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今週のひとこと

長所連結という考え方で取り組もう。
戦略を実行するには、長所を組み合わせ、
結びつけよう。

☆ リーダーに多くのことを求め過ぎていませんか?!

 先日、ある会社の経営者と人材育成に関するディスカッションをしていた際、「若いメンバーの中に、将来リーダーになってくれると思える人材が少なくてね...」という言葉をお聞きしました。そこで筆者は、「社長の考えるリーダーの条件は何ですか」と尋ねると、その経営者が求めるリーダーの条件は10個以上もあり、当然のことですが、すべてを持ち合わせている人材を見つけることに苦慮されていました。

 孫子の兵法ではリーダーの条件に関して、「将トハ、智、信、仁、勇、厳ナリ(将軍とは、智、信、仁、勇、厳の条件を満たす人物でなければならない)」と書かれています。筆者がこれまで読んできた数多くのビジネス書におけるリーダーの条件も、おおよそこれらの5つに当てはまります。

  1.智:先を予測し、判断する力。
  2.信:偽りなく誠実に人と接する。
  3.仁:メンバーに対する思いやり。
  4.勇:決断する勇気。
  5.厳:他人および自分への厳しさ。

 リーダーとして必要な条件は多岐にわたり、孫子の5つの条件でもすべてを持ち合わせている人材を探すことは難しいでしょう。また、経営者が求めるリーダー像が明確にあるのであれば、それを身に付けることができるよう育成をすることも必要です。
 リーダーを選任する際に、求める条件が多過ぎることで、リーダーになれる可能性のある人材の活躍の機会を失ってしまうことは、会社にとってもマイナスです。リーダーに多くのことを求めすぎていませんか。

経営コンサルティング本部
舩津 哲

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タナベ経営 経営コンサルティング本部 副本部長 戦略コンサルタント アグリビジネスモデル研究会
リーダー
奥村 格 Itaru Okumura

専門分野は営業戦略、マネジメント力強化、企業体質改善など多岐にわたる。企業ブランド力や粗利益率の向上、営業マネジメント力の強化を行いながら、幹部から若手社員までの育成を手掛けるなど、クライアント企業の業績改善に寄与している。アグリビジネスモデル研究会リーダー。

1.アグリビジネス参入の目的とストーリーを明確にする

 

2.安定したチャネルと供給力

 

3.価値を高めるパートナーの存在

儲かる農業の仕組みを日々の業務から見つけていく

米国を除く11カ国による、環太平洋経済連携協定(TPP)の新たな協定「TPP11」が2018年12月30日に発効した。TPP11は人口5億人、全世界のGDP(国内総生産)の13%に相当する経済圏をカバーする。
 これにより、自由で公正な貿易体制が確立され、さらなる経済の活性化をもたらすことが期待される。その一方で、農産物の国内生産額への影響は大きい。特に、牛肉や豚肉、乳製品などを中心に、約616億~約1103億円の生産減少が見込まれている(農林水産省による試算)。 セーフガード(緊急輸入制限措置)や経営安定対策があるとはいえ、生産者においては非常に大きなインパクトだと言える。後継者・担い手不足による離農者の増加、耕作放棄地の増加など農業を巡る課題は山積しているだけに、農産物の関税削減・撤廃は国内農家にとって一見、ピンチである。が、TPP11は大きなインパクトだからこそ、ビジネスチャンスもある。 ,br/> 現在、日本人の食生活の嗜し好こうが多様化している一方、インバウンド(訪日外国人旅行)需要の増加、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)技術の発展が、これまでのアグリビジネスを一変させている。ニーズの多様化は、そのニーズに即した規格、品質を提供するコトが求められ、生産者に「定時・定量・定質」のハードルを課す。経験と勘の世界から、マーケティングによる需要予測、生育状況のコントロール、ブランディング、ガバナンス(統治)といった高度な経営ノウハウ(≒企業経営)の必要が生じてくる。
 事実、農地中間管理機構(農地バンク)の活用や農水省が展開するマッチングフェア(農業参入希望企業と企業を誘致したい地域)なども奏功し、2009年の農地法改正以降は一般法人による農業参入が増え続けており、現在は3000法人を突破した。
 新規就農者数の推移を見ても、全体の総数では7.3万人(2007年)から5.6万人(2017年)へ減少している一方で、49歳以下に限れば4年連続で2万人を超えている。また、新規就農者数(全体)を就農形態別に見ると、新規雇用就農者(農業以外から就農した人)、新規参入者(土地や資金を独自調達し農業経営を始めた経営責任者・共同経営者。親から農地の相続・贈与を受けた人を除く)が増えており、企業の農業参入はますます活発化していくと見込まれている。
※2014年度に全都道府県で設置された、農地の貸し借りを仲介する公的機関。農地を借りたい人は貸し手(農家)と個別に交渉することなく、同機構を通じて借りられる

