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今週のひとこと

自社の商品・サービスは、なぜ売れるのか、そしてなぜ売れないのか?

それは誰のためにつくったのか?

その売り方はこれでよいのか?

とことんまで突き詰めよう。





☆ 「コト」の提供で、顧客の課題を解決する

2013年6月に文部科学省から発表された「第2期教育振興基本計画」。これは、教育再生に向けた4ヵ年計画で、今年が最後の年の4年目です。そのテーマの一つである教育のICT(Information and Communication Technology:情報コミュニケーション技術)化については、タブレットや電子黒板、デジタル教科書など、各社は文科省が整備目標としている機器や教材の販売に勤しんでおり、そこで生じているのが機能競争と僅差の価格勝負です。それらに巻き込まれないようにするためには、どうしたらよいのでしょうか。

お客様の求めている「コト」に注目すればよいのです。

学校の先生は、タブレット(モノ)が欲しいのではなく、タブレットを使って、より生徒のためになる授業(コト)をしたいのです。
タブレットを一人一台使うことで考えられるのは、ネットワークのトラフィック問題です。タブレットを導入したのはよいのですが、通信量が過多になり、通信が止まり、そして授業も止まる。よくある話です。そのような環境を誰も求めていません。


先生方は、「生徒の学力をあげたい」「授業に興味を持って主体的に学んで欲しい」という要望を常に持っており、それを実現するために何が提案できるのかを考えていくと、自ずと、他社との機能競争・僅差の価格勝負に巻き込まれない営業活動ができるようになります。

お客様が求めている「コト」は何か。表面的な課題を解決するための「モノ」に追われるのではなく、課題を解決するための本質を捉えた営業活動が、すでに他社との差別化になっているのです。

コンサルティング戦略本部
コンサルタント
小林 達男





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創業300年。近江商人の魂を今に引き継ぎ、
「人格」と「変化」で飛躍し続ける歴史企業



小泉本社にて。代表取締役会長 植本勇氏 (右)と、タナベ経営 代表取締役社長 若松孝彦(左)

1716年に創業し、今日ではアパレル(小泉)、照明や家具(小泉産業)、家電製品・家庭用品(小泉成器)など、多彩な事業を展開する小泉グループ。
グループ売上高2,000億円。問屋業から出発し、商品や顧客に対する独自の付加価値創造で発展を続けている。
その歴史、経営信条やビジネス観について、代表取締役会長の植本勇氏に伺った。

同族経営からの脱皮で飛躍への道が拓けた



若松 創業300周年おめでとうございます。タナベ経営との長いご縁にも感謝を申し上げます。今回は、100年経営をはるかにしのぐ"300年経営対談"ですね。私は創業200年以上の会社を「歴史企業」と呼んでいます。会社を語るときに、日本や地域の歴史も語らなければならないからです。まさにその域に達した会社です。

植本 江戸時代、近江の国の武士だった小泉太兵衛が武士を捨て、1716(享保元)年に行商を始めたのが小泉グループのルーツです。その後、子孫が1847(弘化4)年に京都に出店して商いを広げ、さらに大阪に進出したのが146 年前の1871(明治4)年。歴史的にそうした大きな節目がありましたが、私自身はここに至るまでの300年という長さは、あまり意識したことがないのです。

若松 2016年秋、滋賀県東近江市で小泉グループの長い歩みを祝福する催しがあったとお聞きました。

植本 東近江市が運営する近江商人博物館で、小泉グループの中興の祖である第3代重助に焦点を当てた企画展が開催されました。2015年に旧重助邸が文化庁から登録有形文化財に指定されたこともあり、社内外であらためて300年の歩みが注目されたのは確かです。

若松 第3代重助氏とはどのような人だったのですか?

