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今週のひとこと

社長は自らを磨こう。
会社はトップの器以上に
成長しない。

☆ すべて自前でやろうとしていませんか!?
――アウトソーシング活用のススメ

 「働き方改革」――。2019年は、この言葉を聞かない日がないと言っても過言ではない1年でした。年度末(3月)まで残り3カ月という企業は多いかと思いますが、働き方改革の具体的施策の一つである 「年5日の有給休暇の取得」は大丈夫ですか。

  ちなみに、働き方改革関連法における年次有給休暇の取得や時間外労働の上限規制といった決まりは、働く時間を強制的に短くすることで、生産性を上げる環境を強制的につくるという施策です。筆者が日々コンサルティングを行っている企業の経営者は、この環境変化に頭を悩ませている方が多いのが実情です。
 働き方改革の本質は「付加価値を向上させる」ことにあるのですが、残業代を中心とした経費の削減であったり、一部の優秀な人材をフルに活用して少ない時間でより多くの価値を生み出したりと考えている企業が多いのではないでしょうか。

 残念ながら、この方法だと付加価値は上がりません。ビジネスモデル自体を変えなければ付加価値は向上しないからです。しかしながら、そう簡単に新たな事業が成功するわけではありません。しかも自社だけで完結させようとすればなおさらです。
 アイデアが浮かばない、新規事業を任せることができる人材が不足しているということであれば、筆者はアウトソーシングの活用をお勧めします。コンサルタントという仕事柄、多くの新たな付加価値ビジネスを目の当たりにしますが、そのほとんどが自社内だけではなく、外部のパートナー企業と連携しています。そして、どこで自社の強みを発揮するのかを明確に決めています。不足している技術や人材を、外部から取り込むことにためらいがないのです。今の時代はそれほどまでにスピードが求められているのです。

 勝ち残る企業になるためには、付加価値の高い商品・サービスを顧客に提供していくことが必要です。少し極端かもしれませんが、付加価値を生まない業務はすべてアウトソーシングを活用するぐらいの考えがあってもよいのではないでしょうか。

経営コンサルティング本部
コンサルタント
竹貫 裕哉

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神戸大学の科学技術イノベーション研究科は、グローバルに活躍できるアントレプレナー(企業家)を育成する日本初の文理融合型の独立大学院である。同科の副研究科長を務める忽那憲治氏に、日米経営者の相違点や注目の事業承継スタイル「アトツギベンチャー」の取り組みについて伺った。

四つの先端科学系分野の融合×イノベーション

若松 昨今の産業界では、自社以外の組織と連携して技術やアイデアを取り込み、新たな価値を創出する"オープンイノベーション"が注目されています。また、成長分野の開拓や新たな雇用の担い手として、ベンチャー企業やスタートアップ企業への期待感も高まっています。このような社会ニーズに応えるため、神戸大学は科学技術イノベーション研究科を開設しました。その特色についてお聞かせください。

忽那 科学技術イノベーション研究科は、神戸大学の自然科学系分野と社会科学系分野を有機的に連携させた日本初の"文理融合型の独立大学院"です。教育研究の柱になるのが、バイオプロダクション、先端膜工学、先端IT、先端医療学からなる四つの先端科学系分野と、アントレプレナーシップ(企業家精神)に関連した社会科学系分野。これらを互いに融合させることで、先端科学技術分野における研究開発能力だけでなく、グローバルに活躍できるアントレプレナーシップを備えた理系人材の育成・輩出を目指しています。具体的には、学術的研究成果(科学技術上のブレークスルー)を、経済的・社会的な価値創造につながる新しい製品やサービスのコンセプト(イノベーション・アイデア)に昇華させる機会認識能力や、そのコンセプトを実現させる戦略(イノベーション・ストラテジー)を構築する戦略構築能力を一貫して育成します。

若松 日本の大学院においては、先進的、特徴的、戦略的な取り組みと言えます。どのような人材が在籍しているのですか。

忽那 修士課程の定員は40名で、工学、情報学、農学、理学、医療、薬学などの学部卒業生が集まります。一方、博士課程の定員は10名で、大半はイノベーションに取り組む社員が会社から派遣されたり、ベンチャー企業の創業者がブラッシュアップを目的に通ったりしています。

