人事課題解決ノウハウ

北陸の建設業界における人事制度のトレンドとは?

【2024年問題による残業時間の規制と生産性向上】【建設業者の高齢化と人材不足】【インフラ整備の加速】厳しい環境変化に対応する為の人事制度の再構築が必要

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未来の活躍人材をつくるため、人事制度の再構築と活用が必要

北陸の建設業界を取り巻く環境

北陸の建設業界を取り巻く環境

建設業界を取り巻く厳しい環境変化の中で、未来の活躍人材をつくるため、人事制度の見直しを行う企業様が増えている。
人事制度について再検討する上で、特に押さえておくべき環境変化のポイントは3点である。

1.2024年問題による残業時間の規制と生産性向上
改めて、2024年問題とは、2019年4月より大企業から順次施行されている「時間外労働の上限規制」が建設業・運送業など一部事業において免除されていた「時間外労働の上限規制」が2024年4月より適用されることとなり、様々な影響や問題が発生する事を指す。建設業でも、残業時間の抑制と、今までより短い時間で、成果を上げる為の生産性向上が必要不可欠である。

(ご参考)2024年問題とは

2.建設業者の高齢化と人材不足
人材不足について、職人の高齢化や、採用難の進行は肌感覚で感じる部分も多いかと思われるが、データとしても顕著に現れている。北陸の有効求人倍率(2023年12月時点)は、福井県1.77倍、石川県1.55倍、1.41倍と全国平均1.27倍を上回っており、高水準で推移していることから、引き続き採用難が予想される。図表1は、国土交通省が算出している建設業者の高齢化の深耕である。こちらを見ると、 建設業就業者は、55歳以上が35.9%と全産業平均31.5%を上回り、29歳以下が11.7%と全産業平均16.4%を下回っており、高齢化が進行していることが分かる。人材の確保に加え、次世代への技術承継が大きな課題となる。

図表1 建設業者の高齢化の進行
図表1 建設業者の高齢化の進行
出典:総務省「労働力調査」(暦年平均)を基に国土交通省で算出 (※平成23年データは、東日本大震災の影響により推計値)
国土交通省「建設業を巡る現状と課題」より


3.インフラ整備の加速
能登半島地震(2024年)は、我々の生活・考え方に大きな衝撃を与えた。国は、災害に強い国づくり・地域づくりを目指し、2025年に向けて国土強靭化を推進しているが、今後もインフラの整備は、大きな課題となる。何故なら、日本は高度経済成長期に道路・トンネル等の施設が集中的に整備されたため、図表2の通り、今後急速に老朽化が進行するからである。老朽化の進行に対して、インフラの維持管理・整備への強化が求められている。上記の2に通ずるが、今後も、インフラの整備を加速するために、建設業では人材の採用と育成が急務である。

図表2 社会資本の老朽化の現状と将来予測
図表2 社会資本の老朽化の現状と将来予測
国土交通省「社会資本の老朽化の現状と将来 - インフラメンテナンス情報」よりTCG作成

人事制度の基本

人事制度の基本

北陸の建設業界の事例をお伝えする前に、人事制度の基本について再確認していく。

1.人事フレーム(等級制度)
人事フレームとは、自社の等級毎に求める基準を明確化した上で、社員のキャリアの道筋を描いたものである。企業の中で社員がどのように成長・昇格・昇進していくか等のキャリアアップの明確化が重要である。

2.評価制度
評価制度とは、社員の仕事ぶりを半期、通年等の一定期間で評価し、育成・処遇・活用のために機能させる仕組みのことである。
人事フレームと連動した評価基準の明確化が重要である。

3.賃金制度
賃金制度とは、期待レベルに応じた基本給(固定的)と組織業績と個人成績に応じた賞与(変動的)で構成される処遇の仕組みのことである。人事フレーム別要件に適合した、賃金体系・構成、水準の明確化が重要である。

