人事課題解決ノウハウ

美容業(ヘアーサロン)における人事制度再構築のポイントと実践事例

複数店舗のヘアーサロンを展開されている企業が人事制度を再構築する際に押さえるべき本質理解

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美容業(ヘアーサロン)を取り巻く環境

美容業(ヘアーサロン)を取り巻く環境

厚生労働省の最新調査によると、美容室(以下、ヘアーサロン)の数は25万4,000軒を越え、右肩上がりで過去最高を更新している。
ヘアーサロンの数に比例し、美容師の数も55万人を越え、こちらも過去最高の人数を記録している。(平均1店舗2.2人)
ヘアーサロンや美容師の数は増えているものの、誰もが周知の事実である日本国内の人口減少がそのままダイレクトに美容業界全体へネガティブな影響を及ぼしており、少ないパイの奪い合いを余儀なくされている。

ここで着目して頂きたいのが美容業界の組織形態である。
ここ数年、以下2パターンの組織形態が比較されるカタチで話題に取り上げられるようになって久しい。
1つは、会社の歴史や信用力を特徴として、長く安定的に正社員として働くことができる「育成型のサロン」である。
1つは、店舗を借りる形態(面を借りる)を取り、フリーランス(所謂、個人事業主)として身を立てていく「面貸しサロン」である。どちらが良い悪いではないものの、美容業界で働くスタッフにとっては、常に比較対象として天秤にかけられているのが実際である。

また、幅広いニーズに応えていく総合型(ゼネラリスト)のヘアーサロンから、カラー専門や髪質改善専門のような専門特化型(スペシャリスト)のヘアーサロンまで、幅広く存在し、サロン間の競争は今後ますます激しくなると考えられる。

加えて、働く社員も4世代~5世代に渡り、価値観が多様化しているため、複雑かつ混沌とした環境の中で如何にして自社と向き合っていくかがポイントである。

このような環境下で各サロンの人事制度を考えるべき経営層(経営者・幹部・人事責任者)の皆様が、あまりにも"多くの情報"や"多様な声"に敏感に反応してしまうが故に、結果的に、大切な"軸"を失った断片的な対策の繰り返しに終始してしまっているケースが多いことを日々のコンサルティング現場より痛感している。

そこで本コラムでは、各サロン経営をおこなっている経営層の皆様が、キャリアパス(等級制度)・評価制度・賃金制度において、それぞれどのような視点を押さえながら、自社(自サロン)の人事制度を再構築していくべきかに絞って言及していきたい。

ヘアーサロンにおけるキャリアパス(等級制度)

ヘアーサロンにおけるキャリアパス(等級制度)

多くのヘアーサロンを営む企業(組織)のキャリアパスにおける課題は、事業(ヘアーサロン事業)を中心として組織の設計やキャリアパスの設計を行ってしまっている点にある。

そのため、美容師としての技術を徹底的に磨いていく"専門コース"や美容師の延長として捉えられた店長を担っていただくための"マネジメントコース"は存在するものの、自社の中長期ビジョンを実現していくうえで無くてはならない"経営企画"や"マーケティング"や"HR領域"を担っていただくようなコースを設計している企業はまだまだ少ない。

加えて、経営企画"や"マーケティング"や"HR領域"が組織的に重要であり、スタッフのキャリアパスにとっても、"価値の高い選択肢の一つ"という意識付けが不十分であると考えられる。

当然、生涯現役スタイリストとして活躍いただくキャリアについても価値があると考えられるものの、その一方で、仮にスタイリスト以外の道があるのではないかとキャリアを考える岐路に立たされた時に、店長としてマネジメントを担っていくコースの他に、各社の中長期ビジョンを実現していくうえで大切であり、スタッフ自身もまだ見ぬ領域にチャレンジできる環境をコースとして整えておくことは非常に価値があると言える。

これらのキャリアパスを単にトレンドだからといって、断片的な改善策を取り入れるのではなく、自社の中長期ビジョンやパーパス(貢献価値)を軸に設計いただくことをオススメしたい。

