DX推進指標とは?DX推進を成功させるためのポイントを解説

コラム
DXビジョン&ビジネスモデルDX
DX推進指標とは?DX推進を成功させるためのポイントを解説
目次

コロナショックに伴いDX(デジタルトランスフォーメーション)が急加速し、これまでデジタルへの取り組みに無頓着であった企業も、デジタルなくしては業務を進められない状況になりました。それほどまでに、デジタルが課題解決へのインパクトを与えていることは言うまでもありません。3年前はデジタルへの取り組みが他社との差別化や、生産性の改善程度のレベルであったのが、今では状況が異なります。DX推進していないことが、企業競争における敗因と言っても過言ではない状況になったのです。

DX推進指標とは

上述のような環境変化の中で、企業はDXを前提とした戦略を組む必要があります。そこで自社がどうDXに取り組んでいくかを検討するための指標として、経済産業省が提供しているのが「DX推進指標」です。

そもそも企業のDXレベルをどう考えるか

いま自社のDXはどれだけ整備されているのか?全体感をつかみにくい経営者も多いのではないでしょうか。企業におけるDXレベルは、下記の3段階で整理することができ、経済産業省ではそれぞれのレベルに応じて、企業認定や優良企業選定などの施策を提供しています。

1.先進企業(DX銘柄・DXセレクション企業)

デジタルガバナンス・コードに沿って、特に優良な取り組みを実施。各業種や地域において、他の企業の模範となるような企業。

2.DX認定企業(DX-Readyレベル)

デジタルガバナンス・コードに沿って、基本的な取組を実施。これからDXに取り組んでいく体制が整備できた企業。

3.これからDXに取り組む企業(DX-Ready以前レベル)

ビジョンや戦略の策定にこれから取り組む企業。DX推進指標を用いた自己診断が必要。

※本稿で述べる「DX推進指標」の活用対象事業者

デジタルガバナンス・コードに沿ったDX推進施策
引用:デジタルガバナンスコード2.0

DX推進指標の目的

DX推進指標が発表された背景として、「国内企業において、うまくDX推進がなされていないから」ということもできます。具体的に示すと、「デジタルを用いて、顧客にどのような価値を提供していくかのビジョンが明確でない」、「デジタル部門を立ち上げたものの、経営者が号令だけをかけてあとは任せきりになっている」といった状況が、特に中小・中堅企業を中心に生じているのです。そこで経済産業省は、国内企業DXへの取り組みの初めの現状認識ツールとして、「DX推進指標」を策定することにしました。
この「DX推進指標」は、経営者や社内の関係者が、自社の取組の現状や、あるべき姿と現状とのギャップ、あるべき姿に向けた対応策について認識を共有し、必要なアクションをとっていくための気付きの機会を提供することを目指すものとされています。
引用:「DX推進指標」とそのガイダンス

DX推進指標の詳細

DX推進指標のカテゴリー

指標は、下記の2つのカテゴリーから構成されています。
1.DX推進のための経営のあり方、仕組みに関する指標
2.DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築に関する指標
それぞれのカテゴリーで「定性指標」と「定量指標」が設定されており、「定性指標」は9項目のキークエスチョンと26項目のサブクエスチョンで構成されています。キークエスチョンは経営者が自ら回答することが前提とされており、サブクエスチョンは経営者が経営幹部、事業部門、DX部門、IT部門等と議論しながら回答することが望ましいとされています。

DX推進指標のカテゴリー
引用:「DX推進指標」とそのガイダンス P8 図2「DX推進指標」の構成

分析の考え方

指標のうち、定性指標では6段階でDXレベルを評価することができます。最上位のレベル5においては、「デジタル企業として、グローバル競争を勝ち抜くことのできるレベル」とされており、国内の中小中堅企業にとっては非常にレベルが高く感じるかと思われますが、アフターコロナの外部環境で自社の優位性を担保していくためには、グローバルの視点も必要となります。

定性指標
引用:「DX推進指標」とそのガイダンス P9 図3 成熟度レベルの基本的な考え方

DX推進指標を活用した戦略策定のポイント

DX推進指標に基づいた自己診断により、自社のDXレベルが明確になります。政府が提唱する次の段階は、デジタルガバナンス・コードに沿って「DX認定」の取得です。デジタルガバナンス・コードは大きく4つのカテゴリーで構成されています。

  • 1.ビジョン・ビジネスモデル
  • 2.戦略(目指すビジネスモデルを実現するためのデジタル技術を活用した戦略を構築し、ステークホルダーに示す)
    • (1)組織づくり・人材・企業文化に関する方策
    • (2)ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策
  • 3.成果と重要な成果指標(デジタル技術を活用する戦略の達成度を測る指標について公表する)
  • 4.ガバナンスシステム(経営者自らがビジョンやデジタル戦略について対外的メッセージを発信する)

