人事コラム
人材育成

人材育成を成功させるための3つの大切なこと

~企業内における人材育成を成果へ結実させる効果的な手法とは~

SCROLL

人材育成の重要ポイントは"なにをやるか"ではなく、
"どのようにやるか"である。

人材育成が進まない背景

人的資本経営が人事におけるトレンドとして注目される中、企業における人材育成の必要性はより重要な意味合いを持つようになってきた。筆者も日頃から様々な業種・業態・企業規模のクライアントのご支援に携わっているが、疎かにしている企業は一つもないと肌身で実感している。ただ、人材育成は効果が得られにくい経営施策の一つとして、多くの企業が頭を悩ましてきた。その結果、人材育成を実施する必要性は頭でわかっていても、投資対効果として目に見えた効果が得られづらく、継続的に実施し続けている企業が少ないことも事実である。そこで今回、長年多くの企業の人材育成に関わってきたタナベコンサルティングとして、大きく3つの観点から、人材育成を成功に導くためのポイントや特徴、違いについて触れていく。

人材育成の成功ポイント① ~研修は当日以前から始まっている~

人材育成の成功ポイント①
~研修は当日以前から始まっている~

研修を行っていく上で、いつ・だれが・どのような研修を受けるのか、これをしっかりと設計していくことは非常に重要である。往々にして「そろそろ幹部候補だから」や「このスキルがトレンドだから」といった形で研修を組んでしまい、中長期的に見ると必要なタイミングで必要な人材が育っていないことが起きがちである。そうならないためにも、体系立った研修計画を立てることは重要である。
しかし、効果的な研修を行っていく上ではこれだけだと物足りない。研修の効果が最大限表れている状態とは「学んだことが仕事で活かされ、成果に繋がっている状態」であるならば、研修当日のみの設計であると、研修を生かすも殺すも本人次第となってしまう。この状態を全体からサポートするために研修の事前・事後の2つの観点を押さえていただきたい。

一つ目、研修の事前として「受講者へ研修を受ける意味を自分事として理解させ、研修に対するモチベーションを高める」ことである。
よくある受講者のマインドとして「研修だから来ました」といったフラットな心理状態もあれば、「営業の時間削ってるんですが」といったネガティブな心理状態もある。前者はまだしも、後者はよほど当日の研修内容が良いものでない限りは、研修を受けただけで終わってしまうであろう。この状態から「自分のために研修を受けに来ました」という状態にするためには、事前のマインドセットが重要となってくる。例えば、研修内容の事前アナウンスはもちろん、自身の課題を整理できるような事前課題を課すことや自身のキャリアを描いておくことなどを通して、研修受講を自分事化させるのである。

二つ目、研修の事後として「受講者の知識や学びを定着させ、実行に移すサポートをする」ことである。
これは現場、特に上司のサポートが必要不可欠となる。よくタナベコンサルティングでは、「研修の場を無菌室にしない」と言うが、現場と研修の場を切り離して考えないことが大切である。そのためにも上司を巻き込み、事後のサポートを設計する。具体的には、研修内容は上司へ事前に共有しておく、研修後は上司へ報告させる、受講内容を活かすために上司と面談し日常に落とし込むなどである。こうすることにより、学びの定着・実行が成される状態を作り出すことができ、研修の効果を最大化させることが可能となる。これを本人一人の力でやり切ろうと思うと、本人の力量が相当高くなければならず、そもそも再現性に乏しいため、やはり上司を巻き込むことは不可欠である。
このように、研修の効果をより高めるための一つのポイントとして、研修の事前・事後の設計を行っていく方法が挙げられる。この設計を体系立てられた教育計画すべてに当てはめることにより、インプットとアウトプットのサイクルをキャリア全体で落とし込むことができる。タナベコンサルティングでは、これを「サイクルメソッド」と呼んでいる。

人材育成の成功ポイント②~関わる3つの視点から支援する~

人材育成の成功ポイント②
~関わる3つの視点から支援する~

先ほどは"時間軸"で説明をしたが、続いては"人軸"で説明をしていきたい。人材育成には3人の関係者がいる。それは受講者と研修講師(社内外問わず)と上司である。先述したように研修は当日のみではなく、事前事後の設計が重要であると説明をしたが、これを人軸に置き換えると当日は受講者と研修講師、事前事後は受講者と上司、上司と研修講師の関わり合いとなるのである。具体的にどのような接点を持つのか、それぞれの視点から説明をしていきたい。
まずは受講者と研修講師から見ていく。時間軸は事前と当日である。当日は研修の場となるため、割愛させていただく。事前の時間軸としては、受講生の課題感や研修テーマに対する学びたい内容を研修講師は把握しておくことが必要である。こうすることで研修内容のターゲティングができ、よりレベルを合わせた内容を提供することができる。
つづいて、受講者と上司である。時間軸は事前と事後である。これは先述している通りであり、事前の時間軸では、研修を受講することの意味・目的をはっきりさせ、また事後の時間軸では、インプットした内容を現場に活かすためのフォロー指導を行う。こうすることで、受講者は学びを自分事として落とし込むことができ、学びの定着・実行へと移行することが可能となる。
最後に、上司と研修講師である。時間軸は事前と事後である。事前の時間軸では、上司が捉えている受講者本人に関する課題点や期待することを研修講師はしっかりと把握することで、受講者本人が研修から得ようとしていることとの乖離がないかを掴むことができる。また、事後の時間軸では、研修内容を上司へ報告・共有することにより、研修内では解消しきれなかった課題や新たに見えてきた啓発テーマをしっかりとフォローしてもらう体制づくりを形成することができる。
このように、時間軸と合わせて、人軸でも受講支援の体制を作り上げることができれば、より研修の効果を高めることができる。ここまで来ると、当日だけの、かつ受講者と研修講師だけの関係で進めていた研修がいかに効果を損ねていたかがお分かりのことと思う。逆を言えば、このような体制を組むことができれば、自ずと研修効果を高めることに直結するのである。タナベコンサルティングでは、これを「三位一体の支援体制」と呼んでいる。

