COLUMN

2023.09.13

2024年の中期経営計画のトレンド

上場企業の動向とタナベコンサルティングの分析結果から2024年の中期経営計画のトレンドを予測します。

2024年の中期経営計画のトレンド予測

昨年、タナベコンサルティングが実施したアンケート結果によると、中期経営計画を策定している企業は、実に74.0%にのぼります。(図1)

図1

出所:タナベコンサルティング「長期ビジョン・中期経営計画作成に関するアンケート」
より抜粋

また、年商50億円以上の企業では9割近くの企業が中期経営計画を策定しています。コロナパンデミックに始まりウクライナショック、物価高騰など外部環境の未来予測が難しいこのVUCA時代においては、企業が目指す確固たる未来ビジョンを描くことが求められます。描いた未来ビジョンを実現するためには、未来ビジョンからバックキャスティングアプローチによる戦略や計画である中期経営計画の策定が必要です。

アンケート結果からも分かるように中期経営計画を策定することは定番化したと言えますが、内容を深く見ていくと「目標数値は掲げているが、具体的な戦略が不足している」と答えた企業は6割になります。
また「定期的な計画・ビジョンを見直す仕組みがない」と答えた企業は2割を超え、時代の変化に対応しきれていないという課題もうかがえます。

あらためて外部環境の変化を敏感にキャッチアップし、中期経営計画のアップデートしていくことが企業の競争力の源泉になるのではないでしょうか。突き詰めると中期経営計画のトレンドを予測することは、外部環境の変化のトレンドを掴むことと同義であると言えます。

果たして2024年はどのようなテーマへと各社アップデートしてくるのでしょうか。昨今の上場企業の中期経営計画の事例をみていくこととタナベコンサルティングのコンサルティングの実証経験による分析から2024年の中期経営計画のトレンドを予測します。

2024年の中期経営計画のトレンド予測

上場企業の動向について

2023年6月30日時点で日本の取引所に上場している企業数は3,899です。2023年7月に発表された大和総研の集計では、国内上場企業による2023年1~6月の中期経営計画発表件数は386件でした。
その調査結果では、ESG/SDGsなど非財務情報の開示拡大とROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)などの資本収益性目標の導入拡大でした。またPBR(株価純資産倍率)1倍超えへのコミットメントを表明する企業も出てきています。

参照:https://www.dir.co.jp/report/consulting/vision_ir/20230706_023884.html

上場区分の見直し(図2)

(クリックで拡大) 図2

出所:日本取引所グループHPよりタナベコンサルティング作成

2022年4月に上場区分が変更され、プライム市場とスタンダード市場、グロース市場の3つに区分されました。その背景には時価総額や流動性の低い企業が含まれており、持続的に企業価値を向上していく動機付けが不十分だったことがあります。また、市場区分の見直しフォローアップ会議も開催され、企業価値向上の議論もなされています。

1.グローバルな投資家との建設的な対話

上場基準の項目に流動性として株主数や流通株式数の基準を設けました。これにより企業は株式の流動性を高めるために、株式の売却や増資などの施策が必要になります。

そのためにも経営戦略や経営課題など投資家への情報の開示がより求められます。またガバナンスとして流通株式比率の基準も設けらました。海外投資家を呼び込むためには英語の有価証券報告書の作成など投資家のエンゲージメントが鍵となってきます。

2.資本コストや株価を意識した経営の実践

経営者の資本コストや株価に対する意識改革が必要だと指摘がなされました。単なる売上や利益水準を意識するだけでなく、バランスシートをベースとする資本コストや資本収益性を意識した経営の実践が求められます。

そのための現状分析の指標としてWACCやROIC、PBRなどが例として示されています。PBR1倍割れは、資本収益性の未達成や、成長性が投資家から十分に評価されていない可能性を示唆しています。企業は、資本収益性や市場評価の改善に向けた具体的な取り組みや施策を投資家へ分かりやすく示す必要があります。

3.村田製作所 中期方針2024(図3)

(クリックで拡大) 図3

出所:株式会社村田製作所HPよりタナベコンサルティング作成

近年の村田製作所は、電子部品大手4社(京セラ、TDK、太陽誘電、村田製作所)でROICを比較した場合、最も安定的に高いです。また売上高成長率も併せてみても村田製作所が最も成長しています。

