物流業界におけるDX化の取り組みと推進ポイント

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物流業界におけるDX化の取り組みと推進ポイント
目次

現在の物流業界では、生産性の低さ、実際に直面している2024年問題など対応すべき課題が様々存在します。本コラムではこれに対応するため物流業界ではどのような取り組みを行っているか、DXの観点で考察致します。



物流DX導入おける課題とは

公益社団法人鉄道貨物協会の平成30年度の報告書によると、2028年度の営業用トラック輸送量と営業トラック分担率の予測値から、ドライバー需要量が2028年度 約117.5万人と予測されています。また、将来人口予測からのドライバーの供給量は、2028年度 約89.6万人と見られています。この予測を踏まえると、2028年度には約27.8万人のドライバー不足が予測されています。
出典:公益社団法人鉄道貨物協会「平成30年度本部委員会報告書」( 2019年5月)

物流業は他業界と比較して、著しく低い労働生産性という業界自体が抱える課題があります。物流分野における労働力不足が顕在化しており、トラックドライバーが不足していると感じている企業は益々増加傾向にあり、ドライバーの年齢構成は、全産業平均より若年層と高齢層の割合が低く、中年層の割合が高いほか、労働時間も全産業平均より約2割長くなっています。
これらの背景には、インターネット通販等のEC(電子商取引)市場の急拡大に伴うラストワンマイル(配送の最終拠点から注文した顧客に届くまでの区間)の配送ニーズが増加していることや、近年の消費者のニーズの多様化に伴う多品種・小ロット輸送の増加によってトラックの積載効率を低下させていることが要因として挙げられます。
実際に、物販系分野のBtoC-EC市場規模は2013年~2021年の8年間で2倍以上に増加しており、特にコロナ禍に突入した2019年~2020年の1年間では2割強に拡大しています。
また、貨物自動車の積載率は2019年から2020年にかけ向上しているものの、それでも40%以下の低い水準で推移しています。このように、現在の物流業では、荷物があるのに運び手がいない「物流クライシス」の問題が目前に迫っています。
出典:我が国の物流を取り巻く現状と取組状況「経済産業省・国土交通省・農林水産省」(2022年9月)

物流業界の5つの経営課題

物流業界には、向き合うべき5つの経営課題があります。

1.ロイヤリティ欠如・人材不足
物流業界は、元来人手不足が慢性化している業界です。加えて働き方改革関連法案の施行によって、ドライバーの年間時間外労働時間の上限が2024年4月以降、960時間に制限されます。これにより物流業界はさまざまな打撃を受けることから、物流における「2024年問題」と呼ばれています。働き方改革関連法案は、時間外労働の上限規制や年次有給休暇取得の義務化、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保を目的に制定されました。ただ、働き方改革関連法案の施行により、ドライバーは従来のように残業ができず、収入が激減するおそれがあります。なかには、よりよい収入を求めて離職する従業員が出てくるかもしれません。このような事態を回避するには、労働環境の改善や条件の見直し、ロボットや物流システムの導入による業務効率化などが有効です。

2.小口配送の増加
インターネット、デバイスが普及し、誰もがインターネットショッピングを利用する時代になりました。また、新型コロナウイルスの感染拡大により外出を控える方が増え、ネットショッピング需要が高まった結果、小口配送が増加しました。またこのようなライフスタイルが定着し、この結果小口多頻度配送が圧倒的に増加し、物流企業に与える影響は甚大となっています。また小口荷物が数多く倉庫へ保管されるようになり、管理が複雑化した企業も見られます。また、小口配送はトラック積載率の低下を招き、業務効率の悪化にもつながります。

3.IT化の遅れ・システムの老朽化
以前から物流業界は、IT化の遅れが指摘されていました。IT化に積極的ではない企業も多く、依然としてアナログな手法で業務に取り組んでいるケースも見られます。また、システムの老朽化も課題のひとつです。老朽化したシステムは業務効率の低下だけでなく、業務の属人化も招きます。業務が属人化すると、特定の従業員しか業務を遂行できず、その従業員に突然休まれると業務が停滞することになります。またデータの集約や活用ができていない企業が増えています。物流業界では、部門ごとに独立したシステムを構築していることが多く、この状況下では部門間の緊密な連携が取れず、非効率の発生や業務負荷の増加につながります。データ集約における意思決定、業務遂行遅延、大元のシステム構築そのものの遅延は、経営の意思決定の遅延に直結していることが、事を深刻な状況に陥れてゆきます。

