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今週のひとこと

新規事業開発の成功鉄則は、自社の強みを

生かし、将来性のあるマーケットに参入

することである。

☆ ヒト不足を打破するサービスパッケージ

 先般、ある業界団体主催の経営者対象のイベントで講演をする機会がありました。その業界は成熟業界の一つであり、市場規模は年々縮小しています。参加された経営者は危機感を抱いており、熱心に聴いておられました。同様に成熟化した日本において市場規模が縮小している業界は多く、それを打開するための成長市場の取り込みに向けた「新事業開発」への取り組みが増えており、筆者も、それをテーマとしたコンサルティングが増えてきています。

 新規事業に取り組むにあたっては、「何をやるか」よりも「誰がやるか」が、壁として立ちはだかる企業が多いのが実情です。現状の収益の柱である既存事業から、優秀な社員を異動させることができず、新規事業の開発そのものが進まないのです。その主な要因は「ヒト不足」です。

 総務省の労働力調査によると、2017年平均の完全失業率は2.8%と、1993年の2.5%以来、24年ぶりの低水準でした。3%を下回るということは、働く意思があれば、職に就くことができると言っても過言ではないでしょう。逆に企業側から見ると、人材採用が難しいということです。

 そこで、誰もが売れる商品・サービスの開発が必要となってくるのです。そして、成功の鍵を握るのがニッチなサービスパッケージです。電気工事業A社は、省エネコンサルティングを新事業として成功させ、その結果として本業の電気工事も併せて受注するビジネスモデルを構築していますが、補助金申請支援サービスや、照明分野、空調分野など提供するサービスを細かく切り分け、パッケージとして展開されています。省エネに関して漠然とした課題を抱えている顧客が、自社に合ったサービスを選ぶことを可能とする仕組みなのです。

 こうした取り組みは人材の定着にも繋がります。若い人材であっても、パッケージ一つひとつの知識・ノウハウを覚えさえすれば、顧客に提案することが可能となり、早期に活躍できる環境が整います。サービスのパッケージ化を、ヒト不足を解消するための一つの取り組みとされてはいかがでしょうか。

経営コンサルティング本部
チーフコンサルタント
湯山 卓

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地域経済をつなぎ、未来を創る独創的な銀行ビジネスモデル

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"金融激戦区"静岡県を地盤に200超の拠点(県外・海外を含む)を展開する静岡銀行。6大地銀の一角を占める同行が地域経済に果たす役割は極めて大きく、これまでも、これからも、その取り組みが注目される銀行だ。全国地方銀行協会会長を2度務めた同行の中西勝則・代表取締役会長(前頭取)に、地域経済の発展とマイナス金利時代の地域金融機関の在り方について伺った。


意識改革・業務改革・オープンイノベーションで他行に先駆けた取り組み

若松 いつも次世代経営塾「Shizuginship」ではお世話になり、ありがとうございます。長いご縁に感謝します。静岡銀行は1943(昭和18)年に静岡三十五銀行と遠州銀行が合併して誕生、2018年で創立75年を迎えます。中西会長は2017年6月に頭取を退任されましたが、今日の「しずぎん」を形づくる上で特に留意されてきたことは何でしょう。

中西 頭取に就任(2005年6月)してから言ってきたことは「利他の心」です。お客さまをはじめとした、相手を思う気持ちですね。(資金を提供することで)私たちはお客さまを助け、付加価値を付けてもらうことを考えなくてはいけない。なぜなら、それが必ずこちらに戻ってくるからです。行員から見ると、銀行も利他の"他"です。(お客さまと銀行の成長を思う)その両立の中で行員個人が成長し、自立していくわけです。その意識改革を行ってきました。