植本 太兵衛から数えて12代目に当たる人で、現在の小泉グループの実質創業者と言える人物です。実は、第3代重助までは200年近く同族経営が続いていました。大正初期の頃に生じた同族内のもめごとがきっかけで重助が大阪の出店を引き受けることになり、太平洋戦争後まもなく亡くなるまで、会社の礎を築き上げることに尽力しました。自らの経験が身に染みたのか、「長男を除いて経営陣を同族だけで固めるのはいけない」と最初に言ったのも重助です。

若松 現在の小泉グループ各社も、その言葉をしっかり守っているようですね。小泉と名が付くグループ会社でも、経営を執行する皆さんは非同族の方々です。

植本 当社が主力でやってきた繊維業界を見渡すと、名門であっても経営陣の半分以上を同族が占めている会社は、成長が止まっているところが多いのです。同族経営では会社の業績が悪化しても簡単にトップを代えられませんし、組織や事業の改革も進めにくい。小泉も旧態依然とした同族経営ではやがて生き残れなくなると、重助は見越していたのだと思います。

若松 歴史企業の臨床事例として聞くと、重みがありますね。植本会長も非同族で社長に就任され、これまで社内改革にさまざまな手腕を発揮されました。

植本 私は同族以外で2人目の社長になったのですが、社長になる以前に、もともと1つの会社で行っていた繊維事業を部門ごとに分社化することを推し進めました。呉服は京都小泉、服地は小泉テキスタイル、洋品は小泉アパレルというように。結果的に、本体の小泉はそれら子会社の経営を管理するような形になりました。上場こそしていませんけど、今日でいうホールディングスの形にして経営基盤を強化することに、多少なりとも貢献できたかもしれません。

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300年は単なる節目。「ぶれない軸」と「変化への挑戦」で、グループ一丸で次の100年を目指していきたい。

人の育成と独自の価値創造で組織・事業が大きく成長

若松 ともにグループの中核を成す小泉産業や小泉成器は、どのようにして生まれたのでしょうか。アパレルを主体にする小泉とは全く事業分野が異なります。

植本 戦時中の1943(昭和18)年に、軍需産業を営むために設立した五光精機工業が両社の前身です。軍需産業なら男性社員が徴兵されなかったというのが設立の大きな理由。2年後に戦争が終わると人々の生活用品が圧倒的に足りない状況になり、電熱器に目を付けて売り出したのが最初のビジネスです。ものづくり自体は当時の他社メーカーにお願いしまして、従業員が近江商人魂を発揮しながら全国の電気店を回りました。そうするうちに本当の市場ニーズは何かが分かり、電気スタンドを扱い始めたことが照明事業に発展していったのです。

若松 時代の変化、顧客価値の変化の中で求められるものを探した結果、家電分野へ進出されたのですね。

植本 昭和30年代に入って、一般家庭の電化が一気に進んだこともあります。電気式アイロンやヘアドライヤーなど、売れそうな製品を見つけては販売に注力してヒット商品に育てました。その後、調理用のガス器具を組み込んだテーブルに着眼し、家具分野にも参入。そこから照明付きの学習机というふうに、さらに取扱商品が広がったのです。現在、照明と家具分野は小泉産業が、ヘアドライヤーほかの家電雑貨分野は小泉成器が事業を継承しています。

若松 当時、関西では松下電器産業や三洋電機(ともに現パナソニック)、シャープといった大手家電メーカーが躍進する中で、ニッチな専門領域で大きな事業拡大に成功されました。

植本 当社は創業以来、基本的に問屋商売ですから、販売力は強みになっていました。当時急成長のさなかにあった家電専門量販店にもどんどん売りに行って業績が伸び、いつしか売り上げは繊維事業を上回るほどになりました。

