建設業のDX化が進まない理由とは?
DX化を推進する際のポイントを解説

コラム
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建設業のDX化が進まない理由とは?DX化を推進する際のポイントを解説
目次

1. なぜ建設業でDXは進まないのか

(1)建設業DXの進捗状況

いわゆる2024年問題や人材不足を背景に建設業におけるDXの必要性は高まっています。しかし、単発的な業務のデジタル化(デジタイゼーション)に留まってしまうこともあり、本当の意味でDXを実現することは容易ではありません。
経産省によればDXとは図1にあるように組織全体での業務プロセス化およびビジネスモデルの変革を指す用語であり、建設業であればBIM/CIMといったモデリングシステムを使った一気通貫での業務プロセス管理実現や、現場施工時における機械導入等が一般例として該当するかと思います。その意味でDXを実現できている企業は決して多くありません。本稿では、建設業でDXが進まない理由を解説しながら、突破口となる2つの進め方について解説をし、建設業の皆様がDX推進できるための情報を提供させていただきます。

建設業DXの進捗状況
図1
出典:タナベコンサルティングにて作成

DXに取り組めていない、と述べましたが、建設業においてはまったくデジタル化の取り組みが進んでいないということではく、野原ホールディングスの調査結果に見られるように(図2)、建設業界従事者のアンケート回答による結果ではデジタル化の進んでいるプロセス、遅れているプロセスでそれぞれ異なっていることが分かります。

デジタル化による生産性向上、業務効率化
図2
出典:野原ホールディングス「建設DXに対する意識調査」(2023年2月)よりタナベコンサルティングにて作成

このデータから示唆されることは2つあります。一つは単工程のシステム導入となってしまっており、DXに繋がる業務プロセス全体のデジタル化が実現できていないということ、もう一つは施工管理のように、デジタル化できた企業とできていない企業がそれぞれ同程度いる、つまり業界全体の問題ではなく、社内のデジタル化推進する力に企業間で違いがみられるという点です。
なぜこのような違いが生まれるのでしょうか。次項ではこの要因についてさらに掘り下げ、DX推進を実現するためのポイントを説明します。

2. なぜ建設業でDXは進まないのか

(1)建設業でのデジタル化を阻む意識

野原ホールディングスによる同調査ではデジタル化による生産性向上、業務効率化が進まない理由もアンケート結果として公開されています(下図3)。 同内容にある通り、そもそもデジタル化ができない作業が多いと感じていることや、現場での変更が多いためデータ更新が面倒ということが上位の理由として挙げられています。今回は、このような建設業従事者が認識している問題意識から建設業に特有のDXが進みにくい要因を業界構造的に捉えてみます。

デジタル化による生産性向上、業務効率化が進まないアンケート結果
図3
出典:野原ホールディングス「建設DXに対する意識調査」(2023年2月)よりタナベコンサルティングにて作成

(2)建設業においてDXが進みにくい3つ構造的原因

建設業においてDXが進みにくい理由は大きく3つあると考えられます。以下では各項目について解説を加え、解決に繋がるための着想をお伝えします。

1.業務工程ごとに扱う情報が大きく異なるにも関わらず業務工程間での連携が必要であるため、業務工程をまたいだデジタル化に着手が難しいと感じてしまう
2.現場での作業が多いため、業務のデジタル化をイメージしづらく、またデジタルリテラシーを高める機会が少ない
3.施主やパートナー企業のようにステークホルダーが多いため、デジタル化を進める際に連携や理解を求めることが必要となる。

それぞれ解説いたします。
1つ目の「業務工程ごとに扱う情報が大きく異なるにも関わらず業務工程間での連携が必要であるため、業務工程をまたいだデジタル化に着手が難しいと感じてしまう」は営業、積算、調達、施工管理など、各工程で求められる情報が異なるために単工程でのデジタル化はできても、業務工程間での連携はできずDX化への取り組みが停滞してしまうというものです。営業であれば顧客管理や見積もり管理、積算であれば資材のデータベースや専用の計算モデル等、扱う情報の性質が異なります。一方で各業務工程でも連携は必要で、営業から積算であれば、施主要望の情報共有、また積算と製図であれば連携しながらの図面作成、そして施工管理へは予算管理のように情報の性質を変えながらも一連の業務には繋がりがあります。その結果、積算ソフト、CADのように単発でのシステム化は進んでも一気通貫でのシステム化に進みにくいのです。つまり、当初から一気通貫でのデジタル化を構想し、システム可を図ることは解決策になりえます。
2つ目の「現場での作業が多いがため、業務のデジタル化をイメージしづらく、またデジタルリテラシーを高める機会が少ない」は営業であれば出先、施工管理であれば現場事務所等のように、PCを触りにくい環境にあるということです。これは単純にデジタルな作業を行いにくいという業務上の制約だけでなく、デジタルリテラシーを高める機会も限定され、システムを導入しても活用度が上がらない要因となります。つまり、DX化のためには、現場や出先でも作業のできるリモートでも作業しやすい環境構築と利用する従業員のPCリテラシーを高めることも重要となります。
3つ目の「施主やパートナー企業のようにステークホルダーが多いため、デジタル化を進める際に連携や理解を求めることが必要となる」は、企業外に付随する問題で、デジタル化を進める際に、パートナー企業や施主の理解を求める必要があり、心理的ハードルを感じてしまうというものです。一般に企業間をまたぐ領域はデジタル化の進みにくい領域であり(例:請求書のデジタル化等)、そのためにデジタル化の恩恵を受けにくい、結果としてDX化への取り組みが停滞するという構図になりがちです。ここでは組織的なDX化への取り組み体制を構築し、時間をかけて浸透を図っていくことと、自社内完結できる領域とステークホルダーへの協力が必要となる領域でデジタル化を分けて推進することが重要です。
以下では、上記着眼に基づく解決策についてお伝えします。

