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人事コラム
エンゲージメント

熱量ある組織づくりのためのエンゲージメント最大化

本コラムは、FCCフォーラム2023オリジナル講義テキストに掲載された内容です。

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エンゲージメントに関心が集まる背景

熱量ある組織づくりのためのエンゲージメント最大化

(1)組織と個人の並列的な関係
コロナ禍は人々の働き方に対する考え方を大きく変えるきっかけになった。働く時間や場所の自由度が増し、多様なキャリアパスが当たり前になるなどの変化に伴って、企業(組織)とそこに属する個人の関係性は転換期に差し掛かっている。

特にここ1年の間で、両者の関係性はより並列的で対等なものへと変わりつつある。実際、組織と個人が並列的な関係性の中でシナジー(相乗効果)を発揮し、独自性や創造性を何倍にも高めて成果を上げていく組織が注目されていることは、その証左といえよう。

全社員が当事者意識やリーダーシップを持ち、それぞれが組織やチームに最大限貢献していくことを「センス・オブ・オーナーシップ」(Sense of ownership)といい、これが機能した組織への関心が高まりつつある。

(2)組織と個人の関係性を指すエンゲージメント
組織と個人の関係性が並列的になると、社員が会社に対して持つ「愛着」や「熱量」、「信頼」といった要素が、会社組織と相互にどう作用し合うのか(=貢献しているのか)が着目される。個人と組織の関係性が「縦」ではなく、「横」のつながりで捉えられるようになり、その結果として、社員の持つ「愛着」や「熱量」、「信頼」を総称したエンゲージメントに関心が集まるようになったのである。

(3)人事におけるエンゲージメントとエンゲージメントサーベイ
そもそもエンゲージメントとは、婚約・約束・契約・誓約といった意味合いを持つ単語である。一方、人事の世界におけるエンゲージメントとは、「組織(企業)と個人(社員)のつながりの中で育まれる自発的な関係性」を指し、一般的には社員の持つ会社に対する愛着心や思い入れと説明される。

近年はこれを定点的に観測することで、企業の持続的成長を実現するための経営指標として用いるケースが増えている。エンゲージメントを短期的かつ継続的に計測していく調査ツールをエンゲージメントサーベイ(自発的に貢献する意欲調査)と呼び、昨今、社員満足度(ES:Employee Satisfaction)調査に追加、もしくは入れ替える形で導入する動きが顕著である。(【図表1】)

エンゲージメントサーベイと社員満足度(ES)の違い

(4)代表的なエンゲージメント
エンゲージメントは社員の仕事そのものに対する心理状態を表す「仕事エンゲージメント」と、会社や組織に対する心理状態を表す「組織エンゲージメント」の2つに分けることができる。(【図表2】)

仕事エンゲージメントと組織エンゲージメント

仕事エンゲージメントとは、仕事に関してどの程度充実した心理状態にあるのか、つまり活力や当事者意識、適職などを指す。この概念を提唱したユトレヒト大学(オランダ)のウィルマー・B・シャウフェリ教授は、仕事エンゲージメントを活力・熱意・没頭の3要素で構成されるものと説明している。仕事に対するエネルギーが湧いている状態や、やりがいを感じている状態などがこれに当たり、内発的に湧き上がるものであるといえるだろう。(【図表3】)

仕事エンゲージメントの3要素

組織エンゲージメントとは、企業と社員が互いに信頼し合い、貢献し合う関係性や愛着心を指す。代表的な組織エンゲージメントの構成要素は2つあり、心理的安全性やカルチャー(文化)などの比較的目に見えづらい要素と、報酬やシステムなどの目に見えやすい要素がある(【図表4】)。特に目に見えづらい要素をいかに数値化していくかが人事課題であり、人的資本経営においても重要なポイントとなる。


組織エンゲージメントの代表的な構成要素

TCGエンゲージメント

(1)TCGのエンゲージメントロジック

TCGでは単にエンゲージメントの向上に着目するだけでなく、「エンゲージメントの向上」と「会社の持続的成長」の相関関係を捉えることこそが本質的であると考えている。これを「TCGエンゲージメント」として、【図表5】のようなエンゲージメントロジック(方程式)を構築した。

TCGエンゲージメントでは、直接的にエンゲージメントを測る3つの指標に加えて、業績(成果や結果)との相関関係を導くパフォーマンス(成果)指標を設けている。それぞれの指標の詳細は次の通りである。


