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2019年の年頭にあたり、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
本年も「FCCマネジメントレター」を、よろしくお願いいたします。


今週のひとこと

常に上を目指そう。これまでと違う
やり方で、目標と現実のギャップを埋めよう。

☆ "非連続"的なスキルアップに挑戦しよう
  ~次代に合わせた自己成長~

 AIや、IoT、ICT、RPA(※)などの新たなデジタル技術が世の中に浸透し、生産性向上に寄与し、労働力不足を補おうとしています。そのスピードは驚くほど速く、新しい時代をつくっていると言っても過言ではないでしょう。デジタル時代においては、スピードが最優先ということを示しているのではないでしょうか。

 こうしたなかで、私たちビジネスパーソンには、どのようなことが求められるのでしょうか。それは、"非連続"的なスキルアップへの挑戦だと言えます。非連続というのは、これまでの経験や知識の延長ではなく、まったく新しい技術やスキルということです。
 例えば、計算をするということにおいて、過去にはソロバンから電卓へ、そして、電卓がExcel(エクセル)と代わってきた時には全く異なるスキルが求められました。これからは、Excelは別のデジタル技術に代わることも考えられます。

 このように、時代変化が速いなかで、これまでの経験やスキルは通用しない時代がやって来るでしょう。時代の変化と共に、求められる技術やスキルも変化し、過去の経験や知識・スキルだけに頼った自己成長では、中長期的には業績に貢献することができないかもしれません。これが非連続的なスキルアップに挑戦する意義なのです。
 時代変化をチャンスと捉え、いかに成長につなげることができるか、という視点で自身のスキルアップに向き合うことが重要です。
 今後も益々加速していく時代変化に対応し、自己のスキルを照らし合せていただき、「既存スキル×新技術」で次代も成長を導けるビジネスパーソンを目指しましょう。

※RPA(Robotic Process Automation):ロボットによる業務自動化

経営コンサルティング本部
チーフコンサルタント
清水 哲也

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「野菜のカゴメ」をビジョンに掲げて、「ピンチこそチャンス」の改革を推進

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2016年度、17年度と2期連続で売上高・利益ともに過去最高を更新中のカゴメ。2019年には創業120周年を迎える同社の好調の背景にあるのが、収益構造と働き方の改革を同時に進めるビジョンマネジメントだ。代表取締役社長・寺田直行氏に社員の意識を変え、持続的成長に導いた改革の要諦を伺った。


商品のバリューアップで売り上げ・利益を伸ばす

若松 トマトを中心とする加工食品分野をけん引するカゴメは、2019年に創業120周年を迎えられます。寺田社長が就任されたのは2014年。当時は2期連続の減収減益という厳しい環境の中、大胆な改革を進めて変化に強い企業体質を築いてこられましたね。

寺田 急速な円安の進行に加え、原料高騰、野菜飲料全体の需要縮小によって、社長就任時の営業利益率は2%台にまで落ち込んでいました。85年間もトマトジュースを作っているのに、ほとんど利益が出ていなかったのです。収益構造の変化に対してすぐに手を打つべきですが、改革で大事なのは優先順位です。カゴメの生命線は商品ですから、まずは既存商品のバリューアップから着手しました。最初は、国産加工トマトを使用したストレートジュースのバリューアップに取り組みました。それまで濃縮還元ジュースと同じ方法・価格で販売しており、これでは価値が伝わりません。商品名を「カゴメトマトジュースプレミアム」と改めて期間限定販売とし、商品価値を引き上げ、価格も上げました。

若松 消費者の反応はいかがでしたか。

寺田 原料の違いや製法を丁寧に伝えると、お客さまにも納得していただけるものです。その証しに、値上げ前より販売数が伸びて売り上げ・利益ともに増加しています。

若松 会社の顔とも言える象徴的な商品、強みの商品をさらに強くするアプローチは業績改善の要諦。この成功が改革の弾みになりましたね。

寺田 トマトケチャップなどの商品についても、原料高騰を理由に25年ぶりとなる値上げを実施。利益が出ていない商品はリスト化して内容を精査し、終売するかを判断していきました。多くの不採算商品を抱えてしまった原因は、収益構造の変化を現場が知らなかったことにあります。当然、本社は把握していましたが、それを現場に落としていませんでした。転換点となったのは、売り上げ一辺倒だった営業現場のKPI(重要業績評価指標)に限界利益率の考え方を導入したこと。社員が収益を強く意識するきっかけとなりました。