同社が発表している中期方針2024では、社会価値と経済価値の好循環を生み出すイノベーションを目指す中で、全社経営目標で経済価値として営業利益率20%以上、ROIC20%以上を掲げています。

「収益性とともに資本効率を重視し、ROIC20%を継続していく」ことがムラタの目指す健全な経営です。

2024年のテーマは「クオリティリーダーシップ」

現在、様々な環境変化が起きています。

・米中対立の激化と自由貿易の制限
・原材料やエネルギーの価格高騰
・為替や金利の変動
・人材を資産から資本へと捉える考え方(人的資本経営)
・コロナ禍を経たライフスタイル・経済環境の変化
・気候変動、災害リスクの高まり
・カーボンニュートラル・脱炭素への動き
・DX、AI、ロボット、自動運転の技術普及と進展

経営を担う上では様々な注目ポイントがありますが、今回はインフレ経済へのシフトを取り上げます。バブル崩壊後、「失われた20年」と嘲笑され「失われた30年」になる可能性がささやかれていました。

しかし、世界経済は従来の低コストで物価が上がらない状況からコスト高・インフレ経済へとパラダイムシフトが起きています。2023年7月に報告された日銀の地域経済報告(さくらレポート)の中でも賃金の引き上げやそのための原資確保ための値上げをする動きが見られています。同月28日には、日銀は金融緩和策を修正し、長期金利の0.5%超えを一定程度容認しました。

タナベコンサルティングが2022年に調査した結果では、物価高騰による仕入れコストの上昇分を全額価格転嫁できた企業は約2%にとどまっていました。2023年1月入り、ユニクロが初任給を25万から30万に引き上げを表明したことは驚きを隠せませんでしたが、大企業だからと言った少し他人事のように受け止めていた中小企業は多かったと思います。

2023年に入り様々なクライアントのコンサルティングを行っていく中で業績を改善している企業はやはり価格転嫁に成功している企業でした。やはりここでもポイントは価格転嫁するための投資の原資を企業が確保しているということです。

2024年に向けて我々が提言させていただきたいことは、コストを下げて低価格で商品・サービスを提供することに競争力を見出すコストリーダーシップではなく、企業が創造する固有の価値を磨き上げることで、競争優位性を確立するというクオリティリーダーシップの発揮です。
ここでいう「クオリティ」とは製品やサービスそのものの品質ということではなく、その背景にある顧客価値追求プロセス、ビジネスモデル、バリューチェーン・非財務資本など、企業における価値創造プロセス全体のクオリティを指しています。

自社が本来持っている強みをいかにブランディングし顧客の信頼を勝ち取っていけるのか。とある企業は、クオリティ向上の源泉は「人」と決めました。徹底的に人的資本へ投資していくと中期経営計画に打ち出す予定です。

2024年のテーマは「クオリティリーダーシップ」

まとめ

今回、上場企業の動向とタナベコンサルティングとしての分析からの環境の変化を捉えました。1つは、上場区分の見直しの背景から見えるマルチステークホルダーへの配慮です。いかに持続的企業価値を向上させるためにガバナンスを強化しマルチなステークホルダーへの情報開示ができるのか、はたまたそこに具体性を持つための定量的な指標を示せるのかがポイントとなります。
2つはインフレ経済へのシフトです。この大きな変化をとらえ勝ち抜いていくためにはコストリーダーシップではなく、クオリティリーダーシップを発揮できるかとなります。

2024年の中期経営計画の策定においては、以上の2つのポイントを踏まえた戦略や計画が開示されていくことが予測されるでしょう。

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング
チーフコンサルタント

吉山 浩

総合不動産会社で業務全体の統括、プロパティマネジメント、DX構想から実装業務を経て、当社へ入社。現在は、住まいに関わる新規事業立ち上げ、マーケティング戦略、DX構想を強みとしている。前例に捉われず、課題の発見と粘り強くクライアントの成果創出を目指すコンサルティングに定評がある。

吉山 浩

ABOUT

タナベコンサルティンググループは
「日本には企業を救う仕事が必要だ」という
志を掲げた1957年の創業以来、
66年間で大企業から中堅企業まで約200業種、
17,000社以上に経営コンサルティングを実施してまいりました。

企業を救い、元気にする。
私たちが皆さまに提供する価値と貫き通す流儀をお伝えします。

コンサルティング実績

創業66
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