新たな営業活動につながる営業のデジタルシフトとは

コラム
マーケティングDX 戦略・計画策定 デジタルマーケティング
新たな営業活動につながる営業のデジタルシフトとは
目次

はじめに、営業活動において成果を出すためには、的確なターゲット設定と磨き抜かれた自社の提供価値を的確に届ける必要があります。BtoBとBtoCでは戦略が大きく異なるため、本稿ではBtoBにおける「新たな営業活動につながる営業のデジタルシフト」についてお伝えします。
BtoCマーケティングに興味のあるかたは、別掲コラム「BtoB/BtoCマーケティングの違いとは?それぞれの特長から具体的な施策を解説」をご参照ください。

 

営業のデジタルシフトとは

タナベコンサルティングでは営業のデジタルシフトを、現状の営業スタイルの改善をするための「戦術」ではなく、「戦略的"変革"」としております。つまり、手段をデジタルにシフトするのではなく、経営戦略&事業戦略の両面から戦略的に"営業"を見直すことが重要になります。
経済産業省「DXレポート2.1」では、目指すデジタル社会の姿を「社会課題の解決や新たな価値・顧客体験の提供が迅速になされる。(中略)資本の大小や中央・地方の別なく価値創出に参画できる」(一部抜粋)(出典先:「DXレポート2.1」P8)と定めています。各企業がもつ"独自の提供価値"を、デジタルを活用することで社会に提供することを可能にすることといえます。
また、営業のデジタルシフトは経営システム改革であり、言い換えれば、営業の"体質転換"ともいえます。デジタルを用いた継続的な「潜在」顧客との関係性強化が、他社とは違う顧客体験の提供を通じて「問い合わせ」という成果につながっていきます。

また、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)発行「DX白書2023」の副題には「進み始めた『デジタル』、進まない『トランスフォーメーション』」とあります。同書の巻頭言には「DXには大きく二つの要素があり、一つ目の要素『D』デジタル化は危機意識と共にその推進が進みつつあります。二つ目の要素『X』つまりトランスフォーメーションは残念ながら、まだまだその意味からして理解されていない現状があります。X=トランスフォーメーションとは、その組織の文化が変わることであり、ビジネスの在り方を含めた経営の問題であり、デジタルはその経営変革の重要なリソースでしかない。」(出典先:DX白書2023 巻頭言)とあります。
つまりデジタル等の技術要素は進化を遂げつつも、多くの企業では自社の変革には至っていないといえます。
デジタルシフトは全社的な中期的目線での取り組みであることを理解することが不可欠です。

営業活動におけるデジタルシフトの課題

次に、日本国内におけるデジタルシフトの取り組み状況を振り返ります。
前述の「DX白書2023」によると、国内企業の多くは、データ利活用による「売上増加」効果が限定的であることが分ります。
営業・マーケティング部門におけるデータ利活用の売上増加の効果は、「5%以上の売上増加(10.5%)」「5%未満の売上増加(16.7%)」と増加した国内企業は全体の27.2%に留まります。一方米国では、「5%以上の売上増加(37.2%)」「5%未満の売上増加(38.3%)」と76.0%もの企業が売上増加の効果が見られます。(出典先:DX白書2023 p31)
両国で効果創出差につながる原因を、同書のなかで次のように分析しております。「日本企業は「データ整備ツール」「マスターデータ管理」のようなデータ利活用の基礎段階であるのに対して、米国企業は「データハブ」「データ統合ツール」のような複数のデータを統合して利活用する段階に至っている」。
さらには、事業戦略の推進プロセスの評価や見直しの頻度については、米国が①毎月1回以上見直しをする割合が多く、日本は②評価対象外として見直しをしない割合が大きいことが分りました。
『顧客体験価値(CX)の向上推進』について、①月1回以上の見直しすると回答したのは、日本8.9%米国57.5%、②見直ししないと回答したのは日本56.3%、米国10.4%。
「戦略推進チームの構成およびスキル』について、①月1回以上の見直しすると回答したのは、日本5.9%、米国47.4%、②見直ししないと回答したのは日本53.7%、米国10.4%。
「戦略の見直し」について、①月1回以上の見直しすると回答したのは、日本8.9%、米国44.3%、②見直ししないと回答したのは日本25.1%、米国9.8%」(出典先:DX白書2023 P133)となり、日本企業は導入が目的となりその後の活用まで至っていないことが分ります。

これらは、成果に結びつかない要因として、「施策のデジタル化」にとどまっており、旧来のマーケティング戦略の枠組み内で「営業手法」や「営業ツール」だけをデジタルに切り替えているといえます。
成果を上げるためには"課題解決型の提案をデジタル上で実現すること"が求められます。
実際の企業現場においても筆者の実感として、DX推進動機はコロナ禍による行動制限のため従来の訪問活動ができず、一時しのぎでオンライン商談を取り入れた企業が大半ではないかと考えます。受発注から納品までが再稼働した時点でDX導入を止めた企業は手段のデジタル化に留まり、本質的な変革には至っておりません。
一方で、経営層がDXの本質を理解し積極的に取り組んだ企業は、非対面の顧客体験を"追加設計"し、競合他社に比べより多くの顧客接点と強力な顧客体験を提供することで「モノ売りからコト売り」を実現しております。

具体的な営業のデジタルシフトの取り組みとは

具体的な取り組みをはじめるにあたり、まずは自社の目指す姿を設定することが必要です。ゴールを決めずに戦略を立てることはできず、また、市場評価の高いシステムを闇雲に導入しても、スペックと求める機能がミスマッチを起こし成果を出すことは困難になります。
実行レベルで重要なポイントは下記の3点となります。

