人事コラム
人的資本経営

企業価値を高める人的資本経営

人的資本情報開示のガイドラインを企業に取り入れる

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なぜ、今「人的資本経営」が問われるのか?

なぜ、今「人的資本経営」が問われるのか?

代表的な欧米諸国および我が国において、以下の動きが挙げられます。

(1)アメリカの動向
①全上場企業に人的資本開示の義務化(2020年11月)
②ISO30414準拠の新しい法案が上院にて審議中
(2)ヨーロッパの動向
①人的資本開示の義務化、第三者監査義務化、対象企業の拡大
②NFRD(非財務情報開示指令)からCSRD(企業サステナビリティ報告指令)へ2023年初から適用開始予定
(3)日本の動向
①コーポレートガバナンス・コード改訂。新規原則の追加(2021年6月)
②新しい資本主義(2022年中に人的資本開示のルール化)

上記のように、世界の潮流として環境分野から人的資本(人材)領域へフレームワーク等の整備要請が進んでいます。

ISO30414の概要を知り、ガイドラインを企業に取り入れる

大前提として、ISO規格には、工業規格、マネジメントシステム規格、ガイダンス規格があり、ISO30414は、ガイダンス規格にあたります(図表1参照)。ガイダンス規格は、推奨事項の集合体であり、定められた規格の実行に強制力はありません。つまり、改善・向上のための手引書という位置づけです。

【図表1:ISO規格の分類と主な規格】


人的資本の開示(見える化)の参考としてISO30414を活かす人的資本情報の開示は、世の中の流れとして抗えないですが、必ずしもISO30414の認証を受ける必要はないと筆者は考えます。つまり、ISO30414の「11領域58項目」を読み取り、各社において、情報整理ができる項目を選択し、将来的に社内外に共有できる指標の参考とすること自体が各社のブランディングや経営の質的向上に寄与するからです。

今まで以上に人的資本の開示機運が高まることで、日本国内においても大企業や上場企業を中心にISO30414の認証が広がることが考えられます。
その波は、やがて中堅・中小企業へも押し寄せ、情報開示の強制力を持つかもしれません。したがって、今のうちから「11領域58項目」に意識を向けておく、さらに準備を始めることは決して無意味ではありません。参考までに、図表2にISO30414の開示項目を示します。

【図表2:ISO30414の人的資本開示「11領域58項目」】


ご覧のように、11領域58項目は多岐にわたります。
各社の置かれた状況に応じて、現状と親和性の高い項目を選択の上、数値化していくことからはじめてはいかがでしょうか?

人事KPIとISO30414の開示項目との関係

筆者がコンサルティングの現場で実際に指標化することのある人事KPI(人的資本KPI)を紹介します。ISO30414が姿を表す前から設計していたため、一部読み替えて解釈する必要があるものの、経営戦略を実現していくためには、いずれも重要な指標であると考えます。
図表3に示す区分とISO30414の11領域との関係は、採用関連は「採用・異動・離職」及び「コスト」、人材育成及び幹部育成は「スキルと能力」、人材活用は「多様性」、労働生産性は「生産性」、組織運営は「コスト」及び「組織風土(企業文化)」など概ね対応することができます。

【図表3:人事KPI(人的資本KPI)の事例】

人事KPIと設定の留意点

採用に関するKPI
採用業務を行っている採用担当者が陥りがちなのが、月間の応募数、採用人数を追うことに注力しすぎるあまり、入社後のミスマッチを引き起こすケースです。本来の採用は、入社後に現場で成長・活躍する目的がありますが、採用をゴールとせず、適応・活躍・定着へとつなげることが重要です。
人材育成に関するKPI
人材育成は企業の将来を左右する重要な人事機能ですが、その効果を客観的に計りにくいことなどから、研修などを行なうことが目的やゴールになってしまうケースがあります。単に人材育成の実施状況を把握するのではなく、育成プロセスを掘り下げて測ることが重要です。
労働生産性に関するKPI
労働生産性とは、社員1人当たりの成果(売上高)を示しますが、その社員には総務や経理などの間接部門の人員も含まれます。労働生産性を評価するには、自社の生産量とコストを数値化するとともに、同業他社との比較などから問題点をあぶり出すことが必要です。直間比率においては真の直間比率を算出すべく、直接人員が抱える間接業務まで数値化し、コントロールする場合もあります。
組織運営に関するKPI
組織のコンディションが良いのか、悪いのかを客観的に評価するのは難しく、組織ごとの勤務環境をKPIにしている企業もあります。残業時間数や有給休暇の消化率が標準モデルより異常に多い場合は、その部署内で人材のミスマッチが生じている可能性を考える必要があります。エンゲージメントスコアなどのアセスメントを用いて、定量化される数値を活用して様々な現象や問題の真因を探る取り組みをしている企業もあります。

このように、人事KPIは定量化することを通じて、経営情報としてダッシュボード管理に活かすことで、意思決定のスピード化に資することになります。

【参考】コーポレートガバナンス・コードの改訂

改訂されたコーポレートガバナンス・コードにおける人的資本情報に関する記載事項も押さえておく必要があります。

1
企業の中核人材における多様性の確保に向けて、管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標を設定すべき
2
中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべき
3
サステナビリティを巡る課題への取組として、人的資本等への投資等について、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべき

これらは、上場企業においてはすでに縛られる項目となっていますが、中堅・中小企業においても将来を見据えて準備すべき事項としてとらえていただきたい。

最後に

これまで述べてきたことは、海外や国内の上場企業等ですでに動き出している流れの一部であり、すべてではありません。ぜひ、この機会にHR領域における大切な取り組みの方向性として、人的資本開示という潮流を前向きにとらえ、意思決定の高度化・迅速化など企業経営そのものに活かしていたければ幸いです。

この課題を解決したコンサルタント

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