営業DXの基礎と成功のポイント

コラム
マーケティングDX
営業DXの基礎と成功のポイント
目次

はじめに

営業活動のデジタル化の背景

(1)デジタルトランスフォーメーション加速

近年、デジタル技術の進化と普及により、いわゆる、デジタルトランスフォーメーション(DX)が急速にすすんでいます。企業や組織はデジタル化をますます推進し、デジタルシフトによる業務プロセスの改善や顧客体験設計を積極的に検討するようになりました。

WEB3(ブロックチェーン技術を使った今までの中央集権型管理から自立型分散管理を可能にした技術やメタバースなど)の時代には、さらにその形も進化することが予想され、デジタルテクノロジーの活用は、ビジネスの競争力を高めるのに欠かせない要素となってきました。

(2)顧客中心思考の強化

デジタル活用においての顧客は、さまざまなチャネルを駆使し、今までの数倍のスピードで、かつ膨大なデータを収集しています。具体的にはWEBサイト、SNS(Instagram、Facebookなど)、Google検索などでニーズの把握や適切な提案、体験価値を提供することが重要になり、ますます顧客中心の思考が求められるようになってきました。

千差万別の価値観を持つ顧客の要求を理解し、顧客1人1人と向き合った顧客体験価値の提供が求められ、顧客エクスペリエンスの向上に焦点をあてたオン・オフラインを行き来する顧客への営業活動やマーケティング戦略においても、顧客の声やデータに基づいた意思決定が重要となっています。

営業DX非導入企業のデメリット

急速に進むデジタル化の現代において、業種にもよりますが、営業DXに取り組まない企業は、取り組んでいる企業と比較し、競争力においていくつかの影響が生じます。これからのデジタル社会において、営業DXがもたらすメリットは、様々な書籍が発行されていますが、本稿では、ライバル企業(複数)の導入を前提として、自社が営業DXに取り組んでいない、または本格的な取り組みを行っていない場合、どのようなことが考えられるかを、考察していきたいと思います。

営業DXを導入せずに従来の営業手法やプロセスを継続する企業は、競合他社に比べて競争力の低下を招く可能性が考えられます。顧客の情報収集の変化は歴然とした事実である以上、DXを導入しない企業は今後、ブランディング・マーケティングにおいても格差が広がることは間違いありません。具体的には、顧客満足度、業務効率、膨大なデータからの意思決定のスピードや確実性で差が生じると考えられます。

1点目は「顧客満足の低下」です。
顧客はデジタル時代に投入した今、より高い品質と便利さを求めています。営業DXを導入せずに顧客体験の向上・拡大を図らない企業は、顧客満足度の低下や顧客離れを招く可能性があります。また、顧客との接点(タッチポイント)の多さや利便性、世界観の訴求などにおいて、何人分もの営業パーソンより、的確・疲れ知らずで発信し続けることのできるデジタル活用をしている企業とそうでない企業の顧客満足度格差は、ますます広がっていくと考えられます。

2点目は「効率化」です。
競合他社がデジタル技術によって効率化を実現するなかで競争上の不利を招きます。自動化されたタスクやデータの可視化によって従来より、迅速かつ正確に情報を取得できるので、人が対応している企業と効率の部分で大きな差がつきます。

3点目は「膨大なデータからの意思決定のスピードや確実性」です。
デジタル化は、企業に膨大なデータをもたらし、そのデータは販売戦略やアプローチに反映させることができます。そのため、導入しない企業は、データ収集、意思決定のスピード、確実性などにおいて、競争優位性を失う可能性があります。

これらは、経営の手段であり目的ではありませんが、ライバルと比較すると将来的なアドバンテージを負う可能性は高くなります。

営業DX導入プロセス

「営業DXを導入しようと広告施策を実施したり、WEBページのコンテンツの制作をしているが、なかなか成果がでない」と、クライアントからよく伺います。
上記のような企業は、営業DX導入のプロセスに欠点があると多く感じます。やらなくてはいけないプロセスの欠落や順番を誤っているケースです。そのような課題が非常に多いことから、下記に導入の基本的プロセスをお示しします。