若松 デフレ基調が続く中、バリューアップによる値上げへとかじを切られたのはさすがです。さらなる値下げによって拡販を狙う企業も少なくありませんが、これを続けていくと屋台骨が崩れかねません。価格を上げていくには、消費者の行動や生活を変える新たな価値提供が必要です。

寺田 2016年に発売した新商品「野菜生活100 Smoothie なめらかグリーンmix」は、お客さまの飲用シーンを広げたことでヒットにつながりました。スムージーブームという追い風もありましたが、容器にリキャップ(再栓)式のフタを採用したことで開封しても持ち歩いたり、何度かに分けて飲んだりできるようになりました。

若松 コンビニエンスストアなどの商品はストロー式で、その場で飲み切らないといけませんでした。開封後も携帯できると非常に便利です。商品のバリューアップで値上げに成功されましたが、利益を出すにはコスト削減も重要です。

寺田 その通りです。原価低減に関しては、外部に委託していた生産を内製化するなど、生産部門を中心に進めました。加えて、社内のムダ・ムラ・ムリを徹底してなくしていきました。例えば、社長用の社用車や役員特典だった新幹線のグリーン車使用を廃止したほか、残業や会議時間の短縮、コピー枚数の制限や電子化など。改革を積み重ねていくことで、現場に危機意識が浸透していきました。グループ連結で社員は2500人に上りますから、小さなことでも成果は大きいですよ。水浸しの雑巾は、少し絞るだけでたくさん水が出てくるのと同じです。

若松 細かい部分にメスを入れると末端の社員まで危機感が伝わります。大事なのは「雑巾が水浸し」だと気付く感覚。ピンチの時は思い切った改革ができますし、トップが率先して身を切る行動を示すとインパクトがあり、スピードも上がります。まさにピンチの時こそ改革のチャンスです。

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収益構造と働く環境は改革の両輪です。
働く環境を変えないまま収益構造の改革は
進められません。

社員の意識を変える「働き方の改革」を推進

若松 就任当初から働き方や働く環境の改善にも力を入れていらっしゃいますね。

寺田 収益構造と働く環境は改革の両輪です。働く環境を変えないまま収益構造の改革を進めると残業が増えるだろうと予測できたため、20時以降の残業を禁止して「仕事は期限を決めよう」と宣言して徹底してきました。年間の労働時間の目標を1人当たり1800時間と決めました。また、時代に沿って選択制時差勤務や在宅勤務、時間有休などを導入。独自の試みである「地域カード制度」は、希望の勤務地で3年間働ける制度で、総合職であれば在職中にカードを2回使うことができます。実際に、子どもの学校やパートナーの転勤といったライフスタイルの変化に合わせて使う社員もいますし、他社からの関心も高いですよ。

若松 制度化して女性活躍や働き方改革に取り組んでいる企業は多いものの、実態として社員に浸透していないところも少なくありません。制度だけにとどまらず企業文化にするために心掛けていらっしゃる点はありますか。

寺田 有休取得率や女性社員比率を経営目標に入れており、以前は50%程度だった社員の有休取得率が80%まで上昇しました。ただ、「働き方の改革は生産性向上だ」「経営目標だ」と言っても、実際社員の意識は変わりません。当社では、「働き方の改革は生き方改革」という社員主役のメッセージを発信し、社員自身が勤務時間だけでなく、1日の時間全体をどう使うべきか考えるよう促しています。

若松 リーダーシップをとって推進してきた当事者として、社員の変化を感じますか。

寺田 変わってきている感覚はあります。実際に時差勤務で7時半に出社して4時に退社し、これまでやらなかった楽器の練習をしているという社員もいますし、それぞれ家族との時間が増えています。家族との時間というのは、これまで奥さんに任せていた家庭のことを代わりに担うことができる。家族の時間の使い方が変わってきました。

