DXにおける「データ利活用」とは? 推進方法と成功のポイントを解説!

コラム 2023.04.27
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DXにおける「データ利活用」とは? 推進方法と成功のポイントを解説!
目次

DXにおけるデータ利活用とは

日本企業におけるDXの取り組み

『DX白書2023』によると、DXの取り組みにおいて、日本で「成果が出ている」と回答した企業の割合は増加傾向にある一方、米国では89.0%が「成果が出ている」と回答しており、成果の創出において日米差は依然として大きいといえます。

図表1-9 DXの取組の成果

ではなぜ、日本企業では思うようにDXが推進できていないのでしょうか。DX化を阻む理由には大きく、「データ利活用」「レガシーシステム」「デジタル人材不足」の3つの課題が見られます。今回はそのうち一つ目の「データ利活用」について解説します。

データを「見る」から「使う」、「データ活用」から「データドリブン」へのシフト

そもそも、DXとデータ利活用にはどのような関係があるのでしょうか。
DXにおけるデータ利活用とは、従来の経営やビジネス運営のために必要に応じてデータを参照するのではなく、「ビジネスにおける課題に対して、データを収集・分析し、その結果に基づいた意思決定を下すこと」を指します。これを「データドリブン」型の意思決定と呼びます。

データドリブンは、「勘」や「経験」に依存せず、またヒトが判断することによる先入観が排除されるため、属人化や精度の低下を防ぎやすいというメリットがあります。そのほかにも、分析においてAIなどのテクノロジーを融合させることで、スピーディな意思決定に繋がること、分析手法のナレッジ化がしやすくなり成功体験の再現性を高められるといったメリットも挙げられます。

データドリブン型の意思決定が注目される背景には「顧客の価値観の多様化」「テクノロジーの進歩」「デジタルを武器とする異業種参入」があります。
一つ目の理由「顧客の価値観の多様化」について、多くの情報が飛び交い、モノやサービスが溢れる中で企業間競争に打ち勝ち、CX(=顧客体験価値)を向上させるためには、経験や勘に頼るのではなく、顧客データや購買データ等のパーソナルなデータを分析することで顧客理解を深めることが必須となりました。
二つ目の「テクノロジーの進歩」は、2021年に当時のFacebook社が社名を『Meta』に変更したことで注目を浴びたメタバース(=仮想空間)ですが、このデジタル空間上にリアル空間を再現することで、限りなく現実に近い分析やシミュレーションが可能になったことです。この結果から現実世界における将来の変化を予想することで、設備のエラーや故障予知など、先手を打てるようになりました。
三つ目の「デジタルを武器とする異業種参入」は、デジタル技術とデータを活用し、競争力維持や新たな付加価値の創出などの企業側のニーズが増えていることが要因です。近年、GoogleやAppleが自動運転技術開発に参入しているように、デジタルとデータを土台とした新しい領域に技術革新が進んでいることが典型的な事例といえるでしょう。

日本におけるデータ利活用の実態

では、日本におけるデータ利活用の状況はどの程度進んでいるでしょうか。
『DX白書2023』によると、企業のデータ利活用について、「全社で利活用している」と「事業部門・部署ごとに利活用している」と回答した企業の合計は米国より日本の方が高いことが分かりました。このことから「データ活用」はある程度推進できているといえる一方、「全社で利活用している」割合は米国と比べて低い結果となりました。また、データ利活用による売上増加の効果としては米国ではすべての領域で6割から7割半ばの割合で効果があるとしているのに対し、日本で効果があるとしている割合は1割半ばから3割弱であり、総じて低い傾向にあります。
このような結果から、日本におけるデータ利活用、延いてはデータドリブンの意思決定は道半ばであるといえます。

図表1-33 データ利活用による「売上増加」効果

図表1-34 AIの利活用の状況

データに基づかない判断による失敗

では、データに基づかない勘や経験に依存した判断を続けた場合、どのようなリスクがあるでしょうか。

米大手家電量販店のサーキット・シティー・ストアーズは継続的にセールを実施することで来店客数を伸ばし、売上を増やすというマーケティング戦略を採っていました。しかし、ビッグデータの収集、分析、活用することで超効率的なサプライチェーンを実現させたウォルマートの台頭により、小売業の粗利率は極小化されていきました。結果として、サーキット・シティは2009年1月に破産に追い込まれました。

