人事コラム
パーパス経営

パーパス経営の理解と人事施策への展開

古き良き日本的経営に学ぶ「新しい経営スタイル」

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パーパス経営は日本的経営との親和性が非常に高い。
グローバルスタンダードに惑わされることなく
自社の哲学を確立しよう!

急速に市民権を得た「パーパス経営」

急速に市民権を得た「パーパス経営」

近年、企業経営に関するキーワードとして、「パーパス経営」という言葉をよく耳にするようになった。要は「自社の社会における存在意義(パーパス)を明確に定義」し、「この存在意義の実現を軸とした取り組みを行う」経営スタイルのことだ。しかし、この説明を聞いて「なるほど」と膝を打つ人が何人いるだろうか?正直「経営理念やミッションと何が違うのか?」との感想を抱いた人が大半ではないだろうか?お恥ずかしながら、筆者もその一人で、「カレーライスをライスカレーと言い換えた流行り言葉」くらいの認識しかなかったのが現実だ。しかし、この新しい概念は急速な広がりを見せ、新たな経営スタイルとしての地位を築くこととなった。自らの反省も踏まえて、パーパス経営についての理解を深めたいと思う。

「パーパス経営」の歴史

「パーパス経営」の歴史

パーパス経営の歴史は比較的浅く、一般的に伝聞されている始まりは2018年、世界最大の資産運用会社であるブラックロック社CEOのラリー・フィンク会長兼CEOが、投資先企業の経営者に送付した書簡で述べたものと伝えられる。そこには「これからの企業は優れた業績のみならず、社会に対してどのように貢献できるかを、パーパス主導で示さなければ長期的な成長を継続することはできない。自社の顧客や従業員など全てのステークホルダーにとって価値あるパーパスを示すことで、企業は競争力を強化でき、それは同時に株主には長期的な利益を提供することになる」と示唆されたとのこと。
時を同じくしてESGやSDG'sも世界的な広がりを見せ、企業はその社会的存在価値と貢献を強く求められることとなった。もはや環境や社会に悪影響を与える企業は、一般の商取引や投資対象から除外される懸念が現実のものとなり、また労働市場においても優秀な人材の採用が困難となる状況に至り、こうした外的要因に呼応するかたちでパーパス経営は一気に浸透したといえる。しかし「外圧」としてこれを捉え、ましてやリスクマネジメントの一つとして認識し対応するのであれば、その取り組みは本質からかけ離れた「パーパス・ウォッシュ(取り組んでいるふりをしているだけ)」となり、企業の持続的成長に寄与するものとはならないだろう。なぜならば、企業という存在そのもののが、従来と大きく変貌してきているからである。

希薄化する「企業という器」

希薄化する「企業という器」

パーパス経営が求められる要因を紐解くに、近年、企業と経営資源の関係が変化してきたことが挙げられるだろう。「ヒト、モノ、カネ、情報」と呼ばれる経営資源が、企業を形作る代表的な要素といえるが、それぞれの経営資源と企業との関係が急速に希薄化しているのである。最も代表的な「ヒト」という経営資源で言えば、終身雇用の終焉、リモートワークの浸透、兼業・副業、ジョブ型人事制度など、今後もこうした多様な働き方が浸透することは必然であり、放っておくと企業と個人との関係はその遠心力により形を保てなくなるだろう。特に日本企業では、終身雇用などの制度で醸成された高いロイヤルティをベースに、企業と個人が強固な関係性で結ばれ、高い現場力を発揮することが競争の源泉となっていたから大変である。こうした時代は終焉を迎え、優秀な人材ほど流動化することが必然となった今では、人をつなぎ留め組織を維持するために、従来とは異なる結び付きが必要となってきたのだ。

また、その他の経営資源である「モノ、カネ、情報」についても、同様のことが言える。企業間の幅広いアライアンスが一般化した現在、製造や販売に必要な資産を、必要な時に必要なだけ調達することが可能となっており、経営資源を自ら所有しなくても、必要な時に集めるという選択肢も採れるようになったのだ。

つまり今後より一層、企業を形作る要素が流動化することが予想されるのである。さながら「企業という器が希薄化する」様に・・・。こうした希薄化する器を何とか維持し、自らのアイデンティティーを保つために必要となるものが「パーパス」に他ならない。

また、経営理念やビジョンが主として市場や顧客への働きかけを示すものに対して、パーパスは「何のために我々は集まるのか。我々はどんな考え方をするのか」という、内発的な動機を示すことが多い。哲学や信条に近いものであり、こうした「志(こころざし)」を旗印として、ヒトやモノやカネが集まってはじめて、「企業」として形成されるという訳である。

「日本的経営」に再び光をあてよう!