若松 銀行業は、プロダクトをつくって付加価値を付けて売るビジネスではない分、利他の心がより必要なのでしょうね。利他の心を起点に取り組まれたことはありますか。

中西 昨今、働き方改革や業務量の削減が注目されていますが、私たちは15年前からBPR(Business Process Re-engineering=業務改革)に取り組んできました。一般に、旧来の銀行業務には無駄な部分が多く、業務プロセスが多いほどリスクは高まるし、手間もかかります。住宅ローンなどはその最たるものです。お客さまとの取引に関する膨大な書類を厳重に支店の金庫に保管していましたが、必要なときすぐに見つけられずアタフタしてしまう。これを高度なセキュリティーの下、電子化して別会社で一元管理することで、見たいときに誰でもパソコンで確認できるようにしました。結果として、ローン関連の業務の約6割がカットでき、リスクヘッジにもつながりました。他にもIT活用、システム化などを通じて省けるところは省き、BPRを精力的に進めた結果、10年前に比べると支店の業務量は8割くらい減っていると思います。BPRも、ただ縦割りで考えて業務を削減するのでなく、全体設計を重視しました。例えば、業務量削減による業務内容・役割の変更、それに伴い人事評価制度を「職務等級制度」に変えました。また、中期経営計画とリンクした業務目標設定や、個々人の目標設定と振り返りの仕組みづくりに至るまできめ細かく全体設計をしています。

若松 一部だけを変えると、全体の整合性が取れなくなります。働き方改革や生産性改革に取り組む場合でも全体コンセプトや全体最適が大切です。業務改革全体を通じて静岡銀行のビジネスモデルが変化し成長してきた、ということですね。

中西 その通りです。静岡市清水区草薙に2016年3月にオープンした「しずぎん本部タワー」も、「ワークスタイルを改革する」というコンセプトをもとに設計しました。建物を新しくすることが第一義ではなく、行内のコミュニケーションとチームワーク、仕事の見える化を実現できる機能を目指したのです。ほとんどの会議室の壁を透明なガラス張りにし、パーテーションを置かず、個人の座席を固定しないフリーアドレス制にしました。外部の視察も積極的に受け入れています。縦の階層も意識し、中央に階段を設置。また、各営業店とテレビ会議システムでつながることもできます。社員が自在に働ける環境をつくり、顧客満足を高め、生産性の向上に取り組んでいます。

若松 静岡銀行の取り組みには、全体にストーリーがあります。しずぎん本部タワーも一部を見学させていただきましたが、部分改善ではなく全体からの設計アプローチを選ばれたことは、特に労働環境への戦略投資であると感じました。容易にまねのできないところに強いコンセプトや意志を感じた次第です。

創立70 周年記念事業の一環として建設 された「しずぎん本部タワー」。最新の IT、防災、環境配慮型設備などを備え、 新しいワークスタイルを通じた生産性向 上にも取り組む。タワー内の「非常事態 対策室」は地域の防災拠点としての役 割も担っている
創立70 周年記念事業の一環として建設
された「しずぎん本部タワー」。最新の
IT、防災、環境配慮型設備などを備え、
新しいワークスタイルを通じた生産性向
上にも取り組む。タワー内の「非常事態
対策室」は地域の防災拠点としての役
割も担っている

金融環境の激変で価値観をリセットする

若松 銀行業務全般を見渡す広い視点で、いち早く社内外に開かれた経営を追求された。そうした先駆的な取り組みへのチャレンジが、静岡銀行の企業文化になっているようです。これまでのご経験を踏まえて、現在の激変する低金利時代における地方銀行はどうあるべきとお考えでしょうか。

中西 ひと昔前と大きく変わっていることは、業界全体の資金量。つまり、資金需要と供給の関係です。端的に言うと、需要が多くて供給が少ない時代は、銀行も周囲から大事にされて思うように動けました。お客さまの依頼に対しても「ノー・バット(No,But)」(一度断った後に代替案を示す)でした。今はその反対で、「イエス・バット(Yes,But)」(一度受け入れた後で提案する)でなくてはいけない。

若松 組織は本質的に変化を嫌います。しかし、外部環境の激変やフィンテックやAIなどの銀行業務に対する価値観の変化に応じて、個々の行員の皆さんとも考え方や対応を変えないといけません。一言で言えば「価値観のリセット」。私のコンサルティング経験からもそれを痛感します。業界を問わず「変化を経営できる組織」だけが勝ち残るのでしょう。