人事フレーム(等級制度)・評価制度・賃金制度の全てに通ずることだが、人材の育成・定着のため、公平性・社員の納得度の高い内容であること・社員への落とし込みを行うことが求められる。

(ご参考)
人事制度とは
人事フレームとは

北陸×建設業の事例から学ぶ人事制度の再構築のポイント

北陸×建設業の事例から学ぶ人事制度の再構築のポイント

1.【人事フレーム(等級制度)】技術伝承についてスピード感を持って対応するための単線型等級フレーム(等級基準の明確化)
昨今は働き方の多様性の尊重という点から、複線型の人事フレームを策定する企業が増えている中で、A社は、あえて単線型の人事フレームを策定した。複線型のメリットとして、マネジメントコース・専門コース等と切り分けることで、自分に合った形式で活躍ができるチャンスがあるという点が挙げられるが、デメリットとしては、専門職コースを選択した社員は、マネジメント業務をしなくても良いという勘違いが起きるケースがある。人事フレームは、経営の意志である。A社の社長の意志としては、特定の人物ではなく、全社が一体となって部下育成を行い、技術伝承のスピードを加速化をする、むしろ専門コースを選ぶ技術力が高い人こそ、技術伝承に積極的に関わるべきであるというものであった。

2.【評価制度】若手の早期活躍に向けたキャリアロードマップの活用
B社では、10年キャリアロードマップを活用した評価制度を導入している。10年キャリアロードマップには、若手社員が10年間の中で、いつまでにどのようなスキルを身に付けなければいけないか、どのような資格を取得する必要があるか等の詳細が記載されている。若手社員は、10年キャリアロードマップを基に各現場で目標を立てて実践する。若手社員は、スキルを取得する度に評価がされ、若手社員と同じ現場の現場監督は、若手の社員のスキルが上がれば、評価が上がる仕組みである。会社としても動画の活用等で、育成をサポートするが、先輩による資格勉強会等も自発的に開催される等、会社、ベテラン現場監督、若手社員が一体となり、人材育成に取り組むことが期待できる。また、10年キャリアロードマップは、採用説明会等でも紹介することで、求職者の安心材料としても活用している。

3.【評価制度】"チームワーク活性化"による風土改善
C社では、全職種の評価制度の中にチームワークに関するコンピテンシー評価を導入した。職人の高齢化の中で、職人と営業や事務がコミュニケーションが減り、チームワークが不活性化することを避けるためである。人は嫌いだから話さないのではなく、話さないから嫌いになっていくものである。具体的には、評価表の中で、等級ごとにチームワークに関するコンピテンシー評価を加えることで実践した。

(ご参考)新たな価値を生み出すコンピテンシー評価

4.【評価制度・賃金制度】バックオフィス業務の効率化とフロント業務の強化
2024年問題・人材不足の進行の中で、生産性の向上として、バックオフィス業務の削減orDX化が必要不可欠である。しかしこれまでバックオフィス業務をされていた方からすると、自分の仕事を減らし、新しいことをするには抵抗がある。そのため、D社では、効率化に対する成果については、年度末に特別インセンティブを支給し、フロント業務を行ったことに対しては賞与に反映をすることで本人のモチベーションアップに繋げている。

さいごに

今回は、北陸の建設業界を取り巻く環境と人事制度についての一例を紹介したが、制度構築はあくまで手段の一つに過ぎない。
目的は、人事制度の再構築ではなく、パーパス(理念・ビジョン)の実現のため、未来の活躍人材をつくることである。

令和6年の能登震災については、様々な方の支援で復興が進んでいるが、中でもインフラの整備に対して、建設業の皆様のご活躍を新聞やニュース等で拝見することが多い。
改めて、日々の生活を守っていただけている、無くてはならない建設業界にて、未来の活躍人材が増えていくことを強く祈念している。
今回の内容が、厳しい環境変化の中で、戦い続ける経営者の皆様、社員の皆様にとって、少しでも参考になれば幸いである。

この課題を解決したコンサルタント

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