人事課題解決ノウハウ

経験学習を踏まえた学習体系づくり

教育風土改革に向けたポイントを押さえる

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学ぶだけで終わらせない、
学びから体得までの教育を総合的に考える

経験学習の意味とは

経験学習の意味とは

「失敗すればするほど、我々は成功に近づいている」というトーマス・エジソンの有名な言葉がある。
この言葉は行動した結果、失敗をしたことから、その原因を追求したり、反省して次へ改善していくことで成功に近づくという教訓である。現代的に言い換えれば経験学習のことを指すと考える。

我々は、様々な経験を通じて学びを得ることができる。OJT(On the job training)がその代表格である。実務を通して、実際の手順がわかる。ミスが発生しやすい場所も理解できる。例えば、体力が必要な現場で、どの作業が特に体への負荷が大きいのか、ケガしやすいのかも理解できる。仕事だけでなく、普段の生活でも経験から学ぶことは多い。
余談ではあるが、小生の息子も買い物に出かけたとき、その通り道に病院があると突如元気がなくなり、泣き出すことがある。これは、病院で注射を打たれた嫌な想い出から、それを回避したいという経験学習した結果の行動である。

つまり、改めて考えると普段の仕事および私生活は経験学習の連続であり、それによって人は成長していくのである。
言い換えれば、企業において優秀な人材を育成するためには、いかに経験を意識させ、経験を積める環境を用意するかが重要であると言える。

経験学習を効果的に行うために知っておくべきこと

経験学習を効果的に行うために
知っておくべきこと

今日までに経験学習に関する複数の法則やモデルが提唱されている。
ここでは、その中でも代表的な2つを紹介する。
今後、企業で経験学習を基にした学習体系を築いていくのであれば、ベースの知識として持っていただきたい。

1.「7・2・1の法則(ロミンガーの法則)」

米国のLominger社の調査・分析により発表された法則で、経営幹部などリーダーシップを発揮するための成長の要因として必要だったものは、70%が「業務経験」、20%が「薫陶(他者からの学び)」、10%が「研修・読書」であるということが示されている。つまり、仕事において人を成長させる効果が高いは、実務を通して知識やスキルを得る「直接経験」であり、他者からの学びや研修などの「間接経験」よりも効果的であるということである。
言い換えると、企業内において人材の成長戦略を考えるのであれば、どのような教育項目を準備するかよりも、どのように「経験の場を設けるか」が重要であるということである。
ただし、間接経験が不要というわけではない。間接経験は、新たな気づきを与えるきっかけとしては十分に効果がある。業務経験をただ積み上げていくだけでは、いずれ仕事に対するマンネリ化を招き、モチベーションも低下していく。新たな気づきも減少していくだろう。また、新たな知識や気づきのきっかけを得ないままでの業務は、井の中の蛙状態で視野を広げる、新たな発想を生み出すことは難しいだろう。つまり、適正なタイミングで間接経験を意図的に組み入れていくことが、仕事上における経験学習の効果をより高めることにも繋がるのである。

2.経験学習サイクル

米国の教育学者コルブ氏によって提唱されたモデルであり、人が経験から学び成長するためのフレームワークでもある。
経験学習サイクルは、以下の4つのステップから構成される。

Step1.経験:自分自身で学びを実行し、経験すること
Step2.内省:実行した結果を、様々な観点から客観的に振り返ること
Step3.教訓:他の状況でも応用できるように概念化すること
Step4.実践:得られた結果や教訓を活かし、新しい状況へ応用すること

4つのステップのいずれかが欠ければ、経験を多く積んでも得られる学びは少なくなる。 経験することがゴールではない。経験を起点として、各ステップを意識させることが必要なのである。
一流のアスリートは、この経験学習サイクルを回すことに優れているケースが多い。米国メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手もその一人である。彼は少年の頃に野球ノートを用いて、試合後の振り返りを行い、また悪かったところに関しては次に何をすれば課題を解決できるかを考え、実際に練習に取り入れて克服しようとしていたと証言されている。恐らくこうした地道な活動が、今の彼の成績に反映されているのであろう。

繰り返しになるが、重要なことは、いかに経験サイクルを回すか、各ステップを意識させる取り組みがあるか、加えて、それぞれのステップの質を上げていけるかである。

経験学習を実施する際の留意点

経験学習を実施する際の留意点

上段の法則も踏まえ、経験学習を実施する際に気をつけるポイントも見ておきたい。
本コラムでは特に意識しておきたい2点を以下に記す。

1.経験からは正しい教訓だけを得て、次へ生かしていく

一回の経験を踏めば何かしらの結果が現れる。サイコロを振ったら1が出たとか、機械のスイッチを押すと稼働し始めたという結果がそれにあたる。一方、これ自体は正しい教訓ではない。毎回サイコロの目は1が出るわけではないし、機械が故障していれば稼働しないこともあるだろう。正しい教訓とは、上でも述べた通り、他の状況でも応用できるように概念化することである。「思い込み」や「願望」ではなく、客観的に物事を捉え、正しい情報を整理することが必要となる。
そこで特に意識いただきたいことが2点ある。

1点目は、「経験からは智恵だけを学ぶ」ということである。サイコロの例であれば、1から6までの面がある中で、6分の1の確率でいずれかの数字が出現すること。これが知恵である。「あの人が投げると3が多い」などは、思い込みであり正しい知恵ではないのである。