このように、データドリブンを無視した意思決定は客観的分析に欠け、市場での自社のポジションを判断しづらくなるだけでなく、ライバルの動向も正確に捉えることができなくなるため、競争力を失うリスクが高まるのです。
そのようなリスクを避けるためにもデータの収集、分析および活用は大切であるといえます。

データ利活用の成功のポイント

では、データの利活用を成功に導くには何が必要でしょうか。

データをそのもの自体は大きな意味を持ちません。そのデータを活用し判断に役立てるためには、データを整理し意味づけることで「情報」に変え、それを分析・体系化することで「知識」に、さらに活用・判断するための「知恵」に昇華させることで初めて価値あるものへと進化します。

一般社団法人フレームワーク普及促進協会HP DIKWモデル

ここからは、データを価値あるものにし、データ利活用を成功に導くためのポイントについて、手順にを追ってお伝えします。

対象となるデータを特定する

まずは、対象となるデータを特定します。

その際のポイントは、経営トップが中心となり、データを利活用するにあたって目的を明確化することです。その上で現場起点の課題を設定し、その解決のために目的に沿ったデータを特定します。そうすることで、顕在化している課題や悩みに合ったデータ収集できるだけでなく、課題解決のためのツールを導入しやすくなるため、現場の変革をもたらす好循環に近づきます。

「どのツールを導入するか」が先行し、経営判断の手段であるデータの利活用そのものを目的化してしまわぬよう、現場起点の課題設定から始めることを心がけることが重要です。

データを収集する

限られた時間の中で最適解に近いデータを収集するために、全体を俯瞰し部分的に掘り下げができるロジック・ツリーなどを用い、仮説思考に基づいたデータを収集します。
さらに迅速に仮説検証を行い、間違いに気づいた場合にはすぐに軌道修正、新たな仮説を立てます。

収集するデータには、自社独自のデータである1次データと、公的機関等が発信し誰でも入手可能な2次データがあります。
1次データは競合他社との差別化がしやすく社内のプロセスや活動をシミュレーションできる反面、収集に多くの時間とコストを要すします。一方で、2次データは幅広い情報を素早く収集できるため業界の傾向分析に適しているという性質を持っています。そのため、ライバルと差別化ができる付加価値を創造するためには、1次データを土台に2次データを補完し活用することがポイントです。

データ分析の前処理を行い正しい「情報」にする

エラーやノイズなどが含まれているデータをそのまま分析すると結果に歪みが生じ、意思決定を誤るリスクが高まります。それを防ぐために、データ分析の前処理は非常に大切な工程となります。

データ分析の前処理の代表的なものにデータクレンジングと名寄せがあります。
データクレンジングとは、収集したデータの重複や誤記、表現の揺らぎなどを洗い出し、削除や修正、正規化などを行うことでデータの品質を高める手段を指します。一方、名寄せとは、複数のデータソースから収集された、氏名や世帯、企業名などの重複データを判別し、統合することをいいます。
これらの作業は多くの時間と労力がかかります。そのため、データ利活用に影響の大きい不備をしっかりと修正できるよう、利活用目的に即したルールを整理した上で取り組むことが重要です。

さらに、収集できる情報と目的を5W2Hで照合し、不足する情報を補うことも重要です。

データを分析し「知識」へと進化させる

データ分析フェーズでは、データの全体把握、比較、可視化、関係性理解、予測の5つのステップを踏み、要素分解することで全体構造を明らかにしていきます。

<ステップ1>データの全体把握
データの全体像をつかみ傾向や分布を把握するためには、平均値や中央値などの指標を定め、データの代表値とばらつき方を比べる必要があります。そのときに見つかった異常値の原因を考察することで新たな事実を発見する手がかりにもなります。

<ステップ2>データの比較
データを比較する際には、時間・他社・計画・属性などの切り口で比べることがポイントです。そうすることで相対的に物事を判断しやすくなります。

<ステップ3>データの可視化
データの可視化とは、数値やデータだけでは理解しにくい現象や事象をグラフや図表などで表現することをいいます。これにより、データが理解しやすいものとなり、はじめて価値をもつデータへと進化します。

<ステップ4>データの関係性理解
データの関係性理解とは、仮説に基づきデータ同士の関係性を見つけ出すことをいいます。これはデータが変化する要因を考察することによって可能となります。関係性理解のためには、自社にある1次データのみでなく、2次データとをかけ合わせ考察することが大切です。