ヘアーサロンにおける評価制度

ヘアーサロンにおける評価制度

続いては、評価制度である。多くのヘアーサロンの評価制度が定量評価に終始していると考えられる。
具体的には、成果(EX:売上・単価)と成果を生み出すプロセス(EX:顧客数やリピート率)で評価しているサロンが多い。

当然、"論語"としての成果や成果を生み出すプロセスは重要視されるべきであるが、度が過ぎると、極端に個人プレーに走ってしまったり、短期的には給料も個人の職務に対する満足度も満たされるかもしれないが、少し偏りのある状態でキャリアに奥行きが無くなってしまうケースが多い。

そこで、例えばであるが、お客様と向き合う上で、または社内の仲間たちと向き合う上で、必要となる行動特性(コンピテンシー)評価や自社のパーパス(貢献価値)を具体的行動に移したパーパス実践評価などの定性評価も設計していくことで、テクニカルスキル(技術面)も当然ながら、ヒューマンスキル(人間力)も同時に高めていくことができると言える。

筆者の大阪のクライアント先であるA社では、自分たちが心底大切にしていきたいパーパスの中に、"チーム力"があり、チームに貢献した人が報われる評価制度を前面に押し出している。

大切なことは、自分たちが心底大切にしていきたいパーパス(貢献価値)や世界観・価値観を軸に、そんな世界観や価値観を育むことができる評価制度を設計していくことにある。

ヘアーサロンにおける賃金制度

ヘアーサロンにおける賃金制度

続いては、賃金制度である。
多くのヘアーサロンの賃金制度がインセンティブ要素の強い設計になっていると考えられる。
これは業界全体の慣習であり、勿論悪い訳ではない。

自身の頑張りがダイレクトに処遇に反映されていくことは、極めてシンプルである。従って、評価=賃金としてダイレクトに反映させている場合が殆どである。

ここで押さえていただきたいのは、インセンティブ要素を強めれば強めるほど、働く動機は金銭的報酬1本に偏ってしまう側面があるという事。
しかも金銭的報酬の厄介なところは、仮に今月と来月の月給が5万円増えても、その5万円という報酬に対する喜びはそこまで長続きしないという誰もが一度や二度襲われた感覚がそこには必ず潜んでいるのである。

また、インセンティブ要素を強めれば強めるほど、不安定な生活給(月給)の分配となるため、このプレッシャーに耐えられない方からフェイドアウトしてしまうリスクも内包している。

大切なことは、バランスとトータルリワードである。
バランスでいえば、固定給と変動給(インセンティブ)のバランスを改めて検討いただくことをオススメしたい。

また、トータルリワードの観点から言えば、金銭的報酬で分配できる労務費原資には限界があるため、非金銭的報酬で報いていくことも一つである。
※勿論、可能な限り分配していければ良いというのが筆者の考えの軸にある。

私の大阪のクライアント先のB社では、スタッフ自身のヒューマンスキルを高めるうえでの書籍を無料贈呈しているサロンや、将来自分がスタイリストを卒業し、マーケティングや企画開発を担ううえで、必要となる資格取得に対する補助金や必要な参考書を支給するというサロンも存在する。
永年勤続として入社5年、10年という節目に長期休暇を支給しているサロンも存在する。
中にはユニークな非金銭的報酬として、失恋休暇を制度化しているサロンまで存在する。

さいごに

本コラムで記載させていただいたのは、ほんの一部の実践事例である。
いずれにしても、大切なことは、周りの情報に安易に流されるのではなく、自社らしさや自分たちが心底大切にしていきたいパーパス(貢献価値)や世界観・価値観を軸に、トータルリワードで制度を設計していくことにあります。

この課題を解決したコンサルタント

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タナベコンサルティンググループは「日本には企業を救う仕事が必要だ」という志を掲げた1957年の創業以来
66年間で大企業から中堅企業まで約200業種、17,000社以上に経営コンサルティングを実施してまいりました。
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