4.単独改善の限界
自社が有する経営資源活用の限界を感じている経営者が増えています。それでは成長を諦めなくてはならないのか?ということではなく、他社との協業(アライアンス)、DXの実装で自社の特徴を今一度設定し、提案してゆくことで打開を図ることができます。

5.企業ブンランディンングの発信と浸透
お客様から、社員から「選ばれる会社になる」ことが急務となっています。ロイヤリティを上げるためには、対外的な発信力と社内への浸透が必要です。現在勤める社員のモラールを上げてゆくこと、お客様からの評判を上げてゆくこと、この2つの施策に向けて断続的な取組みへの意思決定が必要になっています。また、パートタイマーの皆様の雇用促進のために、地元に選ばれる、地元に愛される企業になるために、会社の見られ方を変えてゆくことが必要です。

物流業界におけるDX実装のメリット

DXに関する市場規模は、拡大の一途をたどっています。株式会社富士キメラ総研が公表した資料「2022 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望 市場編/ベンダー戦略編」によれば、国内における2020年度のDX市場規模は1兆3,821億円となっており、2030年度予測では5兆1,957億円と、2020年度比較で3.8倍拡大すると見られています。AI、ビッグデータ等IT技術を利用することで、企業内の業務効率を図るだけではなく物流業界全体の活性化を図ることができます。ここからは、物流に対しDXを導入した場合のメリットについて記載いたします。
株式会社富士経済が公表した資料によると、次世代物流システムの市場規模は、2021年比78.6%増の2030年に1兆1,831億円に達すると予想されています。物流業界の多くの企業がDX実装の取り組みを進めているため、次世代物流システムの市場規模が拡大していると考えられます。
出典:株式会社富士キメラ総研『2022 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望 市場編/ベンダー戦略編』(2022年3月)
出典:株式会社富士経済「2023年版 次世代物流ビジネス・システムの実態と将来展望」(2022年11月)

DXで目指す現場改善と課題解消

推進する際に乗り越える3つの課題

DXへの取り組みの中には、データをデジタル化する「デジタイゼーション」、業務プロセスをデジタル化する「デジタライゼーション」、顧客への提供価値を創出する「デジタルトランスフォーメーション」という3つの段階があります。DX価値提供にたどり着くための3つの課題に触れてゆきます。

1.人をいかに巻き込むか?
言葉は知っていたとしても、導入段階の知識とスキルレベルには大変多くのバラつきがあります。多くのケースでは、『プロジェクト発足時において最もパソコンに詳しい社員』がプロジェクトリーダーを任されています。当然兼務です。プロジェクトメンバーも同様に各部門の中で最もパソコンに詳しい方が選抜されます。この背景では、社内に理解されにくいまま担当者だけが疲弊してゆく流れになります。
人を巻き込むには『DXビジョン』を描き全社に発信することが必須です。このビジョンがプロジェクトの後ろ盾になります。『DXビジョン』の源流は自社のミッションと中長期ビジョンです。未だペーパーレスやRPAの導入がDXと捉えられている趣がありますが、ここはトップ自らが旗を掲げていただき、DXビジョンを発信していただきたいと考えます。

2.DXビジョンに基づくDXアイデアの明確化
DXビジョンを描いたら実装のための戦略判断のステップに進みます。戦略判断は、投資判断です。投資判断の根拠は、収益性の見極めと言えます。DXの推進と生産性は同時に語れることがありますが、社内に目を向ければ社員の働き方、働き甲斐の改善と改革、顧客に目を向ければまず、顧客への提供価値を創出する「デジタルトランスフォーメーション」への投資と言えます。生産性、収益性を具体的な数値で展開し、改善すべき課題は何なのかをとらえ、どのような手法で解決するのかを明確にする必要があります。DXに関する改善策をを数字に置き換え、その価値を投資対効果から判断できる具体的な施策に展開しましょう。主には業務の棚卸で実施されますが、業務が何があるかの懸賞だけでは、ほとんどの仕事がそのままになります。今の仕事にデジタルを合わせるのではなく、今後のあり方に合わせて設計することが必須です。情緒的な判断では、決別できません。