ビジネスモデルとしての難しさ

 しかし、いざ農業に参入しても、数年で撤退、あるいは採算が合わずに事業として成立していないケースが散見される。これまで、タナベ経営のアグリビジネスモデル研究会で講演を行った数多くの経営者からも、「アグリビジネスは難しい」という話を耳にする。
 理由は、大きく3つある。1つ目は、「生き物を扱う」難しさである。植物工場に象徴されるスマートアグリ領域でも、日照や温度帯、湿度のコントロールひとつで収量や栄養価が変わってしまう脅威にさらされる。ましてや土壌を使う根菜類や畜産は、なおさらコントロールが難しい。疫病リスクが高く、人的労働に頼らざるを得ない領域が増えてくる。
 2つ目は、「価値を届け続ける」難しさである。農畜産物は鮮度が価値の生命線であり、在庫に向かない。また、いくら付加価値が高い農畜産物を生産しても、売れなければ業務用や飼料などの用途で安く売らざるを得ない。作るだけでなく、売ることも考えないと、事業計画が大きく損なわれることになる。
 アグリビジネスで高収益を得ている企業の共通点は、「十分な販路(売り先)を持っている」ことである。仮に売り先があっても、必要な時(定時)に、必要なだけの量(定量)と求められる質(定質)を届けられなければ、価値がない。小さく生めば採算が合わず、大きく生もうとすると投資コストがかさむ。アグリ参入企業は、このバランスをどう取り、価値を届け続けるかが非常に重要なポイントと言える。
 3つ目は、「価値を伝える」難しさである。アグリビジネスは、「産地」という地域と直結するため、地域にもたらす価値は「ブランド」や「雇用」「地域活性化」などと非常に多い。にもかかわらず、自社の社会的価値(地域社会に貢献する価値)を十分に伝えられないケースが多い。また、高付加価値を狙った商品開発も、市場に顧客価値(顧客が適正と認める価値)として届かなければ事業は成立しない。
 自社の経営資源は限られており、アグリのフィールドは広い。従って、本来持つ価値をきちんと「伝える」ためには、大義である社会的価値を共有し、顧客価値を共に高めるパートナーとの協業・連携が非常に大きなファクターとなるのである。

連携すべきパートナー

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素材を作る匠の技
生き物である農作物をおいしく作る技術を持ち合わせている。技術の可視化、標準化を通じて、定時・定量・定質を実現する。

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地元をブランド化する開発・加工
地元の味を再現する素材として提供。自治体と連携し、地元ブランドとして域外販売するストーリーを設計する。

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経営力を発揮する戦略設計・販売支援
ストーリーを事業計画化し、戦略の設計や販売支援などの側面から農業"経営"をサポートする存在。

