IT戦略とは?デジタル変革時代におけるIT戦略の重要性から策定方法を解説

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IT戦略とは?デジタル変革時代におけるIT戦略の重要性から策定方法を解説
目次

業界や企業の実情に即したITシステムの改革は、システムの老朽化やベテラン社員の高年齢化に伴い、待ったなしの状況です。自社にとって最適なIT戦略立案のポイントや注意点について本記事で紹介いたします。

IT戦略とは

ITを経営に活用する戦略・計画

IT戦略とは「経営戦略の一部として、ITツールをどのように活用するかについての中長期的かつ具体的な戦略」です。「中小企業だから」「ITやデジタル・システムについてよくわからない」という理由でIT戦略は自社に関係ないもの、不必要なものだと思っている方もいるかもしれません。しかし、インターネットが当たり前のデジタル時代において、IT戦略は企業が成長・発展するために欠かせないものであり、中小企業であっても正しいIT戦略を策定するべきです。また、IT戦略は経営手段であり、システムを導入して終わりではなく、導入後のアナログ業務も含めた全体の業務プロセス改革を切り離してその成否を論じることはできません。経営的視座に立脚したIT戦略を描くことが重要です。

2023年の調査では売上高1兆円を超える企業はほぼ全ての企業がIT戦略を重要視していました。企業の売上高が大きくなるにつれて「経営戦略を実現するためにIT戦略はなくてはならない」と考える傾向にあることが分かります。

2023年の調査
「企業IT動向調査報告書 2023 一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)」を参考に作成

IT戦略が重要な理由

過去の延長ではない「今」を始めるために

では、そもそもなぜITに戦略が必要なのでしょうか。企業にとってはVUCA(ブーカ)時代といわれるように不安定、不確実性の高い時代です。誰もが環境の変化のスピードの速まりと、変化の振れ幅が大きくなっていることを感じていると思います。そうした環境の中で複雑に絡み合う事業・サービス・経営資源のパフォーマンスと、シナジー効果をより発揮させることが必要です。企業価値を最大化させるためには、データを用いたり、デジタル技術、システムを活用することは欠かせません。また、自社を取り巻く外部環境や、経営環境が過去の延長線上にあると考えにくい現代においては、未来を予測(未来はどうなる?)するのではなく、自社のあるべき姿・なりたい姿(=未来をどうしたい、どうなりたい)を構想し、戦略に落とし込むことが求められます。

企業活動の中で、すでにITは当たり前のものになっており、ITを取り入れる事、導入すること自体は中小企業でもすでに多く行われており、業務効率化や生産性向上を実現させています。なんとなく思い付きでシステムを導入するのではなく、自社のなりたい姿に向かって、しっかりと問題・課題解決ができるよう中長期的な計画を立てる事が重要です。

予測困難な時代である一方で、ITを積極的に活用する企業の背景には、地域問わず国内の人口減少・高齢化による人材確保の困難は避けられない課題です。中小企業ではより一層、人手不足となることを前提として、ITやシステムを活用するための戦略の重要性が増していくと考えられます。

※「VUCA」
Volatility・・・変動性
Uncertainty・・・不確実性
Complexity・・・複雑性
Ambiguity・・・曖昧性

IT戦略を策定する際の進め方とポイント

自社最適な戦略を描くための基本

これまで、IT戦略とは何か、その重要性とは何かについて説明してきました。ここでは、実際にIT戦略を策定する際の基本的な進め方と、各ステップにおけるポイントについて説明いたします。

STEP① 「目指すべき姿の設定」
システムはあくまで手段です。システムを活用して企業として何を達成したいか、ゴールを明確にすることが重要です。また、IT戦略策定にあたって複数名が関係する場合は、全メンバーとそのゴールについての目線をしっかりと合わせていくことが重要です。一部では、戦略策定を進めていくうちに手段が先行してしまい、何を目指していたのか曖昧になるケースが散見されますので、常に全メンバーがIT活用の目的を確認しながら戦略の策定を進めていくことが必要です。

STEP② 「現状分析」
現状の業務内容、システム活用状況や作業状況の可視化を行います。各種資料、帳票類などのエビデンスとヒアリングを通じ、現状の業務棚卸しを行います。また、どのような手順で業務を行っているのか業務プロセスの可視化も行います。そのうえで、情報の二重・三重管理はないか、情報の未活用部分はないか、属人化しているポイントはないかなどの観点から分析を行います。また、システム間での連携箇所に課題をもっているケースが多いため、情報の経路とつながりを明確にすることが重要です。

STEP③ 「課題に対しての解決策・方向性の検討」
ステップ2を踏まえ、目指すべき姿をさらに明確に設計します。また、目指すべき姿に向けたギャップ(問題)を明確にして、問題を埋めるための施策や、ロードマップ(いつ、何を、誰が、どのように行うか)を検討を行います。この際のポイントとしては部分最適にならないよう全体像をしっかりとおさえ、全社最適の視点から解決策・方向性を検討することが重要です。また、このタイミングでは具体性が増していくため、総論賛成・各論反対が引き起こる場合もあります。従来のやり方を変え、新しくすることに反対の意見がでることは健全な反応です。だからこそ、なぜそれに取り組むのかという理由を十分に検討し、明確にしておくことが重要です。

STEP④ 「課題解決につながるシステム・ツールの検討」
課題の解決策・方向性が具体的に決まったら、問題・課題解決を実現できるシステム、ツールの情報を収集します。既存取引先のベンダーへ依頼することもあれば、インターネットなどで1次情報を得ることもあります。システムは使ってみなければわからないという現場の声も多く聞かれるため、システムベンダーやメーカーにデモや無料トライアルの実施することも有効です。また、システム導入・開発にどれくらいの期間がかかるのかを確認し、ロードマップを常に更新し、時間軸をおさることも重要です。

