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今週のひとこと

管理の基本は自己管理にある。
社員がセルフマネジメントのできる
環境、仕組みをつくることが経営者の
仕事である。

☆ 社員の潜在ニーズを把握していますか?!

 タナベ経営は、経営者・経営幹部の方々に「企業は環境適応業」と提言しています。その環境は、「外部環境」と「内部環境」に分けられるのですが、外部環境とは市場変化や技術動向などであり、内部環 境とは組織や社員、設備などになります。マーケティング論などで顧客の潜在ニーズへのアプローチが重要なことはよく言われますが、内部環境で最も重要だとも言える社員の潜在ニーズに対するアプローチを意識している企業は、まだまだ少ないのではないでしょうか。

 社員の顕在化されたニーズの主なものに、給料や労働時間、将来の キャリアなどがあげられますが、潜在ニーズにはどのようなものがあるのでしょうか。内部環境の変化、企業の成長過程と併せて見てみましょう。

 ※(1)内部環境変化 (2)潜在ニーズ (3)対策 の順

1-(1)企業規模が大きくなる
(2)仕事のやり方を統一して欲しい
(3)マニュアル化・標準化

2-(1)ベテラン社員の退職や組織の若返り
(2)教育を充実して欲しい
(3)教育訓練の強化

3-(1)組織の専門化
(2)横のコミュニケーションを図りたい
(3)組織横断プロジェクト

4-(1)ひとりで仕事が出来るようになった
(2)ルーティン以外の仕事にもチャレンジしたい
(3)社内プロジェクトや教育担当者への任命

 これらのような潜在ニーズにマッチしている、筆者のクライアントの場合、社員が自主的に行動しているケースが多いです。そして、そのような企業の経営者からは、「マニュアルづくりが浸透している」「研修で学んだことを社内で実践している」「組織のコミュニケーションが良くなり、プロジェクトが順調に進んでいる」「先輩社員がしっかりと後輩を育てている」といった声をお聞きします。しかも、それらの取り組みは、いずれも「自主的」に行われているのです。

 社員の潜在ニーズに応えることができれば、自主的に動くようになります。あらためて社員の潜在ニーズについて考え、自主的な組織風土づくりにチャレンジしていきましょう。

経営コンサルティング本部
チーフコンサルタント
清水 哲也

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グローバル経済が大きな曲がり角を迎える今、日本が持続可能な経済成長を実現していくには何が必要か。「ポスト2020」に向けて日本企業がとるべき戦略について、大和総研常務取締役・チーフエコノミストの熊谷亮丸氏に伺った。

米中摩擦は二層構造
体制間の争いは長期化する

若松 IMF(国際通貨基金)は2019年の経済見通しにおいて、世界の経済成長率が3年ぶりの低水準(3.3%=2019年4月時点)になると予測しています。特に、米中の貿易戦争は世界経済の鍵を握る懸念事項です。

熊谷 米中摩擦は二層構造で捉える必要があります。表面的には、貿易赤字の問題。米国の対中赤字が4000億ドルに上っている点を、トランプ米大統領は当初から問題視していました。中国に対して追加関税をかけるなど制裁措置を講じていますが、その影響は「関税のブーメラン効果」によって中国だけでなく米国にも出始めています。このため、適当なタイミングで妥結する可能性は高いでしょう。一方、底流にあるのが体制間の争いです。知的財産権や強制的技術移転、産業補助金、不公正な貿易慣習、データ利活用のルール、サイバーテロなどを巡る問題の根底には、共産主義と資本主義の違いがあります。これは非常に根深いため解決にはかなりの時間が必要でしょう。

若松 東西冷戦の終焉とともに共産主義が敗退し、資本主義が勝利したように見えましたが、ここにきて中国の台頭をはじめ共産主義的経済の復活の兆しが見えてきたことへの米国の危機感が底流にあるということですね。

熊谷 共産主義が衰退した原因として、大きくモラルハザードと中央政府の需要予測の失敗が挙げられますが、ここにきてITやAIの発達によって課題が克服されつつあります。これが息を吹き返している要因であり、アリババ創業者のジャック・マー氏も予言する通り、底流にある体制間の争いは今後20年くらい続いていくと考えられます。

若松 体制間の争いは、国家の根幹に関わりますから簡単には解決しないでしょう。一方、国内では10月に控えた消費増税に伴う消費の冷え込みが懸念されています。

熊谷 2019年度に限れば、10月から3月までの増税分は約6000億円と試算されます。他方で、2.3兆円という大型経済対策が打たれるため、ネットベースで約1.7兆円は景気を押し上げる効果につながるだろうと期待されています。このため、増税時の駆け込み需要や反動減は限定的だとみています。

