人事コラム
エンゲージメント

エンゲージメントスコアの活用方法

エンゲージメントスコアの定義と多様な測定方法、改善事例をご紹介

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エンゲージメントスコア活用の要は長期的視点でPDCAを回すこと
いますぐ測定・改善を始めよう

はじめに

はじめに

このコラムは、エンゲージメントスコアについて基礎的な知識と改善方法について理解することを目的としている。

ただ改善事例を提示するだけではなく、そもそもエンゲージメントスコアは何を計測しているのか?どのようにとらえるか?という観点から解説する。

エンゲージメントスコアとは

エンゲージメントスコアとは

1.定義
エンゲージメントという言葉は、サイトやメディアによって異なる定義がされている。理由は計測しようとするものが曖昧、もしくは異なるからであり、類似概念をある程度含んでいる可能性がある。
参考までに、官公庁で使われている定義を記載する。厚生労働省は「『仕事から活力を得ていきいきとしている(活力)』『仕事に誇りとやりがいを感じている(熱意)』『仕事に熱心に取り組んでいる(没頭)』の3つが揃った状態。」※1とし、経済産業省ではシンプルに「自発的貢献意欲」※2としている。

2.類似概念との比較
エンゲージメントは類似概念と相関するものであり、完全に切り離すことは難しい。以下に類似概念を記載したので、上述の定義と比較しエンゲージメントが何を指すかをイメージしていただきたい。

従業員満足度 ... 業務内容、職場環境、人間関係などに対する満足度。居心地の良さ。
従業員幸福度 ... 仕事・私生活両方にまたがる幸福度。
従業員エンゲージメント ... 会社への愛着。自発的に会社に役立つことをしたいという気持ち。
コミットメント ... 約束・委任。(外的要因に迫られた)約束の履行。
ロイヤルティ ... 忠誠心・愛社精神。権力ある相手に尽くそうとする意志。
モチベーション ... 動機付け。勤労意欲。
モラール ... 士気。組織全体のモチベーション。

エンゲージメントが注目される理由

エンゲージメントが注目される理由

結論からお伝えすると、エンゲージメントが注目される理由は、人的資本経営への関心の高まりにある。
まず日本においてエンゲージメントの注目度が高まった発端の一つとして、経済産業省による持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書(いわゆる人材版伊藤レポート)の発表(2020年)および内閣官房による人的資本可視化指針(2022年)がある。
人材版伊藤レポートはその本題の通り、日本企業の持続的な企業価値向上のために人的資本を経営の根幹に位置付ける必要性を示したものである。
人的資本可視化指針は、人的資本への投資をサステナビリティ経営の重要要素と捉え、ステークホルダー間の相互理解を深めるために人的資本の可視化を求めるものである。
両者に共通する主張は、企業の価値向上および存続のために人的資本を見える化し、その改善に向けて投資する必要があるというものだ。

では、人的資本を見える化するにはどのような指標を用いれば良いのか。実はすでにデファクトスタンダードになっている枠組みが存在し、それがISO30414である。
ISO30414には人的資本の11領域、58のメトリック(計測、尺度という意味)が示されているが、その中の一つ「5.組織文化」には2つのメトリックがある。1つ目が「エンゲージメント、満足度、コミットメント」、2つ目が「リテンション比率(定着率)」である。エンゲージメントスコアは定着率の先行指標と考えられるため、まずはエンゲージメントを計測しよう、となるのは自然なことだ。
また、他のメトリックを見ると、6.総人件費、19.管理職1人当たりの部下数、40.離職率、44.人材開発・研修の総費用、50.後継者候補準備率など、実数値の公開がはばかられるものや、数か月ではどうにも"整える"ことができない項目が並ぶ。
上記を見ても、いかにエンゲージメントスコアの計測および改善が人的資本経営の取り組みとして着手しやすいかがご理解いただけるだろう。
たとえ非上場企業であっても、上場企業と併願される立場にある企業はエンゲージメントスコアを無視できない。特に採用担当であれば説明会や面接で似たような内容について質問されるという経験はお持ちだろう。学生・転職希望者の立場から見ても、エンゲージメントスコアを継続計測・公開している企業には「社員を大切にしている」という安心を感じるだろう。