一つ目は、「時代に即した営業スタイル」への変革です。
これまで限定的な取り組みだったデジタルマーケティングを一気に立ち上げるとともに、フィールドセールス(リアル)側の課題の棚卸しが必要です。デジタル×リアルの融合で、時代に即した営業スタイルへの変革を図ることが必要です。
二つ目は、「問い合わせがあつまるホームページ」の構築です。
マーケティングに特化したWebページ(マーケティングサイト)を構築するともに、マーケティングオートメーションツールの導入で、顧客の育成を自動化し、Webからの問い合わせや商談の数を増やすことが重要です。
三つ目は、「営業メソッドの形式知化と生産性向上」です。
成功事例や商品の特長を整理し、コンテンツ化することで、属人化した営業モデルから脱却するとともに、「決める」ためのフィールドセールス部隊の生産性を向上させます。

事例紹介

イベント会場設営、店舗、オフィスなどの空間デザイン設計と施工を手がけるA社の取り組み事例を紹介します。
これまで顧客との接点が訪問営業や展示会、紹介などのリアルに限られていたA社は、社長をトップに3つのプロジェクト(以下PJ)を立ち上げました。マーケティングサイトを構築する「デジタルマーケティング立ち上げPJ」、コンテンツのアウトプットを主導する「コンテンツ作成PJ」、インサイドセールスの統括管理と案件整理、架電業務を担当する「インサイドセールス立ち上げPJ」です。 社内に蓄積された資料やノウハウの棚卸しを行うなかで各担当者の属人的な知見やメソッドなどが洗い出され、組織で共有化することにより、社内で埋もれていた"営業の勝ちパターン"の確立につながりました。
配信については、52週MDカレンダーを策定し月2回のペースでコンテンツを更新。サイト訪問率やメール開封率などのKPI(重要業績評価指標)を毎月測定して改善対策の検討会を実施。その結果、自社ホームページへの流入件数が6倍以上に達したほか、サイト開設当日からホットリードを創出しました。営業部門へのパスも複数進み、開設3週間後には受注を獲得するなどの成果が出ました。現在も、リアル&デジタルを活用し顧客創造を図っています。

最後に、リード情報を獲得し、商談までの育成を目指すデジタルマーケティングの具体的なステップを紹介します。

1.情報の起点となるマーケティングサイトを構築する

顧客・見込客が興味を持つ情報(例最先端技術・事例など)を掲載したWebサイトを構築し、継続的に情報を追加します。

2.マーケティングオートメーション(MA)ツールを導入する

MAツールで顧客・見込客のWeb上の行動を自動的に記録します。過去の顧客情報はマーケティングオートメーションに全て登録します。

3.集客策を立てる

広告やSEO対策で新規顧客を誘引したり、既存客にメール配信し、Webサイトに集客したりします。

4.有望見込客抽出を抽出する

MAツール上で「顧客・見込客の行動履歴情報」をもとに、有望見込客の自動抽出や、インサイドセールスによる育成を行います。
具体的には、見込客を検討レベルに合わせた複数段階に分けたうえで、リードの状態に応じた最適なシナリオを自動発動することで、見込客を育成します。

5.有望見込客を営業部門にパスし、商談創出へ

十分に購入温度が高いと判断された見込客を営業部門に紹介することができます。重要なポイントは2点です。
1つ目は、お客さまの興味関心が高まったタイミングを逃さずに営業を行うことです。2つ目は、有望見込み先のみを営業にパスすることです。インサイドセールスが"まだ十分な検討段階になっていない"と判断すれば、もう一度ステップを戻しリードの育成を行います。このように、一度獲得したリードを必要に応じてリサイクルし、最適なタイミングで送客することが成果に繋がります。

6.営業メソッドを、"勝ちパターンとして見える化"する

属人化している「勝ちパターン」を棚卸し、提案方法や活用ツールをコンテンツ化します。個人に埋没していたバラバラなノウハウを自社の価値に統一することで、営業生産性向上に直結します。

7.事前情報に基づいた提案でクロージング・成約

見込客の行動履歴からニーズを把握し相手の興味や過去の動向を把握します。営業担当者はこれらの情報をもとに、精度の高い仮説と十分な提案資料を用意して商談を行います。適切な仮説と必要資料を用意した場合とそうでない場合では、決定率に差ができるのは明らかです。

8.リピート、ファンづくりからロイヤルカスタマーへ

業種業態や商品にもより多少の差はあるものの、2:8の法則の通り安定的な業績をつくるのはロイヤルカスタマーです。デジタルシフトはリピート促進・ロイヤルカスタマー化にも効果を発揮します。 購入商品が消耗品であれば交換時期を、機械設備等であればメンテンス時期を予測して案内を自動配信します。旧来の営業担当者任せでは、フォロー不足や接触忘れが発生し機会ロスが生じるリスクがありしたが、CRMにより購入履歴情報からリピート需要を案件化させます。

営業のデジタルシフトを通じて自社の『マーケティングメソッド』『セールスメソッド』を進化させ自社商品のブランド価値や営業生産性を向上させることで、不確実な時代であっても成果を出す強靭な組織に発展させましょう。

AUTHOR著者
デジタルコンサルティング事業部
マーケティングDX チーフマネジャー
村田 幸人

観光、製薬会社、機械製造業、アパレル、金融機関、保険、小売業など、これまで30社以上の様々な業界にリアル&デジタルマーケティング、ブランディング戦略、コミュニケーション戦略、プロモーション戦略に携わる。リアル×デジタルを駆使し、企画立案から実行支援、クリエイティブ領域までワンストップでの提供に定評がある。

村田 幸人
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