消費増税の影響は限定的 2019年はプラスの効果大

若松 ただ、足元では景気後退を示す指標が発表されており、選挙を前に増税を延期すべきとの意見も根強くありますね。

熊谷 メインシナリオとして、当面の景気後退は何とか回避されて、日本経済は緩やかな拡大を続けると私は考えています。なぜなら、世界経済の減速ペースは緩やかなものにとどまるとみられることが1つ目の理由。2つ目に、消費増税に万全の景気対策が打たれること。3つ目が、改元に伴い個人消費の活性化や婚姻率の回復が期待されること。4つ目は、所得・雇用環境の改善。アベノミクスの開始によって雇用環境は緩やかに改善している状況です。5つ目に、設備投資が底堅く推移すると予測されるためです。

増税に伴う消費の冷え込みを心配する声は少なくありませんが、他方で日本の財政状況が非常に厳しいことも事実です。ジョン・F・ケネディが、「屋根を修理するなら、日が照っているうちに限る」という名言を残したように、景気が良い時こそ、社会保障制度改革や岩盤規制の緩和を断行しないといけません。

若松 国民にとって耳の痛い構造改革は、経済環境が良い時でないと進められません。これは企業経営においても同じことです。

熊谷 ただ、景気を後退させるリスクがないわけではありません。「テールリスク」としてトランプ政権が迷走すると日本の実質GDPは−0.6%、3兆円ぐらい下振れするほか、中国経済が想定以上に減速すれば-0.9%。Brexit(ブレグジット)により欧州経済が悪化すれば−0.7%。国内リスクとしては残業規制による所定外給与の減少や、株価下落が個人消費を悪化させれば実質GDPを1.4%押し下げる可能性はあります。テールリスクの蓋然性は総じて低いものの、国内外のリスクが顕在化した場合、最悪のケースで日本の実質GDPは3.6%押し下げられる可能性があることを、経営者は頭の片隅に入れておいた方がよいでしょう。

若松 経営者の危機管理としては、「悲観的に準備して楽観的に行動すること」が原理原則です。その点において、最悪のシナリオも含めて想定しておくことは非常に大事なことです。

構造変化を迎える中目指すべき社会像とは

若松 私自身も経営者であり、経営コンサルタントという仕事柄、世界中、日本中の現場を飛び回っていると経済構造やイノベーションの転換期を肌で感じます。世界の勢力図や景気後退の兆候が出ている中で、今後、日本経済および日本企業はどのような分野に注力していくべきだとお考えですか。

熊谷 これから起こり得る構造変化を見据え、日本が持続可能な経済成長を続けるために何が必要かについて、経済同友会は「JAPAN2.0検討プロジェクト・チーム」を立ち上げました。私も副委員長として関わってきましたが、同プロジェクトでは、戦後100年となる2045年を念頭に、想定される社会像と日本の抱える課題解決に向けた具体策の提案・考察を行っています。これに私の考えを加えて述べていきたいと思います。まず、2045年の社会像のポイントは、1つ目が価値観・生き方の多様化です。政治のバイアスによって有利・不利が生まれる状況を極力なくし、選択の多様性を認めることが非常に重要になります。2つ目は、統合から分散へ。これまで社会は統合する方向、つまり中央集権的に進んできましたが、ITやAIの発達によって分散的な方向へ向かうでしょう。「オールジャパン」という閉鎖的な発想を捨て去り、オープンイノベーションで世界中の良い企業とつながることが必要です。3つ目は、サステナブル(持続可能)、インクルーシブ(包括的)な成長。サーキュラーエコノミー(循環経済)やSDGs(持続可能な開発目標)が大きな価値となっていきます。4つ目は、急速な技術進歩。AIやロボットとの共存共栄が重要です。5つ目が、体制間の争いの激化。先述した、共産主義と資本主義との最終的な争いが予想されます。

若松 そうした構造変化に対応するためにも、中長期的視点から日本の強みを伸ばすと同時に、弱点を克服していかないといけません。

熊谷 その通りです。日本の強みを挙げるならば、1つ目は安定的な社会。先進国で所得格差や健康問題が一番小さいのが日本です。2つ目に、長寿企業が多くサステナビリティーの面で優れている点。国内の100年企業は2万6000社に上ります。3つ目は、ものづくりの伝統。これは、IoTの初期段階では一定の強みを発揮します。4つ目が、ユーザーの要求基準の高さ。勤勉さ、繊細さ、感性の鋭さが世界一のサービス・品質につながっており、日本で売れる商品・サービスであれば、必然的に世界で売れる水準になっています。この環境は強みになります。5つ目は、文化的側面。世界一の美食都市で伝統芸能・芸術、礼節を重視する点に、世界中から尊敬と注目が集まっています。そして6つ目は、課題先進国。例えば、少子高齢化を克服できれば高齢化が進むアジア諸国のモデルになるでしょう。