3.小さく始めて検証を行う ~PoCを行ってみる~
プロジェクト、委員会、タスクフォース等、名称は様々ありますが、与えられた目的を達成させたチームは、実は多くはないことが実態です。何を持って目的達成とするのかは企業毎に異なるものの、先述したチームは、予算、期間、成果を持つことは共通しています。そしてDXの実装においても、このチームから始まります。
中堅企業となると組織図に記載されて始まります。
その中では、小さく初めて効果検証を繰り返しながら、次第に全社展開させてゆく流れになります。小さく始めている段階で行うことはPoCと言えます。理想像だけではなく、実際に小さく作りメンバーに使ってもらうことでコンセプトを検証ことがPoCです。DXが業務の効率化から「顧客価値の提供」へと昇華されたことで、PoCの重要性が高まっています。

DXにより改善・解消が期待できる課題

DXへの取り組みによって、業務効率化、コスト削減、人材確保及び定着などの成長促進につながります。具体的な施策としては、配送状況の可視化や人手不足の解消、ヒューマンエラーの防止がテーマとなります。これらから相乗的な効果、社風改善が期待できます。

1.業務効率化
デジタル技術の導入によって、人の手で行ってきた業務の自動化や無人化を実現できます。簡単な作業や定型業務などをツール・システムに任せることで、従業員は人の手でしかできない業務、考える、生み出す業務に注力でき、業務効率化と生産性の向上につながります。

2.コスト削減
DXの推進はコスト削減に直結します。物流に関する各種手続き、社内報告等を電子化すれば、紙を用いずデータでやり取りできるためコスト削減につながります。電子化によるペーパーレス化を進めることで、用紙代や印刷代、請求書を送る際の切手代などのほか、人的コストを削減できます。

3.配送状況の可視
DXによって配送状況の可視化が可能です。例えば、動態管理システムや配送管理システムなどを導入・運用すれば、車両の現在地や状況などをリアルタイムに把握できます。ドライバーの現在地や配送状況を正確に把握できれば、管理者はそのときどきに応じた適切な指示を出せます。現在地を把握したうえでマップを確認し、最短で配送できるルートを指示する、といったことも可能です。配送状況の可視化に伴い、ドライバーはより効率よく業務を遂行できます。その結果、顧客のもとへ従来よりも早く荷物を届けられ、顧客満足度の向上にもつながります。

4.ドライバー不足の解消
物流業界が抱える大きな課題のひとつが、ドライバー不足です。常態化する長時間労働や賃金の低さなど、ドライバー不足の原因は多々ありますが、DXへの取り組みによりこうした状況の改善が見込めます。また、動態管理システムによる配送の最適化も、ドライバー不足の改善に有効です。管理者は、ドライバーの位置や配送状況をリアルタイムに把握できるため、そのときどきの状況に応じた適切な指示が可能です。より効率的に配送業務を行える環境が整えば、少ない人員でも業務を遂行できます。

5.ヒューマンエラーの防止
物流業務にはヒューマンエラーの発生要素が多々あります。物流倉庫でのピッキング業務を、未だに人の手で行っている企業は少なくありません。大量の荷物から目的の荷物を見つけ取り出す作業は、ミスが発生しやすく業務効率も低下します。ピッキングロボットの導入によって、上記のようなミスの回避が可能です。人間のようにミスを犯さず、スピーディーに作業を進めてくれるため業務効率も高まります。従業員の負担軽減につながる点もメリットです。

DXは単なるデジタル化ではありません。デジタル技術やデータを活用し、製品・サービスから社内文化・風土に
至るまで変革することで、自社の競争優位性を高めましょう。

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AUTHOR著者
デジタルコンサルティング
ゼネラルパートナー
浅井 尊行

外資系ホテル並びに外食産業で部門マネジメント、プロモーション施策、店舗統括、新店舗立上げを経験し当社へ入社。「ビジネスパートナーとしてクライアントの迷いを断ち切り、孤独感を和らげること」を信条とし、ミッション・ビジョン・中長期経営計画の構築並びに実行推進まで『コンセプト&オペレーションのマッチング』をコンセプトとしたコンサルティングを展開する。ビジョン達成に向けた社内研修も企画から携わり、推進している。

浅井 尊行
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