若松 私たちタナベ経営も、「チームコンサルティングスタイル」を求める中で、"ドメイン(事業領域)×ファンクション(機能)"というコンセプトを提唱しています。科学技術イノベーション研究科の"分野の融合"という考え方に近いと思います。

忽那 「専門家が見慣れた景色には大きな穴があいているかもしれない。そのような状況はイノベーションを妨げるから、その分野の"よそ者"こそがイノベーションのキーマンになる」という説があります。イノベーションのアイデアを創出するためには、異質な分野の組み合わせが重要です。さまざまな分野間のギャップを乗り越え、アイデアを絞り込んでストラテジーに落とし込むための技術戦略、事業戦略、財務戦略、知財戦略を指導しています。

【図表1】主要先進国の開業率と廃業率(2010年度)
【図表1】主要先進国の開業率と廃業率(2010年度) 出典 : 2014年版「中小企業白書」を基にタナベ経営作成
出典 : 2014年版「中小企業白書」を基にタナベ経営作成

廃業率の低さが日本企業の収益力の低さを示唆

若松 忽那先生の専門は、「アントレプレナーシップ」と「ファイナンス」です。この分野に興味を持たれたきっかけは何ですか。

忽那 私が大学院生の頃、ファイナンスの問題を情報経済学で解決しようとする流れが起き、大企業よりも非上場企業を対象にした方が多様な研究ができると思いました。

そんな折、マサチューセッツ工科大学(MIT)のデイビッド・バーチ教授をリーダーとして、1979年に全米で実施された調査の報告書が大きな話題になりました。そこでは従業員20名以下の中小企業と創業4年目までのスタートアップ企業が、全米の雇用の約80%を創出しているという衝撃的な実態が初めて明かされていました。これが私の背中を押してくれました。

若松 先般、忽那先生が書かれた論文の中で私が一番驚いたのは、日本と海外の開業率と廃業率が大きく違うことです(【図表1】)。2010年度の開業率と廃業率は、日本が4.5%と4.1%であるのに対し、米国は9.3%と10.3%、英国は10.0%と10.6%、ドイツは8.6%と8.4%、フランスは18.7%と12.9%(2014年版「中小企業白書」)。この数字の背景には何があるとお考えですか。

忽那 日本は開業率も廃業率も"ずぬけて低い"状況です。開業率が低いのは、新しい事業機会を捉えてビジネスを始める人が数的・比率的に少ないということですね。

廃業率の低さは「会社をつぶさないのだから、良いこと」と思いがちですが、その考えは改めるべきです。目標とするリターンが出ていないにもかかわらず、「少しでも利益が出ているうちは大丈夫」と考えて廃業に踏み切れず、細々と事業を続けるケースが非常に多いからです。おいそれと失敗を許容できない国民性が大きく影響しているのでしょう。

若松 その通りですね。どうしても開業率に目が向きがちですが、スタートアップ企業やイノベーション活力において日本が他国に後れを取っている理由は、「廃業率の低さ」にこそあると私も思います。

忽那 日本に比べて米国の廃業率が高いのは、米国の経営者の能力が劣っているからではなく、高いリターンの目標を掲げて事業に取り組んだ結果、クリアできないので廃業したという要素がかなり含まれていることを認識すべきです。そして、自社の目標とするリターンをどう確保するか、そのためにビジネスモデルをどう変革するかといった議論を重ねていただきたいと思います。

日本の廃業率が低いのは 目標利益に達しなくても、細々と事業を続けるから
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米国企業は営業利益率15%が基準値

若松 米国の経営者は高いリターン目標を掲げ、その達成具合をシビアに評価しているのですね。

忽那 米国では製造業における収益性(営業利益率)の基準値は15%と考えられているようです。資本コストを考えると、中小企業やベンチャー企業は15%以上のリターンを達成できなければ、廃業して新しい事業に再チャレンジするという流れになっています。

半面、日本の製造業の営業利益率(2011?2013年の平均値)は中小企業(資本金1000万円以上1億円未満の製造業)2.5%、零細企業(資本金1000万円未満の製造業)0.9%。米国では桁違いの収益性が求められるわけです。

