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今週のひとこと

ポジティブに考え、明るい言葉で部下と
話そう。前向きな上司は、ゴールを
目指してチームの総力を結集する。

☆ なぜ優秀な若手社員は会社を辞めるのか?!

 皆さんは「自分は若手社員の指導方法を理解している」と、自信を持って言えますか。人手不足が加速する中で、若い社員を採用することが出来ないこと、そして採用した後も離職率が高いことが企業にとって深刻な課題となっています。
 採用に力を入れることはもちろん重要ですが、やっとの思いで採用出来た若い人材がすぐに辞めてしまうということをいかに抑えるか。
 こちらの方に優先的に取り組むべきではないでしょうか。

 「ミレニアル世代」と言われている今の若い人たちが仕事に向き合う際に、どのようなことを考え、彼・彼女たちのモチベーションを上げるための秘訣はどこにあるのか。「コミュニケーション」という視点でお伝えします。
 若い人材を指導する方々の多くが「コミュニケーションのとり方」で悩んでおられます。コミュニケーションを上手くとることが出来ない最大の要因は、指導する側が自分もこう指導されてきたからと、一度指示を出したらその後は特に何も言わないといった行動をしていることで、すなわち"伝えたら終わり"の状態になっているのです。若い人たちからすると、ほったらかしにされていると思うこともあるでしょう。
 常に状況を確認し、きめ細かくアドバイスをしてあげることで、若い人たちが安心して働ける職場が出来ていきます。
 日頃、部下の表情や様子を気にかけていますか。そして指示を出した後、仕事の進捗状況を確認し、悩んでいる時には声をかけていますか。たった一言でも構いません。その一言で若い人たちのモチベーションは上がるのです。

 業績の良い会社は企業風土が良く、そのような声がけがいたるところで行われています。若い人たちの成長を確認できた時は褒めてあげ、逆に行き詰っていたら一緒に対策を考えてあげる。
 また、彼・彼女たちの考え方が間違っている時は、きちんと注意し正しい方向に導く。若い社員が早期に活躍している会社では、このような活動が継続して行われているのです。

経営コンサルティング本部
コンサルタント
井上 真里奈

 

タナベ経営 経営コンサルティング本部 部長 戦略コンサルタント 人材採用研究会 リーダー
大森 光二
Kouji Oomori

人事・組織に関する課題解決を中心としたコンサルティングに従事。前職での人事部門責任者の経験から、現場の社員にまで浸透するための仕組みづくりを重視している。「人材が最大の企業価値」であるという考えのもと、企業と個人のWin-Winを目指し、コンサルティングを展開している。

エース人材の流出による危機

 

「実は、将来を期待していた〇〇課長が来月いっぱいで退職となりました」

 

将来を嘱望された30歳代後半から40歳代のエース人材の離職の話を、2018年後半から多く耳にするようになった。これまでの転職市場とは異なる流れが生まれている。

 

2019年3月20日付の日本経済新聞の一面に「スタートアップ転職、年収720万円超上場企業越え」との記事が出ていた。「ITスタートアップへ転職した人の数は過去2年で2.5倍に増えた」とも書かれている。その背景として、「働く人の価値観の変化」「寿命が延びて人生100年時代を迎えている」「年齢を基準としない労働市場の変化」などが挙げられ、40歳代であっても、あと20年以上は元気に働ける時代の価値観の変化がうかがえる。

 

エース人材の流出に対する危機感は企業によって大きく差があるものの、そのような人材が流出した場合には採用で補おうと考える企業が大半である。しかし、現実としては次のような問題が内在している。

 

【エース人材の流出の問題】
・エースとして活躍していた人材と同レベルの人材を採用できるか?
・その人材を採用するための期間やコストはどれくらいかかるのか?
・同レベルの人材が配置されるまでの期間は誰が業務をサポートするのか?
・エースが抜けた社内の空気を回復するためにはどうするべきか?

 

このような問題が起きている中で、採用のみに目を向けて問題に対する手を打ちきれず、第二、第三のエース人材の離職につながっているケースも出てきている。前述の記事にあるように、優秀な人材がスタートアップ企業などに流れている状況からも、企業選びのポイントが大きく変化しており、かつて企業にとどまることが多かったエース人材であっても、離職をする恐れが出てきていると言える。

 

そのような離職が続くと、業績どころか企業の存続まで危ぶまれる可能性が出てくる。そこで、これからの「採用」を考える際のキーワードとして次の3点が挙げられる。

 

【採用を考える際のキーワード】
1.企業の透明性を高める
2.人的資本の最適化を図る
3.採用力を高める

 

 

企業の透明性を高める

 