3. 建設業DX推進に繋がる改善策

(1)組織的なDX推進体制の整備による単発的なシステム導入からの脱却

前項で示した建設業におけるDX化を阻む要因の対処として重要なのは、組織的かつ計画的なDX推進です。特に課題3で挙げた企業内完結と企業間連携に留意しながら、段階的なDX推進計画を建てることが必要です。ここでは企業内完結と企業間連携の2つに分けて改善策を伝えます。ポイントとして、企業内完結での改善ではFit to Standardの考え方が有用であり、一気通貫型でのシステム導入を検討し、システムに業務を合わせるスタンスで進めることで業務全体のデジタル化を推し進めるということです。そして企業間連携ではステークホルダーの窓口となる従業員にDXリテラシー向上の支援をすること 、そして社内で分担してステークホルダーへの交渉場合によっては啓蒙を行うことが重要です。

(2)企業内完結のデジタル化推進:Fit to Standardによるシステム化促進

自社のコアな業務プロセスのデジタル化にはERPの導入が有用です。特に建設業で部分的なデジタル化で停滞してしまっている企業にはFit to Standardの着眼で半パッケージ化されたERPシステムの導入の検討を推奨します。
前述したように、建設業の業務は工程ごとの連携が重要である一方、工程ごとに扱う情報の質が異なりシステム導入を阻む要因となっています。そこに対して図4のような各工程ごとでの情報が連携していくシステムを導入することで、システム間連携に関わる業務担当者ごとの調整を最小限にすることができます。当然これらの情報は会計システムにも連動していくため、各現場担当者の業務効率化のみでなく、経営者としてもより正確な原価把握や迅速な業績見込みに基づく意思決定を下すことができます。
このアプローチの留意点は既存の業務をシステムの仕組みに合わせて最適化することが必要となるという点です。半パッケージ化された商品は導入までのスピードが短く導入してデジタル化の恩恵を受けやすい有用な手段ですが、一方でシステムの効果を最大化するために既存業務の流れをシステムに合わせる必要が出てきます。その際に既存の業務の質を落とさないための業務手順の再整理や関係者へのシステム習熟度支援が必要となります。

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各工程ごとでの情報が連携していくシステム
図4
出典:タナベコンサルティングにて作成

(3)ステークホルダー連携でのデジタル化促進:計画推進体制構築によるDXリテラシー向上とステークホルダーへの説明

ステークホルダー連携でのデジタル化推進はより俯瞰的かつ長期によるDX構想の策定が有用です。企業ごとの体制や事情によりデジタルを活用した情報のやり取りや情報管理にすぐに移行できないことがあります。そのためにこちらでは一気通貫で進めるのではなく、まず自社の目指す姿DXビジョンを整理し、各ステークホルダーに協力を求めていく事項を洗い出すことから始めていきます。DXビジョンの策定という点において、建設業のDXで挙げられるBIM/CIMの活用等も視野に入れて検討することが必要です。
このアプローチで重要となる点として2つあります。1つはステークホルダーの窓口となる従業員を巻き込みDXビジョンを策定すること、そして想定されるツール類を彼らが円滑に活用できるようにDXリテラシー向上施策を盛り込むことです。DX推進が停滞する要因の一つに従業員が使いこなせずシステム導入の効果が引き出せないということがあります。そのために計画策定時から主要人物を巻き込む、社内にDX人材創出を促し計画推進のハブとしての役割を期待するといった、試作が有用になります。2つ目はDXの推進を特定部署に任せきりにせず、委員会形式等で役割範囲を明確にしながら全社的に推進することです。よくある誤った推進例として情報システム系部署や経営企画室が一括でDX推進のミッションを担い、現場の理解を得られない、リソースが足りないといった困難にあたりDX化が止まってしまうことがあります。そのために、予め全社での推進を見込んだプロジェクト組成、そして関係者の意見を適切に反映したDXビジョン策定とスケジュール設定が重要となります。
ステークホルダー間の調整は一朝一夕で実現するものではないですが、各企業ひいては業界全体で人材不足や2024年問題に対応していくためにも推進を進めなくてはならない重要な課題であるといえます。

4.終わりに

今回はなぜ建設業でDXが進まないか、を問いの中心に立て、建設業の業界構造に由来する課題の整理とそこを解決できるアプローチ方法の紹介を行いました。今回の内容が建設業におけるDX推進の一助となりましたら幸いです。

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AUTHOR著者
デジタルコンサルティング事業部
マネジメントDX チーフマネジャー
江藤 ジョナタン

大学院博士課程にて社会心理学の研究を行い、学問の知見を応用すべく当社に入社。
入社後は、業務改善領域の知見を磨き、データ分析、ビジネスプロセスの可視化から業務効率化・改善など分析力と実行力の両面を併せ持つ。また人事や事業戦略領域など幅広いテーマのプロジェクトに携わり、1分野に限定されない統合的な価値を提供している。

江藤 ジョナタン
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