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今週のひとこと

商品・サービス、カネの使い方、人の
育て方に表れてくる経営者の哲学は、
勝ち残るための最大の武器となる企業の
個性となって昇華する。

☆ 新規事業開発に成功する企業に共通する3つのポイント

 「既存事業の収益性が低い」「既存事業は親会社や協力会社の業績に左右される」「業績が年々悪化してきている」...。

 そうした状況の中、よくないと分かっていながら、これまで成功を築いてきた既存の事業にしがみついていませんか。今回は、新規事業開発を考える上でのヒントをお伝えできればと思います。
 筆者は「新規事業開発研究会」のサブリーダーを務めています。勢いのあるベンチャー企業や、新規事業の立ち上げをスピーディーに成功させる企業を研究する中で、そうした企業には共通する3つのポイントがありました。新規事業開発を成功させるための3つのポイントは次のとおりです。

 1.自社のミッションから解決したい社会課題、実現したい未来を描くこと。

 2.志のあるメンバーとともに取り組み、顧客に仮説をぶつけ、修正を繰り返すこと。

 3.オープンイノベーションで外部のリソース(人材、サービス・技術・ノウハウ、お金)やデジタルイノベーションの活用を通じてスピードを上げていくこと。

 皆さんが、解決したい社会課題や実現したい未来はありますか。その未来を実現するために、自社のリソースだけに頼っていませんか。新規事業に取り組む際、1年~2年かけてじっくり計画を立て市場に投入していてもライバルには勝てません。

 他社の成功モデルからノウハウを学び、オープンイノベーションでスピードを上げて実現したい社会を創る。そうすることで継続的に必要とされる企業になることができるのです。ぜひ、ご一緒に社会課題を解決する新たな事業を創り上げてみませんか。

新規事業開発コンサルティングチーム
サブリーダー
森 優希

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ビジネスモデルの転換が急務である

日本経済は2020年という節目に向けて、緩やかながら堅調に推移している。一方では低収益に苦しんでいる企業も少なくない。低収益企業の特徴の1つに、コモディティー化した商品・サービス、あるいはビジネスモデルから抜け出せていないことがある。つまり、他社の商品・サービスとの差別化要素が失われた状態でビジネスを続けているのだ。こうなると顧客からの要望は「価格」になり、利益を圧迫していく。企業は利益確保のために量産することを目指すため、従業員の労働時間が長くなり、やがて組織は疲弊していくのだ。

この悪循環に陥っている企業の経営者からよく聞く口癖がある。「うちの業界は...」「うちの会社は...」である。しかし、さまざまな企業を支援している中で、特殊な会社や業界はない。大切なのは業界の常識や固定観念にとらわれない視点を持つことである。そうでなければ低収益から抜け出すことはできない。

逆に言うと、高収益を実現している企業は業界の常識にとらわれず、新たな成長へ向けたイノベーションに取り組んでいる。現在の収益構造を決定する上での最大の要素はビジネスモデルだ。ビジネスモデルとは「誰に」「何を」「どのように」、つまりどのような顧客価値に、自社の提供価値をどのような提供手段で結び付けるかである。

全てを変えることが必要なわけではなく、この中の1つでも転換していくことがイノベーションとなり、低収益を脱するきっかけとなる。

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「顧客価値」を転換する

顧客価値の転換とは、戦略的には真の顧客は誰か、つまりターゲットを明確化することである。その際のポイントはターゲット(マーケット・顧客)を絞ることである。価格ではなく価値で支持してくれるマーケットや顧客と付き合っていくことが大切である。

搬送機械メーカーA社は高い技術力と納期対応力で大手メーカーから支持されている。多くの引き合いを受けて顧客を増やしていったが、一部の顧客からは価格面での要望が強くなり、徐々に利益率が低下していった。利益は伸びないが、仕事量そのものは増える一方。社員数を増やすことで対応したが、人件費が上がり、さらに利益を圧迫した。