若松 まさに「働き方の改革」が「社員の生き方改革」にもつながっていますね。

寺田 会社以外の時間が増やせれば、可処分時間が増えます。例えば、学生時代にやっていたスポーツ種目で、地域のクラブチームに参加するなど、さまざまなことの両立が可能になります。

若松 一方で働き方の多様化と生産性をどう両立するかは企業にとって難しい課題です。

寺田 間違えてはいけないのは、「休みなさい」と言っているわけではありません。可処分時間のことばかり考えると、会社はうまくいかないですね。鍵となるのは「KPI」です。「あなたの仕事の成果は何か」を定量化して目標にすると評価のバラツキがなくなります。そして、公平公正な処遇。残業分の給与は仕事の成果に応じて社員に配分すること。残業が減っても成果が上がれば給与は上がりますし、逆に成果が下がった人は給与が下がる仕組みです。やる気のある人に、「楽しい」「やりがいがある」と思ってもらえる会社でないと成長していきません。また、期限を決めて成果を上げるツールとして、勤怠や業務内容を個人や会社が把握できる全社共通のスケジューラーを導入するのも良いと思います。

トマトの会社から、野菜の会社に

若松 2025年に向けた長期ビジョンには、「トマトの会社から、野菜の会社に」が掲げられています。トマトやトマト加工食品のイメージの強かったカゴメですが、ここ数年は野菜の会社というイメージが浸透してきています。

寺田 2015年に、「食を通じて社会課題の解決に取り組み、持続的に成長できる強い企業になる」という目標(ありたい姿)を策定しました。カゴメは、「健康寿命の延伸」「農業振興・地方創生」「世界の食糧問題」の解決に取り組んでいますが、まず貢献できるのは健康寿命の延伸。それには、トマトの会社ではなく、「野菜の会社」とする方が合っています。

若松 「野菜のカゴメ」と言い切った方が、ドメインや本質的価値の拡大がメッセージとして伝わります。また、2040年ごろまでに女性社員比率50%以上を目指していらっしゃいますね。女性活躍に向けての取り組みをお聞かせください。

寺田 以前は女性社員への「配慮」だと思ってしていたことが、かえって責任あるポジションに就く機会を遠ざけてしまっていた側面があります。例えば、営業職の女性社員が育児休業明けで仕事復帰した際、「大変でしょうから」と配慮して内勤に変えるなどしていました。以前と同じように働きたい社員からすれば迷惑ですよね。国内で見るダイバーシティというのは、圧倒的に女性登用の問題にたどり着いてしまうのですが、これが当社でも決定的に遅れていました。そこで「ダイバーシティ推進室」を2015年に設置。他社が行った取り組みを3年でスピーディーにやりたいと期限を決めました。現在は営業職の女性社員がラインマネージャーになったほか、本部のマーケティングスタッフの女性比率は約40%に、女性管理職も誕生するなど活躍の場が広がっています。新卒社員も6割は女性。今年で3年目となり、見事に広がってきましたから推進室は役割を終え、消滅します(2018年10月1日付)

若松 期限を決めると、集中して取り組めますから成果も上がりやすい。中期経営計画を策定されていますが、これも目標と期限が明確になります。

寺田 おっしゃる通りです。2016年にスタートした3カ年中期経営計画では今年が最後の1年。10年先になっていたい姿から3年先の目標を定めて年度ごとに現状を確認していくと、経営は非常に分かりやすい。このサイクルを各事業部に当てはめていくと、持続的成長を描きやすくなります。業績悪化を招いた最大の要因は、大企業病にあったと私は考えています。大企業になると権限委譲が進みます。これには良い面もありますが、一方で全体よりも所属する事業部を優先する部分最適も進んでしまう。各部門の全社視点が希薄となってタコツボ化し、本部と現場の経営課題が乖離していくのです。この流れを断ち切るために組織改革を行い、役割を再定義した上で10年後の会社のあるべき姿、全体の中期課題を明らかにする。これを部門にブレークダウンする流れにしたところ、経営課題のズレがなくなりました。