人材育成の成功ポイント③~学ぶ風土づくりを形成する~

人材育成の成功ポイント③
~学ぶ風土づくりを形成する~

最後に、人材育成を組織として最適に行っていくための手法について触れていく。人材育成を行っていくために、教育制度の構築・運用のそのもう一歩先である"学ぶ風土"づくりに着手いただきたいのである。"学ぶ風土"とはOJT(On Job The Training)やOFF-JT(OFF-Job The Training)、SD(Self Development)に関わらず、全社員が意欲的に学ぶ姿勢を育み、行動に移していくことを促す空気づくりのことである。
ここで一点補足として、"学ぶ"という言葉にも重要な意味を込めている。昨今の人材開発のトレンドでは、講師⇒受講者という一方向である「教える(=Education)」ではなく、講師⇔受講者という双方向な「学ぶ(=Learning)」が重視されている。前者はどうしても受動的な「教えてもらう」という姿勢が根底にあり、本人の学ぶことに対する意欲が喚起されづらい状態にあった。一方、後者は能動的な「学ぶ」という姿勢を問うことができ、学ぶことの目的を認識させ、意欲を高めることができるのである。
さて、話を戻して、前段での話を踏まえると、研修を計画し実行していくことは素より、学ぶ風土づくりは時間が掛かるものである。ただ、タナベコンサルティングでは、「企業内大学(アカデミー)」というソリューションを提供することによりクライアントとともに学ぶ風土づくりを行っている。「企業内大学(アカデミー)」はただの教育制度ではなく、ポイントは社内講師を立て、「教え・学び合う風土づくり」をしていくことにある。教える側はそのテーマにおける社内の第一人者であり、講師をできることを誉れと感じることができる。一方、学ぶ側は社内の見知った人が教えてくれる、または知らない人でもその人脈を作ることができ、能動的に学ぶ(聞く相手がわかる)状態を作り出すことができる。また、学ぶ内容は実務に即した内容となっており、学ぶ意欲を高めることにも繋げられるのである。こうした双方のメリットを生み出すことで「学ぶ」ということを日常に溶け込ませることができると、自然と「学ぶ風土」が形成されていくのだ。時間はかかるかもしれないが、学ぶ風土づくりを目標に取り組みをしていただきたい。

人材育成の重要ポイントは

人材育成の重要ポイントは"なにをやるか"ではなく、"どのようにやるか"である。

再度、冒頭でお示ししたことの繰り返しになるが、人材育成の重要ポイントは"なにをやるか"ではなく、"どのようにやるか"である。ここまでの内容をお読みいただいた方であれば、もうご理解はされているかと思うが、本稿では一切研修内容については触れていないのである。
皆様は「カークパトリックの4段階評価法」をご存知だろうか。人材育成の効果測定について表された研究結果として広く認知された考え方であるが、「反応⇒学習⇒行動⇒成果」という4段階で効果測定をすることが指している。例えば、「反応」とはアンケート結果により研修内容をポジティブに捉えているか、ネガティブに捉えているかを測るものである。「学習」とは確認テストなどで理解度を測るものである。ここまでは研修を行う場合、よくセットで用いられるものである。筆者が重要だと考えているのは「行動」である。その前に「成果」について触れておくと、これは業績などに表れているかを測るものであるが、業績の向上に対し教育というのは一要素に過ぎず、効果測定をするには複数要素が絡まり合っており、あまり適したものでないと考えている。そのため「行動」、つまり受講前後における行動変容が見て取れるかを測ることが、まずは研修の効果測定として目標にしたい指標である。そこで本稿の内容を振り返っていただくと、この行動変容に着目をした設計や支援体制となっていることがお分かりいただけるだろう。学びを定着させ、実行に移していくこと、これが何よりも重要であり、これがしっかりと運用されていれば、学ぶことが日常の一環となり、社員一人一人の行動変容を起こすことに繋がるのである。
以上、多くのクライアントの人材育成のご支援に携わってきたタナベコンサルティングが提唱する人材育成を効果的に行う手法である。ただ、一朝一夕で効果が得られるわけではなく、ひたむきに取り組みを止めないことが何よりも重要である。ぜひ、各社におかれても、行動変容を促せるよう、人材育成と向き合ってはいかがだろうか。そのために本稿が何かの一助となれば幸いである。

この課題を解決したコンサルタント

ABOUT TANABE CONSULTINGタナベコンサルティンググループとは

タナベコンサルティンググループは「日本には企業を救う仕事が必要だ」という志を掲げた1957年の創業以来
66年間で大企業から中堅企業まで約200業種、17,000社以上に経営コンサルティングを実施してまいりました。
企業を救い、元気にする。私たちが皆さまに提供する価値と貫き通す流儀をお伝えします。

コンサルティング実績

  • 創業 66
  • 200 業種
  • 17,000 社以上