(1)目標設定と戦略策定

まず初めにやらなくてはいけないのは、DXの目的を明確にすることです。
あるべき姿(背景、方向性、売上、利益、リード件数など)から逆算して、
KPIを設定し、組織の戦略と結び付けるなど検討を行います。
また、営業プロセスにおける課題や改善すべき点を洗い出し、DXがどのようにそれらを解決するかを検討します。

(2)現状分析

現在の営業プロセスとシステム詳細を分析し、ボトルネックや効率化のポイントを特定します。データ収集や顧客のフィードバックを活用し、現状の把握を行います。

具体的には

①営業プロセスの可視化

各ステップの時間やリソースの使用状況、成約率、取引の推移などを分析します。

②データ収集の分析

現在のデータ収集方法やデータ(顧客情報、営業活動データ・成果データ)の品質の評価。
また、データの活用状況や分析手法、必要指標などを把握し改善のための
課題を特定します。

③ツールやシステムの評価

現在の営業ツールやシステム機能、使いやすさ、連携性などを評価します。

④顧客フィードバックの収集

顧客からのフィードバックや要望収集の方法、顧客満足度の測定方法など
を評価し、最適な情報収集の仕組みや課題を検討します。

(3)ツールの選定

DXを実現するための適切なテクノロジーツールの選定フェーズです。CRM(顧客関係管理)システム、営業支援ツール、分析ツール、AI(人工知能)など、組織や目的にマッチしたツールを選定します。

(4)プロトタイプの開発とテスト

選定したテクノロジーツールからプロトタイプを開発し、実際の営業環境でテストします。はじめはアジャイル手法で推進し、徐々に必要な機能を追加、修正をします。

(5)社内の意識啓発とトレーニング

営業メンバーや関係部署へ向けて、利点や仕様方法説明、勉強会の開催など実施します。

(6)フェーズごとの展開と監視

DX導入を段階的に展開し、フェーズごとに経過を監視。フィードバックを収集し、必要に応じて修正や監視を行いながら営業プロセスの最適化を目指します。

(7)成果の評価と継続的改善

成果を定量的・定性的な観点から評価し、営業KPI(重要業績評価指標)の改善や顧客満足度の向上など、設定した目標に対してどれだけ達成できたかを確認したうえで、継続的な改善を行います。

(8)デジタルDX推進担当or部門の組成

担当が専任ではなく、他の業務と兼務しながら推進している場合は結果的に片手間になってしまい、失敗する確率が高くなります。しっかりと組織を組成し目標を体現する仕組みをつくることが必要です。

以上が基本的な営業DX導入のプロセスとなりますが、フェーズごとに同時進行した方がよいフェーズもあります。
推進しながら、プロセスをリライトしていくことで活きた営業DXを実装することができます。

導入企業の具体的事例

(1)中堅ゼネコンA社の事例

課題

地方にある中堅ゼネコンA社は長年、県庁の入札案件によって、ビルや体育館、倉庫などを得意とする総合建設会社でした。しかし、今後少子化や、地方から都市への人口流出などから、人口や歳入の減少に伴いインフラ案件が減少することを懸念していました。
このような傾向から、将来に向けての打ち手を模索し、民間事業への参入を方針として打ち出しました。

問題点

しかし、今まで、ゼネコンとして、県庁の入札のみをやってきたA社にとって、民間事業への参入は全く毛色の違う営業プロセスとなり、困難を極めていました。具体的には民間企業へのアプローチ方法、どの程度の案件を集め、エンゲージメントを高めたら良いのか。案件の顕在化など、同じ建設業であっても社員は全く違う事業のような感覚を持っており、攻めあぐねていました。

対策

そこで、まずA社では民間営業部門のデジタル化によって、案件獲得をめざす戦略を打ち出しました。

施策

①民間営業部門の目的やターゲットなどを明確にした上で、リード獲得の受け皿となるWEBサイトを再設計。さらに、A社が培ってきた強みを最大限にアピールするコンテンツの作成や、コンセプトを明確化した上でビジュアルを作成。また、操作性、コンバージョンへの誘導など、意思を持ってWEBサイトを再設計しました。