ビジョンを掲げることから改革はスタートする

若松 カゴメの特徴として、個人株主が多いことが挙げられます。特に、株を長期保有する個人株主比率が高いと経営は安定しますね。

寺田 私どもは「お客さまファン株主」と呼んでいますが、個人株主さまは18万人に上り、株式の約半数を占めています。文字通り「お客さま資本」の会社ですから、お客さまとのコミュニケーションを特に重視しています。例えば、個人株主さまのうち男女10名を招待して質問や意見をお聞きする小規模な株主総会(社長と語る会)を、2014年以降は全国4カ所で毎年開催。約1時間の質疑応答の後、テストキッチンで野菜尽くしの料理を召し上がっていただくアットホームなイベントで、地域によっては10人の定員に対して300人の応募が寄せられるほど人気があります。その他、工場見学会やトマトの栽培体験、料理教室など、個人株主の皆さまにはさまざまなイベントに参加していただいています。

若松 10人程度ですと距離が近く、双方向のコミュニケーションによって関係性が深まります。一人一人を大切にするカゴメの姿勢は、就職活動中の学生の間で「神対応」として有名です。

寺田 以前からエントリーシートに応募してくださった学生全員に、お礼状とトマトジュースなどを贈っています。2018年は約6000人に送付しましたが、SNSで話題となってネットニュースになったのは想定外の出来事でした。ただ、人を大事にし、感謝する気持ちは社内に浸透しており、カゴメの社風と言ってもよいでしょう。

若松 素晴らしい企業文化です。また、トマトケチャップやウスターソース、トマトジュースなど、多くの日本初を送り出したパイオニア精神もカゴメの企業文化の一つ。これを受け継ぐために取り組まれていることはありますか。

寺田 パイオニアとして市場を切り開いてきた歴史はありますが、食品はロングセラー商品ですから安住して変化に疎くなってしまいがちです。そこで、次のイノベーションに向けて新事業アイデアの社内公募を始めました。昨年は寄せられたアイデアが60件あり、最優秀賞の発案者は本部に異動して専任でイノベーションに挑戦しています。

若松 コンサルティングでは、若手社員を集めたジュニアボードの場で新商品や新事業に関するアイデアを出してもらうことがありますが、これからも商品を超えた新事業レベルのアイデア力を付けることが重要になってきます。

寺田 おっしゃる通りです。面白いのは、昨年選ばれた2つの最優秀賞は、いずれも異なる組織に属する社員が連携して出したアイデアだったこと。全体最適につながる協働、ワイガヤが出てきています。アイデアの公募はダイバーシティの一環として実施しましたが、部署を超えた関係ができていることに手応えを感じています。

若松 寺田社長は、ビジネスモデルだけでなく人の成長を促す改革に成功されました。最後に、社長業において大事にされていることをお聞きしたいですね。

寺田 経営を任されている以上、数字は重視しています。社長1年目はそればかり考えていましたし、それをきっかけに収益構造改革や働き方の改革などを進めてきました。しかし、数字はあくまで短期的な目標にすぎません。本質は「会社をどう変えるか」に尽きると思います。ありたい姿や長期ビジョンを掲げ、それに向かって会社を変えていく。簡単なことではありませんし、時間がかかります。会社を取り巻く環境変化への対応は欠かせませんが、それ以上に大事なのは社員の意識をどう変えるか。最後はそれに尽きると思います。

若松 社員一人一人が変われば会社が変わっていく。これが組織経営の本質です。私も「100年続く会社は、変化を経営することができる会社」と日々言っています。会社は変化しないと生き残れません。私も一人の社長として変化を恐れず改革を進めるリーダーシップに深い感銘を受けました。本日はありがとうございました。

カゴメ㈱ 代表取締役社長 寺田 直行(てらだ なおゆき)氏
1978年カゴメ入社。2004年営業推進部長、05年取締役執行役員、06年東京支社長を歴任し、08年より取締役常務執行役員、コンシューマー事業本部長。10年より取締役専務執行役員、13年代表取締役専務執行役員。14年より現職。社長就任以来、「社内の収益構造改革」と「働き方の改革」を主導。長期ビジョンとして、「『トマトの会社』から『野菜の会社』に。」とともに、「女性比率を50%に」を社内外に表明しダイバーシティ推進にも注力する。

