COLUMN

2022.10.18

建設業のためのSDGsー企業事例とポイント解説ー

SDGsは建設業の企業経営にとって避けられないテーマです。働き方改革、省エネ化など、業界全体の課題と関わりが深いのです。建設業の企業がSDGsを推進するステップと取り組みの事例を紹介します。

SDGsを活用して未来へのロードマップを描く

建設業にとって重要な3つの年

今後、建設業にとって重要となる3つの年は「2024年」「2030年」「2050年」です。この3つの年をマイルストーンとして自社のSDGsへ向けた取り組みを検討し、ロードマップを描きましょう。

1.2024年:罰則付きの時間外労働の上限規制が適用
2019年4月に施行された法改正で、時間外労働の上限規制が始まっています。建設業には開始までに5年間の猶予が与えられており、2024年4月1日から罰則付きの時間外労働規制が適用されます。
この「2024年問題」に向け、自社の「働き方改革」は進んでいるでしょうか。着手したものの、成果が出ていないという企業は多いのではないでしょうか。2024年まで残り2年を切った今は、もう「待ったなし」の状況です。

2.2030年:新設住宅・建設物はZEH・ZEB水準※の省エネ性能を確保
日本政府の「2050年カーボンニュートラル」宣言を受け、国土交通省・経済産業省・環境省は2021年に共同で「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」を公表しました。その中では、2050年(長期)、2030年(中期)に目指すべき住宅・建築物の姿(あり方)が示されています。
2030年に関しては、「2030年以降に新設される住宅・建設物についてZEH・ZEB水準の省エネ性能が確保され、新築戸建住宅の6割に太陽光設備が導入されていること」とされています。

※ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギービンディング):建築物における一次エネルギー消費量を、建築物・設備の省エネ性能の向上、エネルギーの面的利用、オンサイトでの再生可能エネルギーの活用等により削減し、年間での一次エネルギー消費量が正味でゼロ、またはおおむねゼロとなる建築物。欧米諸国をはじめ世界各国がZEH・ZEBの実現と普及に向けてロードマップを作成し取り組んでいる。

3.2050年:ストック平均でZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能を確保
さらに、2050年には、「ストック(中古の住宅・建築物)平均でZEH・ZEB水準の省エネ性能が確保され、導入が合理的な住宅・建築物において太陽光発電設備等の再生可能エネルギーの導入が一般的となること」とされています。
建設業にとって、「働き方改革」「省エネ対応」は避けられない現実として受け止め、ピンチではなくチャンスに転換していきましょう。

ロードマップ設計とサステナビリティビジョン策定

まずは、国土交通省・経済産業省・環境省が公表した「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた住宅・建築物の対策」(2021年8月23日)を確認し、「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方に関するロードマップ」に沿って自社のロードマップを設計しましょう。

その際、「未来の自社はどうありたいのか、どうあるべきか」という2030年ビジョンを策定します。これを「サステナビリティビジョン」とし、そこにたどり着くためのロードマップを描くことが重要です。

マテリアリティー(重要課題)の設定とKPI(重要業績評価指標)の設定

ビジョンを実現するためのマテリアリティーとは

建設業がマテリアリティーを設定する上で外せないキーワードは次の3点です。

①脱炭素(カーボンニュートラル)
省エネ基準が見直される中、もはや当たり前となったZEH・ZEB対応に加え、自社の目指すビジョンに応じた設定をしましょう。例えば、地域に根差す企業なら、地元の自然や環境に関する取り組みを行うことで、地域社会との関わり方を示すことができます。

②働きがい
時間外労働の上限規制に向け、残業時間や出勤日数を管理するのは当然ですが、その際に重要なのは「人が集まる会社、人が活躍する会社への転換」という視点です。残業時間や出勤日数だけではなく、従業員満足度(ES)の向上が必要です。
建設業A社は、毎年ESアンケート調査を実施し、一定の水準に満たない部門については、部門長と経営者、人事担当者が連携して対策を立案。年度の部門方針に掲げて改善を行っています。