そこでA社では顧客別粗利益分析を実施し、見積もり段階で一定の粗利益基準を満たさない価格での受注はしない方針を決めた。結果として取引先はA社の本来の価値を認めてくれる顧客に絞られ、売り上げは減少したものの利益率は大幅に改善。現在では売上高経常利益率が20%近い水準となっている。

提供価値とは商品・サービスそのものではなく、商品・サービスを通じた顧客のソリューション(課題解決)である。

包装資材商社B社は営業の小回り対応・短納期を売りにしていたが、それだけでは価格競争から脱することはできず、中期戦略の中で「包装資材を通じて食品の鮮度・賞味期限延長」というソリューション価値を掲げた。専門営業部隊を組成して、メーカーと共同で提供価値の転換を図っている。また新システムを導入し、顧客の受発注・在庫管理までを一貫して自社で担い、顧客の業務効率化・最適化を支援。この価値を通じて顧客から選ばれる企業へと進化してきている。

リラクゼーションサロン運営のC社は、店舗に来店する一般顧客対象のビジネスの他、企業向けに「福利厚生サービス」として出張施術を行っている。人材の採用・定着に課題を持っている企業向けに従業員の福利厚生として事業を展開しているのである。提供商品・サービスはそのままに提供価値を「癒やし・健康」から「企業の人材採用・定着支援」に転換した事例である。企業向けサービスは企業との月額契約となり、賃借料という固定費もかからないことから利益率の高い事業となっている。

「提供手段」を転換する

提供手段の転換とは、チャネルを転換することである。もともと菓子の卸売業をしていたD社は低収益から脱するために自社の強みである企画力を生かして、全国の製造工場と提携しメーカーへとシフトした。しかし、自社商品を開発しても包装デザインや価格で大手メーカーに勝てず、苦戦した。

そこでD社は、販売チャネルをスーパーや小売店向け販売から全国の商業施設内の「量り売り」に転換。菓子の量り売りという販売形態は、好きなものを1粒・1個単位で選ぶことができるため、特に子どもたちの間で根強い人気がある。「量る」という手間は、大人目線で見ると"面倒な作業"となるが、子どもたちにとっては「楽しい」という魅力的な付加価値になる。

また、子ども向けの菓子類は個包装が多いが、量り売りでは個包装をする必要がない。価格は定価ではなく重さによって決まるため、一般流通で重要視される価格政策やパッケージ、陳列棚確保のための営業などが不要となる。棚の位置や価格設定、パッケージのセンスなど複数の要素で勝負を余儀なくされる売り場が、量り売りによって菓子本来の魅力だけで勝負できる場となるのだ。

また、非常に強い集客力を発揮することから、商業施設にとっても重要なテナントとなっている。つまり、このビジネスモデルでは、限られた経営資源のため包装デザインや営業に力を入れられない中小メーカーでも、自社商品の開発や製造にこだわりを持ちながら、大手メーカーと勝負できるというわけである。

D社は量り売りに転換してから、自社オリジナル商品が大手メーカーの商品より圧倒的に売れるというケースも多く、結果として他社からオリジナル商品の発注が寄せられるという相乗効果も生まれている。一般流通ではあまり見掛けない同社オリジナル商品が店頭に並ぶことで、売り場の多様性が広がり、それが店頭の魅力の1つになっているという。

2020年東京オリンピック・パラリンピックを境に国内マーケットは再び低成長時代に入り、価格競争が激化することも予想される。その中で勝ち残っていくためのビジネスモデル再構築に、今から本気で取り組んでいただきたい。

  • タナベ経営
  • 経営コンサルティング本部 チーフコンサルタント
  • 酢谷 亮介
  • Ryosuke Sudani
  • 上場企業から中小企業まで、クライアントの強みを生かす戦略立案や組織デザインを得意とする。また、人事処遇制度・人材開発体系の構築を数多く手掛け、独自の視点に基づいた風土改革や人材育成の支援も高い評価を受けている。