若松 社会的課題を克服したビジネスモデルを輸出できれば、有望な産業にもなり得ます。

熊谷 一方、日本の課題は、決定的にダイバーシティーが足りないためにイノベーションが起きにくいこと。横並び、総花主義、フルセット垂直主義、自前主義に陥りがちですから、国を開いて多様な人材を入れてイノベーションを起こすことが重要です。加えて、リーダーシップが弱いこと。これはリーダーの責任だけでなく、嫉妬深い国民性にも起因しています。強いリーダーがいると、寄ってたかって引きずり下ろそうとする点は是正すべきですし、しっかりとしたエリート教育の仕組みを構築する必要があります。また、スピード感が決定的に不足していることも深刻な課題と言えます。

ダイバーシティーを推進しイノベーションを起こせ

若松 イノベーションが起こりにくいのは、日本の画一的な社会が大きく関係しています。その意味で、TPP11の発効を受けて自由貿易圏が拡大することは歓迎される変化です。海外との行き来の活発化は、オープンイノベーションが創発される可能性を大いに秘めています。これは日本企業にとってもチャンスと言えます。

熊谷 政府の試算では、TPP11で実質GDPが1.5%、約8兆円膨らむとされていますし、新規雇用についても46万人増えると予測されています。また、内閣府の定量分析では、輸出を行う企業ほど労働生産性が上がるという結果が出ています。つまり、世界市場における切磋琢磨がイノベーションにつながっているということ。日本企業の最大の問題は、労働生産性の低さ。特に、経済の7割を占めるサービス業の労働生産性は米国の半分といわれています。そこを米国並みに上げることができれば、200兆円超のプラス効果が働くはずです。古今東西、国を閉じて発展した事例はほとんどありません。国を開いてダイバーシティーを推進し、イノベーションを起こすことが不可欠となるでしょう。

若松 ダイバーシティーについては、2019年4月からスタートした残業規制など「働き方改革」としても推進されています。ただ、製品の発注量や納期はこれまでと同じですから、ものづくり企業などの現場では対応に苦慮しているところも少なくありません。

熊谷 特に、中小企業は難しい対応を迫られていると思います。一方で、経営者は資本主義が大きな曲がり角を迎えていることを頭に入れておく必要があります。グローバル資本主義は、株主の近視眼的な利益が過度に優先される非常にバランスの悪い資本主義でした。しかし、これからは労働者が付加価値の源泉になる新たなステージに入っていくと予想されます。その理由の一つは人工知能の発達。ほとんどの単純労働はAIに代替されていきます。そうなると、人間にしかできない対人関係能力や、過去の延長線上にないまったく新しい方向性を考える能力が、付加価値として非常に重要なものとなってくるでしょう。

若松 そうした力を社員が発揮できる環境や働き方の整備が、企業の成長要因になるということなのでしょうか?

熊谷 これまでは株主と従業員は対立の関係でした。例えば、従業員にお金を使うのは後ろ向きのコストでしたが、それが前向きの投資に変わってきています。すでに、女性活躍に優れた上場企業である「なでしこ銘柄」や、従業員の健康管理に取り組む上場企業を選定した「健康経営銘柄」などが注目されていますし、従業員が働きやすい環境を整える企業は就職ランキングが上がり人材採用が有利になっていきます。つまり、従業員にお金をかける企業は良い人材が集まり収益が上がる。収益が上がれば株価が上がって株主にとってもプラスになるのです。今まで対立構造だった株主と従業員の利害が一段高いところで一致するような、新たな資本主義のステージに入ってきたということ。働きやすい会社、多様な働き方ができる会社をつくることは大変でしょうが、そこに取り組むだけの価値は十分にあります。

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経営者は、世の中が大きく変わっていることを認識しなければなりません

社会的課題の解決は日本のお家芸

若松 SDGsは2015年の国連サミットで採択されました。「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」「質の高い教育をみんなに」「ジェンダー平等を実現しよう」「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」といった17のゴールと、169のターゲットから構成されており、次世代の産業テーマとして非常に注目されていますね。

熊谷 これからの企業にとって大事なことは、社会的課題を解決すること。SDGsは社会的課題に関して包括的なマッピングを示しており、経営者にとってバイブルのようなものだと私は考えています。