新卒採用であっても中途採用であっても、人が集まる企業の特徴として「透明性」の高さが挙げられる。ここでいう企業の透明性とは、入社前後の「ギャップがない状態」であり、「自分が思った通りの仕事ができている状態」を指す。

 

本特集で取材をさせていただいた東山産業(P.15)では、学校とのパイプを生かした採用を成功させている。そのポイントは「学生に対する透明性」と「学校に対する透明性」に他ならない。

 

例えば、学生・学校に対しては次のような取り組みを行っている。

 

【学生に対しての取り組み】
・説明会時に参加学生に対して決算書を開示している
・OBやOGとの交流機会を持ち、人事担当者が席を外した状態でざっくばらんに話をしている
・聞きにくいことも聞きやすいように質問を促し、不安を払拭した状態で入社に至っている
【学校に対しての取り組み】
・初回訪問時に、先方担当者に対して決算書を開示している
・紹介をしてもらった社員が退職をした場合には、必ず報告を兼ねて訪問している
・3カ月に1回のペースで訪問し、全ての就職課担当者に会って自社の変化状況を常に伝えている

 

これらの取り組みによって、学校や学生との信頼関係が強固に結ばれ、採用の成功につながっている。また、リファラルリクルーティングで成功を収めているネクステージグループ(P.11)は、社員が知人に対して自社を紹介する会社説明資料の透明性を高めている。説明資料には次のような記載がある。

 

【会社説明資料】
・時間外労働時間、有給休暇消化率
・人材の定着率
・人事制度(賃金イメージ)

 

入社前に聞いておきたい点が明記されており、ネガティブと捉えられる面まであえて打ち出している。リファラルリクルーティングにおいては、会社の正直な姿勢に共感した人材や、入社前から労働時間や休みのイメージを持った「覚悟のできた人材」が入社を決めるというメリットがある。

 

現在の労働市場において、転職回数や年齢制限などの基準を設けている企業は以前に比べて少なく、機会があれば転職することは難しくない。そのため、入社前に聞いていた情報と入社後の状態にギャップがあると離職につながりやすく、良い情報も悪い情報も口コミ効果によって大きく影響を受ける。

 

採用が難しい現在において、確実な採用手法となる「人が人を呼ぶ」採用を成功させるためにも「透明性」が重要となる。

 

人的資本の最適化を図る

 

ある企業の社長が経営会議の場で、採用に苦戦している人事の責任者に対して、かなり強い口調で話をしていた。「"外部環境が悪い"と言い訳ばかり!そんなに採用が難しいなら、もう採らなくていいよ。在籍しているメンバーで何とかするから!」。周りの空気は凍り付いていたが、この発言は自社の大きな課題に踏み込む一言だと感じた。

 

人事責任者の姿勢を叱責することもさることながら、自社の業務を合理化するためには改善の余地がまだ多くあり、その改善も強く推進していきなさい、という各責任者に対する意思表示であったのだ。

 

これからの採用を考える上では、これまでの正社員を前提とした業務分担から幅広く適材適所考え、正社員に固執せず、多様な雇用区分を生かした業務に配置していくことが求められる。まに「人的資本の最適化」である。

 

そのためにも、自社の業務を棚卸しして、レベルや担当の割り振りを見直すことが求められる。これまでの日本の業務分担はゼネラリスト的な発想が強く、例えば、「工程1→工程2→工程3→工程4」を1人で担っていることが多い。結果的に個人の能力やアウトプット品質が高まる方で、属人化された業務に陥ってしまう。

 

【日本の業務】
工程1:Aさん
工程2:Aさん
工程3:Aさん
工程4:Aさん
→個人の能力やアウトプット品質が高まる一方で、属人化された業務に陥ってしまう。

 

一方、ドイツなどヨーロッパの国々においては「工程1はAさん、工程2と3はBさん、工程4はCさん」というように区分されている。そのため休暇も取りやすく、業務の代替も可能となるのだ。

 

【ドイツなどの業務】
工程1:Aさん
工程2:Bさん
工程3:Bさん
工程4:Cさん
→工程が区分されているため休暇を取りやすく、業務の代替も可能

 

そのような工程の区分ができれば、採用の間口も大きく広げることができる。例えば、これまではフルタイムのみの勤務であったところ、午前10時~午後3時(休憩なし)の5時間勤務が可能となったり、在宅勤務での対応が可能になったりと、さまざまな可能性が出てくる。そうなると、高齢者・外国人・主婦層など、対象者の幅を広げることができるため、採用の可能性が大きく広がる。

 

人手不足はあくまでも、年齢や性別や経験を絞った上での話であり、実際には仕事をしたくてできない層が存在している。また、日本以外の諸外国では労働力人口が増加しており、「出入国管理法(入管法)」の改正なども行われていることから、外国人雇用の追い風に乗るためにも必要な対応であると言える。

 

 

