人事課題解決ノウハウ

企業内大学導入・運営成功事例 矢野建設株式会社「YANOアカデミー」

本コラムは、人事系専門誌「月刊人事マネジメント」2023年1月号に寄稿した内容です。

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ベテランメンバーが講師を担当"人が真ん中"を実現する教育システムを展開

労働人口の減少が深刻な課題となるなか、人を単なる資源ではなく、資本として考える「人的資本経営」が注目されており、人材育成の機運は非常に高まっています。しかし、人材育成を体系的・継続的に実践することに頭を悩ませている経営者・人事担当者の方が多いことも事実です。

コンサルティング現場の第一線では、"本気で人材育成に取り組む企業"とご一緒することが多くあります。今回は、中長期ビジョンを達成するために"人を育てる"ことが不可欠であると再認識し、ビジョン実現のために企業内大学を設立した矢野建設㈱の事例をご紹介します。

"人が真ん中"を実現する「YANOアカデミー」の設立

矢野建設株式会社は、1971年創業の建築・土木工事を手掛ける総合建設会社です。顧客や市場のニーズに対応し、総合企画提案を行うワンストップ事業を強みとしており、業界内で高い評価を獲得しています。
矢野社長は、「技術を持つ人材は、わが社の宝="人財"である」と考え、「人財」無くして会社は成り立たず、ましてや持続的成長も実現できないと考えました。そこで、中長期ビジョンと共に「人が真ん中」というスローガンを掲げ、次の世代の技術者を育むことを決意されました。
かねてからの同社の大きな課題は、急速な会社の成長スピードに人財育成が追いついていないということでした。そこで、人事制度の刷新と「YANOアカデミー」(企業内大学)の設立に取り組むことを決断。人財に求める内容を明確にしたうえで、必要な知識やスキルを身につけるための教育制度を構築し、徹底した人財育成を目指しました。

入社から5年目までの「求める人財像」

人財を育てる「YANOアカデミー」の仕組み

設立コンセプトは、「矢野建設に蓄積された高い技術力を人から人へとつなぎ続け、人財の技術集団の養成をする」ことです。
そのためにも、まずは若手社員の知識の底上げから取り組み始めました。同社における成長ステップを明確にし、新卒入社後1~5年目における「求める人財像」を明確化(図表)。それに基づき、「求めるスキル」を洗い出し、講義カリキュラムを「安全管理」「工程管理」「品質管理」「原価管理」の4つに分け、若手社員にとって必要な項目を網羅的に設計。一般的なカリキュラムではなく、日頃から同社が使う言葉遣いや表現を用いた内容とするべく、社内のベテランメンバーによる知識の棚卸しを行いました。
アカデミー構築における最も重要なポイントとして、学び合い・教え合う風土の醸成が挙げられます。風土を作り上げるためには、ただ義務的に若手社員を育てるということではなく、ベテランメンバーに講師を担当してもらい、自身が"教える側である"という意識も高める必要がありました。講師陣は自らレジュメを作成し、講義を行い、「YANOアカデミーがより良くなるためには何を行うべきか」を考え、発言することが求められます。
この取り組みによって、人財育成は現場のOJTだけで行うのではなく、"全社で実施するものである"という認識が生まれました。そして、自分たちがYANOアカデミーおよび矢野建設の人財育成を担っていくという意識が芽生え始めました。
矢野建設では月に1度、原則全社員参加のアカデミーを開催しています。講師陣は役割分担で様々な社員が担当し、講義と質疑応答、学びの状況を確認するためのテストを実施しているほか、受講後に現場で取り組むべきことをまとめたレポートを作成します。そうすることで、若手社員はアカデミーで講師陣から学んだ基礎知識を現場で実践し、現場の上司よりアドバイスを受け、またアカデミーに参加して学ぶというサイクルを回すことが可能となります。

若手社員にとって、アカデミーで普段の現場では関わることが少ないベテランメンバーの講師陣から、実体験を踏まえたリアリティのある話を聞いて学べることも貴重な経験となります。さらに、講義後には座談会を設け、普段の業務の不安解消にもつなげています。
YANOアカデミーの設立をきっかけに"人が真ん中"というスローガンの社内への浸透が期待されています。

「YANOアカデミー」を開校した成果

2022年4月にYANOアカデミーを開校してから半年以上が経過した時点で、実際に少しずつ成果が表れてきています。受講生からは、「今までは業務を単体でこなしていた認識であったが、アカデミーを通じて本当の目的や後工程を知ることができ、全体を考えて行動できるようになった」「矢野建設のスタンダードを知ることができ、今まで不安に感じていた部分を他の若手社員と共有しながら解消することができた」などの声が寄せられています。

YANOアカデミーでは、基礎を固めるためにそれぞれの業務の目的から伝えることを大切にしています。普段の業務に忙殺されるなかで、自ら考え、行動するためには、まず本来の目的や定義にさかのぼって知ることが非常に重要です。また、アカデミーで社員同士の交流が活性化しています。現場で関わりが少ない同世代やベテランメンバーと交流することで、不安を解消できる場としても活用されているのです。
また、周囲の社員から見ても、実際に研修で学んだ内容が生かされていると感じる場面が増えているようです。若手社員のアカデミー受講後、今まで個人ごとに異なる方法で行われていた業務が統一されたという声が聞かれるようになりました。

YANOアカデミーを通じて、矢野建設としてのスタンダードを明確にし、それらについて若手社員をはじめとした次世代へ伝え、技術者を育む取り組みが進んでいます。

今後の展望

今後は、さらにアカデミーの枠を広げていくために、様々な方向で検討を進めています。
1つは、社内での学び合い・教え合う風土をさらに定着させるために、講師として参加してもらう社員を増やし、多くの社員に教える立場を体験してもらえればと考えています。
もう1つは、"自社について知る"ためのカリキュラムを追加する予定です。動画で経営陣の講義を収録し、いつでも・どこでも・何度でも視聴できる仕組みを構築することで、会社の考えやビジョンのさらなる浸透を目指します。
このように、YANOアカデミーは"人が真ん中"の企業であるために、さらなる進化を続けていきます。

TCG REVIEW 企業内大学
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持続的成長の基盤となる、デジタルとリアルを融合させた総合的な学習・育成システム「FCCアカデミー(企業内大学)」の設立・運営メソッドを提言し、社員の成長を自社の発展につなげるモデル事例を紹介します。
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