顧客体験を変革するマーケティング戦略で成功へ導く

コラム
マーケティングDX 戦略・計画策定 企業成長
顧客体験を変革するマーケティング戦略で成功へ導く
目次

消費者の行動変容から見る顧客体験設計の重要性

(1) 消費者を取り巻く市場環境の変化

今、人々の生活や社会、多くの市場にはさまざまな商品(製品・サービス)があふれており、従来は有効だったマーケティングやプロモーションも、時流とともに形を変えて常に進化していく必要がでてきました。
プロモーションを実施する際に押さえておくべき重要なポイントの1つは、そのターゲットが、どのようなプロモーション媒体と接触しているかを知ることです。
消費者の情報源がスマートフォンやタブレットなどのデバイスにシフトしたことで、消費者は気になる商品があれば、即時にさまざまな関連情報を得られるようになりました。
例えば、ある住宅メーカーがモデルハウスへの集客プロモーションを実施したとします。今の消費者は、来場前にその住宅メーカーやモデルハウスの情報を検索して調べます。そして、自分なりに同業分析を済ませた状態で来場します。
その事前調査の段階で、知りたい情報や他社との比較で足りない部分などがあった場合、消費者はモデルハウスまで足を運びません。つまり、リアル商品に触れる前に選ばれないのです。たとえ、その段階をクリアして来場したとしても、事前に調べた情報とリアルな場面で得られる体験や情報の間に"マイナスの乖離"があると、これも購買にはつながりません。ウェブとリアルが一体となって、消費者に対し継続的に価値訴求を行っていくことで、初めて個々のニーズに応えられます。
逆に、消費者が購入前に自社商品を詳しく知る機会を多く提供すれば、新たな顧客に育つ可能性が高くなります。そのような場をどのように提供し、ファンを増やしていくか。商品を欲する人を探して販売するという従来の手法から脱却し、欲しくなる仕組みとその欲望をかなえる仕組みをオンライン上で構築する企業も出てきています。
少し前までの大量生産・大量消費の時代で、企業とユーザーの接点は限られていました。そのため、マスメディアでたくさんの人にリーチできれば商品は売れました。
しかし、インターネットが普及した現在、企業とユーザーの接点は複数あり、複雑化しています。企業が勝ち残って行くためには、ユーザーが欲しい商品をリアルタイムに把握し、必要な人に必要な情報・商品を提供することが重要になってきます。そのためにはデジタルマーケティングが欠かせません。

デジタルの力で顧客の購入前後の行動、行動範囲から想定される勤務先や居住エリア、行動時間帯などが把握できるようになり、ウェブとリアルのシームレスな顧客体験が「より良い」買い物体験を醸造します。体験の価値を向上させるためには、テクノロジー偏重ではなく、リアルな顧客満足を体験させる設計がとても重要になってくるのです。
環境の変化に対し、プロモーション手法も顧客の価値観も変化し、一人一人のニーズを満足させる時代へと突入した。ウェブとリアルの融合モデルを自社プロモーション戦略へ落とし込み、新たな形として価値提供していただきたいと考えます。

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【図表1】タナベコンサルティングにて作成 【図表1】タナベコンサルティングにて作成

(2) デジタル活用は「コストの最適化・最小化」で真価を発揮する

前述した通り、リアルとデジタルを融合させた顧客創造モデルを構築する上で大切なのがデジタルの強みを理解することです。
「デジタルのみで物を売る」ことを想定すると、顔の見えないユーザーに対して、直線的な営業トークで説得しなければなりません。しかも接触できる人数が爆発的に増えるわけではなく少しずつしか増えず、また説得をデータで自動化することも困難です。 デジタルのみでは限界があることを理解する必要があります。しかし、この限界は見方を変えれば強みと捉えることも出来ます。
デジタルの強みは、既存のマーケティング手段を大幅に「コストカット」できることがあります。この強みを活用すれば、ビジネスモデルの変革にもつながるのです。
「デジタル」をほかの手法と比較すると、「テレビCM」と「営業」の中間に位置するものであり(図2)、テレビCMよりも爆発力(リーチ数)は弱く、営業担当の説得力(購入率)は弱いが、中間的なスペックで「リーチ数」と「購入率」を両方とも有しています。

【図2】 デジタル、リアルな営業活動、TVCMの比較(タナベコンサルティングにて作成) 【図2】 デジタル、リアルな営業活動、TVCMの比較(タナベコンサルティングにて作成)

