COLUMN

2023.03.01

SDGsから考える働き方改革とは?

SDGsは持続可能な企業の実現のために、働き方に対しての目標を定めています。一方で国による「働き方改革」も推進されています。今回はSDGsと働き方改革の関係性と、両者がもたらす効果について紹介します。

働き方改革とは?

働き方改革が必要な理由

働き方改革とは、働く人びとが、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革、とされています。この改革は働く人の視点に立って、労働制度の抜本改革を行い、企業文化や風土も含めて変えようとするものであり、働く方一人一人がより良い将来の展望を持ち得るようにするという意義があります。また、働き方改革は、「一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ」と表現されています。一億総活躍社会とは、「50年後も人口1億人を維持し、職場・家庭・地域で誰しも活躍可能な社会」のことです。このように働き方改革は、かかる社会の実現のための改革と位置づけられています。
そもそも、この改革が必要とされている背景には、日本社会の経済の現状から見える課題があります。国内経済社会の現状として、個人消費や設備投資の停滞、人口の減少および少子高齢化、イノベーションの欠如による生産性向上の低迷、革新的技術への投資不足が挙げられます。これら課題を解決し、日本経済の再生を実現するためには付加価値生産性の向上、労働参加率の向上が必要であり、そのためには一億総活躍社会実現が必要とされています。

政府が推進する働き方改革の具体的な取り組み

上記課題を労働者視点で見ると、正規、非正規労働者の不合理な処遇格差によるモチベーションの低下、長時間労働による心身の健康被害、自身のライフステージに合った仕事の仕方を選択しにくい単線型のキャリアパスが課題として挙げられます。そして、これらを解決課題として政府が推進する働き方改革の内容は、13項目提示されています。この13項目は以下の6つに整理できます。
(1)長時間労働の是正(残業時間の上限規制、勤務間インターバル制度の導入、年次有給休暇の取得義務化など)
(2)同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善(同一労働同一賃金のガイドライン整備など)
(3)賃金引上げと労働生産性向上(企業への賃上げの働きかけや取引条件の改善など)
(4)柔軟な働き方がしやすい環境整備(テレワークガイドラインの刷新など)
(5)ダイバーシティ推進(子育て・介護と仕事の両立支援、障害者等就労支援など)
(6)転職・再就職支援(転職者の受入れ企業支援など)

SDGsと働き方改革

「持続可能な企業」の実現

一方SDGs(Sustainable Development Goals)とは,2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された,2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標であり、17のゴール・169のターゲットから構成されています。この「持続可能な」は地球環境のことだけでなく、社会、会社、個人すべてに及ぶものであり、とりわけ「持続可能な企業」の実現のためには、従業員が働き続けられることが必要であり、ワークライフバランス、正規社員と非正規社員の処遇差是正、労働者のダイバーシティなど様々な課題を解決していく必要があります。具体的な目標としては、SDGs目標3(すべての人に健康と福祉を)、5(ジェンダー平等を実現しよう)、8(働きがいも 経済成長も)、9(産業と技術革新の基盤をつくろう)、16(平和と公正をすべての人に)等があると考えられます。

SDGsにより加速する働き方改革

以上より、働き方改革は日本国内、SDGsは世界という目的のスケールやニュアンスが異なりますが、国内企業として取り組むべき課題や項目は両者で共通していると言えます。そのため国内各企業は働き方改革、SDGsという両方向からの社会的要求を受けているのが実情であり、優先的に取り組まなければならない課題であることがSDGsの側面からも強調されます。また、働き方改革には明確な目標達成時期は定められておりませんが、SDGsは上記の通り2030年までの目標とされております。このように、明確に目標達成すべき期間が定められており、さらにそれが7年後という今後10年以内に実現しなくてはならないテーマとなると、SDGs実現に向けた取組の加速によって働き方改革も自然に促進されてくると言えます。また、社員のSDGsに対する意識の高まりを受け、社員の協力が必要な働き方改革についての取り組みにも協力的な体制を構築しやすくなるとも考えられます。このようにSDGsと働き方改革は相乗的に作用し、SDGsというアクセルによって今後働き方改革は加速度的に進んでいくと考えられます。

SDGsと働き方改革との相乗効果

SDGsが働き方改革にもたらすメリット

上記の通り、SDGsの取組加速による働き方改革の加速、という社会全体としてのメリットはもちろん考えられますが、それに加えてSDGsが働き方改革に与える様々なメリットが存在します。例えばSDGs経営の一環で働き方改革に取り組んでいる企業は、SDGsの取組として働き方に対する施策を対外的に発信することで社会的評価を受けやすく、ESG投資として融資を受けやすく、さらには応募人材の増加などのメリットを受けやすいと言えます。また、SDGsの取り組みとして、工場でのCO2削減や有用資源の使用料削減などの取り組みを行った場合でも、それら課題解決のために工場での従業員の就業時間の整理・短縮、有用資源の紙などの業務書類を電子データに置き換えることによるリモートワークの推進などむしろ働き方改革でのテーマに訴求しやすい環境を作ることに繋がりやすいと言えます。そしてそれら働き方改革への訴求により、オフィスや工場での費用削減、生産性の効率化が図られ、企業としてのSDGsの目的である「持続可能な企業」の実現に近づくことができると考えます。

SDGs×働き方改革の事例

RICHO社では働き方改革として、柔軟な働き場所の提供に取り組んできました。同社は柔軟な働き方の施策としてテレワーク制度を導入しています。このテレワークを導入するにあたり、一番の要因であったのは「紙の書類」でした。書類を確認するためにオフィスに行かなくてはならない、書類がないのでオフィスでしか仕事ができないケースが多く、まずは社内のペーパーレス化、書類電子化を進める必要がありました。そこで施策として書類申請を電子化したりすることはもちろんのこと、デスクの上に紙を置かないルールである「クリアデスク」のルールを設けたりして、徹底的に書類の組織的管理、電子化を進めました。このペーパーレス化によりテレワークが実装され、働き方改革の一つである柔軟な働き方の導入が実現したとともに、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」や目標15「陸の豊かさも守ろう」にも貢献できていると言えます。
以上のように、働き方改革とSDGsへの取り組みは相互に関係しており、SDGsの観点から働き方改革を考え、両方にアプローチできるような取り組みを検討していけると考えます。

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング
エグゼクティブパートナー

井上 裕介

大型リゾート・旅館にてホテル・スキー場・飲食店舗を運営し、新規企画開発・人材育成・業務改善・収益改革などに従事後、当社へ入社。現場経験を生かした戦略設計や中期ビジョン策定、新規事業戦略策定、SDGs策定支援など幅広く活躍している。

井上 裕介

ABOUT

タナベコンサルティンググループは
「日本には企業を救う仕事が必要だ」という
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