中西 プロダクトアウトから、マーケットインへの発想の転換こそが重要です。まず、マーケットに耳を傾けることです。銀行窓口でお客さまから個人や家庭の悩みを相談される時代ではなくなったとはいえ、フェース・ツー・フェースでお客さまのさまざまな情報を集めることは、お客さまと当行にとってよりよいビジネスにつながる、とても重要な働きです。当行では、支店のロビーに内部役席を配置し、お客さま目線の活動を徹底して重視するよう、指示しています。

若松 行員の方々が顧客へ柔軟に応対しながら情報価値の取捨選択を行い、本部と支店の明確な役割分担と連携プレーにつなげていく仕組みを構築されています。現在は、「モノ余りでコト不足の時代」。私は社会的課題と表現していますが、課題解決市場を創出することで成功している企業は数多くあります。やはり、時代に合わせてビジネスモデル自体を転換していくことが重要なのでしょう。特に、ここ数年はそのヤマ場になると思います。

中西 まずは現場でストーリーを作ることです。お客さまが望んでいることに応える、応えないことがどのような結果をもたらすのか、それによって当行の組織がどうなるのか、先々をシミュレーションする大切さを行内ではずっと言い続けています。

若松 当面の経営目標はどんな点に置かれているのでしょうか? さまざまな銀行サービスがある中で、低金利時代に特に力を入れようと考えているサービスなどがあれば、お聞かせください。

中西 期間内にM&Aをいくつ行うとか、手数料をどれだけ稼ぎ出すとか、そういう数値的な目標ではダメだと思います。それでは行員に数字を押し付けるだけになってしまうので、経営的にはもっとマクロな視点で物事を考える必要があります。例えば、景気が少しずつ上向いているのは本当にマイナス金利の影響なのかどうか。マイナス金利は銀行から見れば苦しい要因であることは確かですが、大事なことは、全体最適という視点に立って景気回復ができる金融政策を予見して、独自に判断、行動していくこと。そのために、当行で働く全員が政府や日銀、世の中に対して良い意味での懐疑心を持ち、自分たちなりの大胆さを発揮してビジネスに臨むことを目標にしています。

地方企業、成長の鍵
今こそ戦略投資が必要

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若松 都市と地方では、経済活動が二極化しているという社会的課題があります。それは地域銀行全体の課題であるともいえます。御行は静岡に根を張って事業をされています。タナベ経営もおかげさまで創業60年を迎え、北海道から沖縄まで全国10拠点で地域密着の経営をしています。その経験から強く感じるのは、地方には良い企業がたくさんあるということです。私どもは、地域企業がより成長することで地域経済も豊かになる、と確信しています。

中西 確かに地方には良い企業がたくさんありますね。特に静岡は多くの産業が集積しているので、さまざまな業種の良い企業が多くあります。

若松 そして、良い企業は多いですが、国内外へのブランド力や発信力がまだまだ弱いと感じています。私どもは「ファーストコールカンパニー(100年先も一番に選ばれる会社)」づくりをビジョンに掲げています。地方のファーストコールカンパニーに共通しているのは、ブランディングやビジネスモデル転換へ積極的に「戦略投資」を行っている点です。とはいえ、自社のブランド価値を上げることに投資する企業はまだ、そう多くありません。ブランディングには、既存の事業や人員、果ては本社、工場まで見直すといった幅広い投資が必要です。地方には、磨けば光る企業が非常に多いので、ぜひ戦略投資を進めてほしいものですね。

中西 実際、静岡県でも中堅・中小企業のブランディング意識は弱いと感じています。地域や業種により異なるのですが、優良な大企業の下請けを行っているところもたくさんあり、ヒエラルキーが出来上がっていることがその理由です。ただ、今は技術の進化が著しく、このヒエラルキーの構造が変わっていく可能性があります。自動車などはEV(電気自動車)化への動きが急速に進展して、従来の部品構造が大きく様変わりしつつあります。これは、多くの中堅・中小企業にとってピンチでもありますが、そこから飛躍するチャンスと捉えることも可能です。私が知る限りのブランディング成功事例に共通している特徴は、イノベーションのポイントを隠さず開示していることです。具体例を1つ挙げると、熱海市が地元土産の市長賞付与や品評会を行って、優勝した商品のレシピを公開しました。熱海に行けばその品が買えると評判が広がり、商品の良さが消費者に広く深く伝わっていったのです。よいノウハウを表に出せば、ブランド価値が自然に認知されていくということですね。当行も同じ姿勢で、自ら開拓した業務イノベーションを他行へ積極的に開示しています。