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

PROFILE

  • カゴメ㈱
  • 【本社】
  • 所在地:〒460-0003 愛知県名古屋市中区錦3-14-15
  • TEL:052-951-3571(代)
  • 【東京本社】
  • 所在地:〒103-8461 東京都中央区日本橋浜町3-21-1 日本橋浜町Fタワー
  • TEL:03-5623-8501(代)
  • 創業:1899年
  • 資本金:199億8500万円
  • 売上高:2142億1000万円(連結、2017年12月期)
  • 従業員数:2456名(2017年12月現在)
  • 事業内容:調味食品、保存食品、飲料、その他の食品の製造・販売、種苗、青果物の仕入れ・生産・販売
  • http://www.kagome.co.jp/

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「第4次産業革命」の波を捉えたビジネスモデル革新


日本をはじめ先進各国では、新たな需要創出の欠如と長期的な生産性の伸び悩みによる「長期経済停滞」が共通課題となっている。特に、世界に先駆けて人口減少・超高齢社会に突入した日本は、需給両面で構造的な成長制約に直面している。

この制約を打破する最大の鍵は、「第4次産業革命」と呼ばれるIoT、ビッグデータ、AI(人工知能)、ロボットなどによる技術革新である。この波を的確に捉えて世界共通の社会的・構造的課題の解決を図り、成長へとつなげることが日本企業に求められている。

技術革新がもたらす破壊的衝撃

10年前まで、人の手で情報を入力しないと機械は動かなかった。今は機械が情報を収集、分析、発信して稼働するようになった。「モノによるモノのための、モノの情報システム(=IoT)」の出現である。また、AIがディープラーニング(深層学習)技術によって、「カンブリア大爆発」※さながらの進化を遂げている。

今後、技術革新はかつてないスピードで拡散する。これに伴い、従来になかったさまざまなプラスマイナスの影響が出てくるだろう。例えば、AIによる自動運転技術の普及は事故件数と死傷者数の減少、医療費負担の低下をもたらすが、雇用の消滅(運転手)や自動車保険事業の存続危機も訪れる。やがて「人が運転すると違法」になる時代が来るかもしれない。

ビジネスへの応用速度が加速化し、事業・製品のライフサイクルは短くなり、企業は素早い意思決定と資源投入を強いられよう。次に、今後予測される技術革新とその影響を記載する。

(1)「中抜き」の加速

製品やサービスへのアクセス、発見、流通のプロセスが著しく削減され、製品やサービスが最終消費者まで届く流れは一層短くなる。効率的な流通システムの出現と参入障壁の低下により、個人、起業家、既存企業の市場参入や新規ビジネスモデルの実験を加速化させていく。

(2)サブスクリプション(定期購読)型ビジネスモデルへの転換

メンテナンスや消耗品の供給、定額会員制など、長期的に収益を得るビジネスモデルの構築が進む。日本はハードウエアやものづくり力をてこに、現場データを持つ強みを最大限に生かし、顧客へ迅速にソリューションを提供することが差別化のポイントとなる。

(3)既存主要産業の衰退リスク増大

自動車産業を大きく変える4要素「CケースASE」(Connected:つながる車、Autonomous:自動運転、Shared&Service:カーシェアリング、Electric Drive:電動化)の進展は、技術上の参入障壁(複雑な内燃機関など)に守られてきた競争条件を根底から覆す恐れがある。またフィンテックは、既存の金融システムを侵食することも懸念される。

(4)価値の源泉となるデータ

GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)など大規模プラットフォームのバーチャルデータの利活用に加え、個人の生活情報や製品・設備の稼働状況などの「リアルデータ」を巡る競争にシフトする。これまで想像もしなかったサービスが誕生する一方、プライバシーやセキュリティーのリスクが懸念される。

(5)シェアリングがもたらす社会変革

ライドシェアや民泊など、シェアリング(共用)とマッチング(引き合わせ)の機能を活用したビジネスモデルが誕生している。例えば、ネット通販では商品の小口配送が人手不足でボトルネックになっている。そこで、その地域に住む主婦や学生が空いた時間に配送を請け負う「物流シェアリング」が動きつつある。