若松 「販売なくして経営なし」の経営原則ですね。今ではその方法や手法を変えていく必要はありますが、原則は変わりません。強い販売力の秘密は何だったのでしょう。

植本 1つは、連綿と受け継がれる「人でモノを売る」信念だと思います。今日の小泉、小泉産業、小泉成器3社共有の社是に「人格の育成向上」と定めているように、商人としての正しい礼儀や判断力、倫理観を備えた社員の行動が確かな成果を生んだことは明白です。もう1 つは、商品に自社だけの特徴を備えたこと。商品をただ右から左へ販売するならブローカーと同じです。当社は呉服店の時代から扱う商品一つ一つに、オリジナルの付加価値を加える考え方を商いの軸にしています。社内ではこれを「ぶれない軸」と呼んでいます。テーブルにコンロを付けたり、学習机に照明を付けたりしたのはその好例です。

若松 ここも優秀な歴史企業に共通している点ですね。下請けでなくオリジナルブランドや商品・サービスを開発し、自前の販売力で顧客へそれらを供給できるビジネスモデルを構築していることです。さらには、社員の皆さんが、ある意味、経営者視点で自立心や自主性を発揮してビジネスに臨んだことも良かったのでしょうね。

植本 その通りだと思います。その点を育む社員教育については、戦後から30 年間にわたり小泉産業を率いた立澤四郎の力が大きいですね。社是の「人格の育成向上」を明文化したのも立澤ですし、1000ページを超える手書きの教育資料を作ったり、頻繁に社内勉強会を開いたりして、人づくりの大切さを会社の隅々にまで浸透させました。その思想は独特で、特に印象深いのは「事業計画とは何だ?」という社員への質問。社員が「売り上げの目標数字を決めて、達成方法を考えることです」と答えると、「それは違う。計画とは決心してやり遂げることだ」と言ったそうです。私も含め、立澤の訓示が後進経営者のよりどころとなり、現在の小泉グループの成長を支えていることは間違いありません。

若松 「経営とは意志であり、決心」というのは創業者の精神そのものです。結果、全員がビジネスをどう捉えるかに重きを置いている点も、今日の小泉グループの強みの根幹なのですね。

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今では一般的になったが、学習机に照明を付けるアイデアは同社の発想により生まれた

パイオニア精神の発揮で積極果敢な海外展開

若松 時代の変化に経営をどう合わせていくかは、企業の生命線です。そのような意味で小泉は海外進出も早かったですね。特に中国で合弁会社を設立した日本企業の先駆けではなかったでしょうか。

植本 滋賀県と中国・湖南省が友好提携関係にあった縁で私が音頭を取り、1986(昭和61)年、現地に日本法人として第1 号の縫製合弁会社を設立しました。現在は、中国でのアパレル生産の主力を2001年設立の江蘇省の工場に移していますが、積年の協力関係が実を結び、おかげさまでフル操業の状態。中国が広大な消費市場であることにも注目し、志を新たに現地内販に力を入れ始めたところです。

若松 アパレル生産は中国沿海部の人件費高騰から、近年ASEAN諸国やバングラデシュに拠点を移す動きが活発になっているようですね。そんな中で今、「ポスト中国」として注目されているのがインドです。インドは2020年代には中国を抜いて人口世界一になるとみられていますし、日本企業で進出しているところはまだ少なくて可能性が非常に大きいですね。

植本 当社の場合はすでに中国での投資を終えていますので、人件費の上昇コストも回収できています。ASEAN諸国での生産は結局、原材料を中国に頼らざるを得ませんのでコストと時間がかかるのです。インドでの先鞭を付け、2007年に北西部のジャイプールに検品センターを開設し、現在は営業支店や工場も設置するなど力を入れています。

若松 アパレル事業においても先々をにらんだ、チャンスを逃さない海外戦略をいち早く進行させています。先に伺った照明や生活家電と同様、時代の変化に敏感に対応する姿勢は小泉グループの根幹になっているようですね。