エンゲージメントスコアが計測するもの

エンゲージメントスコアが計測するもの

この章では、エンゲージメントスコアの定義と計測方法を記載する。

1.エンゲージメントスコアとは
エンゲージメントを測る尺度をエンゲージメントサーベイといい、計測された数値をエンゲージメントスコアと呼ぶ。
繰り返しになるがエンゲージメントサーベイを検討する際は、定義(何を計測しているか)と中身(何から構成されているか)を確認することをお勧めする。というのも、正体がよくわからないものは改善できないからだ。
なおタナベコンサルティングが提供しているエンゲージメントサーベイは厚生労働省の定義からさらに深掘りし、社員がいきいきと働いている会社の特徴は何か?誇りややりがいを感じる条件は何か?どうすれば仕事に熱心に取り組めるようになるのか?という視点から捉え直している。以下にその3つの視点と内容を記載する。

・カルチャー(愛着) 理念・ミッションの浸透、会社の価値観への共感
・組織エンゲージメント(信頼) マネジメントへの信頼、人事諸制度の理解・満足、トータルリワード、職場のコンプライアンス
・仕事エンゲージメント(熱量) 能力開発、業務への責任感、レジリエンス、担当業務へのモチベーション

弊社が提供しているエンゲージメントサーベイの詳細内容にご興味があれば、以下リンク先をご覧いただきたい。

2.2種類のサーベイ
エンゲージメントスコアの計測方法は、目的によって大きく2つに分かれる。
一つ目は通常のサーベイである。目的は測りたいものを正しく測り、エンゲージメントの現状認識および改善施策の検証を行うことにある。
内容は一般的なアンケートと同じで、項目が10~30項目程並び5段階評価で評価するものだ。期間は半年~1年に1回実施する。デメリットとして回答に時間を要し回答率が下がることが挙げられる。
二つ目はパルスサーベイである。目的は短い期間の変化を計測するものである。例えば社員一人ひとりのメンタル状態の変化を素早く捉えフォローするために使用される。内容は通常のサーベイと比べ項目数を絞る代わりに、100点満点方式や7~9段階など、回答の幅を広く持たせている。デメリットとしては質問の作り方(聞き方・答えさせ方)が難しいことと、通常のサーベイより虚偽回答に弱いことが挙げられる。期間は1週間~1ヶ月に1回実施する。

エンゲージメントスコアの活用方法

エンゲージメントスコアの活用方法

この章では、エンゲージメントスコアを計測後、どのように活用し改善につなげるかの事例を記載する。
先述の「人的資本可視化指針」では、エンゲージメント向上取組により、社員一人一人のチャレンジ姿勢・発想力の向上により売上高・販管費双方の増加に資することが例示されている。しかしこの理屈は頭では理解できるが、チャレンジ姿勢・発想力が強化されたことが証明しづらく、エンゲージメントスコアが活用されたとは言いづらい。
エンゲージメントスコアの活用をもっと感覚的に理解できる活用方法として、社員の定着・離職防止の例として、システムインテグレータA社の事例を挙げる。
A社は創業32年、社員数約100名の中小企業である。大手システム会社からの信頼が厚く、自社で採用した開発・保守要員を客先に派遣するのが主なサービスである。A社の強みはこのパイプに加え、未経験中途採用から一人前のエンジニアを育成できることにある。しかし業界特性上、社員は一人前になると外資・大手に転職、フリーランスになるなど豊富な選択肢があり、優秀な人ほど引き留めが難しい。A社も同様に30歳前後の離職が多く、いわゆる中堅社員の層が薄いという課題があった。
給与水準では外資・大手に勝てないため、給与以外の面で定着を図る必要がある。そこで給与以外の離職要因のつぶしこみ、および定着要因の強化のためエンゲージメントサーベイを行った。