IT戦略に用いられる主なソリューションツールとしては以下のようなものがあります。

・業務管理ツール
個人やプロジェクトの内容、進行状況を分かりやすく管理するためのツール。
主な機能としては、スケジュール管理や経費管理などがあたります。

・顧客管理ツール
社内にある大量の顧客情報を一元管理し、顧客との関係性を向上させるためのツールです。

・生産管理ツール
製造業において、生産計画や仕入情報、在庫状況などを管理し、業務を効率化。
運用開始後は、担当部署へのヒアリングを行い、ツールの効果の確認も重要です。

STEP⑤ 「費用対効果の検証・意思決定」
最後にシステム導入の費用対効果の検証を行います。無料で使えるシステムやツールなどもありますが、基本的には導入・開発にあたって発生するイニシャルコストや継続して発生するランニングコストがかかります。そのコストが企業価値向上や、業務効率化、競争力向上に貢献するものなのか定量的に検証を行います。また、システム投資では顧客満足度向上のように定量的にはかりにくいものもあります。システム導入の目的と照らし合わせて、目指すべき姿が達成されうるものか検証を行います。検証や社内の意思決定を経て、システムの導入・開発に着手します。

IT戦略を策定する際の注意点

絵にかいた餅にならないためのポイント

Point① 「IT・システム導入をゴールにしない」
IT戦略は、あくまで企業が抱える問題や課題を解決するために、経営戦略の一部としてITを活用するための計画です。しかし、多くの企業では、目的と手段が逆になり、ITさえ導入すれば課題が解決できると思っているケースががあります。ITやシステムは魔法のツールではございません。自社が抱えている問題や課題をしっかりと見極め、何を解決したいのかを整理し、適切なツールを選ぶ必要があります。

Point② 「IT戦略策定はIT部門だけでつくらない」
IT課題は経営の課題です。ITを経営にどのように活用していくのかが重要であり、情報システム部門やシステム担当者のみで戦略を策定することは得策とは言えません。経営者や役員陣がITやデジタルの知識がないからといって、担当者に丸投げをせず、経営戦略とIT戦略を一致させていくことが重要です。

Point③ 「IT戦略をいまの業務に合わせようとしない」
中小企業がIT戦略を考える際によくみられる事例として、既存の業務に合わせたIT戦略を考えてしまうというケースです。いまの業務をそのままITに置き換えてしまおうという発想です。アナログからデジタルに変わりはしますが、抜本的な課題解決や生産性向上につながらないことが多いため注意が必要です。合わせるべき照準は、現行の業務ではなく「自社の未来の目指すべき姿」です。

Point④ 「自社の規模や予算に合わせる」
IT戦略を考えていくと、必要以上に機能を求め、オーバースペックのシステムやツールを選んでしまうことがあります。機能が増えればそれだけコストも高くなり、システムやツールを使いこなせないと無駄が出る可能性があります。これを防ぐためには、まずは自社の規模や課題をしっかりと見極めたうえで、必要な機能だけを選んで導入することです。また、システムを検討する以前に、アナログ業務のやり方やルールを見直すことでそもそもその課題は解決できないのか?という視点で業務を見直しすることも重要です。必ずしもIT投資が必要ではない場合もあるということです。とくに中小企業で多いのが「昔からこのやり方でやってきた」という理由だけで、見直しすら行われていないケースです。まずはアナログ業務の見直しで改善できるところを変え、スリム化をはかりましょう。そうすることで本質的に必要な機能だけを選んでいくことができます。

Point⑤ 「デジタル人材の育成」
ITはあくまでツールです。IT初心者でも活用しやすいノーコードツールなど、各システムメーカーが利用者が使いやすいシステムを開発していますが、それを十分に活用できる人材が社内で育っていない場合も多く見られます。IT戦略を作ったものの、いっこうに推進が進まないケースのひとつの理由でもあります。「デジタルリスキリング」などのキーワードにもあるように、社員のITリテラシーを高める動きも活発になってきています。IT戦略を立てたものの、社内でそれを推進できる人材がいるのかという視点も忘れないようにしてください。また、いないからといって諦める必要もありません。IT戦略の一環として、IT人材の育成にも取り組むという経営の意思を反映させることが重要です。

<まとめ>
経営資源は有限です。単なる妥協ではなく、戦略に基づくリソースの重点配分が必要となります。適切なIT戦略策定により、費用や体制などの制約条件を踏まえた自社にとって最適なビジネスモデルとITデジタル・テクノロジーを構築することが重要です。すなわち、正しい策定プロセスに基づく意思決定で正しい妥協を行っていくことこそIT戦略の本質です。

IT戦略の策定に迷った場合はタナベコンサルティンググループへご相談ください。貴社の業種や業態、業務内容等に合わせた専門コンサルタントがIT化戦略の作成から業務改善、デジタル人材の育成まで幅広くご支援可能です。

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AUTHOR著者
デジタルコンサルティング
チーフマネジャー
大渕 元晴

金融機関にて法人営業、融資審査業務に従事後、海外にて就業。その後、市役所に入庁し、市の総合計画の進捗管理・調整およびふるさと納税の推進・ECサイト管理担当を経て、当社に入社。現在は専門のDX分野にて、東北エリアのDX推進を担当しながら、新規事業開発、業務標準化支援、会計・販売管理システム再構築など幅広い分野で活躍し、クライアントの事業発展に貢献している。

大渕 元晴
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