採用力を高める

 

前述のような取り組を実現させ、採用を成功させるためには「3つの力」が必要となる。ここでは、3つの力を次のように定義している。

 

【採用を成功させるための3つの力】
1.採用マーケティング力
2.採用ブランディング力
3.採用推進組織力

 

1.採用マーケティング力

 

採用マーケティング力とは、誰に対して・何を・どのように提供するかを戦略的に進めることを指す。自社の求める人材を定義する際には、「市場で優秀な人材」を採用するのではなく、「自社で活躍できる人材」「自社に合う人材」を定義することが重要である。

 

2.採用ブランディング力

 

採用ブランディング力とは、採用マーケティングを通じて得られた解に対し、自社の理念、価値観、強みを適切に発信して、求職者の入社動機を形成する活動を指す。興津螺旋(P.19)では、女性が働きやすい工場であるという自社の環境を、「ねじガール」という分かりやすい表現を用いることによって、採用市場において共感を得た。結果、女性の採用成功につながった。

 

3.採用推進組織力

 

採用推進組織力とは、採用活動を推進していくチームなど、採用成功に向けた組織的な活動を指す。採用を成功させるためには、営業活動と同様に、相手の共感や納得感を得て相思相愛の状態をつくることが必要である。応募者と直接対面する採用担当者のレベルアップが、歩留まり率や最終的な成果に直結するのだ。

 

 

変化してきた採用の考え方

 

これまでの採用戦略においては、「いかにエントリー数を確保するか」という点に議論が向かいやすく、有料広告の効果測定を行って、「〇〇ナビが良かった」「〇〇合同説明会は失敗した」などの話をすることが中心となっていた。しかし、時代は大きく変化し、「採用できた・できなかった」という議論ではなく、「雇用」というレベルで自社を考えなければならないのである。

 

これまで採用は「人事の仕事」と捉えられてきたが、これからの時代は全社を挙げて取り組む必要がある。働きやすい職場、働きがいのある職場に人が集まる。理念や事業に共感し、「絶対にこの会社でなければ自分の思いに合致しない」という求職者がどれだけ来ているか。友人、知人、自分の家族を入社させたいと思ってくれる社員がどれだけいるのか。そのような入社後の働き方にまで魅力を感じてもらえる環境づくりが、これまで以上に重要な時代なのである。結果的に安定した雇用が、業績基盤の確立につながっていくのだ。

世界で一番、人が足りない国ニッポン
人材確保の鍵は、就活生より社員の"お友達"

 

厚生労働省が2019年1月に公表した試算結果によると、経済成長と労働参加(女性・高齢者)が進まない場合、2040年の就業者数は2017年比20%減の5245万人まで減少するという。日本は、いよいよ本格的に労働力人口が減っていく時代へ突入する。

 

【図表1】 人材不足を感じている企業の割合推移

出典:マンパワーグループ「2018年人材不足に関する調査」(2018年8月8日)

 

「日本は世界一"人材不足感"が強い国」

 

総合人材サービス大手のマンパワーグループが2018年、こんな調査結果を発表した。同社は世界43カ国・地域の雇用主(3万9195人)に「人材確保に苦労しているか」を尋ねたところ、日本企業の89%が人材不足を感じていたという。世界平均(45%)のほぼ倍である。(【図表1】)

 

主要国別に見ると、ドイツ51%、米国46%、カナダ41%、イタリア37%、フランス29%、英国19%など。最も割合が低かったのは中国(13%)だった。先進7カ国(G7)の中で日本は2番目に人口が多いにもかかわらず、企業の人手不足感は突出している。(【図表2】)

 

【図表2】「人材確保が困難」な企業の割合(主要国別)

※グレーはG7(先進主要7カ国)出典:マンパワーグループ「2018年人材不足に関する調査」(2018年8月8日)

※グレーはG7(先進主要7カ国)
出典:マンパワーグループ「2018年人材不足に関する調査」(2018年8月8日)

 

この人材不足は、日本企業の存続を脅かすほどのリスクとなっている。東京商工リサーチの調べによると、2018年度中に発生した「人手不足」関連倒産件数は400件(前年度比28.6%増)にのぼり、過去最多記録(2015年度の345件)を塗り替えた。(P29【図表3】)

 

400件の内訳を要因別に見ると、社長や幹部役員の死亡、入院、引退などによる「後継者難」(269件)が最も多い。それに次いで多かったのが、人材確保が困難で事業継続に支障が生じた「求人難」(76件)だった。前年度(29件)に比べ2.6倍と急増している。人手不足による人件費の上昇や新規受注の抑制などから、経営が立ち行かなくなったケースが多いようだ。

 