中間的な「リーチ数」と「購入率」に加えて、デジタルの最大の強みは「安い」点も挙げられます。テレビCMや営業マンはコストを掛け続けなければ集客できませんが、デジタルは一度コストをかけてしまえば、あとは低コストで集客し続けることができます。中長期でみれば、デジタルはほかの手段と比べて、コストパフォーマンスが圧倒的に優れていると言えるでしょう。
テレビCMを中心としたマス広告は、幅広い潜在顧客に対しリーチするために、活用されてきました。デジタルは、テレビCMほど爆発的に潜在顧客にリーチできるわけではないですが、双方向の対話形式(ユーザーが求めてクリックした情報を表示するなど)で顧客を説得できます。無差別に日本に住む人全員にリーチしたい大衆向けの消費材などは別ですが、デジタルでも十分潜在顧客に接触することができます。
ターゲットユーザーを絞れる多くのビジネスにおいて、マス広告よりもデジタルの方が圧倒的にコストパフォーマンスに優れています。デジタルが今までマス広告を使ってきた大企業のコスト削減に有効なのはもちろんのこと、マス広告を打つ余裕がなかった中小企業においてはデジタルを活用することが潜在顧客にリーチできる唯一無二の手段となっています。
一方、営業担当は、顕在顧客や既存顧客から契約を取るための「クロージング」に力を発揮してきました。
デジタルは、リアルな営業担当ほど丁寧なおもてなしはできませんが、営業マンよりも大勢のユーザーに自動で対応できます。すでに購入意欲の高い顧客への説明や、リアルな営業担当につなぐ前さばきの説明であれば、デジタルでも十分対応可能になってきています。
リアルな営業担当が説明するまでもない多くの顧客接点では、デジタルのほうが圧倒的にコストパフォーマンスに優れています。今までは営業マンの人数や工数が足りないことを理由に、見て見ぬふりをしてきた契約見込みの低い顧客にまでデジタルで自動対応することにより、潜在ニーズを掘り起こし、売上UPにつなげられるのです。
中間的なスペック、かつ安価に提供できるコストパフォーマンスの高さを活かして、既存のマーケティング手段をデジタルの強みが発揮できる領域はデジタルへ置換していくことが、マーケティング領域におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)となります。ただし、市場環境の変化やテクノロジー技術の発達により、デジタルに置換すべき領域は刻一刻と変化していきます。また、複雑な商品を売るなら営業マンからの説明が適していますし、広くあらゆる人に認知をはかるならテレビCMのほうが適しています。重要なのは目的に応じて最適な手段を選択し続けることです。

「顧客重視型」から「顧客主導型」へ顧客の消費行動を
分解・予想する

(1)顧客の消費行動を分解・予想する

ここまではマーケティングで活用するための「デジタルの特性」について触れましたが、今後の顧客との関係性において重要視すべきなのは「顧客主導型」で考えることです。
顧客の重要性は、昔の近江商人の「三方よし」の考え方などから言われ続けていることでありますが、実際に、顧客に関する経営理念を掲げている企業も数多くあります。
ただ、時代の潮流に合わせ、デジタルを活用するのであれば、まず「顧客重視」から「顧客主導」へマインドチェンジする必要が出てきます。その理由は、デジタルの浸透によって以前のように企業が顧客をコントロールできなくなったからです。
ピーター・ドラッカーは、マーケティングが目指すものは、「顧客を理解し、製品とサービスを顧客に合わせ、自ら売れるようになることである」としています。
しかし、デジタルが登場するまでは、企業と顧客の情報の格差(非対称性)が大きかったため、企業側の押し付けで売れることが通用していました。Google検索もFacebookもない時代に人々がアクセスできる情報は限定的でした。顧客はテレビCM、知人の口コミ、スーパーの棚、新聞、書籍など限られた情報の中で判断するしかなかったためです。
しかし、デジタルが生活に完全に浸透した今では、顧客は商品を買うまでに様々な場面で、様々な情報を得ることができます。企業と顧客のパワーバランスが逆転した今だからこそ、本当の意味での「顧客主導」のマーケティング活動が必須となってくるのです。
消費者が商品を購入するまでに生じる企業とのタッチポイント(接点)を整理してみました。(図3)
まず、タッチポイント①「認知」でまったく商品知識がない人(A)、もしくは商品を購入したことのない人(B)がAttention(注目)、Interest(興味)を抱き、②「検討」Search(検索)を行います。③「行動」は、まさしく商品の購入やサービスの利用にあたるAction(行動)で、ここが消費がストップするかRepeat(リピート)する。④「推奨」はまさに商品を気に入った消費者がEvangelist(伝道者)になる過程ですが、消費者が(A)~(D)のどの階層にいるかで推奨のためのアクション温度は変わってきます。
Repeatを経て一度商品を購入、サービスを活用したことがある層(C)になってからも、ふたたび①~④の流れを踏みますが、(A)(B)と比較してさらにRepeatする確率は高まります。(D)に突入すると、もはや熱烈なファン層といっていいでしょう。
このように消費者がタッチポイントのチャートを進んでゆく過程を、カスタマージャーニーといいます。
タッチポイントごとに企業側が取るべき行動は異なっており、消費者の温度・熱意に合わせた対応が必要となってきます。ここで適切な対応を展開することで消費者はカスタマージャーニーで次のステップへと進み、より熱心なリピーターへと変貌を遂げてゆくのです。