アグリビジネスモデルと3つの条件整備

 農業への新規参入を考えている、あるいは現在の農事業計画を見直すタイミングがきている企業には、まず「ビジネスモデルの(再)設計」を推奨したい。"耕作放棄地があるから事業をする"というのではなく、「誰に、何を、どのように」提供するのか。特に、1丁目1番地の「誰」と「何」をはっきりさせなければ、サクセスストーリーは描けない。
 また、消費地に近い場所で生産することはアドバンテージとなるが、需要者の求める品質や安全性も分析した上で事業化をしないと、遠隔地から付加価値の高い農畜産物が流入し、地元がレッドオーシャン(価格競争が激しい市場)になってしまうこともあり得る。
 その上で、自社が発揮すべき強みとの合致検証を行う。垂直統合型の成功モデル企業は、必ずと言ってよいほど「+1(プラスワン)」の強みを付加している。例えば、プラットフォーム型モデル。契約農家と外食をつなぐプラットフォームを築くITリテラシーの高さに加え、更新情報の鮮度がなければ生産者、利用者にとって価値がない。 ビジネスモデルの構築後には、次の3つの条件整備が必要となる。

1.アグリビジネス参入の目的とストーリーを明確にする
 換言すれば、ブランドづくりである。なぜ自社はアグリビジネスに参入するのか。なぜ「この場所」で「この作物」なのか。それにこだわる理由は何か。地元に即した明確な意思やストーリーを持つ企業であるほど、後述する販売チャネル上の協力者、支援者、購買者が増え、付加価値の向上・維持につなげやすくなる。 ストーリーは、ブランドブックやホームページで紹介するとよい。長年、アグリマーケットを主戦場とする企業にとっても、自社の沿革をひもといていく、リ・ブランディングが必要になってくるだろう。

2.安定したチャネルと供給力
価値を届け続けるためには、安定したチャネルと供給力が不可欠だ。付加価値は消費者が決めるものであり、過信してはいけない。大手コンビニエンスストアでは、契約農家から全量買い取りした農作物を、品質に応じて店頭用、総菜加工用、ナショナルブランドのペットフード用に分け、それぞれ違う棚で商品として販売している。 生産者目線で考えれば、量販用、直売所用、業務用チャネル用、飼料用といった具合だ。生産物の品質誤差を踏まえた複数のチャネルをあらかじめ準備し、天候・疾病・在庫といったリスクマネジメントを行った上で、事業計画を設計することが事業存続の条件となる。
 また、供給力は企業存続の命綱となる。どの業界でも求められることだが、リードタイムが短い野菜などは、特に供給力不足が取引と直結することになる。産地の分散、収量偏差を想定した生産計画、不測事象を想定した近接産地からの供給ルートの確保など、リテーラー(小売企業)、消費者から「いつでも購入できる安心」を提供するための供給力整備も避けて通れない。

3.価値を高めるパートナーの存在
成長しているアグリ企業の話を聞くと、「地域の農業法人に協力者がいたことが幸いした」「地元の大学が一緒に商品開発を手伝ってくれた」ことが、事業を安定させた要因である場合が多い。「価値のつくり方」「価値の伝え方」が難しいアグリビジネスだからこそ、あらゆる段階で戦略パートナーの存在が不可欠である。また、地元農家と連携するのであれば、農家にとってのメリット(サポート機能)も持ち合わせることで、地元の協力を得ながら生産、ブランディング、販売が可能になる。
 アグリマーケットは、これからも変化し、その中には数多くのホワイトスペースが生まれるだろう。生き物を扱う以上、一朝一夕で成果を望むのではなく、生き物と対峙し、その価値を高めるためのパートナーと共に、着実に自社が描いたストーリーを実現させていただきたい。

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法人の農業参入、制度改正前の約5倍ペース
ネックは人材とノウハウ不足

 2009年12月15日施行の「農地制度改正」、いわゆる"平成の農地改革"以降、企業の農業参入が増加している。同改正は農地貸借を自由化し、農機と労働力があれば個人・法人を問わず誰でもどこでも農業に参入できるものだ(【図表1】)。農林水産省の調べによると、農業経営を行う一般法人は3030法人(2017年12月末現在)に上り、改正前に比べて約5倍のペースで増加しているという。(【図表2】)