第4次産業革命と日本のポジション

第4次産業革命のコア技術(IoT、ビッグデータ、AI、ロボット)が全産業の共通基盤技術となれば、既存のビジネスと結び付くことで新たな価値を創出する。そのため、今まで対応し切れなかった「社会的・構造的課題=真の顧客ニーズ」への本質的対応が可能になると期待されている。具体的には、

①個々のカスタマイズニーズ対応(個別化医療、即時オーダーメード服など)

②社会に眠る資産と個々のニーズをマッチング(Uウーバーber、Airbnbなど)

③AIによる人間のサポート・代替(自動走行車、ドローン配送など)

④製品やモノのサービス化(センサー活用による稼働・保全サービスなど)

⑤データ共有による飛躍的効率化(生産設備と物流・決済システムの統合など)

――を可能にする。

いずれにせよ、新たに生み出される価値の源泉は「データ」にシフトしていく。そのため、データの取得やビッグデータ分析、利活用のサイクルを回し、真のニーズへ対応できる革新的製品・サービスを、いかにスピーディーに生み出せるかが、競争優位の鍵となる。

製造現場でのリアルデータの利活用を巡っては、情報産業の強みを生かして「ネットからリアルへ」と進む米国、また製造業の強みを生かして「リアルからネットへ」と進む欧州が、それぞれグローバル戦略を展開している。日本の場合、企業・系列・業種の壁や自前主義が温存され、グローバルなデータ利活用の基盤であるデータプラットフォームを海外に依存せざるを得ない状況だ。そのため海外のプラットフォーマーが付加価値を独占し、そのプラットフォーム上で日本企業が「総下請け化」し、ジリ貧に陥る懸念が高まっている。

今後、バーチャルデータの利活用に加えて、リアルデータを巡る「データ競争第2幕」へ移行する。その中で、良質かつ豊富なリアルデータを生み出す「現場力」を最大限に生かし、第4次産業革命をリードする競争優位の構築が求められる。


第4次産業革命における基本戦略

データ競争第2幕に移行していく今、日本企業が生かすべき強みは次の3点である。

①活用可能性が高い多様なリアルデータの蓄積(現場や市場で起きていることを丁寧に拾い上げ、新たな価値を生み出す)

②「モノ」の強さ(顧客ニーズやデータをつかむ幅広い産業、技術の集積、人材、品質に厳しい消費者などを背景に、先進技術をいち早く取り込んでモノを刷新し続ける)

③世界に先駆ける社会的課題の存在(デフレや少子高齢化などを、どの国・地域よりも早く解決することで、グローバルにソリューションを展開できる可能性がある)

政府は2017年5月に公表した「新産業構造ビジョン」の中で、日本が第4次産業革命をリードするための戦略分野として、「移動する」「生み出す、手に入れる」「健康を維持する、生涯活躍する」「暮らす」など4つを掲げている。

世界の重心が「西(欧米)から東(アジア)へ」と移りつつある中、国内は「成熟かつ安定した社会の実現」か「閉塞感の中での衰退」かの分岐点にあり、構造改革に向けた正念場を迎えている。企業経営においては、第4次産業革命の波を的確に捉え、ビジネスモデル革新を図るため、政府が掲げた戦略4分野をはじめ、自社の経営資源が有効活用できる成長分野をいかに取り込むかという視点が欠かせない。

最近の成功例を見ると、まず成長分野に参入してから経営資源や強みを生かす、いわば「マーケットイン型発想による新規参入(成長エンジンの取り込み)」を果たすケースが多く見られる。成長エンジンの取り込みに向け「新たなコア技術を増やして他分野へ進出」することも、企業の持続的発展において不可欠な経営技術といえよう。
※ 古代カンブリア紀(5億4200万~5億3000万年前)の1200年間に生物の種類が激増した現象

タナベ経営 経営コンサルティング本部 中部本部 部長 チーフコンサルタント 百井 岳男
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  • 百井 岳男
  • Takao Momoi
  • マーケティングを専門とし、経営診断・経営協力援助・集合教育と幅広く活動。マーケット調査のノウハウは屈指で、その情報分析能力は多くの企業から評価を得ている。自動車・産業機械・食品業界などの製造業を軸に、数多くの業種でコンサルティングを展開。
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