DX推進における組織変革成功のためのポイント

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DX推進における組織変革成功のためのポイント
目次

1.はじめに

企業が存続していくためには、時代や社会情勢の変化に対応していかなくてはなりません。昨今では労働人口の減少、ライフワークバランス、働き方改革などにより長時間労働や気合と根性で乗り切れる時代ではなくなりました。その結果、生産性向上のための組織変革が求められDXが推進されるようになっています。
そこで今回はDX推進により組織変革を成功させるためのポイントとして3つのキーワード「健全な危機感」、「DXビジョン」、「推進体制」をもとに説明していきたいと思います。

2.「健全な危機感」

組織変革が必要なタイミングとは、物価の上昇などによる収益構造の改善や、属人化やマンネリ化による組織風土の衰退などがあげられます。また、デジタル技術を活用した新参企業の参入により市場が破壊される「デジタルディスラプション」に対して生き残りを図るためにもデジタル利活用による企業の変革が求められています。
しかし、これほど巷でデジタル化や新たな技術革新による脅威が出ているなか、DXを推進することに対しての必要性を感じていない経営層や従業員が多く、他人事のように捉えていることがあります。たしかに、今のままでも経営は成り立つかもしれませんし、業務に大きな支障は現状として出ていないかもしれません。ただ、将来を見据えると自社よりも労働環境のよい他社に人材が流出し人材不足となることや、新規参入によるディスラプションで経営不振となる可能性がないとは言い切れないのです。
したがって、経営層は自社の脅威を捉え、その対策を講じることはもちろん従業員に対しても発信していくことが必要です。また、従業員にとっても「会社がなんとかしてくれる」ではなく常に問題意識をもち外部環境へアンテナを張ることが求められます。漠然とした危機感ではなく「健全な危機感」を持つことがないと組織変革の必要性を感じることはないといえます。つまり、他人事ではなく「自分事」として捉えていくことよう危機感を醸成することが重要といえます。

3.「DXビジョン」

次の成功ポイントは「DXビジョン」が明確となり共有されていることです。
DXの目的とは、ITを活用して新たな価値を創造し企業やビジネスモデルを変革することで競争優位となることです。デジタル技術を用いた改革・変革で自社は何を実現するかというビジョンがなくてはDXそのものが目的になってしまいます。山登りで例えると、山登りの目的というのは「高いところから見える良い景色を見たい」や「達成感を味わいたい」、「運動不足を解消したい」など人によってさまざまではありますが、「山を登る」という行為自体が目的ではありません。繰り返しにはなりますが、「デジタル技術を用いた変革で自社は何を実現するか」という明確なビジョンを発信しなくては、周囲にとっては目的のない苦しい山登りを強いられているという感覚でしかなくなります。
また、現状の経営課題とDXで実現したい未来(DXビジョン)の過程にDXを介在させ「何を、どこまで、いつまでに、誰が」というロードマップを描くことで更に解像度がクリアになります。ビジョンとロードマップを共有し、全社のDX推進へのベクトル合わせを行うことが成功のカギとなり、経営層の覚悟と決断が必要な部分になります。

4.「推進体制」

成功ポイント3つ目は「推進体制」です。
昨今は既存の部門からDX推進部門を立ち上げるパターンが多く、特にデジタル領域が専門であるという理由からIT部門から推進室をつくるケースが目立ちます。この場合、社内のデジタルインフラ状況の把握や、デジタル技術についての理解度は高く一見推進しやすいように見えますが、反面現場の業務の理解不足や経営層の丸投げにより、そもそもの方向性が見えなくなり業務改善されぬままデジタルに置き換わることがあります。
したがって、全社横断型のプロジェクトを組成し推進後に推進室や部門へと段階的に立ち上げていくことを推奨します。全社横断型に経営層から業務担当レベルまでを斜め切りにすることで視座の違う課題や意見が出ること、運用レベルでの課題からデジタル分野での知見での解決など様々な角度からの解決方法が見つけられることなどがあげられます。このなかで、小さな成功体験を積み重ねることも重要となります。近年のアジャイル開発が組織変革への起爆剤となり得るでしょう。また、専門コンサルタントなど外部からの知見も入れることでより課題解決の幅も広がります。自社内で改善プロジェクトなどを繰り返し行っていても成果が見られない場合は、外部知見を入れることも有効打となります。