若松 オープンイノベーションが確かなブランディングにつながっていくのですね。これは都心・地方を問わずに、まさに企業にとって成長に不可欠な取り組みといえそうです。

ミッションは地域発展との共存

若松 中西会長は全国地方銀行協会の会長を2度務められました。地域の金融機関の在り方について、メッセージをお願いできますでしょうか。

中西 先ほどお話ししたように、銀行業に対する顧客の価値観が変わってきています。われわれのような経営陣が、変化に合わせた対応を取ることはもちろんですが、現場の行員一人一人が価値観を変えていかなければならないでしょう。いつまでも上から目線や、プロダクトアウト思考では変化についていけません。

若松 やはり、顧客とじかに接するのは現場ですからね。変化対応の必要性を経営者と共有し、経営課題を解決できる人材や体制が求められるでしょう。そういった意味において、行員の意識改革や事業性評価の出口戦略を示せるスキルアップが最重要課題ともいえます。

中西 その通りですね。ただ、今の低金利で地域の要望に100%応えられるかといえば、正直に言うとなかなか難しい。だからこそ、生産性を上げたり合理化したり、新しいビジネスを試みたりと、さまざまな内部努力を行って、私たち自身がしっかりとした組織を構築し地域を守っていくことが必要です。銀行としての収益を守りながら、お客さまと地域を守ることの両立が求められます。それを乗り切って銀行経営と地域発展を成り立たせることが、地方銀行に課せられた使命だと考えています。

若松 地域の未来をにらんで、次世代経営者育成に向けた「Shizuginship」というサービスも行っています。

中西 「Shizuginship」は、当行のお客さまである企業経営者や後継者、実務担当者の皆さまに、経営に役立つ知識とノウハウ獲得、人脈形成の場をご提供する会員サービスです。リアルとWebを通じて、企業価値の向上や事業の再構築などを多角的側面からサポートしています。当行を含めた地域企業の協力・連携、さらに静岡全体の今後の発展に欠かせないと考えているので、ぜひ参加企業の輪を広げていきたいと思っています。

若松 静岡銀行の地元・地域を包括的に捉えた活動や地方銀行経営に対する考え方など、貴重なお話をありがとうございました。地域銀行のモデルとしてますますのご発展を願っています。

静岡銀行 代表取締役会長 中西 勝則(なかにし かつのり)氏
1976年3月、慶應義塾大学商学部卒業。同年静岡銀行入行。三島支店長、理事人事部長、取締役経営企画部長、取締役常務執行役員などを経て、2005年6月から17年6月まで頭取を務める。この間、ソリューション営業の高度化など、地域重視に基づく積極的な経営戦略により貸出金を約2.6兆円増加させるなど持続的な成長路線を堅持。また、マネックスグループ、マネーフォワード、ほけんの窓口グループなど、異業種との提携戦略を進め、地域金融機関の新しい方向性を示す。

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ・たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院 (経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

PROFILE

  • ㈱静岡銀行
  • 所在地 : 〒424-8677 静岡県静岡市清水区草薙北2-1(しずぎん本部タワー)
    〒420-8761 静岡県静岡市葵区呉服町1-10(本店)
  • TEL : 054-345-5411(代表)
  • 設立 : 1943年
  • 資本金 : 908億円(2017年3月31日現在)
  • 貸出金 : 7兆9552億円
  • 預金 : 9兆3040億円
  • 総資産 : 11兆303億円(2017年3月31日現在)
  • 従業員数 : 2884名(2017年3月31日現在)
  • 事業内容 : 預金、貸出、有価証券投資、信託ほか銀行業に付帯する業務
  • http://www.shizuokabank.co.jp/

金融専門誌ニッキンに、静岡銀行 代表取締役会長 中西 勝則 氏と
弊社代表・若松 孝彦の対談内容が掲載されています。

タナベ経営 金融ドメインコンサルティング部
〒532-0003
大阪市淀川区宮原3-3-41
(06)7177-4006
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    担当:タナベコンサルティング 戦略総合研究所