人事課題解決ノウハウ

建設業において対応せねばならない"2024年問題"

猶予期間が設けられていた働き方改革関連法案適用まで約1年

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"技能"を中心にした人事制度のリニューアルへ

猶予期間が設けられていた働き方改革関連法案適用まで約1年と迫る中、真っ先に問題となるのが、やはり長時間労働であろう。現在、国交省が主導で進めている「建設業働き方改革加速化プログラム」においても、長時間労働の是正や生産性向上などの対応策が掲げられているが、中小・中堅ゼネコンにおいては、なかなか対応が進んでいないことも実情と考えられる。ここで気を付けたいことは、付け焼き刃で進めてしまうと現実と制度に乖離が置き、労務諸問題が発生しかねないことである。今回は、長期的に見て持続可能な人事制度改革について、実際のコンサルティング事例も交え3つの重要着眼に言及していきたい。

'技能評価'を徹底して取り入れる

"技能評価"を徹底して取り入れる

人事制度には、大きく3つのフレームタイプがある。それは「職能資格制度」「職務等級制度」そして「役割等級制度」である。中でも職能資格制度は日本企業に適した制度と言われ、新卒一括採用が基本であり、年功序列型で評価・処遇が決まる安定した働き方が求められ、終身雇用をある種前提とした雇用条件を支えてきた制度である。実際に多くの企業で職能資格制度を導入し、運用されているが、これまたその多くが20年前に作ったものをマイナーチェンジを重ねて使っている実情が見られるのである。しかし、時代は変わり、生産年齢人口へ減少の一途を辿り、人材の流動化が高まり、かつては称賛された日本的経営のあり方が崩壊してきたため、それとともに職能資格制度が制度疲労を起こし、ここ数年で抜本的な見直しをする企業が増えてきた。そこで注目が集まっているのが役割等級制度である。役割等級制度とは、あるべき役割像を等級ごとの要件として定義し、その役割が果たされたかどうかを評価・処遇するものであり、社員に対し求めるものが明確となり、社員からしても自身の成長や貢献が実感しやすい制度だと言える。
さて、前置きが長くなったが、建設業において人事制度を見直すにあたり、どのフレームが適しているのかというと、「職能と役割のハイブリッド型」がお勧めであると考える。職能資格制度としてしまうと年功序列の色合いが強まってしまい、役割等級制度としてしまうと技能の評価が薄れてしまうという懸念がある。そのため、両方の特性を混ぜ込んだフレームを作り上げることが現状の最適解に近い。
大阪府に本社を構えるある建設業では、一般職階5等級・管理職階4等級の計9等級の人事制度を構築した。その際、等級ごとの要件定義では、「各等級では組織運営上どのような役割を担い貢献すべきか」という役割要件と、「各等級で果たすべき職務とそれに必要な技能」を表した職能要件を策定した。これにより等級ごとのステップ感を示すことができ、社員個々に落とし込んだ際に、自分が何をすべきか、何を身に付けるべきかを明確にすることを可能とした。また、評価においては、ポピュラーな評価項目と5段階の基準を設定した評価に加え、スキルマップを導入し、具体的な技能の評価を行える仕組みを取り入れた。建設業においては、特に施工に関わる人材の技能の質とその数が揃っているかが業績を決めることは言わずもがなであり、会社として求める基準を明確に定めるためにも、こうして人事制度に織り込むことがわかりやすく、機能しやすいのだと言える。後述するが、事例企業においても実際に人材育成と相まって所長クラス・次席クラスが増えてきており、制度改革の成果の一つだとの認識が社内に広がり始めているのである。

'技能獲得'対して報いていく処遇設計が肝要

"技能獲得"に対して報いていく処遇設計が肝要

さて、前段では"技能評価"について触れてきたが、次は"技能獲得"をした結果に対してしっかりと報いていく処遇設計について触れていきたい。処遇設計は極めてシンプルであり、技能レベルが高まっていれば昇給に反映をさせるという、それだけの話である。賃金というものは、賃金項目と支給根拠が一対一であることが望ましいとされている。例えば「基本給」という賃金項目を設定している企業も多くあるが、「基本給」を決める根拠が役割や職責、技能や業績など複数の根拠の下に決まっていると、支給根拠が複雑・曖昧になり、社員からしても自分の給与はどうやって決まっているのかがわかりづらくなってしまう。そこで、建設業においては「役割給」と「職能給」という2本の賃金項目を設計することをお勧めする。「役割給」とは先述した「組織運営上どのような役割を担い貢献すべきか」に対して評価し賃金へ反映させるものであり、「職能給」とは「果たすべき職務とそれに必要な技能」に対して評価し賃金へ反映させるものである。こうすることで、キャリアが若いうちは必死に技能を身に付け職務を全うすれば「職能給」がしっかりと上がり、中堅・ベテランクラスになると組織における役割貢献を果たすことで「役割給」がさらに積みあがっていくような設計を取ることができる。社員からすると「今、何を努力すれば給与が上がっていくのか」がわかりやすく、モチベーションアップの一助となる。また、若いうちから貢献度の高い社員へしっかりと報いることが可能となり、離職防止にも役立つと考えらえる。
このように支給根拠をはっきりとさせ、技能獲得・成長実感を得られる評価・処遇設計が"技能"を重視する建設業においては重要なポイントであると言えるだろう。

人事制度を機能させる'人材育成制度'

人事制度を機能させる"人材育成制度"

最後に、"技能"を重視した人事制度を機能させるには、やはり連動した"人材育成制度"が必要不可欠である。そもそも、今回は建設業における働き方改革関連法案への長期的に見て持続可能な対応方法をお示ししているわけで、生産性を上げ、長時間労働を是正することが目的である。人事制度を導入するだけでは、やはり根本解決に繋がらず、人材育成制度との両輪をしっかり回すことではじめて機能してくると言っても過言ではない。タナベコンサルティングでは、建設業のご支援において、人事制度と企業内大学(アカデミー)の両方を導入している事例が多く存在する。
先述した事例でも"技能評価"を機能させるためには、現場主導のOJTだけでは難しいという結論に至り、それをサポートするための企業内大学(アカデミー)構築を行った。企業内大学(アカデミー)で学んだことを現場で活かし、それが評価され、給与に反映されれば、さらに企業内大学(アカデミー)で学ぼうという意欲に繋がる、この好循環を回すことができれば、技能の質と量をしっかりと確保していくための仕組みと成りえるのである。
労働時間を低減させるためには2つの策が必要であり、既存人材の技能向上による生産性アップか新規人材の採用・育成・定着による頭数の確保である。この両方を並行して手を打ちながら進めていかなければ、2024年には間に合わなくなってしまう。残すところ1年と少しとなってきた中、今回の内容を参考に早めの制度改定をしていただきたい。

この課題を解決したコンサルタント

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