そうなると、企業は新卒採用を一気に増やしたいところだが、昨今の採用戦線は"売り手市場"に拍車がかかっている。リクルートキャリアの調査機関である就職みらい研究所がまとめた「就職白書2019」によると、2019年卒の大学生・大学院生の採用計画未充足率(計画人数に対して採用人数が少ないと回答した企業の割合)は50.2%と半数を超えた。つまり、新卒採用活動を行った企業の2社に1社は予定人数に届かなかったということだ。(P29【図表4】)

 

【図表3】人手不足関連倒産件数/年度推移

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【図表4】採用計画に対する充足状況(新卒、各12月時点)

※四捨五入の関係上、合計が100%にならない場合がある出典:リクルートキャリア/就職みらい研究所「就職白書2019」よりタナベ経営作成

※四捨五入の関係上、合計が100%にならない場合がある
出典:リクルートキャリア/就職みらい研究所「就職白書2019」よりタナベ経営作成

 

中途採用で人材を補充しようにも、企業間の"求人競争率"が上昇を続け、人材争奪戦が激しさを増している。全国の公共職業安定所(ハローワーク)で求職者1人当たりに何件の求人があるかを示す「有効求人倍率」(季節調整値、2018年10~12月平均)は1.6倍。また、「新規求人倍率」(同)は2.4倍で、ともに四半期ベースではバブル景気以降の最高水準となっている。(P30【図表5】)

 

ちなみに有効求人倍率とは、当月分の求人・求職数に前月からの繰り越し分を加えて算出したもの。新規求人倍率は、当月に新たに受理した求人・求職数で算出した倍率だ。前者は景気動向と連動する一致指数、後者は雇用の先行きを示す先行指数となる。

 

人手不足の要因は、新卒や中途人材の採用難だけではない。人材サービス大手のエン・ジャパンが2019年1月に発表した調査結果によると、人材が不足している企業にその原因を聞いたところ(複数回答)、最も多かったのは「退職による欠員」(57%)だった。

 

長く働いてもらえそうな人材をできるだけ多く集め、確実に入社へ結び付けていきたい。そんな切実な願いをかなえる採用方法として注目を浴びているのが、社員の個人的なつながりを通じて人材を紹介・推薦してもらう「リファラル採用」である。

 

リクルートキャリアが行った調査では、リファラル採用の制度がある企業は7割以上を占め、「制度がなく導入する予定もない」という企業は1割程度にすぎなかった。

 

また、リファラル採用の成功に最も大きく影響する要素について、企業の人事担当者の多くは「社員の自社推奨度(人に勧めたいかどうか)」の高さが重要だと考えていたが、実際に知人や友人を会社に紹介したことがある社員は、「自社の経営情報の公開が進んでいる」ことが重要だと考えていた。

 

同社は、企業側の積極的な経営情報の提供姿勢が、社員からの信頼やリファラル採用への協力意欲につながると分析。リファラル採用を成功させるには、社内外への定期的な経営情報(全社業績、人事制度、「自社はどこへ向かっていくか」という戦略など)の発信が重要と結論付けている。

 

2019年4月22日、日本経済団体連合会(経団連)は大学側と採用や教育の在り方を話し合う「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」の中間とりまとめを公表し、新卒一括採用だけでなく、海外留学生や専門スキルを持つ転職者などの通年採用を拡大すべきとの提言を行った。新卒重視・春季一括採用から、通年採用や秋季採用にシフトする大手企業が今後増加する可能性が高い。

 

大手企業の通年採用拡大は、中小企業にとって採用にかかる期間の長期化とコスト増加につながり、人材採用がさらに不利になる恐れもある。

 

就活生への広告宣伝に多額のコストをかけ、内定を出しても他社に流れ、どうにか入社にこぎ着けても3年以内に退職するなど、新卒採用はリスクが高い。であれば、自社の経営方針に共感する社員を介して"仲間"を増やす方が、時間もコストも節約でき、内定辞退や早期離職のリスクも抑えられる。

 

全社員を人事部と兼職させ、全員で採用活動を展開する上場企業(面白法人カヤック)もある。全社一丸となって「お友達紹介キャンペーン」を展開するなど、リファラル採用への取り組みを始めてみてはどうだろうか。

 

【図表5】有効求人倍率、新規求人倍率の推移(四半期平均、季調値)

 

※新規学卒者を除きパートタイムを含む。グレーの期間は景気下降局面(山から谷)資料:厚生労働省「一般職業紹介状況」、内閣府「景気基準日付」出典:労働政策研究・研修機構「早わかりグラフでみる長期労働統計」

※新規学卒者を除きパートタイムを含む。グレーの期間は景気下降局面(山から谷)
資料:厚生労働省「一般職業紹介状況」、内閣府「景気基準日付」
出典:労働政策研究・研修機構「早わかりグラフでみる長期労働統計」

 

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