<ステップ5>予測
予測は、変数の関係性に基づき原因と結果の影響を分析する回帰分析などによって行います。ここでのポイントは説明変数、つまり検証する要素をなるべく少なくし、シンプルに分解することです。

ここからは、データ分析に役立つ具体的なツールと導入メリットをご紹介します。

・BIツール
社内の各システムに分散する大量のデータから必要な情報を収集・分析し、経営や業務に活用できるようにするもの

・RPAツール
人間がPCを用いて行う様々な定期作業を、ロボットで自動化することができるようになるものです。
人間に代わって業務を自動化してくれるため、より付加価値の高い業務へリソースを割けるようになり、また、連続稼働が可能なため、人の手よりも正確かつスムーズに作業を遂行できるようになります。

・CRMツール
顧客を管理し、有効な関係を築くためにマネジメントをしてくれるものです。
業務を効率化できるのはもちろんのこと、担当者がどのように顧客にアプローチすべきかなどを明確にしてくれるため、顧客満足度向上などのメリットがあります。

・MAツール
新規顧客獲得や見込み顧客の育成なども含めたマーケティング活動をサポートするツールでのことです。
施策の自動化・効率化や、見込み顧客情報を活用していくことができるという点が大きなメリットとなります。

・SFAツール
案件管理や顧客管理などを効率化・自動化することのできるツールです。
営業活動の可視化や標準化、効率化を行うことができるようになります。

分析結果を考察し、結論づけることで「知恵」に昇華させる

最後のフェーズでは、分析結果を踏まえ、最初に設定した目的や課題に対する結論や解決策を集約し、意思決定のためのアウトプットにまとめていきます。

ここでの1つ目のポイントは、解決策の読み手を具体的にイメージし、考えていること、求めていることを想像しながらアウトプットの構成や表現を決めることです。また、簡単な言葉や表現を使い、はじめて読む相手でも容易に理解できるように構成することが重要です。
2つ目のポイントはゴールを明確にし、アウトプットを作成することです。こうすることで相手が理解し納得した上で行動に移すことができます。
最後のポイントは、「結論→根拠→分析例→まとめ」の順にアウトプットの構造を組み立てることです。その際にも仮説の構築、具体化、検証のサイクルを回すことで、効率的に結論を導き出すことができるようになります。

これらの手順を踏むことにより、より読み手に伝わりやすいアウトプットを作成することが可能となり、スピーディで正確な意思決定に近づけることができるようになります。

日本企業におけるデータ利活用の課題

では、データ利活用を推進する上でどのようなことがネックになり得るでしょうか。

総務省の『データの流通環境等に関する消費者の意識に関する調査研究』によると、日本企業においてデータ利活用を推進するにあたっての課題は「データの収集・管理に関するコストの増大・不足」「ビジネスにおける収集等データの利活用方法の欠如、費用対効果が不明瞭」「データを取り扱う(処理・分析等)人材不足」の3つであるといえます。

日本企業におけるDXの取り組み

このようなことから、データ利活用にあたっては、「データ利活用による効果を明確にすること」「データを取り扱う組織体制の整備と人材育成」が必要であることがわかります。

データ利活用による効果の明確化

データ利活用による効果の明確化のためには、データ利活用の目的に即した効果が発揮されているかについて検証する必要があります。
そのためにはやはり、まずは「データを利活用する目的を明確化すること」が重要です。この目的が現場起点であるほど、成功体験を積み重ねやすくなり、自ずと効果実感を得ることができるようになります。ビジネスの現場における効果実感を高めることで、モチベーションも高まり、データ利活用に向けた勢いも増すことが期待されるでしょう。
「とりあえずデータを探す」「とりあえず分析してみる」から抜け出し、まずはデータ利活用の目的の明確にすることが重要です。
また目的が明確であれば、全体の工程やスケジュールが未確定であったとしてもスモールスタートでスピーディに取り組み始めることができます。小さくアジャイル型で進めるため、軌道修正も容易になり、仮説検証もしやすくなるでしょう。

データを取り扱う組織体制の整備と人材育成

DXやデータ利活用の推進のためにはベースとなる体制構築が重要です。そのためには、「経営トップの覚悟」と「DX専門組織の組成」が必要です。

1.経営トップ自身が「覚悟」をもって取り組む
まずはDX推進に向けた経営トップの意識改革が必要です。さらにデジタルの俊敏性を高めるうえでは経営の中枢にデジタルに強い人材が必要といえます。近年では、パナソニック コネクト株式会社が元日本マイクロソフトCTOを招請するなど、IT企業出身者を経営陣として据える例も出てきています。