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ローンがやっと終わる頃には資産価値ゼロ―。日本の住宅が抱える最大の課題に無印良品が出した答えは「永く使える、変えられる」家だった。毎年2桁成長を続ける「無印良品の家」の魅力と戦略について、住宅事業を立ち上げたMUJI HOUSE専務取締役の田鎖郁男氏に伺った。

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「日本の家は資産にならない」問題意識が事業の原点

中村 「無印良品」を展開する良品計画グループにおいて、住宅事業を手掛けているのがMUJI HOUSE(以降、ムジハウス)です。耐震木造住宅のスペシャリストでもある田鎖専務は、良品計画が住宅事業を立ち上げた2002年から経営に関わっておられます。無印良品が住宅事業に参入された理由はどこにあるのでしょうか?

田鎖 当時、日本はバブル経済の崩壊によって住宅の価値が大きく下がっていました。特に木造住宅は住宅ローンの返済が終わる頃には価値がゼロになってしまう状況で、建築仲間が集まると、「これでは日本人はいつまでたっても豊かにならない」という問題意識が常に話題に上っていました。このテーマに良品計画代表取締役会長の金井政明(当時は常務)が賛同し、一緒に良品計画で住宅事業へ取り組むことになりました。

既存の住宅をもう一度資産に変える発想で、まずは入居者が集まらなくなった中古マンションのリノベーション事業を展開。さらに、新築住宅の「木の家」を2004年に発表しました。その後、2007年に「窓の家」を、2014年に「縦の家」を発売して3商品で展開してきましたが、今は4つ目の商品を検討しているところです。売上高は新築住宅とリノベーションを合わせて約45億円。そのうち約41億円を占める新築住宅は毎年20%程度の伸びが続いています。

中村 ところで、「木の家」は難波和彦氏、「窓の家」は隈研吾氏と、いずれも世界的な建築家の設計にもかかわらず広告宣伝では大々的に紹介されていません。その理由をお聞かせください。

田鎖 私の机の上には、2枚の紙が貼ってあります。(次頁【図表】)1枚目は「無印良品の戦略」と書かれた紙です。無印良品は、思想的な背景を持って生まれたブランドで、一般的なブランドとは全く異なるものです。いわば"ブランドではないブランド"であり、いつも禅問答のような境地になります。「無印良品らしさとは何か?」を問い続けながら、商品開発・新サービス企画をするときには、この戦略を必ず確認しています。

2枚目は、住宅事業の立ち上げ当時に良品計画の社長だった松井忠三(良品計画前会長)の考えを私なりに解釈して箇条書きにした、「やらないこと」リストです。例えば、「製品にブランド名を付けない」「機能を追加しすぎない」「有名デザイナーの協力を宣伝しない」といったように「やらないこと」をまとめており、今でも「無印良品の家とはどうあるべきか」を考える基本としています。これがある以上、著名な設計家の名前を出してたくさん売ろうとか、少し高く売ろうという発想はありません。大事なのは誰が造ったかよりも、家そのものの美しさや住む人にどう役に立つかということです。

中村 やることリストはよく耳にしますが、やらないことリストと経営者が日々向き合う。まさしく、「ブランド企業の経営行動」ですね。

田鎖 良品計画グループの経営の目的は生活者や社会の「役に立つ」ことであり、商品開発や仕事をする上で最も重視されています。無印良品の存在価値と言ってもよい。これを住宅に当てはめたのが、「永く使える、変えられる」というコンセプトです。この考え方と建築家が長年培ってきた概念を掛け合わせた結果、木の家はグッドデザイン・ロングライフデザイン賞を、窓の家はグッドデザイン金賞、縦の家はグッドデザイン・ベスト100に選ばれています。