小泉グループの輪を広げて企業力をさらに高めていく

若松 300周年という節目を越え、この後400年、500年と続いていくためにどのような経営を目指されているのでしょうか。

植本 まず、現在の事業の継続と継承が第一です。これを確実に実現するため、積極的に自社の商品を変え、売り場を変え、売り方を変えていく覚悟です。昨今はインターネットを使ったeコマースが当たり前になり、さまざまな商売に新規参入する企業が増え続けています。eコマースと実店舗を組み合わせるオムニチャネルも急速に進化しているので、どんな業界も構造変化が加速して競争が激化していくことでしょう。そのような状況下で、例えばアパレル事業ならこれまで洋服を中心にしていた商品レンジを、靴やバッグ、アクセサリーを含めたファッション全体に広げていく必要がある。そうなると、既存ではない新しいノウハウをどんどん蓄積して活用する経営が重要と考えます。

若松 新しいノウハウはどのような方法で創造していかれるのでしょうか?

植本 小泉は2004年以降、オッジ・インターナショナルやコスギ、ギャルソンヌなどアパレル7社とグループ化し、今ではそれらの事業が連結売上高の約半分を占めるまでになっています。そうした実績から見れば、M&Aは1つの有効な方法だと思います。ただ、単なる事業規模の拡大を目的にしたものではなく、戦略パートナーとして向き合います。親会社として振る舞うのではなく、相手の強みを生かす統合と考えているのです。当社と新しく仲間になる企業の関係は、団結を柱にした「求心力」と、新領域への広がりを図る「遠心力」が大事だと考えています。

若松 自社グループだけでなく、関わる者全ての満足を目指していく経営ですね。植本会長の言葉からは、まさに近江商人の売り手よし、買い手よし、世間よしの「三方よし」精神で次代への進化を追求していかれるという、強い意志を感じました。これからさらに100年後、200 年後に向かう小泉グループの動向が楽しみでなりません。本日はどうもありがとうございました。


小泉
代表取締役会長 植本 勇氏

1956年小泉入社。1978年取締役就任、1983年小泉アパレル代表取締役社長就任。1986年には中国に進出し、日中合弁会社の第1号となる「湖泉服装有限公司」を設立。1996年には湖南省長沙市長より栄誉市民として表彰された。2001年、小泉代表取締役社長を経て、2006年より現職。2008年には黄綬褒章を受章。2008年大阪商工会議所議員、2015年大阪商工会議所繊維部会部会長などを歴任。


タナベ経営
代表取締役社長 若松 孝彦

タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。 関西学院大学大学院 (経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

PROFILE

  • 小泉㈱
  • 所在地 : 〒541-0051 大阪府大阪市中央区備後町3-1-8
  • TEL : 06-6223-7800
  • 設立 : 1871年
  • 資本金 : 4億8000万円
  • 売上高 : 530億円(連結、2015年2月期)
  • 従業員数 : 1538名
  • 事業内容 : グループを統括管理する持ち株会社
  • http://www.ap.koizumi.co.jp/







「ママの自己実現」を支援するソリューションがメディアの価値を高める


左から西村氏、タナベ経営 島田、伊東

『たまごクラブ』『ひよこクラブ』『サンキュ!』などの雑誌によって、子ども・子育てファミリーマーケット向け市場を切り開いてきたベネッセコーポレーション。
しかし今、インターネットやSNSの浸透などによって母親たちの価値観が変わり、従来型の情報提供では支持が得にくくなったという。
現在の子ども・子育てファミリーマーケットの変化に対し、同社はどのように対応していこうとしているのか。同社Kids&Family本部に、その取り組みを聞いた。

読者を主役にした複数のママ向け雑誌を展開

「進研ゼミ」など通信教育事業のイメージが強いベネッセコーポレーション。実は、生活分野でも複数のメディアを展開し、多くのファンを有する企業である。その事業領域は「赤ちゃん」から「お年寄り」まで。人間のライフサイクルのあらゆる局面において、さまざまなメディアを通して情報を提供している。中でも、子ども・子育てファミリーマーケットの雑誌には、誰もが知るロングセラーの『たまごクラブ』『ひよこクラブ』『サンキュ!』がある。

