規格化した「ノウフクJAS」

 

新しいJASマーク

 

国内に広く浸透するJAS(日本農林規格)が転換期を迎えている。品質の平準化から差別化、ブランド化へとかじを切った新JAS制度をビジネスにどう活用すべきか―。海外市場を視野に入れた新制度の概要や活用事例、国際化の取り組みを紹介する。

 

 

平準化から差別化へ新JAS法がスタート

 

小山田 食品や農林水産品の品質を保証するJASが2018年4月に改正されて以降、新たなJAS制度をビジネスに活用する動きが広がっています。2020年3月5日には埼玉県さいたま市で「新JAS法の国際化を見据えた食品ブランディング・海外展開戦略推進セミナー」(農林水産消費安全技術センター、埼玉りそな銀行、タナベ経営の共催)が開催されます。まずはJAS法が改正に至った理由をお聞かせください。

 

西川 JAS法が制定された1950年当時、日本の流通市場はまだ混乱の極みにありました。物資不足で粗悪品が出回る中、最低限度の品質を満たした食品を日本国民に提供するためにJASを制定。当然ながら国内に出回る食品や農林水産品の品質を一定にそろえる平準化に重点が置かれていました。

 

一方、戦後70年を超えた今日、日本の食品はある程度の品質統一を達成しただけでなく、それを上回る「メード・イン・ジャパン」ブランドを確立しています。今後、日本の食品や農林水産物を海外市場で広げていくには、そうした強みを戦略的にアピールすることが重要です。改正によって、その枠組みが整備されました。

 

小山田 日本には高い食品加工技術があり、品質や安全性は海外から高い評価を受けています。その違いや強みを明確に打ち出し、いかにライバルと差別化していくかが重要な戦略になります。

 

西川 おっしゃる通りです。品質が総じて向上する中で市場のニーズは多様化しており、消費者の関心は品質以外の価値や特色といった「コト」に向けられるようになりました。例えば、食品の機能性や生産プロセス、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みはその一例です。今回の改正には、そうした多様性をJASとして認証することで、差別化やブランド化につなげる狙いがあります。

 

さらに、規格を見直すことでBtoC(消費者向け)だけではなくBtoB(法人向け)での活用や、海外展開における活用を促進するほか、事業者や産地から提案を募って新たに規格化することでビジネスに活用できる制度を目指しています。

 

小山田 これまでは事業者がJASに合わせて「モノ」を生産していましたが、新制度では生産する食品や農林水産物の「特色」をJAS規格化することも可能になるということでしょうか?

 

西川 もちろん、客観性や独自性が認められることが条件ですが、特色を規格化した事例は出ています。

 

例えば、2018年3月に制定された「日持ち生産管理切り花」。これは、切り花の日持ち性を向上させる独自の生産管理方法を規格化したものです。また2018年12月に制定した「人工種苗技術による水産養殖産品」は、高度な人工種苗技術によって生産された養殖魚やその加工品にJASマークを認証しており、独自の生産方法が規格化されました。

 

このように新たなJAS制度では、事業者独自の品質管理やマネジメント、試験方法なども規格化することが可能になりました。今は多様性の時代。多くのライバルの中から自社を選んでもらうためには、特色を打ち出していくことが重要です。

 

 

農林水産省 食料産業局 食品製造課 基準認証室長
西川 真由氏
2003年農林水産省入省後、同省内の各部局および在ドイツ日本国大使館において農林水産政策を担当。2019年9月より現職。

 

農林水産省 食料産業局 食品製造課 基準認証室 課長補佐(国際班)
石丸 彰子氏
2006年農林水産省入省。砂糖などの甘味資源作物政策などを担当した後、環境省、内閣府沖縄総合事務局を経て現職。

 

 

「モノ」から「コト」へ規格の対象が広がる

 

小山田 消費の傾向がモノからコトに変化したように、JAS制度もモノの規格化からコトの規格化へと広がっているわけですね。

 

三重野 コトという切り口で言えば、販売ストーリーも規格化の対象になります。その一例が、「ノウフク」です。2019年3月に、障害者の方と一緒に生産したというストーリーがJASとして規格化されました。他にも、有機料理を提供する飲食店などについて、正しく情報提供するためのサービス方法を2018年12月に規格化。販売ストーリーの発信にもJASが活用できるようになりました。

 

小山田 JASマークのメリットは、品質や特色に対して客観的な保証が得られることです。これは海外市場を視野に入れる上で、非常に有効なツールになり得ます。

 

西川 極論を言えば、言葉が通じる国内であればJASマークがなくても独自性を説明することは可能です。

 

一方、海外に出ると言葉の壁や食文化の違いなどからビジネスがうまく進まないケースは少なくありませんが、このところ客観的な規格によるアピールが効果を発揮する場面は増えています。海外でビジネスがしやすい環境をつくるために、農林水産省では海外におけるJASマークの浸透を図るとともに、JASと国際規格であるCodex(コーデックス:国際食品規格委員会)規格との共通化や日本の強みを示せる測定方法をはじめとした国際的な規格作りに取り組んでいます。

 

小山田 ルールメーカーになるとゲームが有利になります。これは、ビジネスの世界においても同じ。日本のルールが世界のスタンダードになるメリットは計り知れません。

 

西川 世界的なルール作りにおいて日本は受け身の姿勢でしたが、その状況を打破して日本が打ち出していくべきです。日本には、その資格が十分にあると私は思います。なぜなら、日本には高品質な食品を生産する力があり、その実力は世界でも認められているからです。

 

現在、2019年度内を目標に日本の機能性成分の定量試験方法をISO(国際標準化機構)規格に提案したいと考えています。日本の食品・農林水産物は高い機能性を有していますが、それらを測る試験方法が国際ルールになれば有利な競争環境をつくることができます。

 

小山田 試験に使われる検査機器は日本が得意とする分野ですから、機器も含めて丸ごと採用されれば日本経済にとっても大きなメリットとなります。攻めの戦略と言えますね。

 

西川 ルール作りは攻めの戦略です。そして、同時に最大の防御にもなります。国際ルールは一度できると従わざるを得ない。ですから、先手を打っていく必要があります。

 

三重野 特に、市場の立ち上がり期にある分野への対応が重要です。例えば、米粉はまだ市場が出来上がっておらずルールがない状況ですから、今の段階で日本のルールを打ち出していくことでアドバンテージを得られます。さらに、規格化・標準化することで米粉市場の成長にもつながると期待しています。

 

 

農林水産省 食料産業局 食品製造課 基準認証室 規格第2班 課長補佐
三重野 信氏
1995年林野庁に入庁後、北海道奥尻島の森林官や町役場で地域振興の現場に関わる。多くの省庁での経験を経て、農林水産省地域振興課で地域産品を活用した山村振興に従事した後、2019年4月より現職。

 

 

 

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