若松 この数値は、常に投資効率を考えた上でビジネスモデルが成立している証拠でもあります。

忽那 例えば、ベンチャー企業は資本の大半を企業家が捻出して事業をスタートさせます。日本の場合は、創業者が資本金を負担するから「コストはゼロ」と考え、たとえ数パーセント程度の利益しか出なくても良しとしがち。しかし、ファイナンスと密接に結び付いている米国の経営者は「自分はコストを全て投資したので、それに見合うリターンを得る権利がある」と考えるのです。

若松 私は多くの企業再建コンサルティングに取り組んできた経験がありますが、バランスシート(貸借対照表)に表れた総資産と利益の関係性から「資産を全部キャッシュにして金融機関に預けた方が利益を出せる」と指導することも多くありました。まさに、バランスシートからの投資回収やROA(総資産利益率)に対する意識が、日本の経営者は希薄なように感じます。

忽那 企業家が全リスクを負っている場合は見合ったリターンを得て当然なのに、日本の経営者はそれをためらってしまう。ビジネスプランニングでは、リスクとリターンを調達側と運用側でどうバランスさせるかが要点になりますが、「資本コストは自分が負担しているから、リターンゼロでもいい」という発想を持ってしまうのです。

損益計算書については厳しくチェックしても、バランスシートの見方を知らない経営者が多いのは、誠に残念なことです。

【図表2】ベンチャー型事業承継を実施する際のポイント
※【図表2】 ベンチャー型事業承継を実施する際のポイント出典 : 忽那憲治著『アトツギよ!ベンチャー型事業承継でカベを突き破れ!』(中央経済社)より一部抜粋
出典 : 忽那憲治著『アトツギよ!ベンチャー型事業承継でカベを突き破れ!』(中央経済社)より一部抜粋

アトツギベンチャーが地域経済を創生する

若松 私たちタナベ経営は、スタートアップやアントレプレナーの活動を日本においても盛んにしたいと考えています。2019年5月には、多くのスタートアップを支援しているプラグ・アンド・プレイジャパンと提携を開始しました。日本におけるスタートアップやアントレプレナーは増加傾向にあると思われますか。

忽那 まだ増加傾向を示しているとは言えませんが、企業や行政に勤めていてもアントレプレナーシップを抱き、発揮するチャンスをうかがう人材もいますから、期待したいですね。神戸大学でもスタートアップやアントレプレナーに関する講義を受ける学生が増えています。

若松 日本の会社はエンジンそのものが古くなっている会社が多いので、アントレプレナーシップやイノベーティブな考え方を持った人材を取り込む度量と仕組みが求められると思います。アントレプレナーが立ち上げたスタートアップ企業は、ファイナンスとどのような関係を持つべきだとお考えですか。

忽那 まず、「ファイナンスにおいて、万能の資金の"出し手"はいない」ことを理解するのが大事です。スタートアップの創業期から成長期、成熟期を経て衰退期に至る成長ステージごとにリスクが変わるので、ステージに応じたファイナンスを選ぶ必要があります。

ファイナンスは、金融機関や投資家から資金を借り入れる「デット・ファイナンス」と、株式を発行することで資金を調達する「エクイティ・ファイナンス」の二つに大別されます。エクイティ・ファイナンスは一般的にイメージしにくく、銀行の担当者でも知識が乏しい場合が多いので、デット・ファイナンスに頼りがちです。しかし、本来は借金・負債での調達と株式での調達のメリット・デメリットを理論的に分かった上で、自社の事業のステージに応じた資金の調達先をプランニングできるようになるべきです。

若松 忽那先生は、ご自身が取締役を務めるイノベーション・アクセル(大阪市中央区)において、ファミリービジネスが持続的に成長するためのサポートをなさっています。提唱されているベンチャー型事業承継を実施する際のポイント(【図表2】)を総括して、どのようなことが重要だと思われますか。

忽那 最大のポイントは、経営者がアトツギ(後継者)とともに既存のビジネスモデルをシビアに見直すことができるかどうかです。それは自分のやってきたことの否定にもつながり、親子関係を悪化させる危険性があることを覚悟してください。

その上で、自分が退いた後も既存の製品・サービスが継続する可能性を真摯に探り、継続困難という評価が出たら、ビジネスモデルの改善をアトツギに託しその取り組みを支援していく――。そのような強靭な意志を持った経営者でないと、うまくいかないでしょう。