②WEBサイトをローンチした後、顧客分析から「エリア×キーワード」のような検索キーワードを予想し、WEB広告を出稿しました。

③広告からのお問合せがあった顧客を営業部門へ紹介し案内(初回約10件/月)

※ここで問題になったのが、大型の県庁案件をやっていたA社は、お問合せの案件が比較的小さいということで、これは自社の顧客ではないと判断し営業への紹介(引渡し)を行わなかったことがありました。

しかし、今回のケースは情報収集ニーズも含め、まずは話をして、その会社に入り込んでいくことが、ファーストアプローチになります。それをデジタルでやるか、リアルでやるかの違いで、いったん接点を持った顧客は、デジタルとリアルでナーチャリングすると効率が良いので、今回のケースとしては紹介(引渡し)が正解でした。

結果

一番苦手としていた初回アプローチ(リード獲得)をデジタルでできるようになったことで、徐々にフォロー客を増やし、結果として顧客からのフィードバックにより急速に民間営業の知見も増やしていきました。また、当初問合わせ段階で二の足を踏んでいた営業部門もファーストアプローチの後の大切さを認識しました。ツールなども再考し、飛躍的かつ効率的に民間営業を遂行できるようになりました。

(2)印刷会社B社の事例

課題

印刷会社B社は、急速に変化するデジタル化の波をいち早く感じ、自社も変わらなければ、時代に取り残されることを肌で感じていました。
具体的には顧客ニーズや情報収集の多様化、新規顧客開拓方法の変化です。
そうした中、まずは自社でWEBサイトを分析(Googleアナリティクス)し、広告出稿やコンテンツ制作、キャンペーンなどを社員が他の仕事も抱えながら、行い始めました。しかし、なかなか結果に結びつかず、営業部門のモチベーションも下がっていました。

対策

そこで、タナベコンサルティングがデジタルDX促進のお手伝いをさせていただくことになりました。
まずは点になっていた施策を線や面に変えるべく、各施策ややり方を丁寧に分析し、課題解決を行いました。

具体的には、

①目標・目的の明確化がなされていないため、デジタルでどのくらいの売上にしたいかなどを踏まえ、具体的な目標・目的を明確にしました。またデジタルで3年後のあるべき姿をメンバー全員で設計し、そのために今何をやるかを明確化しました。

②そこから逆算したKPIの設定(流入件数/月、コンバージョン件数)

③ターゲット像(ペルソナ像)の設計

④ ①~③の設定から月あたりの広告費を予算化

⑤ペルソナに刺さる、広告や、キャンペーンの設計

このプロセスとロジックを具体策に落とし込み丁寧に組み上げました。

結果

WEBサイトへの流入が飛躍的に伸び、具体的なキャンペーンや広告の知見、ノウハウを構築し、大手企業のお問合せも増加。3年目の今は会社全体の10%の売上を確保するまでに成長しました。

最後に

ここまで営業DXを導入しようとされている企業、結果がでていないご担当者向けに「基本と事例」をテーマとして解説をしてきました。
しかし、ここでは語りつくせなかった、営業DXを中心とした、さらに深掘りしたテーマが多数存在します。
本コラム解説の中でもご紹介しているナーチャリング施策、組織の組成、営業プロセス分析、KPI設計など、それぞれが、営業DXを形成する重要なファクターとなります。
このような重要項目1つ1つを学び、成果に結び付けましょう。

AUTHOR著者
デジタルコンサルティング事業部
マーケティングDX チーフマネジャー
池谷 滋

クライアントのブランディング支援において、語り継ぎたい「志=企業のDNA(存在価値)」をあぶりだし、経営的な視点だけでなく、デザイン的なビジュアル視点や、コピーライティング、SNSなど、戦略実現にむけ、すべてのクオリティを重視するトータルファシリテートを得意とする。現在はプル型営業支援のみならず、プッシュ型営業支援にてクライアントの新規顧客獲得実績も数多く上げている。

池谷 滋
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