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経営安定化と持続的成長に向けた資本集約を実践したB社の実例

経営安定化と持続的成長に向けた資本集約を実践したB社の実例

国内マーケットが縮小する中で、事業の多角化やビジョン実現に向けた事業ポートフォリオの最適化などグループ内の企業は増える一方です。2021年に弊社が実施した「グループ経営に関する企業アンケート調査」においても、回答いただいた企業の過半数がホールディングス化を検討しているという結果が出ております。【図1参照】
この傾向は今後も増えて行くと考えられるのですが、理由としては、M&A市場の活性化により企業のグループ化が進んでいること、経営資源(ヒト・モノ・カネ)の再配分により持続的成長に向けた事業のポートフォリオの拡充が進んでいること、そして、事業承継を機とした資本と経営の分離により社員が経営者になれる環境の整備が進んでいるなどが考えられます。
ホールディングス経営に移行する事で永続的な資本承継と議決権の集約を実現する事が、経営の安定化と企業の持続的成長を実現することができると言えます。

今後のホールディングス経営導入について【図1】今後のホールディングス経営導入について
出典:タナベコンサルティング実施「グループ経営に関する企業アンケート調査」

1.ホールディングス経営移行と議決権集約

B社は商業施設やオフィスビル、官公庁物件の設備管理・保安・警備・清掃等を手がける総合ビルメンテナンス企業です。ビル管理業務の一連の流れをワンストップサービスで提供できるコアコングロマリッド(事業多角化)戦略を実装し、業界内の独立系としては、一定の地位を確立されてます。今後の成長戦略を見据えた際に、バリューチェーンの拡大と各機能の拡充を実現するべく、B社社長はホールディングス経営を検討しておられました。B社がホールディングス経営を検討した要因は次の3点にあります。

①M&Aの実施によるバリューチェーン強化を支える経営手法であること
②プロパー社員に経営参与の機会を与え、経営者人材の育成体制手法としての活用
③オーナー株式の安定的な株価対策と議決権集約

中でも、③オーナー株式の安定的な株価対策と議決権集約がB社社長の一番の悩みでありました。
そこで我々はホールディングス経営に向けた資本政策と組織体制構築に加え、議決権集約スキームの提案を行い、コンサルティング支援をする運びとなりました。支援当初の資本関係の現状は下記の通りです。

①B社社長・社長一族で当社株式の61.3%を保有。残りは社長親戚が保有している。
②社長親戚は当社に在籍しておらず、経営に関与している訳ではない。
③1/3以上の株式を社長親戚が保有している事から、将来的な経営権分散リスクを排除したい。

上記現状を踏まえ、想定される議決権集約スキームを3ケース提案の上、コンサルティングの支援をしてきました。【図2参照】

▼クリックで拡大します

【図2】:タナベコンサルティング作成

2.議決権集約スキーム活用による経営の安定化

議決権の集約には、買取と種類株式への転換という大きな二パターンが存在します。
当社は株価が高い事から買取の場合、相当額の金銭を準備する必要があり、社長個人で買い取る場合は当社もしくは金融機関からの資金調達を行う必要があります。もう1つの種類株式への転換では、議決権制限を設け、経営に関与されないというメリットがありますが、株式自体は社長親族がそのまま保有する事から、相続による経営権分散リスクは排除できないというデメリットがあります。
いずれの方法もメリット・デメリットが存在し、社長としてもコンサルティング支援中もずっと頭を抱えておられました。
議決権集約と株価対策が優先順位が高いという認識でしたが、社長の本質は、「社員が安心して働くことが出来、絶えず成長できる企業づくりをしたい」ということに、我々もコンサルティングの支援をしていく中で気づきました。
この言葉を聞き、企業の持続的な成長を最優先に考え、将来に渡って会社を残していきたいという想いである事を理解しました。以降、度重なる社長とのセッションを踏まえ、社長個人による買取での議決権集約を実施する事に意思決定をしました。
実際に親族との買取交渉を進めていく事になりましたが、親族からは高値での買取要求、なぜこのタイミングで売却しなければならないかと交渉が難航したタイミングがありました。それはもちろんです。今まで配当金を継続的に受け取っている事から親族側からすれば、手放す理由が無いからです。
そこで我々はホールディングス経営の目的・意義を社長に細かく説明し、社長の想いを実現する最適な経営手法である事、そのためには親族の方々にも協力を得る必要がある事を社長に理解いただくまで説明いたしました。再度社長から親族に対して買取交渉を行っていただき、最終的には一般的な簿価での買い取りにて内諾頂く運びとなりました。

3.ホールディングス経営による成長エンジンの確立

議決権集約に向けた交渉は無事に終了し、その後はホールディングス経営移行に向けた、ホールディングスカンパニーの設立と資本集約を実施しました。ホールディングス化へのステップは下記の通りです。

Step1:共同株式移転によるホールディングスカンパニー設立
共同株式移転により、当社の上にホールディングスカンパニー(以下、HDC)を新設します。

Step2:適格現物分配による子会社並列化
適格現物分配という手法を取り、各事業会社の株式をHDCに移します。

Step3:分割型吸収分割による不動産集約
分割型吸収合併分割という手法を用いる事で、事業会社が保有している不動産をHDCへ集約します。

ホールディングス経営のあるべき姿は、経営と事業の分離を行い、グループ全体で推進力を高めていく事です。そのために、HDCは各事業会社のガバナンス・マネジメントを実施する事で、求心力を発揮します。各事業会社には、事業成長に注力する事で遠心力で拡大していく事が必要です。HDCへ不動産を集約する事はホールディングス経営のあるべき姿を実現すべく実施したという事もありますが、株価低減効果を高めるためには不動産(資産)を集約する事が必要である事から実践をしたという流れになります。
現在はホールディングス経営体制の強化を図るべく、継続的な支援を実施している最中でありますが、現在もM&Aを絶えず検討し、グループ全体の成長を検討しています。
資本政策上でのメリットを最大限享受し、成長を実現するホールディングス経営こそ、実施する意義の高い経営スタイルであると言えます。

担当コンサルタント

タナベコンサルティング
コーポレートファイナンスコンサルティング事業部
チーフマネジャー

本島 雅己

金融機関の個人・法人営業にて、多くの事業承継・ホールディングス化案件に従事後、当社に入社。「クライアントと共に成長できる会社を1社でも多く作る」を信条に、グループ経営・事業承継・資本政策・マネジメント改善を中心にコーポレートファイナンス分野のスペシャリストとして活躍中。お客様に向き合い、課題解決のための熱意あるコンサルティング展開で、業種を問わず幅広いクライアントから高い信頼を得ている。

本島 雅己

会社プロフィール

業種 ビルメンテナンス業
所在地 東京都
売上高 グループ総体60億
従業員数 900名

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「日本には企業を救う仕事が必要だ」という
志を掲げた1957年の創業以来、
66年間で大企業から中堅企業まで約200業種、
17,000社以上に経営コンサルティングを実施してまいりました。

企業を救い、元気にする。
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コンサルティング実績

創業
200業種
17,000社以上