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MUJI HOUSE 専務取締役 田鎖 郁男氏
1965年埼玉県生まれ。千葉大学工学部卒業後、日商岩井(現・双日)入社。木材本部に在籍し、主に米国、カナダからの木材輸入を担当。1996年エヌ・シー・エヌ設立、代表取締役社長。主な著書に『木の家の選び方5つの法則』(エヌ・シー・エヌ)、『家、三匹の子ぶたが間違っていたこと』『三匹の子ぶたも目からウロコの200年住宅』(共にダイヤモンド社)、『そうか、こうやって木の家を建てるのか。』(小学館)がある。

タナベ経営 常務取締役 中村 敏之 「次代の経営者育成なくして企業なし」をコンサルティングの信条とし、100年発展モデルへチャレンジする企業の戦略パートナー。豊富な現場経験に基づく「ビジョンマネジメント型コンサルティング(VM経営)」は具体的で、クライアント企業から分かりやすいと大きな信頼を得ている。関西学院大学卒。
タナベ経営 常務取締役 中村 敏之
「次代の経営者育成なくして企業なし」をコンサルティングの信条とし、100年発展モデルへチャレンジする企業の戦略パートナー。豊富な現場経験に基づく「ビジョンマネジメント型コンサルティング(VM経営)」は具体的で、クライアント企業から分かりやすいと大きな信頼を得ている。関西学院大学卒。

「住宅の価値を守る」役割を追求する

中村 どの家も内装を抑えたシンプルで美しいデザインが特徴です。これは、永く使える、変えられる条件の一つですが、他にこだわっている点はありますか?

田鎖 当社の考える「永く使える、変えられる」とは、お客さまにとって住宅の価値が減らないこと。その安心感を提供することがわれわれの役割です。快適であること、長く使えること、安心・安全であることは基本ですが、それらを担保するための施策として、商品を変えないことや値引きしないことは重要。商品が頻繁に変わるとメンテナンスができなくなりますし、デザインが変わると前のデザインは古くなって資産価値が下がります。

また、人によって販売価格が異なると同じ価値を維持できませんから値引きはしませんし、発売以来ワンプライスを守っています。もちろん、技術の進歩に合わせて住宅の性能は上げていますが、サッシを三重にするなど部分的な変更にとどめています。

中村 商品を変えないこと、ワンプライスであることは、理念から導き出された必然的な経営戦略とも言えます。

田鎖 目指すものが明確ですから、経営は楽ですよ。質の低下を避けるために急成長は求めていませんが、企業が死んではお客さまの資産を守れません。継続して利益を出しながら、進化していくことが不可欠です。

中村 先日、私共のフォーラムに金井会長にご出講いただきました。無印良品の商品が目指すのは「これがいい」ではなく「これでいい」。その大前提として、無印良品には生活者や社会の「役に立つ」という大戦略が存在する。事業拡大や勝ち負けではなく、極めて顧客目線の言葉を大戦略に掲げているところに無印良品の原点があるように感じました。ムジハウスにもその大戦略が貫かれています。

無印良品の戦略
簡素化と有用性の追求を通じて、世界中の人々が「これでいい」と共感・納得する『感じの良い』生活の基本と普遍を発信します。徹底的に実質本意で美しい良品を正しい情報のもと独自の環境で提供します。素を旨とする日本の精神文化と消費の未来を見通す視点から、生活者、生産者とともに良品である理由や特徴を繰り返し点検、検証する研究機構を持ちます。くらしの研究・商品企画・デザイン・生産・物流・販売・情報発信のグローバル化と高度化により、常に必要な品質と合理的な価格を実現していきます。
「やらないこと」
・製品にブランド名を付けない。 ・機能を追加しすぎない。 ・無印良品のためにデザインされたもののみを売る。 ・無印良品のためにデザインされたものを他に売らない。 ・製品に強い色は使わない。 ・製品に過剰な包装はしない。 ・有名デザイナーの協力を宣伝しない。

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好きな場所に、好きな大きさで窓を開けられる「窓の家」。住宅の「窓」の機能について見直し、窓本来の在り方を提案している。

共感×分析マーケティング

庄田 商品、価格、流通、プロモーションはマーケティングの4Pです。そのうち商品と価格を変えないことがムジハウスの基本方針ですが、プロモーションはいかがでしょうか?