TCG エンゲージメントロジック

①カルチャー(愛着)
エンゲージメントの源泉となる「意識的・継続的に全社員で育まれた価値観や文化」がどのように作用しているかを見る指標。理念やミッションに対する共感、顧客や会社に対する価値提供への意欲などがこれに当たる。

②仕事エンゲージメント(熱量)
「仕事と社員との関係性」を指し、働きがい(やりがい)を表す指標。モチベーション、レジリエンス(精神的回復力)、ウェルネス(身体的・精神的健康)などがこれに当たる。

③組織エンゲージメント(信頼)
「組織と社員との関係性」を指し、働きやすさを見る指標。心理的安全性、人事諸制度の充実度、金銭的・非金銭的な報酬などがこれに当たる。

④パフォーマンス(成果)
経営活動に対する成績(成果)を指し、持続的成長を実現していく上で必要不可欠となる数値基準を見る指標。全社KPIや、人事KPIがこれに当たる。

(2)Engagement KARTE(エンゲージメントカルテ・エンゲージメントサーベイ)
TCGでは、上記のエンゲージメントロジックをベースとした「Engagement KARTE(エンゲージメントカルテ・エンゲージメントサーベイ)」を新たに開発した(【図表6】)。人材投資効果を可視化し、課題の改善傾向を評価できる仕様となっている(【図表7】)。このサーベイは四半期を目安とした比較的短いスパンでの実施を推奨しており、定期的に組織状態を把握し改善を繰り返すことで、人的資本経営の実践に活用いただけるだろう。


【図表6】Engagement KARTE(エンゲージメントカルテ・エンゲージメントサーベイ)の体系図

Engagement KARTE(エンゲージメントカルテ・エンゲージメントサーベイ)の体系図


【図表7】Engagement KARTE(エンゲージメントカルテ・エンゲージメントサーベイ)のレポート見本

Engagement KARTE(エンゲージメントカルテ・エンゲージメントサーベイ)のレポート見本

エンゲージメント向上施策

では、自社のエンゲージメントを向上させるためにはどうすればよいのか。TCGが推奨する施策について、ポイントを絞って紹介する。

(1)カルチャーへのアプローチ
コンサルティングの現場ではクライアントの経営者や人事責任者から、「うちの会社は風土がよくない」という話を聞くことが多い。ここで押さえておきたいのは、風土は何もせずに勝手に育まれていくものではないということである。風土の土台には組織カルチャー(文化)があり、それを自分たち自身で育んだ結果として風土が形成されるのである。このカルチャーを変えることで、エンゲージメントを向上させることができる。そのためにはまず大前提として、風土とカルチャーの違いを整理しておきたい。(【図表8】)

カルチャーと風土の違い

風土とは無自覚に浸透している空気感のようなもので、結果的に自然と形作られているものである。当然、強制力は弱い。それに対しカルチャーとは、経営理念やパーパスなどの上位概念に対する理解を基に、全社員で意識的かつ継続的に育んでいく価値観であり、強制力は強い。この違いを踏まえて、自社のカルチャーにアプローチすることが重要である。次に、具体的な施策について紹介していく。

①パーパスへのコミット
パーパスを再定義することは、カルチャーを変える手段の一つである。創業の精神を表した経営理念は、組織の原点として時代が変わっても引き継いでいくものである。一方、パーパスは時代認識によって変えていくべき自社の貢献価値を表したものであり、「自社はどのような価値で社会に貢献するのか」を問い直すことにより新たなカルチャーを創ることができる。

タナベコンサルティングでも2022年に同様の取り組みを行った。経営コンサルティングファームとしての自社の使命を問い直し、あらためて言語化する全社員参加型のワークショップを実施。その結果を基に新たなパーパスを策定することで、カルチャーの醸成に取り組んでいる。

②カルチャーのアップデート
定期的にカルチャーをアップデートする仕組みを作っておくことも有効な手段である。大阪に本社を置くA社は、年度方針やスローガンと合わせて毎年新たなカルチャーを発表している。「20XX年度カルチャー」として自分たちが大切にする価値観(指針)を毎年少しずつアップデートしており、この積み重ねの結果としてよい風土を形成し続けている。