「日本的経営」に再び光をあてよう!

パーパスとは思想であり哲学である。企業経営にこうした思想を取り入れることは、伝統的な日本的経営と親和性が非常に高い。儒教的思想や八百万の神に対する畏怖、これらの思想を背景とした日本的経営は、顧客を大切にして公器としての役割を果たし、質素倹約に努め、長期的視野で物事を判断するという、ジャパンスタンダードを古くから有している。近江商人の家訓として知られる「売り手良し、買い手良し、世間良し」の「三方良し」や、江戸時代の思想家、石田梅岩による「二重の利を取り、甘き毒を喰ひ、自死するやうなこと多かるべし」、「実の商人は、先も立、我も立つことを思うなり」など、商人の判断基準を説いた言葉が多く伝えられているのは、周知のとおりである。

これらはまさに、企業の社会的存在意義を重視する「パーパス経営」そのものではないだろうか。グローバルスタンダードを輸入するまでもなく、はるか昔から日本の商人はパーパス経営を実践していたわけである。

今こそ、こうした日本的経営や自社の強みを見直したい。そこには世界に通用する素晴らしい競争の源泉が存在しているはずだ。企業規模に関わらずこうした文化的風土に基づく競争優位は必ず存在している。日本的価値観を大切にしながらこれに縛られることなく、世界的視野と柔らかな発想で自らを見直してはどうか。必ず自社ならではの素晴らしい価値を発見できるはずだ。そしてその強みを新たな市場にぶつけてみよう。多くの日本企業はもっと世界の中で輝けると信じている。

人事施策への展開

最後に、パーパス経営を軸とした人事施策への展開を考えてみたい。紙面の都合から詳細に述べることは出来ないが、パーパスの構築と浸透については、奇をてらった手法を講じる必要はないだろう。従来からビジョンやクレドの構築・浸透に活用している手法、フレームワークを使うことで十分に事足りるはずだ。

(1)パーパスの構築(言語化)

①社内を巻き込んだPJによる構築
これはよく行われる手段である。自社の成長過程から、大切にしてきたものの考え方や行動基準を洗い出し、今後の社会と経営環境を見据えたうえで、自社の存在意義を定義していく。幹部メンバーだけでなく、階層や職種横断型で幅広くメンバーを募り、意見集約することがポイント。こうしたチームの作り方をタナベ経営では「組織をナナメに切る」と呼んでいる。

②経営者による構築
上記に対し、経営者の思いを集約することでパーパスを定義づける。同様に成長過程などから重要なポイントを確認しながら、経営者自ら存在意義をまとめていく。これは経営サイドの強い思いが反映しやすい一方、パーパスが社員に対する押し付けになる懸念があることから、浸透には手間をかける必要がある。

(2)パーパスの浸透

①パーパスディスカッションの開催
パーパスを日常業務に落とし込むために、具体的に何をどの様にすべきかをディスカッションする。パーパスの意義を再確認したうえで、顧客、サプライヤー、上司、同僚、部下などの切り口を設定し、日常業務で取るべき行動を具体的にディスカッションする。

②人事評価制度への展開
定性評価にパーパスを軸とした評価を加える。上記のディスカッションなどから導き出されたあるべき行動(コンピテンシー)を設定し、こうした行動がとれているか人事評価で確認する。パーパスは哲学的なものなので、評価となじまないという側面もあるが、組織の成熟度が低い(ものの考え方が幼稚、未成熟)状態であれば、人事評価の軸とすることにより、半ば強制的に意識させることも必要であろう。
組織の成熟度が高ければ、1on1ミーティング等で常にパーパスを確認できれば、社員は自律的に行動に落とし込むであろう。

代表的な取り組みを記載したが、パーパスの実践については「頻繁なコミュニケーション」がポイントとなる。日常からパーパスに触れる機会を意図的に作り、これに基づいた意思決定ができているか、行動ができているかを、常に考えることが重要なのである。
そして何より重要なことは「トップの行動」である。いくら美辞麗句を並べた立派なパーパスをつくっても、経営トップの言行が一致していなければ、社員はしらけるばかりである。トップの本気度が何よりも重要であることを肝に銘じなければならない。

以上のようにパーパス経営は、グローバルスタンダードが日本的経営に追いついたと言っても過言ではなく、元来こうした素地がある日本企業にとってチャンスである。これを機に自らのパーパスを定義し、新たな自社の形をデザインしてはどうか。大きな変化はもう始まっているのである。

この課題を解決したコンサルタント

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タナベコンサルティンググループは「日本には企業を救う仕事が必要だ」という志を掲げた1957年の創業以来
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