以上のポイントを踏まえ、2社の事例をもとに自社の組織変革に活用していただければと思います。

1.お寺のDX「築地本願寺」

築地本願寺は浄土真宗本願寺派で、東京都中央区築地を拠点とし従業員数160名で寺院業務を行っています。コロナによる影響で直接訪問ができなくなったという環境変化や寺離れという時代のもと今のままの活動では、社会環境の変化に対応できないという危機感から外部有識者を招き組織変革を行っていきました。お寺とデジタル化はあまり結びつかないですが、固定観念を払拭するうえでも外部有識者の知見が組織風土の刷新となったと言えます。また、仏教はひとりひとりに寄り添うというものであるという理念のもと「また行きたいと思うお寺を目指す」というビジョンを掲げ、外部有識者によるデジタルのサポートを受けながら組織改革を行っています。特に、ITリーダーという役割を各部門に置くことで築地本願寺のITリテラシーの向上を図り推進を加速させたという点は学ぶべきポイントとなります。

出典:築地本願寺HP
出典:【研究リポート】「創建400年のお寺が挑んだ改革の軌跡~築地本願寺のDX~:築地本願寺」

2.伝播する組織づくり「カメラのキタムラ」

キタムラは1934年に町のカメラ店として高知県で創業し巨大カメラチェーンとなった企業で1999年にインターネット事業を開始し2006年にはリアル店舗とECを融合した「オムニチャネル戦略を展開」しDXを推進しています。熊本地震の発生によりカメラ販売台数が大きく落ち込み経営不振に陥り、創業家オーナーの判断によりカルチュア・コンビニエンス・クラブの子会社となりました。現在では、V字回復し「世界を代表するフォトライフ・カンパニー」をビジョンに掲げ、全国1000店舗以上のリアル拠点とオンラインサービスを融合した事業を展開するフォトプラットフォームをもつ企業となっています。学ぶべきポイントとしては、現場目線で現場スタッフとともに改善し変革することで組織自体のデジタル化への機運を高めていくという推進体制です。コールセンターの一例を紹介すると、サイト行動履歴や社内問合せ履歴などを現場担当者とともに解析し、情報の収集や整理を行うことで件数を削減しました。更に削減した時間を顧客からの店舗の問合せにまわすという付加価値業務へと移行しコールスタッフ、店舗スタッフ、顧客のすべてがWin-Winとなる改善を行いました。小さな成功体験を現場スタッフとともに共有し推進することでDX人材を増やすという新たな取り組みです。

出典:株式会社キタムラ HP
出典:【研究リポート】人間力とデジタルの両立~キタムラで実現したDX推進のための人材育成ステップ:キタムラ HP

また、上記の他にも既存事業ではまったくデジタル技術を活用していない企業が他社との差別化や自社の新たな強みを作るために、デジタルを活用した新サービスを提供すべく事業を立ち上げるというケースもあります。社員の学ぶ場を実践で用意し一緒に学びながら成長するという推進体制は新しい着眼点だと思います。アナログ中心だった企業風土からDXを推し進めていき組織改革を行うとともに既存事業との相乗効果を狙うビジョンは経営者の覚悟の現れです。
このように、三者三様のDX推進による組織変革ではありますが、社内の人材を巻き込み小さな成功体験を積み重ね自分事として捉えていく仕組みを構築したことがポイントといえます。外部の有識者やパートナーの協力があって推進できたとて、最終的には自走できなければ意味がありません。また、DX人材を自社内で育成するためにITリーダー制やデジタル分野の新規事業立ち上げ、DXプロジェクトによる関与など実際にデジタルを学ぶ、活かす場をそれぞれ提供していることもポイントではないでしょうか。デジタルという手段をもって経営課題や業務課題を改善し、組織の変革を行う機運としてDXを進めてみてはいかがでしょうか。

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AUTHOR著者
デジタルコンサルティング事業部
マネジメントDX コンサルタント
松永 大樹

給食業界でプレイングマネージャーとして病院厨房の管理から大規模国際スポーツイベントの運営管理担当と多岐にわたるフードサービスを経験し、当社に入社。「現場・現実・現品」の三現主義を軸に、5Sによる業務改善、デジタルを活用した業務効率化やIT化構想支援を行う。顧客とのコミュニケーションを大切にする伴走型コンサルティングスタイルを信条とする。

松永 大樹
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