田鎖 プロモーションは常に試行錯誤しています。ムジハウスは「売りつけない」が大前提ですから、営業をせずセールスプロセスを磨くことに全力を注いできました。そもそもプロモーションとは宣伝ではなく、セールスプロセス全てのことを指しています。セールスプロセスはさまざまな要素から成り立っており、1つの要素で結論が出ることはありません。個々のプロセスや関連性は常に変化しており、消費者の変化や同業他社の動向などに応じて変えていくことが肝要です。

庄田 1つの要素で結論が出るわけではなく、全ての要素の総和が住宅購入を決定付けるわけですね。

田鎖 住宅の場合、各要素の足し算ではなく掛け算で結論が出ます。例えば、10個のプロセスがあるとします。9つの評価が高くても残り1つの評価がゼロならば全体はゼロ。つまり購入には至りません。

中村 共感マーケティングの特徴ですね。一方、住宅事業の課題は、マーケティングや販売の再現性にあるといわれています。

田鎖 当社には専任のアナライザー(分析・解析の専門家)がおり、全てのプロセスの相関を統計学的に分析しています。世の中には嗅覚が鋭い天才的なマーケッターも実際に存在しますが、私にはそうした才能はありませんから定期的・定量的に見直しています。特に住宅は後になって結果が出る商品だけに、時間軸を加えた定量評価をしないと再現性が担保できません。

中村 感性やセンスを継承することは難しいので、経営者の寿命が会社の寿命となる企業は少なくありません。

田鎖 サッカーで例えると、メッシという名選手がいなくなったらチームを再現できないのではダメです。野球で言えば、長嶋茂雄氏の打率を後の選手に引き継ぐことはできませんが、データを読む野村克也氏のような人物がいればメンバーが変わっても勝率を上げることができます。統計に従った方が沈む確率が低くなる。特に、住宅は短期勝負の商品ではないので、係数を一つずつ変えながら愚直にプロモーションの改良を積み重ねているところです。

「家づくり」の本質を追求し、パートナー企業と共に成長する

石川 ムジハウスは一般的なハウスメーカーとは一線を画したコンセプト、商品展開でブランド化されています。大手ハウスメーカーと顧客特性に大きな違いはあるのでしょうか?

田鎖 購入者の平均年齢は34歳、1次取得者が中心です。職業特性も大手ハウスメーカーと違いはありませんが、ライフスタイルとしては無印良品を好きな人がほとんどで、シンプルなデザインを好み、合理的に暮らしたいという感覚を持っておられる。ですから、無印良品が好きな方からお客さまになっていただこうと考えています。

石川 新築着工件数が頭打ちの中、ムジハウスは販売数を堅調に拡大されています。要因はどこにあるのでしょうか?

田鎖 仮説ですが、ムジハウスの認知度向上が一つの要因だと捉えています。住宅購入を検討する際、最初に連想するのは大手ハウスメーカーですが、認知度が上がったことでムジハウスが第一想起に入ってきたのだと思います。

特に最近の傾向としては、住宅購入の際に集める見積もり件数が減っているようです。外部機関の調査によれば、見積もり件数の平均は1.8社。当社のお客さまアンケートを見ても約半数は他社から相見積もりを取っていません。つまり、どこで買うかを決めてから展示場などに来られるということ。であれば、より潜在状態のプロセスを重視しないといけません。

中村 近年はSNSが消費行動に大きな影響を及ぼしています。デジタル化が販売や製造の現場に与える影響は大きくなっており、VR(仮想現実)技術が住宅展示場に代わるという説もあるほどです。