【図3】 カスタマージャーニーとタッチポイント(タナベコンサルティングにて作成) 【図3】 カスタマージャーニーとタッチポイント(タナベコンサルティングにて作成)

(2)企業価値の最大化

さて、今後のマーケティングDXにおいて企業価値の最大化を図るうえで重要になってくるのが、以下の3点です。
1.顧客生涯価値(LTV)の最大化へシフト
2.顧客が"欲しい"情報を発信する
3.顧客志向でマーケティング活動を統括する

1.顧客生涯価値(LTV)の最大化へシフト
デジタルの浸透により、企業と顧客のパワーバランスが逆転したことにより、企業側に有利であった「売り切り型(一度売ってしまったら、あとはご自由に)」のビジネスモデルは限界を迎えつつあります。これからはサブスクリプションに代表される「継続購入型」のビジネスモデルが主流になります。「継続購入型」は、顧客に価値を提供し続けることでLTV(顧客生涯価値)を最大化させるモデルであります。
LTVを方程式にすると、年間取引額×収益率×取引継続年数となります。顧客生涯価値を高めるには、顧客単価やリピート率を上げていくことが重要です。目先の利益を追い求めるのではなく、長期的な信頼関係を築いていくという考え方が大切になります。

【図4】 LTVの最大化(タナベコンサルティングにて作成) 【図4】 LTVの最大化(タナベコンサルティングにて作成)

2.顧客が"欲しい"情報を発信する
勝手に送られてくる宣伝メールが煩わしいと思ったことはないでしょうか。元ヤフーのダイレクト・マーケティング担当副社長のセス・ゴーディンは、現代は関心を引こうというものが多すぎて、人々が関心を向けることに使える時間はどんどん乏しくなってきてしまっている、と主張しています。
潜在的な顧客に何か買ってもらいたいなら、テレビCMや電話、DMなどで消費者の生活を邪魔するのではなく、顧客から「期待されていて、パーソナルで、適切な」働きかけをしてゆくことが潜在顧客との関係を築いてゆく上で大切でになります。
顧客が欲しい情報を発信するインバウンドマーケティングという手法があります。「インバウンド」とは、顧客からの問い合わせに応じる活動を指し、「アウトバウンド」とは、企業から顧客へ行うテレマーケティング(電話による勧誘)などの活動を指します。
広告などを使って企業から顧客へ一方的に売り込むのではなく、ユーザーの困っていることや知りたいこと、関心があることについて、ブログや動画・SNSなどで情報発信を行い、それがSNSで拡散されることでユーザーから能動的なアクセスを集め、最終的には製品やサービスの販売につながることを目指します。インバウンド・マーケティングで重要なのは、企業が伝えたい情報ではなく、顧客が"欲しい"情報を発信することです。

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【図5】 インバウンドマーケティングの手法(タナベコンサルティングにて作成) 【図5】 インバウンドマーケティングの手法(タナベコンサルティングにて作成)

3.全体最適でマーケティング活動をマネジメントする
最後に、顧客の要望をすべての起点にした全社的な視点でのマーケティング活動をマネジメントする仕組みが重要です。
そのうちの重要項目の1つに、デジタルを活用したマーケティングにおける顧客のデータベース化があり、各部門のリレーションシップが重要です。
CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)とは、顧客情報をデータベース化して、営業部門はもちろん、コールセンターやサービス窓口など、顧客と接する全タッチポイント・全部門と情報を共有することで、個々の顧客にきめ細かい対応を実施する取り組みです。
代表的な情報は①顧客の年齢や性別、居住地などの基本データ、②趣味嗜好などの個人情報・ライフスタイル③過去の購入情報・利用状況、購入動機④問い合わせや苦情などの過去履歴です。これらを活かして顧客からの質問や要望に応えたり、ニーズが見込める商品情報を提供します。そうすることで、長期的に利用してくれる得意客を得ることができます。
また、戦略策定段階での目標設定も必要です。実行指示を出しただけで終わらせるのではなく、顧客創造活動における各フェーズごとのKPIを設定し、活動状況を見える化することで社内の共通理解へつなげ、全社マーケティング活動の実行推進状況を全員が把握することで、課題が明確になり、PDCAを回すことができるのです。
以上を踏まえ、自社独自のリアルとデジタルを融合させた新たな顧客創造モデルをデザインし、仕組みを創り、それを成果へとつなげていきましょう。

AUTHOR著者
執行役員 デジタルコンサルティング事業部
マーケティングDX
庄田 順一

マーケティング戦略パートナーとして、顧客に向けたデジタルとリアルを融合したコミュニケーションの戦略設計コンサルティング活動を展開。顧客創造に向けたWEBとリアルを融合した集客プロモーションコンサルティングにより売上げ拡大を支援。マーケティングの戦略策定から、実行・運営までトータルでサポート。特にプロモーション企画とその推進マネジメントを通じた人材育成で、クライアントから高い信頼を得ている。

庄田 順一
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