【図表1】法人が農業に参入する場合の要件

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出所:農林水産省ホームページ「企業等の農業参入について」を参考にタナベ経営作成

【図表2】一般法人の農業参入の動向
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出所:農林水産省

 農業参入法人の内訳(業務形態別)を見ると、「農業・畜産業」(740法人)に次いで「その他(サービス業ほか)」(684法人)、「食品関連産業」(632法人)、「建設業」(335法人)などが続く。また、営農作物別では、「野菜」(1246法人)を生産する法人が最も多い。なお、1法人当たりの平均農地面積は2.9ha(ヘクタール)である。 このうち、参入法人数が3番目に多く、農業との親和性が高い「食品関連産業」に注目し、異業種企業による農業参入への取り組み状況を見てみよう。 日本政策金融公庫が食品関連企業(約2500社)を対象に行った調査結果(2018年10月)によると、「すでに(農業へ)参入している」企業の割合は12.7%で、前回調査(2010年=9.4%)から3.3ポイント増加した。(【図表3】)

【図表3】食品関連企業の農業参入状況

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出典:日本政策金融公庫「食品産業動向調査:農業参入」(2018年10月23日)

 ただ、農業参入を「検討または計画している」企業は4.8%(前回比0.7ポイント減)にとどまったほか、「関心はあるが検討していない」企業が24.9%(同3.0ポイント減)と、それぞれ減少した。一方、「参入に関心がない」企業は56.4%(同1.8ポインド増)に増えている。つまり、食品関連業界では企業の農業参入が進んでいるものの、新たに参入に関心を持つ企業は増えていない。
 なお、参入企業(検討・計画中の企業を含む)に農業参入の目的を聞いたところ(複数回答)、最も回答が多かったのは「原材料の安定的な確保」(69.1%)で、次いで「本業商品の付加価値化・差別化」(51.4%)、「(地産地消による)地域貢献」(43.3%)などが続く。「原材料の調達コストの削減」(24.4%)は最も少なかった。
 また、参入済みの企業に対し、「農業部門が黒字化するまでに要した期間」を尋ねたところ、5年以内に黒字化した企業は37.9%と4割を下回り、「現在も赤字」は44.7%も占めていた(P30【図表4】)。農業参入企業が早期の黒字化に手間取っている背景には、作付けから収穫までが年1回転のため農作業の習熟に時間がかかることや、農業参入の主目的が本業の安定稼働(原材料の安定的確保など)にあるため、そもそも農業部門単体の採算を重視していないといったことも挙げられる。

【図表4】農業参入後、農業部門が黒字化するまでの期間(食品関連企業回答)
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出典:日本政策金融公庫「食品産業動向調査:農業参入」(2018年10月23日)

 農業参入における課題については(複数回答)、「人材の確保」(63.2%)が最も多く、次いで「採算性の判断」(50.5%)」、「農地または事業地の確保」(39.2%)、「技術習得」(38.9%)などが続く。このうち特に目を引くのが「人材の確保」の急増だろう。前回調査(36.2%)から27ポイントも増加し、2番目に多い「採算性の判断」を約12.7ポイント上回っている。また、「技術習得」が5.5ポイント増えたことも注目に値する。(【図表5】)

【図表5】農業参入における課題(複数回答)
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出典:日本政策金融公庫「食品産業動向調査:農業参入」(2018年10月23日)

 食品関連業界においては、農業参入の動きが進んでいるものの、農業参入へ新たに関心を持つ層は逆に減少傾向にある。これは事業としての採算性の問題に加え、人手やノウハウの不足が大きなネックになっているとみられる。異業種から農業への参入に際しては、自社単独ではなく、人材や技術・ノウハウを有するプロフェッショナルのパートナーとアライアンス(戦略的提携)を組むことが最善の策と言えよう。

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