エンゲージメントサーベイの結果のポイントは以下の通り。(A~Eの5段階表記)
1.カルチャー(愛着):B...問題なし。理念・ミッションの認知度・理解度・共感度は高い。
2.組織エンゲージメント(信頼):D...評価制度の不公平感および納得性が低い。
3.仕事エンゲージメント(熱量):D...取組みたい仕事に取り組めていない

さらに項目別詳細を見ると以下の様な内容であった。

1.カルチャー(愛着):B...唯一「上司がミッションをマネジメントに反映している」という項目のみ低い。
2.組織エンゲージメント(信頼):D...離職意向・継続意向が低い。人事制度全般の認知度が低く、上司からの評価フィードバックがない。
3.仕事エンゲージメント(熱量):D...教育・研修の効果に疑問を持っている。取組みたい仕事に取り組めていない。

そこで、以下のような対策を行った。

1.人事考課に関するマネジメントの強化
タレントマネジメントシステムを導入し、評価実施期間の厳守および評価コメントの記入を徹底。被評価者へのフィードバックもスケジュール化し、全員実施されるまで徹底的にリマインド。

2.キャリアプラン研修の実施・自己申告制度の導入
社員一人一人が今後5~10年の"自社での"キャリアプランを考案。それに基づいた今後身に付けたいスキルを明確化。また自己申告制度によってプロジェクト・常駐先の異動希望を収集。全ての異動希望を叶えることはできないものの「根拠なく配属を決められている」という意識の払拭に努めた。

3.教育・研修制度の改善
30歳前後一人前人材を中心にヒアリングを実施。取引先に求められているスキルと現行教育制度のギャップを洗い出し、ニーズの高いものから研修化を推進。

上記の施策を進めた後、3年後に再度エンゲージメントスコアを取得した際は以下のような結果であった。

1.カルチャー(愛着):B...大きな変化なし。
2.組織エンゲージメント(信頼):C...やや向上。人事制度に対する認知度が向上し、
上司からの評価フィードバックが改善したものの、定着意向は微増。
3.仕事エンゲージメント(熱量):C...教育・研修への満足度が向上し、取組みたい仕事に取り組めているという回答が増加。

この会社は2019年に初めてエンゲージメントサーベイを実施し、新型コロナウイルス感染症拡大の状況中でも変わらず、
エンゲージメントスコア向上の取組を続けた結果、数値改善が進んでいる。

上記以外にもエンゲージメントスコアを活用し、業績や定着率、生産性や顧客からの評価などを高めている事例を紹介しているため、興味がある方はこちらをご覧いただきたい。

知っていると知らないとでは大違い!エンゲージメント経営実践事例

今後、売上・品質等、直接的なパフォーマンスの向上との相関を明らかにするためには、業務ごとにKPI指標を設定・蓄積し、エンゲージメントスコアとの相関を取る必要がある。ここまで踏み込みたい場合は、いわゆるタレントマネジメントシステムと基幹システムを連携し、多様なデータの蓄積・分析を継続する必要がある。ただし、現状これができるのはデータの取得・分析を主業の一部としている企業のみというのが実感で、弊社の認識としてもHR分野のDXにおける最終ステップと位置付けている。おおかたの企業はまず、エンゲージメントスコアの取得およびそのPDCAからスタートすれば良い。

まとめ

本コラムでは、エンゲージメントスコアの定義、計測方法、改善事例を紹介した。どのような定義や計測内容を採用したとしても、エンゲージメントスコアの改善は長期的視点での改善を前提として考えるべきだ。というのも、社員が会社や業務に対する考え方であり、人の考え方を一朝一夕に変えることはできないからだ。また、エンゲージメントスコアを外部に公開するかしないかに関わらず、年度によって上下する様では、企業として良くなっているとは言えないし、そこへの投資が結果として無駄になってしまう。
皆様がエンゲージメントスコアについて正しい認識をお持ちいただくことで、社員の皆様がよりモチベーション高く働いていただき、より良い会社になっていただけることを祈念する。

※1
厚生労働省「労働経済白書」2019年 第2-(3)-1図
※2
経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」第6回参考資料

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