若松 私も「不況・赤字・承継は、会社を変えるチャンス」と言っています。アトツギが活躍する事例を教えてください。

忽那 収納用品「突っ張り棒」を中心に事業を展開してきた平安伸銅工業(大阪市西区、1952年創業)は競争激化で商品単価が下がり、売上高はピーク時の3分の1以下まで落ちていました。新聞社を辞めてアトツギになった竹内香予子氏は、私の主催する「アントレプレナーファイナンス実践塾」に入塾。新規ビジネスの可能性を探るために主力商品である突っ張り棒について、試行錯誤しながら改善点を探り、突っ張り棒をベースにしたデザイン性の高いインテリア商品を相次いで発表しました。結果、15億円まで落ち込んだ売り上げを2017年度は26億円まで回復させたのです。「突っ張り棒の機能性が自社の強み」と気付いて原点回帰し、若い感性のデザインを施すことで価格競争から抜け出して、収益性を上げることができました。

若松 「健全な危機感」を持ちながら、現実をしっかりと見つめ、強みの本質を見極めることが「アトツギベンチャースピリッツ」には必要なのですね。既存の事業を否定しつつ、強みに回帰して新たにつくり直す――。アトツギベンチャーを支援するプログラムに期待が高まります。本日は貴重なお話をありがとうございました。

神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科 副研究科長・教授
経営学研究科 教授(兼任)忽那 憲治(くつな けんじ)氏

1964年愛媛県生まれ。1994年、大阪市立大学大学院経営学研究科後期博士課程修了。博士(商学)。財団法人日本証券経済研究所研究員、大阪市立大学経済研究所専任講師、助教授、神戸大学大学院経営学研究科助教授、教授を経て、2016年より現職。専門は、アントレプレナーファイナンス、アントレプレナーシップ、ビジネスプランニングとリスク分析、中小企業金融。Journalof Finance、Journal of FinancialEconomics、Review of FinancialStudies、Journal of Banking andFinanceなどの海外トップジャーナルに論文多数。著書に、『アトツギよ!ベンチャー型事業承継でカベを突き破れ!』中央経済社(2019年)、『地域創生イノベーション』中央経済社(2017年)などがある。また、㈱イノベーション・アクセルの取締役(共同創業者)を務める。

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

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【図表】全国社長の平均年齢推移
出典:東京商工リサーチ「全国社長の年齢調査」
出典:東京商工リサーチ「全国社長の年齢調査」

今後10年に全国で約半数の社長交代が終わる

団塊世代の社長交代が進まず、社長の平均年齢は上昇し続けている。東京商工リサーチの調査によれば、2018年の全国の社長平均年齢は前年より0.28歳伸びて61.73歳と、最新の調査においても最高年齢を更新した。(【図表】)

中小企業経営者の引退時期は68~69歳と推察される(中小企業庁「2018年版中小企業白書」)。つまり、今後10年間で事業承継がさらに加速し、新たな経営者が誕生することになる。そこで、後継経営者がまず手を付けなければならないことは何か、何を優先的に実施すればよいのかについてお伝えしたい。

中長期ビジョンを考え明示する意義とは

後継経営者は、まず何をすべきか?それは、後継者自身が自社の現状を正確に把握することである。自分自身の目で社内を確かめること、いわゆる「現場主義の徹底」から始めるべきだ。

大切なのは良否や優劣ではなく、あくまで事実として、自社がどのような状態で、どこに課題を有しているのかを認識することである。これを前提として、自分自身が描く10年後の会社の姿を考える。

どのような会社になっていたいか?それは、定性ビジョンと定量ビジョンの2つで示すとよい。

例えば、「○○分野でナンバーワン企業になる」という定性ビジョンを掲げるとする。仮に、○○分野の市場規模が1000億円として、ナンバーワンシェア30%を獲得するためには、売上高は300億円が必要だ。そこで、定量ビジョンは「売上高300億円、売上高経常利益率10%以上」と設定する。

このように、定性ビジョンを定量ビジョンで具体化すると、社員は達成すべき目標をイメージしやすくなる。ゴールが決まれば、あとはその目標を達成するために、どのような戦略を立案するか検討する。