たまごクラブ、ひよこクラブが創刊されたのは1993年。2誌同時創刊という珍しいスタイルで登場し、以来、今日に至るまで育児誌の雄として君臨している。

「創刊当時は、医師の記事が掲載されている教科書的な雑誌しかありませんでしたが、たまひよ(たまごクラブ、ひよこクラブの略)はマタニティー・ベビー市場に『読者が主役』という全く新しい切り口の編集方針で登場しました。その方針は今も受け継がれています。母親である記者が活躍し、テレビCMの導入や赤ちゃんを象徴するキャラクターの作成など数々の新しい試みを行い、それがママさんたちの共感を生んで受け入れられました」

そう語るのは、妊娠期から未就学期の子どもを持つ母親と子ども向けメディアを統括するKids&Family本部長の西村俊彦氏である。当時の常識を覆したこの編集方針により、「育児ママが集まる『砂場』が『雑誌』になった」と表現されるようになった。余談だが、創刊した1993年には「たま・ひよ(族)」が流行語大賞にも選ばれたほどだ。

また、サンキュ!は20~40代の主婦層に向けた生活情報月刊誌で、料理、収納、節約など生活全般の情報を提供する。雑誌不況といわれる現在も毎月36万5000部を発行し、主婦向け生活情報誌の中で部数を伸ばす雑誌である。

さらに、雑誌だけではなく「WOMEN'S PARK(ウィメンズ パーク)」「まいにちのたまひよ」「口コミサンキュ!」などのWebコンテンツや、「たまひよファミリーパーク」「主婦コレ!」などのイベントを含んだメディアミックスによる情報発信を展開し、全媒体で年間1600万人もの母親たちと接点を持っている。

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『たまごクラブ』『ひよこクラブ』『サンキュ!』など、ロングセラーの雑誌を手掛けている

個人同士がつながる時代母親の価値観も大きく変化

20年以上にわたり子育て中の母親と接点を持ち続け、読者参加型の雑誌作りをしてきたベネッセコーポレーションのKids&Family本部は、各時代の母親のニーズと意識動向をつぶさに見てきた。そんな知見が集積された同社では、最近の子育て中の母親の変化をどう見ているのだろうか?

「一言でいえば『個』が強い時代になったといえるでしょう。これまでのママは子育てを1人で背負いながら、言葉は悪いですが自分を犠牲にしてきた感があります。一方、今のママたちは、1人の女性として生活を楽しみたいと考えており、この傾向は今後も続くでしょう。当社のアンケートでは、半数近くのママが『子どもや夫よりも自分のことを優先するときがある』と回答した、という結果も出ているぐらいですから」(西村氏)

そうした母親たちの意識変化には、インターネットやSNSの影響があると西村氏は指摘する。つまり、個人が情報を発信し、情報交換ができる時代になり、マスメディアに影響されることなく個人同士がつながった。いわゆる上から目線の情報ではなく、ヨコからの情報に感化される傾向が強まっているということだ。この傾向について、西村氏は「個人主導でムーブメントが起こる時代に突入している」と表現する。

読者と協力しながら企業タイアップを展開

そんな時代において、Kids&Family本部が実践するマーケティングや編集方針も変化してきている。例えばサンキュ!では時間と費用を惜しまず、徹底的にリアルな取材を行う。収納術をテーマにした場合、読者やブロガーへのアンケートからニーズを収集し、独自の収納術を実践する読者に電話で取材。その後に取材対象者を絞り込み、訪問して徹底取材する。こうしたデータとリアルを融合させた地道な活動で、付加価値の高い誌面作りを行っているのだ。

企業とのタイアップにも積極的だ。例えば、企業の商品を読者に使ってもらって意見を聞き出し、商品開発や改善をしていくもので、代表例にハウス食品の『カレー鍋つゆ』がある。味やパッケージなどを吟味してもらい、読者である母親たちの意見をもとに開発した結果、同商品は主婦層からの支持を得て大ヒットした。

