人事課題解決ノウハウ

製造業における人事制度改定の課題

製造業における5つの人事制度課題である、①年功型賃金・終身雇用制度、②技術伝承の遅れや他社への流出、③残業問題、④職務広範囲、⑤目標・成果の設定に関して、人事制度改革のポイントを公開します。

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製造業における人事制度改定の課題のはじめに

はじめに

人事制度改定の問い合わせは昨年に引き続き増加しているテーマである。
全業種に言えることだが、タナベコンサルティングが人事制度改定のお手伝いをする際、まず、何が課題なのか。どういう不具合が生じているのかを正しく現状認識をして押さえていく。
わが社としてどういう人材を求め、どう育成していきたいのかである。
会社の理念や風土、中期ビジョン、経営方針、採用育成方針等を踏まえあるべき姿を検討する。
そのあるべき姿と現状のギャップを課題として捉えることからスタートする。

年功型賃金・終身雇用制度

製造業の人事制度課題
その1:年功型賃金・終身雇用制度

製造業の人事制度構築における課題で多いのは何か。
昨今のトレンドから大きくまとめると以下の5点に集約される。

1点目が年功型賃金、終身雇用制度である。
年功型賃金は賃金プロット図を作成すると年齢に比例して給与が右肩あがりになるのが特徴である。
終身雇用制度は年功型賃金とセットで運用されることが多く、定年まで雇用することが前提となっている。
給与が高騰しやすいデメリットはあるものの、雇用が安定しやすいなどのメリットもある。

製造業においては、意図して年齢給や年功給を残す企業も多い。
特に技術の習得に時間を要する製造業の場合、年数の経過=技術の向上と捉え、処遇と連動させるケースは多い。
また、長く安心して働いてほしい、最低限の昇給は保障したいなどの要素を含める企業も多い。

筆者が愛知県(名古屋市)でお手伝いしているA社では、高卒で工場職勤務の場合、30歳までは年齢給として保障している。
その後は、技術レベルに応じて、昇格(等級を上げる)ことで処遇が変動する仕組みを取っている。
見方を変えれば、昇格しなければ賃金は上がらない構造なのである。

技術伝承の遅れや他社への流出

製造業の人事制度課題
その2:技術伝承の遅れや他社への流出

2点目が技術伝承の遅れや他社への流出である。
日本の製造業は世界と比較しても高い技術力・品質を所持していたが、技術伝承がうまくいかず、技術力の低下が起こった。
また技術伝承の遅れにより、下が育っていないため、技術に長けた高齢者(65歳以上)を継続雇用しているケースも多い。

団塊の世代の大量退職があり、熟練した技能やノウハウが受け継がれなかったことも背景の一つにある。
以下3つの切り口で確認していきたい。

①技術伝承のやり方に関して、人材育成が進まないのは職人体質で育てることは苦手という面もある。
コミュニケーションが苦手で育てられないのであれば、普段の仕事を録画し技術やノウハウを映像で残していく方法もある。
言葉での説明より映像で見て学ぶ方が記憶に残りやすい。
もう1つの側面として育てると雇用継続をしてもらえなくなるのではという心情になる人も多い。
継続雇用の役割を明文化し、育てること、教えることが役割であり成果であると伝えることである。
ある会社は技術伝承で人が育てば嘱託でも昇給させている事例もあり成功している。

②定年後の処遇
定年後、給与を大幅にダウンさせると他社への流出が起こりやすくなる。
採用難、人材難の現在、60歳を超えても能力の高い人へのニーズは高く転職した方が待遇面が良い場合も多い。
この環境変化を見誤ると大きな損害となる。
嘱託も評価を入れながら現役時代の給与をどこまで保証するのかを決めることである。
例えば表をS・A・B・Cに分け、Sなら現状と同じ給与水準、Aで80%~90%維持、Bで70~80%維持、Cで60~70%維持等である。

③現役世代の処遇
嘱託社員で役職がそのままだと、現役世代にポストが渡せない場合、給与があがらない。役職定年を設けるのか違う形で対応するのか検討も必要である。その点のバランスは会社によって違うので注意が必要である。

残業問題

製造業の人事制度課題
その3:残業問題

3点目が残業問題である。
一部の職人に偏った長時間労働が発生し、残業時間によっては管理職と非管理職との給与が逆転現象が起こる。
一部の職人に仕事が偏っている場合、業務の再配分を行い、適正な残業時間内に抑える対策が必要である。
管理職と非管理職と給与の逆転現象の対策は、役職手当を厚くする。管理職等級の金額を大幅にあげる等が考えられる。
管理職にならなくても(なれなくても)残業代で管理職以上の処遇がもらえる制度については変える必要がある。

職務が広範囲

製造業の人事制度課題
その4:職務が広範囲

4点目が職務内容が多岐にわたり同じ評価シート(考課表)では運用できない問題が挙げられる。
製造業は他の業種と比較して職種が非常に多くスキルをあげればきりがない。
例えば、製造、研究・開発、商品企画、生産技術、生産管理、品質管理、など部門・職種が多岐に渡っている。これだけ求めるスキルや技術が違う中でも、製造部門で一括りされた評価シート(考課表)にて運用している企業も多い。
職種ごとに評価表の作成や賃金の決定など「職種別人事制度」を導入するか否かも制度改訂時には大きな判断となる。
人事フレームにおいては複線型を導入した方が運用がしやすくなる。専門職コースを設けるのも一つである。
ただ制度はあくまでもどれが良いか悪いかでなく、どれが自社に適しており運用しやすいか、納得性が担保できるかである。

目標・成果をどう設定するか

製造業の人事制度課題
その5:目標・成果をどう設定するか

5点目が工場の成果をどうするか(目標管理制度の形骸化)である。
営業職と違い成果が見えにくい。
そのため、目標管理制度を導入した企業も多い。
ビジョンや方針を遂行する上で、目標管理を行うことは有効だからである。
しかしデメリットは目標設定が非常に難しいことである。目標レベルの格差、上長とコミュニケーションやアドバイスがない中で、個人の思いで考えた設定目標、成長につながらない項目等がある。
目標を設定するには、部下と上司との対話が不可欠である。
部下とよく話をし、部下にどこまで成長して欲しいか、ビジョンや方針、人事ポリシーを踏まえて設定していく。
それでも甘辛は人間が作成する以上生まれる。その甘辛など横の調整は査定メンバーが実施するといい。
愛知県(知立市)の機械製造業B社では目標管理制度が定着するまで限定で会社側でテーマを準備した。
等級ごとにランクを難易度で3つにわけ目標を決めた。
ランクをS、A、Bと3種類に分け、社員は自分の等級のテーマを選択する。
Sは難易度1.3、Aは1.0、Bは0.8とし、達成率×難易度で数値化した。
挑戦したい人はS群から選ぶ。安定志向はB群から選ぶ。B群は100%達成しても80点となるといった具合である。

まとめ

製造業における5つの課題をあげたが、もちろんこれ以外にも課題はたくさんある。
透明性、公平性、納得性を担保しながら、自社にあった制度を丁寧に組み立て、社員の成長につながる、モチベーションがあがる、ワクワクする、そういった人事制度構築をしていただければ幸いである。

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