若松 SDGsが今後のビジネスの鍵を握っているということですね。

熊谷 経営者は、世の中が大きく変わっていることを認識しなければなりません。ただし、難しいことではありません。そもそもSDGsは日本のお家芸と言っていいでしょう。八百万の神が存在する日本は、もともと多様性のある社会です。また、米国や英国などのアングロサクソン諸国では会社は株主のものですが、日本では「会社は公器」と捉えられており、従業員や取引先、社会全体を含めた多様なステークホルダーのものという認識が強い。そして、近江商人の「三方よし」など包括的な資本主義を実践してきた歴史もあります。さらに、自然に対する関係も西洋と日本ではまったく異なります。西洋にとって自然は恐ろしい存在であり征服すべき対象でしたが、日本は違います。

若松 人間は自然の一部として、自然を敬い共存するのが日本の思想であり、生き方でした。そう考えると、日本の思想や文化とSDGsは非常に親和性が高いように感じます。しかし、日本ではSDGsがあまり進展していません。

熊谷 ボトムアップが一つの要因です。欧米ではトップダウンで、まずは高い目標を設定し、実行する。もし、ダメだったら変えればよいという発想ですから、取り組みにスピード感があります。一方、日本はボトムアップで現状より少し高い数字を積み上げて目標とするケースがほとんどです。大胆な取り組みにつながらないため成果が上がりにくい。これには、日本社会の無謬性も関係していると私は思います。

若松 ことなかれ主義というか、無謬性を重視しすぎるが故に、日本全体でスピード感が失われている印象は否めませんね。

熊谷 その通りです。ただ、世界的なプラスチックごみの堆積が深刻な環境汚染を引き起こすなど、社会的課題の解決は待ったなしの状況。経営者は社会の大きな潮流が変わったことを認めて、地球環境の未来のためにもトップダウンでSDGsを進めていくことが重要です。

若松 企業は何のために存在するかと言えば、やはり社会的課題を解決するため。それが企業の核であり、その実現に向けてコアコンピタンスを生かした事業を展開していくのが企業経営の王道です。これからの時代は、そうした企業活動こそ持続的成長につながっていくのだと再確認しました。本日はありがとうございました。

㈱大和総研
常務取締役 調査本部副本部長
チーフエコノミスト
熊谷 亮丸(くまがい みつまる)氏

日本興業銀行(現みずほ銀行)などを経て、2007年大和総研入社。2018年より現職。2016年ハーバード大学経営大学院AMP(上級マネジメントプログラム)修了。財務省、内閣官房、総務省、内閣府、参議院などの公職を歴任。経済同友会幹事、経済情勢調査会委員長。各種アナリストランキングで、エコノミスト、為替アナリストとして、合計7回、1位を獲得。現在、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」レギュラーコメンテーターとして活躍中。NHK「日曜討論」、読売テレビ「ウェークアップ!ぷらす」などにも、頻繁に出演している。著書多数。

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

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環境の変化が激しい現代は、「VUCA(ブーカ)」の時代だといわれている。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(あいまい性)で構成されるアクロニム(頭字語)である。一度は見聞きしたことがあるのではないだろうか。

要するに、いまは「予測不可能」な時代に突入しているということだ。そのような先の見通しが見えない環境では、予想外の出来事や変則的な事象に対し、即断即決することを恐れないリーダー人材を育成することが求められる。これは、政治や軍事の世界だけでなく、ビジネスの世界においても同じである。

しかも現在のビジネス社会は、生産年齢人口の減少に伴う「人手不足」「採用難」という問題に直面している。これを克服するために、企業はいっそうの生産性向上が求められている。特に、新卒・若手社員の早期戦力化が、今後の企業成長にとって欠かせない要因となりつつある。

企業の人材育成にかける費用と問題意識の推移

厚生労働省が毎年実施している調査で、「能力開発基本調査」というものがある。これは、国内の企業や事業所(支社・支店、営業所、工場などの拠点)に労働者の能力開発の実態を尋ねたものだ。

同調査から、企業が正社員のOff-JT(職場外訓練)に支出した費用の増減状況を見ると、「過去3年間に支出を増やした」企業の割合は2010年度以降、ほぼ右肩上がりに上昇を続けている。また、「今後3年間の見通し」についても、増加予定とする企業の割合が上昇傾向を示している。さらに、教育の実施主体である事業所でのOff-JT実施率を見ると(正社員)、近年は上昇傾向が続いている。(【図表】)

だが、能力開発を強化する動きが目立つ半面、人材育成に「問題がある」と考えている事業所の割合はいっこうに下がらず、むしろ上昇傾向を示している。これは現場での人材教育が場当たり的に行われ、体系的・計画的な研修ができておらず、従業員の能力・スキル向上が進んでいないことがうかがえる。