社員の大半は、新しい社長が会社をどのように導いていきたいのかを知る機会がない。新社長が何を考えているのか、分からないことの方が多いだろう。

その疑問に答えるのが、中長期ビジョンである。中長期ビジョンこそ、経営者が社員に振り出す"約束手形"なのである。

A社の中長期ビジョン策定事例

では、具体例として、私が関わったA社の中長期ビジョン策定事例を紹介しよう。

A社は創業50年、売上高200億円の電子・半導体関連商社だ。創業者であるカリスマ経営者の下、着実に業績を伸ばし、全国に展開するまでに成長した。

創業経営者が圧倒的なリーダーシップを発揮する企業は、いわゆる「文鎮型組織」になりがちである。A社も例外なく、そうであった。役員はいるものの、全ての意思決定は創業経営者が担うため、自律的に動けない受け身体質の役員や社員が多い企業風土だった。

創業経営者の息子が社長に就任し、これから経営のかじ取りをしていくに当たって、私は相談を受けた。その時に伝えたのは、次の3点を自分自身の言葉で考え、明確にすることだった。

① 新社長として実現したいことは何か?
② これまでの創業経営者から受け継がねばならないものは何か?
③ 新社長として新たに生み出すものは何か?

そして、これらを実現する期限を10年という時間軸で設定し、直近3年までと、5年後までにやるべきことの優先順位を付ける。

A社の後継経営者は、自身の思いを経営理念に込めたいとの意思を持っていたため、まず経営理念の見直しを行った。この際に大切なポイントは、次の3点である。

① 現在の経営理念は、これまでのA社の企業風土の一部であり、全否定すべきではない
② 今まで会社を支えてくれた古参の人材にも配慮しつつ、今後コア人材として貢献してもらう社員へのメッセージでなければならない
③ 全社員に理解しやすい言葉を使い、伝えることに主眼を置く

「経営理念を見直すプロセスを通し、後継経営者としての覚悟や、これから経営を担うための価値判断基準をしっかりと持つことができた。この価値判断基準があるからこそ、自社の戦略がより実効性のあるものになった」

A社の後継経営者からは、後にそう評価いただいた。

策定するだけでなく浸透させることが重要

産業構造や価値観の急速な変化により、今の常識が近い将来、非常識になる可能性は、ますます高くなっている。そのような経営環境下においては、過去の延長線上に未来を考えるのではなく、10年先の未来を想定し、そこから逆算して今なすべきことを考える必要がある。

ただ、環境がどう変わるかは分からない。そのため、「中長期ビジョンを立案する意味がない」、また「ビジョンでメシは食えない」という意見もよく耳にするが、発想が逆である。分からない未来だからこそビジョンを立案し、それをよりどころに経営をしなければならないのだ。

また、ビジョン策定だけで終わってはならない。このビジョンを全社員に浸透させることこそが本来の目的である。

では、浸透させるとはどのような状態か?それは、中長期ビジョンの内容を全社員が共有し、理解し、日々の活動として実践している状態のことである。

前述したA社では、新社長が自ら全拠点を回り、自身の言葉で、策定した中長期ビジョンの趣旨・目的を全社員へ伝えた。社員への思いが詰まった行動であり、トップとしてビジョン実現に懸ける覚悟の表れである。この行動こそが、社員が新社長の本気度を知るバロメーターとなった。

これから事業承継を控える後継経営者の皆さまは、自身の思い描く未来を、まずは中長期ビジョンとして形にして明示いただきたい。社員に自分の覚悟を示すと同時に、策定プロセスそのものが、今後の経営者としての幅を広げる取り組みとなる。一歩ずつ着実に足場を組み上げ、自社とともに経営者として成長されることをお祈りする。

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  • タナベ経営
  • 経営コンサルティング本部
  • 本部長
  • 福元 章士
  • Shoji Fukumoto
  • 経理・財務を専門分野として、建設、住宅、小売、自動車部品製造業、紡績業など幅広い業界でコンサルティングを展開。モットーは「現場で把握する"生きた数字"の意味についての理解を前提に物事を考えること」「1社でも多く経営がうまくいくよう誠心誠意協力すること」。関西学院大学卒。
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    担当:タナベコンサルティング 戦略総合研究所