COLUMN

2023.09.28

親族内承継で見落としがちなポイント
~ロジックだけでは上手くいかない事業承継~

  • 事業承継

親族内承継で見落としがちなポイント~ロジックだけでは上手くいかない事業承継~

20世紀の日本では、自営業や中小企業については世襲的な面があり、父親が起こした事業を息子が継ぐという形は一般的な事業承継の形でしたが、現在では自分の子供に自由に職業を選択することを推奨する創業者も増えており、親族外への事業承継の件数が増加しています。また本音では自身が起こした会社を継いでほしいとは思いつつも、息子は大企業に就職したまま帰ってこず、いたずらに年月を過ごしてしまったという事例も多く見受けられます。 また幸運に後継者に恵まれたと場合でも、ある重要なことを見落としてしまい事業承継が上手くいかず、後継者とトラブルになることがあります。そうした状況に陥らないために必要なことをご紹介します。

そもそも事業承継とは何か(経営権と財産権)

そもそも事業承継とは何をすることを指すのでしょうか。
多くの経営者の方は「株式をどう後継者に相続させようか」「相続税をどう抑えようか」とお金のことに目が行きがちです。当然事業を承継する際には株式を移転する必要があり、相続税や、贈与税、株式の売却益など事業承継とお金は切っても切り離せない関係にありますが、事業承継の全てではありません。事業承継には大きく分けて「財産権の承継」と「経営権の承継」があり、この2つが揃ってはじめて事業承継ができたと言えます。

財産権の承継とは、会社の支配権を持てるように自社の"株式"を後継者に移転させていくことであり、まさしくお金の問題です。財産権の承継については、会社に出入りしているコンサルタントや士業の方に相談し、時間をかけてきちんと対策をとれば、コストを合法的に抑えることができることが可能であり、パートナー選定を誤らなければそこまでトラブルになることはありません。

一方で経営権の承継とは、会社組織を運営するための経営者という"役割"を後継者に移転させていくことを指します。
代表取締役という肩書だけを後継者に変更しても、ステークホルダーから経営者としてふさわしくない人物であると判断されれば、クライアントも離れてしまいますし、従業員からの求心力が低下することも目に見えています。経営権を承継するということは言い換えれば"後継者が経営者であるということを社内外のステークホルダーから認めてもらうこと"です。
事業承継においては「財産権の承継」よりも「経営権の承継」の方が抽象的な分、頭を悩ませることになります。
今回はこの「経営権の承継」について説明を行います。

経営者の仕事とは

そもそも「経営権を承継する」ためには、現経営者が経営者の役割を正しく理解して、後継者にその仕事を引き継いでいくことが必要です。経営者の役割とは、社内において誰よりも高い「志をもち」、会社を運営するための「決断」を行い、「責任」をとることです。わが社で何を成し遂げたいのかという志を明確にし、判断材料が揃わない中でも決断をし、会社の針路を決めていく必要ことが求められます。

役割を果たすため、経営者に求められる姿勢は以下の通りです。

(1)経営理念を確立・理解し追求し続けること
経営理念は創業の精神であり、会社の価値判断基準の大元となるものです。まずは経営者がわが社の経営理念に対して誰よりも深い理解をもち、日々従業員に浸透させていく活動をしていくことが必要です。
(2)会社のビジョンを示すこと
ビジョンとはこの会社で何を成し遂げたいか、どういう姿になりたいのかという想いであり、経営の航海図です。従業員がわくわくするビジョンを定量面、定性面で示し、社員を夢へと引っ張り挙げていくことが求められます。
(3)顧客と社員を知ること
顧客がいなければ企業は存続することができません。経営者自らが顧客訪問を行い、顧客の声を聞くことで製品やサービスを改善し続ける姿勢が必要となります。社員に対しても同様のことが言えます。経営者一人では経営はできません。自ら積極的に社員に声をかけ、社員の声に耳を傾けることで社員がパフォーマンスを最大限発揮できるようにすることが求められます。
(4)わが社の強みを理解すること
わが社がここまで存続してきたということは、商品やサービスなど何か他社とは異なる部分があったからこそ選ばれ続けてきたわけであり、その差別化要因(強み)が何かを突き止め、伸ばしていくことが必要です。

こうした経営者に求められる姿勢を、まずは経営者ご自身が体現できているかを振り返ってみてください。
現経営者が規範となる経営者を体現できているからこそ、後継者はその姿勢を参考に自身の経営者像を作り上げていきます。経営者の役割を後継者に伝承していくことが現経営者に求められる最大の仕事であり、最大の役割です。

経営権の承継とは想いを引き継ぐこと

親族内承継の経営権の承継における最後のハードルは、経営者の想いを後継者に引き継ぐことにあります。

後継者候補である経営者のご子息と会話をすると、先代の想いを理解していないばかりか、そもそも先代とコミュニケーションがとれていない後継者が非常に多いことに驚かされます。私がご支援したお取引先にも、経営者である父親と後継者候補であるご子息がコミュニケーションがとれていない先が多くあり、中には経営者である父親と1年以上口をきいていないお客様や、ご子息に事業を承継する意思があるかどうかすらわからないお客様もおられました。

経営権の承継を進めていく上で、最も大切なことは後継者とのコミュニケーションです。何を当たり前のことをと思われる方も多くいらっしゃると思いますが、後継者とのコミュニケーションが欠けていることによって経営権の承継が上手くいかない事例は現実として非常に多く存在します。

現経営者は後継者に企業のルーツや会社の強み、ビジョンを積極的に語る機会を伝える機会を持つようにしてください。
口下手な方であれば、自社のことをよく知っておられるお客様へ一緒にご訪問することが有効です。

経営権の承継とは想いを後継者に引き継ぐことです。そのために後継者と腹を割ってコミュニケーションを取ることができるか、これを機会に省みていただくことをご提案します。

無料相談会

経営に関する無料相談会

WEBINAR

ウェビナー一覧はこちら

ABOUT

タナベコンサルティンググループは
「日本には企業を救う仕事が必要だ」という
志を掲げた1957年の創業以来、
66年間で大企業から中堅企業まで約200業種、
17,000社以上に経営コンサルティングを実施してまいりました。

企業を救い、元気にする。
私たちが皆さまに提供する価値と貫き通す流儀をお伝えします。

コンサルティング実績

創業
200業種
17,000社以上