その他にも、ある下着メーカーとのタイアップでは、プロのモデルではなく読者モデルを採用するという大胆な誌面作りに挑戦。読者にとってより身近なモデルを起用することで、「自分たちでも身に着けられる」というリアル感を打ち出したのだ。

「インターネットの情報が無料の時代において、雑誌が単なる情報提供をしていては勝ち目がありません。ポイントは情報の提供ではなく、ソリューションを提供していくことです。つまり、個人に寄り添いながら、したいことやなりたい自分を『実現』する支援をしていく。より部屋を効率的に使いたい、おいしい料理を作りたい、スタイルを保ちたいといったママさんの自己実現をいかに支援していくか。そうしたソリューション型の情報提供に変化してきており、だからこそ支持をいただけているのだと思います」(西村氏)

特に同社は、たまひよ、サンキュ!という媒体によって、読者との距離が近い顧客基盤の強い会社。その強みを最大限に生かし、読者と一緒になって企業タイアップを展開しているのだ。

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影響力のある主婦モデルを起用し、企業とのタイアップを展開。 商品開発やPRに生かされる

これまで接点のなかった企業との連携に期待

読者層に20~50代のママを有するたまひよやサンキュ!。こうした読者層を持ち続けていることが同社の強みだが、今後はこの財産を最大限に生かして、さらなるビジネスへと拡大したいという。

「インターネットやSNSの浸透で雑誌不況に陥っていることは間違いないですが、最先端の情報がプロの目でセレクトされ、信頼性も高いという、雑誌独自の価値もあります。こうした強みや雑誌作りで培ってきたノウハウを活用し、Webの特徴を生かしながら個人に合った情報にカスタマイズしていくなど、新たなビジネス創出に取り組みたいと考えています」(西村氏)

新分野の事業創出に当たって、社内にとどまらず、外部ブレーンの活用にも目を向けている。タナベ経営との関係も今後深まっていきそうだ。その際、タナベ経営に期待することは、これまで同社と接点のなかった企業や団体とタイアップをする際のパートナーシップだという。タナベ経営独自のネットワークと情報収集力を生かして、企業のニーズや商品特性といった情報を提供してもらい、たまひよやサンキュ!とのタイアップにつなげることができればと期待を寄せる。

「タナベ経営の企業ネットワークには、当社と接点のない企業が数多くあると思います。その企業がどのような商品を作り、どのような悩みを抱えているのかが分かりません。その情報を共有して新たなビジネスを生み出す。そんな連携の在り方を望んでいます」(西村氏)

PROFILE

  • ㈱ベネッセコーポレーション
  • 所在地 : 〒700-8686 岡山県岡山市北区南方3-7-17
  • TEL : 086-225-1100(代)
  • 創業 : 1955年
  • 資本金 : 30億円
  • 売上高 : 4441億9000万円(連結、2016年3月期)※ベネッセホールディングス
  • 従業員数 : 2393名(2016年4月現在)
  • 事業内容 : 通信教育「進研ゼミ」、模擬試験、雑誌など
  • http://www.benesse.co.jp/


20~40代の母親が選ぶNo.1雑誌『サンキュ!』が創刊されたのは1996年。当時、家庭におけるパソコン普及率は20%未満だったが、現在は76.8%まで上昇している(総務省 『平成28年版 情報通信白書』)。近年はスマートフォンも普及し、いつでも簡単に欲しい情報が手に入る時代になった。お金を出してでも欲しい情報=「読者へ提供すべき顧客価値」は何か? その情報を得るため、同誌は毎号2000人のアンケートを基に泥臭い現場取材、読者訪問を行っている。変わりゆく読者の価値観とライフスタイルに適応し続ける仕組みが、新たなファンを生み出している。
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    担当:タナベコンサルティング 戦略総合研究所