2点目は、「過去の経験や思い込みこそが、学びにとっては一番の障壁になる」ということである。固定概念や過去の成功経験は、時に新しい経験の効果をいとも簡単に台無しにするものである。
実際、コンサルティングの現場で見る赤字体質の企業は、過去の成功体験に縋り、新たな学びや気づきをから目を背ける、または気づいていても変化を避けてきた結果によるものが多い。強烈な成功体験ほど、人間はそこに頼ってしまう性質があるものだ。しかし、結果に目を向けて新たな教訓を得て、次に繋げること、変化させていくことが本来必要であり、時には経験そのものを捨てる勇気も必要なのである。

2.学びの動機づけを定期的に行う

経験学習を謳った結果、実行力は向上しても実行することが目的になっては困る。何のために、今の経験を積み、何を学んで、何に繋げていくのか。本来の目的を変化させないように定期的に確認することは必要である。
例えば、年2回考課面談している会社であればその場面でもよい。週1回の1on1面談を実施している会社であればその場でもよいだろう。目標管理制度(MBO)を設けている会社であれば、それと関連付けると評価にもつなげることができるのである。
いずれにせよ、個人に完全に任せるのではなく、上司・会社側から定期的に目的について意識させる機会は設けていただきたい。

経験学習を踏まえた学習体系構築の具体施策

経験学習を踏まえた学習体系構築の具体施策

これまで述べてきたことを総括して、経験学習を踏まえた学習体系構築の具体的な施策を3点以下に記す。

1.経営のバックボーンシステムと連動した人材ビジョンの構築

まず最初に実施すべき施策は、人材ビジョンの明文化である。わが社において「あるべき人物像」とは何か、どのように育成していくべきなのか、その方針を明確にし、社員へ浸透させることが必要である。

ここで最も大切なことは、その人材ビジョンが経営のバックボーンシステムと連動しているかである。経営のバックボーンシステムとは、経営理念や社是などの企業の上位概念から、それを実現するための中長期ビジョン、年度方針、マネジメントシステムまでの一連の繋がりであり、一貫性が必要なものである。人材ビジョンがこれに沿ったものになっていなければ、会社を目指すべき方向へ導くための人材を育成するには時間を要する結果となるのだ。

2.ブレンデッド・ラーニングによる継続型育成施策の構築

ブレンデッド・ラーニングとは、集合研修とeラーニングやオンライン研修など、複数の手法を掛け合わせて実施する学習手法のことを指す。様々な学びの場を掛け合わせることで、より効果的な教育が実現される。

経験学習を踏まえた学習体系を構築するのであれば、まずは階層別に求める役割や、それに必要な能力の教育は集合研修などで実施されることが良いだろう。同じ立場の人材にマインドセットを行い、同じ意識を持って業務にあたってもらうことで社内の統率もはかれる。そして、その研修での学びを日常業務で実行し、経験を積み、振り返り、教訓を得て、新たな取り組みへ繋げる。なお、業務において不足している知識がわかれば、eラーニングにて補足してもらうことも有効である。この経験サイクルを回していくのである。さらには、一定期間経過後、集合型、またはオンライン型の集会で研修後の各自の実施状況、新たな気づきなどの共有の場を設けることでお互いを刺激しあう仕組みを設ける。
定期的に共有するので、目的がズレていた場合も修正できる環境もある。メンバーで成功事例を共有し、ディスカッションすることで成功の要因も明確に見えてくることもあるだろう。

このように、ブレンデッド・ラーニングに取り組むことで、単発の学びで終わるのではなく、継続的に学ぶ文化を構築してくことにもつながる。

3.企業内大学(アカデミー)の設立

企業内大学(アカデミー)とは、企業が社内に設置する研修制度のことであり、社員が自主的に学ぶ場を与える制度であり、また学びをアウトプットする場としても活用できる、人材育成のプラットフォームである。
タナベコンサルティングとしても、企業内大学(アカデミー)は日本全国で数多く実績があり、教育文化の醸成を実現させてきた。企業内大学(アカデミー)の主な特徴は以下2点である。

1点目は、人材のスピード育成の実現である。自社のあるべき姿に合わせた教育プログラムと、自社オリジナルのカリキュラムを組み合わせることで、効率的に人材育成が可能となるのである。また、オリジナル講座の中には、自社の商品に関する知識を学ぶ場や、製造技術について学ぶ場など、インプットの後すぐに実践で使用できる場面が設定できるため、経験サイクルを回しやすい仕組みが構築できる。

2点目は、社内講師の活用による教え学びあう風土の形成である。タナベコンサルディングで支援する企業内大学(アカデミー)では「社員同士が教えあい、学びあう」仕組みを同時に構築してきた。教える役割を外部に依存しすぎず、能力や経験者がある社員が講師を務めることで、社内で教える文化と、学ぶ文化が同時に生まれていく仕組みである。なお、企業によっては、講師役に再雇用者を活用し、経験を還元してもらう役割を担ってもらうことで新たな使命を感じ、モチベーションの向上を実現させているケースもある。受講者自身もいずれは講師側に役割を担うことも意識するため、学ぶ意識も高くなり、学習の効果が得られやすいのである。

以上3点を示したが、いずれにせよ人材育成には経営者側の本気度は必ず必要である。単に人に投資するだけでは育たない。ビジョンを持ち、人材に対するメッセージを発し続ける必要もあるだろう。また経営者自身も経験学習を実行し、成長を続けていく必要がある。
人的資本経営へ各社がシフトしていく今、自社の教育について再考されたい。

この課題を解決したコンサルタント

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