 

タナベ経営では、企業の人材教育予算は総人件費の3%が基本だと考えている。しかし、教育投資の比率の適否を論じる以前に、そもそも自社が計上している能力開発・人材教育の予算に見合った成果は得られているのだろうか

【図表】事業所調査/Off-JT実施率と問題意識の割合の推移

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出典 : 厚生労働省「能力開発基本調査」

成果につながる研修の3つのポイント

では、成果につながる教育研修とは、どのように進めればよいのだろうか。次に、そのポイントを3つにまとめた。

1.教育体系が自社の人材ビジョンや戦略と整合性が取れているか

私は経営者や人材育成担当者と議論を交わす中で、「人材ビジョン(自社が求める人物像)」が不明確なケースが多いと感じている。自社が求める人材や自社の戦略の方向性と、実施している教育研修がマッチするように、いま一度自社の人材ビジョンを検討し、その結果を自社の教育体系や研修内容に落とし込んでいただきたい。

2.研修の参加対象・目的・目指す成果を明確にしているか

研修受講後、「今日はいい話を聞いた」「ためになる話が多かった」という感想をよく耳にするが、"参考"レベルで終わっていることが多い。「成果につながる」研修にするためにも、まず研修の目的をしっかりと定めてほしい。

例えば、「管理職のマネジメントレベルを上げたい」という場合、次の観点を意識して研修の目的・成果を設定していただきたい。

①誰を対象者とするのか

管理職と言っても、部長なのか次長なのか、課長なのかという対象の階層をはっきりさせる必要がある。

②解決したい課題は何か

選抜メンバーに高い水準のマネジメントを学んでもらうためなのか、管理能力が低いメンバーの底上げを図りたいのかなど、研修を通じて何を解決したいのかを明確にする。

③どんな変化を起こすか

職場でのコミュニケーション力強化なのか、業績マネジメント力の強化なのか、顧客対応力の強化なのか、または管理職としての基本姿勢やマインドの向上なのか、研修によって何を変えたいのか明確にする。

これらを明確にし、研修目的をより具体的に設定することが重要だ。

3.研修の学びを業務につなげることを意識しているか

従業員が研修内容を最大限、業務で活用するためには、リフレクション(振り返り)が大切となる。研修内容をその場限りの学びで終わらせないため、次のポイントでフォローすることを推奨する。

①学びを具体的にどのような業務で生かすのか、目標を設定する

②1カ月後の実施計画を立てさせ、実践した結果を記入させる

③実施計画の振り返りを行う

目標を達成した場合、なぜ達成できたかポイントを整理し、目標が未達の場合、どのようにすれば達成できるかの振り返りを行う。研修後のフォローで、学びのPDCAを回し、研修を実務につなげることが非常に重要である。いわゆる「70:20:10の法則」、つまり人間は70%が仕事の経験、20%が上司・先輩からの指導・アドバイス、10%が研修など座学で成長するからだ。いくら自分が成長できたと研修で実感しても、実際に仕事の成果として研修効果が表れるのは10%にすぎない。

ある意味、研修は「やる気スイッチ」を入れる場なのである。今まで知らなかった知識や気付きを得て、業務に対するモチベーションを上げ、自身の業務にどうすれば生かせるかに力を入れることが重要なのだ。

教えることは「学ぶ」こと

教育・研修の目的は「学びから自身の業務で成果を出すこと」である。従って、研修後のリフレクションとして、自身の業務に学びをすぐ生かすことや、自身の知識・学んだことなどを上司へ報告するとともに、部下・後輩がいる人は後進の指導・育成へ積極的に取り組み、研修の効果を高めていただきたい。

ローマ帝国の哲学者セネカは、「人は教えることによって、もっともよく学ぶ」との格言を残している。人に教え、質問を受けて答える過程で、借り物の知識が自分の知識へと変化するからである。また、人に教えることを前提にして学ぶと、学習内容の理解は飛躍的に高まることが知られている。

人事部門の担当者は、現在の研修制度や研修内容をいま一度見直してほしい。ちょっとした工夫だけでも、研修の成果が向上するケースは思いの外、多いのである。

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  • タナベ経営
  • 経営コンサルティング本部
    コンサルタント
  • 渡邉 雄太
  • Yuta Watanabe
  • アカデミーコンサルティングチームのサブリーダーとして、クライアントの人材開発を支援するとともに人事全般のコンサルタントとして活躍中。また、経営トップの思いの具現化に向け、現場のリーダー・メンバーと一体となった企業変革を推進し、実現することを得意としている。
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