上記の内容を設計するうえで最も重要なのが、「1.ビジョン・ビジネスモデル」です。

DXビジョンを明確にする

DXは競争力強化に不可欠な戦略ということはご理解いただけたかと思いますが、中小中堅企業が陥りがちなのが、 部分的なIT ツールの導入にとどまる、「IT部門」を設立したものの、戦略~実行まですべて担当任せになり、自社の目指す方向性にうまくデジタルが付加されていないといった状況です。
顧客・エンドユーザー視点のない DXは社会、顧客、取引先に受け入れてもらえない可能性が極めて高く、DX認定制度でも、DXを成功させるためには「まずはデジタルを前提とした経営ビジョン・DX戦略と、その推進体制作りが必要」とその必要性について言及されています。
DXを通じて何を実現したいのかを明確にし、DXを軸とした企業の在り方を変革し、目指すべきゴールの設定とともに、ビジネスモデル・バリューチェーン・顧客関係・企業文化も含めた全社改革としてのロードマップの策定、そして、回収計画も視野に入れた蓋然(がいぜん)性の高い投資計画の策定が、いま求められています。

DXビジョン体系図(タナベコンサルティング作成)
DXビジョン体系図(タナベコンサルティング作成)

DXビジョン策定のポイント~4つのDXについて現状認識する~

タナベコンサルティングでは、DXを4つのカテゴリーに分かれると提言しています。

  • 1.ビジネスモデルDX:商品・サービスに関するDX
  • 2.マーケティングDX:営業・広報・開発に関するDX
  • 3.マネジメントDX:経営・システム・業務全般に関するDX
  • 4.HR DX:組織・人事情報に関するDX

これらそれぞれのカテゴリーについて、DX推進指標の関連項目の診断結果を合わせながら現状認識を実施することが、DXビジョン策定のポイントとなります。それぞれにおいて

  • 1.ビジネスモデルDX
    • (1)デジタルディスラプションの可能性がどれくらいあるか
    • (2)デジタルディスラプションの流れに自社はどのように適合していくのか
    • (3)デジタル市場拡大の影響はどれほどあるか
  • 2.マーケティングDX
    • (1)デジタルマーケティングが効果的なビジネスであるか
    • (2)マーケティングプロセスに変革が必要か
    • (3)バリューチェーンに変革が必要か
  • 3.マネジメントDX
    • (1)システム全体が最適な形になっているか
    • (2)判断に必要な情報が可視化されているか、可視化にかかる時間はどれくらいか
    • (3)情報資産の管理が適切になされているか
  • 4.HR DX
    • (1)人材戦略は策定されているか
    • (2)人材戦略実現に向けて可視化すべき情報は何か
    • (3)人事業務の効率化は可能か

という観点をポイントに置きながら、自社のデジタルレベルの現状認識に取り組んでいただければと思います。

ビジョンを軸にDXを推進する企業事例

DX認定を取得している企業の事例を紹介します。

味の素グループのDX推進

味の素グループは2022年にDX認定を取得、その後2023年にはデジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)にも選定されています。
同社は、「アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献」というパーパス(志)として戦略を展開しており、同社グループが真の意味で「食と健康の課題解決企業」に変革することをDXの目的としています。また「DXに関するメッセージ」と題して、経営者自らがホームページにもDX推進を加速させることを宣言しており、会社全体としてDX推進が中長期ビジョン達成に向けた最重要課題であると認識していることが見て取れます。
同社グループは、社会課題を解決し、社会と価値を共創するASV経営(Ajinomoto Group Creating Shared Value)を掲げ、2030年までに「食と健康の課題解決企業」として、社会変革をリードする存在になることを目指しています。このASVを実現するために必要なDX戦略を「全社オペレーション」「事業モデル変革」「社会変革」の4つのステージに分けて定義しています。

引用:味の素ホームページ

上記2030年のゴールを達成するためのDXの大きな柱として4つのテーマを推進しています。

  • 1.パーソナライズドマーケティング(生活者ひとりひとりのニーズに合った商品・サービスの提供)
  • 2.ロボットやAI(人工知能)を活用した「スマートファクトリー」の導入
  • 3.サプライチェーンのエコシステム化
  • 4.コレクティブインパクトを実現する新事業変革(さまざまなプレイヤーが社会課題の解決に向けて協働するための仕組みづくり)

まさに、パーパス(志)実現にむけた中長期ビジョンとDX戦略を融合させてDXビジョンを構築し、重点テーマを力強く推進している先進企業といえます。

まとめ

DX推進には経営者自らが参画し、会社全体を巻き込んでいくことが不可欠です。IT部門任せにしていては、部分最適なDXになってしまい、社員満足も顧客満足も得られない結果となってしまいます。また、経営者自身が DXとそれに伴う市場変化の可能性を最も理解していなければ、投資の意思決定ができず、DXビジョンは必ず形骸化します。それどころか DXに対し健全な危機感を持っている次世代メンバーとそれを理解できない経営者の間でギャップが生まれ、有望人材の離脱につながるリスクが考えられるのです。
DXに関する理解がないということは、数年後のビジネスに対する理解がないといっても過言ではありません。まずは経営陣の覚悟とリーダーシップでDXビジョン構築を始めてみてはいかがでしょうか。

AUTHOR著者
デジタルコンサルティング
チーフマネジャー
澤田 ありさ

組織人事コンサルティング会社を経て当社に入社。人事制度設計・人材育成・人材活躍などの戦略人事コンサルティングや中期ビジョン策定コンサルティングを専門としている。顧客ロイヤリティの向上やファン化のCRMから行政受託案件の経験もあり幅広く活躍している。

澤田 ありさ
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