③コレクティブウェルビーイング
心理的安全性やDE&I(Diversity,Equity and Inclusion)、ウェルビーイング(精神的・肉体的・社会的に満たされた状態)が当然の概念として社会に根付く中、さらに発展した概念として「集合的(コレクティブ)ウェルビーイング」を考える重要性についても共有しておきたい。企業文化や組織開発に特化した研究機関である楽天ピープル&カルチャー研究所は、コレクティブウェルビーイングを「ある目的のもとに、ありたい姿を持つ多様な個人がつながりあった持続可能なチームの状態」と定義している。一個人のウェルビーイングを考えることが重要だといわれた時代から、チームが互いに配慮・尊敬し合いながらウェルビーイングと向き合う時代に突入しているのである。(【図表9】)

ウェルビーイングと集合的ウェルビーイングの違い

そんなコレクティブウェルビーイングが自社で機能しているかどうかを考える際、【図表10】に示す4つの問い掛けが参考になるだろう。これらを追求することでカルチャーが変わり、エンゲージメントの向上が期待できる。

集合的ウェルビーイングへの問い掛け


(2)仕事エンゲージメントへのアプローチ

続いて、特に仕事エンゲージメントを重点的に向上させる施策についてご紹介したい。

①エンパワーメント
社員それぞれが本来持っている力を発揮し、自らの意思で自発的に行動できるようサポートすることで、仕事エンゲージメントを高めることができる。これをエンパワーメントという。

エンパワーメントを端的に表現すると「自律人材開発」の意味を持ち、主に「能力開花」とそれを後押しする「権限委譲」から成り立つ。能力開花においては社員本人が明確に「できる」と自信を持てる環境づくりや動機付けが重要であり、タレントマネジメントもその一つである。

権限委譲は文字通り、権限を付与し、自分の力で成し遂げることができる環境をつくって自信を持たせることがポイントとなる。

②ジョブクラフティング
ジョブクラフティングとは「仕事に対する認知行動改革」を指し、社員一人一人が「何のために今の仕事と向き合っているのか」といった本質的な動機を再確認していくマインドセット(意識醸成)手法のことである。ジョブクラフティングによって社員の"今"の仕事を再確認し、その上で3年後・5年後のキャリアをデザインしていくことが、特に仕事エンゲージメントの向上には有効である。(【図表11】)

ジョブクラフティングとキャリアデザイン


(3)組織エンゲージメントへのアプローチ

最後に、組織エンゲージメントを向上させる代表的な施策について紹介したい。

①トータルリワード
トータルリワードとは、金銭的報酬(月給・賞与など)だけでなく、仕事のやりがいや福利厚生、職場環境といった非金銭的報酬までを含めて社員のモチベーションを高める仕組みである。当たり前だが、金銭的報酬を無限に払うことはできない。

だが非金銭的報酬は、知恵と工夫次第でいかようにも設定することができる。

例えば、サービス業を営むB社には、「プロポーズ休暇」という休暇が存在する。土日を含めたシフト制の勤務体系のため、パートナーとうまく休みを合わせられないという社員の声が発端となってスタートした施策である。

パートナーにプロポーズする日は休暇を取ることができ、万が一断られてしまった場合は翌日も休んでよい。この制度を通じて社員は、休暇というリワード(報酬)を得られるのと同時に、「自分たちの会社はこういった思いを大切にしてくれている」という心理的なリワードを得ることもできる。

大切なことは、トータルリワードをただ導入するのではなく、組織としての発達段階を踏まえて、エンゲージメント向上につながる施策を導入することだ。【図表12】は、TCGのクライアントが実際に導入しているトータルリワードの例である。自社に適したトータルリワードを検討する際の参考にしていただきたい。

トータルリワードの例

②マネジメントスタイル変革
マネジメントスタイルを古典的な「管理型」から、「成長支援型」へ変えることも重要だ(【図表13】)。管理型のマネジメントが決して悪いわけではなく、それが必要なタイミングもある。ただ、企業を取り巻く環境が大きく変化し続ける状況では、成長支援型のマネジメントを組み合わせていくことが組織エンゲージメントの向上に効果的である。

管理型マネジメント・成長支援型マネジメント

ここまで述べてきたエンゲージメント向上施策の中でも、マネジメントスタイルの変革は最も基礎的な取り組みだ。これまでの成功体験にしがみつくことなく、未来を見据えて自らのマネジメントスタイルそのものをアップデートしながら、各施策と向き合っていただきたい。

この課題を解決したコンサルタント

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