田鎖 VRを使った住宅体験はすでにプロモーションに取り入れています。ただ、今のところは販売よりも製造上のメリットの方が大きいという印象があります。例えば、コンピューターにデータを入力すると建築イメージを3次元で表現するBIM(ビム)や、AIで図面化する技術は想像以上のスピードで開発が進んでいます。学習効果が得られれば、数年内の実用化も十分に考えられるでしょう。

中村 3Dプリンターで家が造れると言う人もいますが、そうなると住宅の価値が大きく変わることにもつながります。

田鎖 3Dプリンターで家を造ることは技術的に可能になるでしょうが、デジタルは方法論にすぎません。米国の建築家、フランク・ロイド・ライトの「家の本質は、屋根と壁にあるのではない。そこに住む営みにある」という有名な言葉が示す通り、デジタルか?アナログか?は資産価値とあまり関係ないように思います。本物の素材で造る価値は失われないと考えています。

日本から世界へ

中村「何をやるかは誰と組むかで大きく左右される」ともいわれています。ムジハウスは現在、青森から鹿児島まで広がっています。FC企業と協業する上で、パートナー企業に伝えていることや共有している価値観などはありますか?

田鎖 やはり本質にこだわることが重要ではないでしょうか。住宅の違いは細部に出てきますから手を抜かないことです。その上で、「衣食足りて礼節を知る」という言葉があるように、適正利益が出ないと現場は良くなりません。他産業と比較して住宅産業には未来に向けた投資をしない企業が多いのは問題です。未来に投資するためにも、粗利益率30%、経常利益率10%以上を目指す経営に取り組むべきです。これは、将来に対する責任とミッションという側面からも必要な数字だと思います。

中村 オーナーかどうかは別として、田鎖専務はオーナーシップのある経営を実践しておられます。オーナーシップ経営とは、信念やミッションがあり、10年先、そしてその先の未来に責任を持って経営する姿勢だと考えています。「住まいと暮らし」に関わる事業なら、なおのこと大切だと私は考えています。最後に、今後のビジョンをお聞かせください。

田鎖 「会社の所有者は誰か?」という議論がありますが、オーナーはお客さまだと私は思います。主役はお客さま。10年後、私はムジハウスにいないかもしれませんが、お客さまのためにも今と同じ家を国内で売っていてほしいですし、海外にもムジハウスが広がっているとうれしいですね。実際、アジア圏にはムジハウスへの要望が多くありますから、しっかりと準備をして海外展開に挑戦したいと思います。

中村 無印良品はすでにアジアやヨーロッパで受け入れられていますから、「永く使える、変えられる」というムジハウスに共感する人は少なくないはずです。日本中、そして世界でも資産価値が守られる無印良品の家を広げていかれることを祈念しております。本日はありがとうございました。

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タナベ経営 経営コンサルティング本部 コンサルタント 石川 一平
大手リフォーム会社の営業職、経営企画職を経てタナベ経営に入社。さまざまな事例をベースに、クライアント独自のビジネスモデル創りを推進。現場主義でのコンサルティングを信条とし、チャレンジ精神に基づく攻めのコンサルティングで、多くの企業のビジョン実現を支援している。

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タナベ経営 SPコンサルティング本部 部長 庄田 順一
販促戦略パートナーとして、顧客創造に向けた"Webとリアルを融合した集客プロモーション"コンサルティング活動を展開。マーケティングの戦略策定から実行・運営までをトータルでサポート。特にプロモーション企画とその推進マネジメントを通じた人材育成で、クライアントから高い信頼を得ている。

PROFILE

  • ㈱MUJI HOUSE
  • 所在地:〒170-8424 東京都豊島区東池袋4-26-3
  • TEL:0120-19-6404
  • 設立:2000年
  • 資本金:1億4900万円
  • 従業員数:58名(2018年2月現在)
  • 事業内容:無印良品の家を中心とした住空間の直営およびネットワーク事業の運営/商品企画/開発/卸および販売 https://www.muji.net/ie/

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    担当:タナベコンサルティング 戦略総合研究所