2.企業全体のDXをデザインし、強力にリードできるDX専門組織の設立
CIOなどのDX戦略の立案機関やDX推進部門が存在せず、社内の各部門ごとにデジタル施策を独自で検討・推進していたり、社内のITサポートが不十分であると、企業全体のDXを構想し、推進加速は困難になります。
そのためにはITエンジニアをはじめとするデジタル人材の獲得などによりDX推進のための体制を整備することが必要となります。その際、DX推進部門が孤立し、自社の事業や実態に合わないDX構想を描かないようにするためには、企業の強みや特性をよく知る社員のITスキル向上が必須であり、そのためにはリスキリングなどの人的投資も重要となります。
"データの加工、分析等により新たな知見を導き出すデータ人材は、将来的に数十万人不足するとも言われており、データ人材の確保や育成、外部リソースの有効活用等を検討することが望まれる。"とも言われます。

このように、社内でのDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に当たり、データ利活用を実現するための人的投資に対応していくことは、今後さらに重要となってくると考えられます。
人的投資の対象となる人材の例は以下の通りです。

・CDO
デジタルおよびデータ利活用の方向性を定め、全社的に推進していく役割

・データエンジニア
データ収集・加工・活用するためのデータ基盤を開発・運用する役割

・データスチュワード
データマネジメント全般を担当する

・データアナリスト
データの分析を行い、問題解決プランを提案する

・データサイエンティスト
統計学やアルゴリズムを用いて、データ分析を行いAI研究・導入支援などを行う。

参考資料:経済産業省_データ利活用のポイント

CXの向上を目的とし、データドリブンな意思決定を実践するUSJの事例

最後にCXの向上を目的としてデータドリブンな意思決定を実践し、低迷期の入場者数比の約2倍を達成したユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、USJ)の事例を紹介します。

もともとUSJでは、テーマパークという事業特性上、顧客との接点はオフラインが中心でした。そのため、現場から直接的に得るデータは一部のゲストを対象としたサンプリング調査に基づくもののみであり、データドリブンとは程遠い判断手法やマーケテイング戦略を採用せざるを得ない状況でした。

そこでUSJでは「CXの向上」を目的として、顧客ひとりひとりの理解を深めるため、来園前は顧客IDを通じた顧客属性と行動予定に関するデータ、来園中は顧客ID連動型のパーク内行動データやショップ等のPOSデータ、来園後はリピート顧客の特性というように、それぞれの段階でデータ収集しました。
その上でオンラインチケットの導入やアプリ開発、GPS連動型の地磁気システムの導入など、これらのデータを収集するためのツール選定を行っています。
こうして収集されるデータと、もともと蓄積されていたオペレーションデータや流行情報などのマクロデータを基幹システムへ集約し、分析を行いました。

この収集、分析されたデータはアプリ等を通じたパーソナライズされた広告宣伝に活かすのみでなく、アトラクションやグッズ・フード、サービス開発に活かされています。

ここから、USJでのデータ利活用の成功要因は以下の3点があげられます。
1.目的を明確にし、目的を達成するための最小限のデータを特定したこと
2.その上でデータを得るためのツールを選定したこと
3.さらに収集したデータを一か所に集約し、可視化しやすい体制を構築したこと

CXの向上を目的とし、データドリブンな意思決定を実践するUSJの事例

DXにおけるデータ利活用とは、ビジネスにおける課題に対して「データを収集・分析し、その結果に基づいた意思決定を下すこと」をいいます。
このようなデータドリブンな意思決定をするためには、目的と仮説に基づいたデータ収集と比較に重点を置いたデータ分析、伝わりやすさを重視したアウトプットの作成により、「データ」を「情報」→「知識」→「知恵」へと昇華させることが重要です。さらそのデータ利活用を推進するためにはベースとなるDX部門設立等組織体制の構築も大切です。

「データを握ること」が競争力を高めることに繋がる時代です。貴社も一度、データドリブン経営を意識してはいかがでしょうか。

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AUTHOR著者
デジタルコンサルティング事業部
マネジメントDX チーフコンサルタント
末次 由佳

金融機関で法人・個人営業を経験し、当社へ入社。中長期ビジョン策定コンサルティングなど経営に関わる上流の支援から、経理・総務業務を中心としたバックオフィスの業務改善など、企業の成長ステージに合わせた最適なDXコンサルティングを提供している。

末次 由佳
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