日本が直面する「リテラシー」問題

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日本が直面する「リテラシー」問題
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本コラムは、ダイヤモンド社発行の「DX戦略の成功のメソッド~戦略なき改革に未来はない~」の第1章の抜粋記事です。

   

DX戦略を構想する上では、「デジタル技術の知識・リテラシー」が欠かせない。
デジタル技術の知識や必要性を理解し、ITツールを駆使して自社のDXを推進する能力を「DXリテラシー」という。DX戦略を推進する上で人材のDXリテラシーは必須である。一人一人がDXリテラシーを身に付けることで、DXを自分事と捉えて変革に向け行動できるようになる。
2022年3月、経済産業省とIPAは経営者を含むすべてのビジネスパーソンが身に付けるべきDXの基本的な知識やスキル、マインドの指針として「DXリテラシー標準」を策定、公表した【図表1-10】。
具体的には、「Why(なぜ)」(DXの背景)、「What(何を)」(DXで活用されるデータ・技術)、「How(どのように)」(データ・技術の活用)、「マインド・スタンス」(組織・企業がDX推進や持続的成長を実現するため、社員に求める意識・姿勢・行動)という4項目で構成する。

図表1-10 DXリテラシー標準
出所:経済産業省「DXリテラシー標準」(2022年3月29日)をもとにTCG加工・作成

Whyは「DXの重要性を理解するために必要な、社会、顧客・ユーザー、競争環境の変化に関する知識」。メガトレンド(時代の趨勢)や社会課題、国内・海外のDXの取り組み、顧客価値の変化、デジタル技術による競争環境変化の具体的事例の理解などである。
またWhatは「ビジネスの場で活用されているデータやデジタル技術に関する知識」であり、データの種類や基礎的な統計知識と分析手法、AIやクラウドサービス、ハードウエアなどに関する知識とスキルである。
そして、Howは「ビジネスの場でデータやデジタル技術を活用する方法や留意点に関する知識」、データやデジタル技術のビジネス活用事例、セキュリティー対策、コンプライアンス(プライバシー、知的財産権、著作権など)に関する知識といったことである。

これらの知識やスキルを習得するためには、その前提として「情報リテラシー」(情報を適切に収集・理解し、活用する能力)が重要となる。情報リテラシーとは、膨大な情報量のなかから必要なものを探し出し、信憑性や有用度などを評価して正しく利用する能力のことである。
DXを理解・推進して課題解決を図る上でも、また意思決定を行う上でも土台となる重要な基礎スキルであり、企業の競争力に与える影響は非常に大きい。
しかし近年、日本人の情報リテラシーの劣化が指摘され、それが企業のDXリテラシーが高まらない理由の一つになっている。その背景にあると考えられるのが、「コミュニケーションのデジタル化」と「メディアのデジタル化」である。

劣化する情報リテラシー

米ハーバード大学ロースクールのキャス・サンスティーン教授によると、インターネットは同じ思考や主義を持つ人同士をつなげやすい特徴があり、閉鎖的なコミュニケーションで議論することによって極端な思想や意見が形成されていく「サイバーカスケード(多段状の小さな滝のこと)」に陥りやすいという(総務省「情報通信白書」2019年版より)。

この要因とされているのが「エコーチェンバー」と「フィルターバブル」である。
エコーチェンバーとは、狭い人間関係でコミュニケーションを繰り返すことにより、偏った考えが強化・増幅され、意見が先鋭化していく心理現象である。SNSで自分と似た興味・関心を持つ人をフォローし、自分の意見をSNSで発信するとそれに似た意見が返ってくる状況を、閉じた小部屋で音が反響(エコーチェンバー)する物理現象にたとえたものだ。

一方、フィルターバブルとは、ネット利用者が知らず知らずのうちに狭い情報の〝泡〟に閉じ込められ、自分が見たい情報しか見えなくなる現象のことをいう。検索エンジンのアルゴリズムが過去の検索履歴やクリック履歴を分析・学習し、利用者自身の意思にかかわらず価値観に合う情報を優先的に表示(レコメンド機能)するため、それ以外の情報からは隔離されることになる。特に、近年はテレビを視聴せず、新聞・雑誌も購読せず、情報の取得をもっぱらネットやSNSに依存する人が増えており、メディアリテラシー(多様なメディアに接して情報を精査する力)の低下が懸念されている。

また、人は自分の判断に不安を覚えると「確証バイアス」に陥る傾向がある。これは自分のマインドセット(固定観念、先入観)や仮説を肯定するため、それを補強する都合のよい情報ばかりを集める傾向のことをいう。「自分の考えは間違っていないはずだ」という信念が強い人ほど陥りやすい。「地獄への道は善意で舗装されている」との格言があるように、耳当たりの良い情報ばかりに接していると、その道の先に会社の未来はない。

持たざる人はますます失う

一人一人に最適化されたデジタルコンテンツに囲まれ、自分の価値観とは異なる情報や考えが排除された閉鎖的なコミュニティーと接することで、現実とかけ離れた極端な意見が形成されていく。自分の知りたいことや関心のあることが、その人にとっての〝真実〟や〝価値観〟になる。コミュニケーションのデジタル化で情報の発信源は多極化が進む一方、情報の受信側はメディアのデジタル化により二極化(情報を活用できる人と活用できない人)が進んでいる。

したがって、新聞、雑誌、書籍やテレビ、ラジオなど既存メディアに接して情報源の幅を広げるとともに、流通する情報の質を見極める力を養うことが求められる。特に、SNSやネット上に流れる情報の場合は、その真偽や正誤を検証する「ファクトチェック」が不可欠である。だが、日本人のファクトチェックに対する認識は他国に比べて低い【図表1-11】。米国で運用されている「CRAAP(クラップ)テスト」【図表1-12】のように一定の基準で情報を評価する仕組みが必要である。

図表1-11 ファクトチェックの認知度
出所:総務省「情報通信白書」(2023年版)をもとにTCG作成
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AUTHOR著者
執行役員 デジタルコンサルティング事業部
マネジメントDX
武政 大貴

財務省で金融機関の監督業務や法人企業統計の集計業務などを担当後、企業経営に参画したのち当社に入社。実行力ある企業(自律型組織)構築を研究テーマとして、見える化手法を活用した生産性カイカクを中心にコンサルティングを実施。生産性の改善を前提に、DXビジョン、IT構想化、ERP導入支援及びSDGs実装支援など世の中の潮流にあわせたコンサルティングメソッドを研究開発しながら実行力ある企業づくりにおいて高い評価を得ている。

武政 大貴
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