③ダイバーシティー&インクルージョン
2020年の全産業での女性雇用者の割合は45.3%であるのに対し、建設業は16.7%です(厚生労働省「労働力調査」)。働き手が不足する中、女性を含む多様な人材の活躍が求められます。
建設業B社では、現場監督業務の一部を女性社員が担うなど業務分担を実施し、入社1年目から活躍しています。結果的に現場監督の業務時間が減り、より多くの案件に関わることができるようになったことが、業績の向上につながっています。生産性の改善には、業務時間の短縮だけではなく、業務分担も視野に入れる必要があります。

KPI(重要業績評価指標)の設定

マテリアリティーを設定したら、その成果・効果を把握することが重要です。掲げたビジョンが実現しない企業では、成果・効果の測定が不明確であることが多々あります。設定したマテリアリティーにひも付くKPIを設定しましょう。

①脱炭素(カーボンニュートラル)のKPI
省エネ化に向けたKPIは、業種によって異なります。ビルダーはZEH・ZEB対応住宅の棟数をKPIにすべきです。元請けでない場合も、自社が関わった住宅・建築物の脱炭素の指標を設定しましょう。また、元請けであれば、自社の建設物に対するZEH・ZEB対応できる技術力(企画・設計)と協力会社に対する指導力が必要です。下請けであれば、元請けの求める知識・技術力が必要です。

②働きがいのKPI
業務時間の効率化という点においては、残業時間と年間勤務日数を全社共通のKPIにする必要があります。加えて、前述したESを指標にすることが望ましいです。

③ダイバーシティー&インクルージョンのKPI
女性・障がい者・外国人・高齢者など、多様な人材が活躍する会社を目指しましょう。全社員が活躍する会社づくりの土台は、経営トップの意思とリーダーシップです。経営トップ自らが推進に関わり、会社におけるダイバーシティー&インクルージョンの位置付けを高めましょう。

SDGsをチャンスに変え、進化した企業2社の事例

事例1:SDGsがつなぐ地域活性化事業

石川県で土木事業と建築事業を展開するC社は、SDGsを軸に事業を多角化しています。地域の中堅・中小建設業において「地域」というキーワードは外せません。同社はSDGsを通じて地域活性に取り組み、「地域活性化事業」を展開しています。社会を良くする企業には「資源(ヒト・モノ・カネ・情報)」が集まることを実感しているとC社の社長は言います。

同社の取り組みのポイントは3点です。
①現状の外部環境・社会課題を押さえた上で取り組むべき課題の本質を追及する
②経営者と社員の視座・意識をそろえ、社員が自主的にSDGsに取り組む環境をつくり出す
③中小企業が社内にSDGsを浸透させるには、ビジュアル化が必須

事例2:「間仕切り」で社会課題を解決

建設工事業・内装仕上げ工事業を展開するD社は、空間を区切るパーテーションを主に取り扱う企業です。同社は自社の強みを「間仕切り」と再定義し、その強みで、①コミュニケーションの活性化、②集中できる空間の創出、③地震対策、④騒音対策、⑤セキュリティー対策という5つの社会課題の解決へ挑戦しています。社会課題を起点に自社の強みを再定義することで、新たな事業展開が見えてくるのです。

同社の取り組みのポイントは3点です。
①研究をベースにした商品開発を行う
②SDGsに取り組み、パートナーシップの可能性を広げる
③SDGs推進の2本柱となる「内容の充実」と「広く周知すること」を同じ比重で実行する

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部
ゼネラルマネジャー

上原 伸也

アパレル製造小売業で販売・店舗マネジメント、大手旅行情報サービス業で営業・マーケティング業務に従事後、当社へ入社。「地域企業を元気にし、地域経済を活性化させる」を信念に、事業戦略構築、新規事業開発、SDGs経営統合を得意分野とし活躍中。顧客の改善活動をワガゴトとして取り組む真摯な姿勢でのコンサルティング展開で、クライアントから高い信頼を得ている。

上原 伸也

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「日本には企業を救う仕事が必要だ」という
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