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今週のひとこと

経営改革は空気づくりである。
人を変えるのではない。
企業集団の空気を変えるのだ。

「やるべきこと」と「やらないこと」を決める

 「国税庁統計年報」(2017年度版)によると、日本企業の4分の1は2~3月期決算だそうです。資本金1億円以上の企業に限れば約6割に上ります。この2月は、そうした多くの企業が新年度の経営方針を検討する時期に当たります。

 ところで、経営方針の策定では、得てして「やるべきこと」をあれもこれも詰め込み過ぎて、肝心の新年度に消化不良を起こす企業が少なくありません。それを避けるための参考事例として、先ごろ新年度の方針を決めたA社を紹介しましょう。
 A社は方針の策定に当たり、新年度でやりたいことを社長にピックアップしてもらったところ、「新規事業の検討」や「既存事業の強化」などの項目に加え、「働き方改革と生産性向上」が挙がりました。こ れに関して、社長は強い問題意識を持っていました。前年度の経営方針で「残業削減」を打ち出したものの、目立った成果が上がらなかったためです。

 「毎週平日の一日を『ノー残業デー』にしよう」など、やりたいことを話す社長。それに対し筆者は、「新しい取り組みを始めるのも結構ですが、やるべきことを増やすだけだと、社員の負荷が重くなりませんか。やりたいことだけでなく、"やらないこと"も決めて負荷を軽減しましょう」とアドバイスをしました。
 そこで社長は、やらないことも方針に盛り込むこととしました。 「やらないことは事業部ごとに決めさせたい」と考えた社長は、事業部長(3人)を集め、「やらないことを三つ決めて提案してほしい」と指示を出しました。3人は早速、やらないことをそれぞれの事業部内で検討し、社長へ報告しました。その中で共通事項として挙がったのが、「サービス残業をなくす」ことでした。

 時短や効率化が求められる中、属人化解消に向けた業務の複数担当制、また業務調整や進捗確認のための打ち合わせの増加など、働き方改革の影響で社員たちはやるべきことが多くなっていました。そのしわ寄せから終業時刻までに仕事が終わらず、サービス残業が増えていたのです。3人の事業部長は、会社の方針として、それをやめさせたいという意向でした。それを踏まえ、社長は新年度方針に「サービス残業の撲滅」を入れることにしました。

 経営方針では「やりたいこと」が明確になる一方、往々にして「やるべきこと」ばかりが増えがちです。ぜひ、「やらないこと」も方針の中に取り入れて、社員に発信していただきたいと思います。

経営コンサルティング本部
チーフコンサルタント
水谷 好伸

CONSULTING METHOD

経営者たちと持続的な成長をコミットする

経営戦略・経営計画を実行・実現していくのは人である。しかし、コンサルティング先の企業で社員アンケートを取ると、人事制度への満足度は概して20%程度だ。「人事制度が経営に寄与しているか」という質問に至っては、肯定的な回答率が10%を超えることはない。

では、なぜ人事制度が機能しないのだろうか。結論から言えば、「目線の違い」だ。

例えば、経営者の目には、「なぜか社内全体がどんよりしている」「社員のモチベーションが低く、だらだら仕事をしている」「生産性が上がらないのに、いつも労務トラブルに見舞われている」と映ることが多い。

一方、社員からすれば、「経営戦略やビジネスモデルの失敗を、残業でカバーさせられている」「日々の業務に追われ、自社の将来など考える余裕もない」「なぜ理不尽な命令ばかりする上司に従わないといけないのか」「職場の人間関係で心が苦しい」――。そんな思いでいっぱいである。

結果、両者の思考は停止。前年度を踏襲するだけの足し算(今あるものを増やす)や掛け算(前年比で物事を考える)の経営戦略・方針となり、市場の変化とライバルの台頭を恐れながら毎日を過ごす羽目になる。

こうなると明るい未来が見えず、離職率は高まり、経営陣の焦りからさらに社内の空気は悪くなり、最悪の場合は不正やハラスメントが横行する。それが労働災害にもつながる。良いことは何もない。

近年の不祥事(【図表1】)を見ても、それは明らかであろう。そして誤解を恐れずに言えば、これらは"氷山の一角"どころではない。

もともと、「経営者」と「社員」は全く異なる。経営者が資質として持つ、孤独の苦しみに耐える胆力、目線の高さ、スピード感などをまねすることは、社員にはできない。

社員が1日8時間働くとすると、経営者は24時間、誰よりも真剣に自社のことを考えている。ということは、1日が3倍以上の濃さとスピードで進んでいるわけで、そもそも目線が違い過ぎるために分かり合うことが難しい(余談だが経営者が「スピード感」と表現することを、社員が「朝令暮改」と言う原因はこれである)。コーポレートガバナンスにおけるプリンシパル・エージェント問題※は、中堅・中小企業(特にオーナー企業)においては、経営者と社員間で発生していると言える。

※プリンシパル(依頼人)の利益のために委任されたエージェント(代理人)が裏切る問題。例えば、株主(依頼人)の利益のために動くはずの経営者(代理人)が、自身の利益を優先した行動をとってしまうことなど

【図表1】近年の企業・団体不祥事

2017.10 商工中金 不正融資に関与した職員約900人を処分。経営陣が需要を超えるノルマを支店に課していた。全国100店舗のうち約9割で不正が発覚し、件数は4000~4500件に上る。
2017.10 NHK 女性記者(31歳)が2013年7月に心不全で死亡したのは過重労働が原因だったとして労災認定された。ピーク時の時間外労働は月150時間を超えていた。
2018.2 大津市 約1年間にわたり、週に2、3回、周囲に聞こえる大声で上司から叱責を繰り返された40歳代の男性職員が、精神安定剤を大量に服用して急性心不全で死亡。遺族に損害賠償金800万円を支払うことで合意。
2018.2 シチズン電子 照明用の発光ダイオード(LED)部品の試験データを改ざんし、実際よりも高い性能数値を記載していた。売り上げ至上主義が慣行となっていたことが原因とされた。
2018.4 クリエイト・レストランツ・ホールディングス 複数の店舗で人件費などの経費が不適切に他店に振り替えられていたため、決算発表を延期。複数の管理職が、不採算店の閉店を恐れて損益のかさ上げを行った。
2018.6 ゴンチャロフ 2016年に自殺したゴンチャロフ製菓の社員が労災認定された。入社時から上司より罵声や叱責を浴び続けた男性がうつ病を発症。他にも時間外労働(月60~80時間のサービス残業)を隠蔽していた。
2018.7 日本郵便 後輩への暴行、傷害の疑いで職員2名が逮捕された。ガスコンロであぶったトングを首筋に押し付け、全治1週間のやけどを負わせた。後輩が仕事でミスをするたびに「辞めろ」「死ね」と暴言を吐いたり、殺虫剤をかけたりしており、パワハラやいじめが繰り返されていた。
2018.7 オリエンタルランド(ディズニーランド) 着ぐるみアクターの安全配慮義務を怠ったとして社員が提訴。上司や同僚、後輩からのパワハラもあったという。
2018.7 東京オリンピック・パラリンピック関連 2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、東京都内の再開発による建設工事が急ピッチで進められる中、再開発に携わった設備製造・設置会社の社員が月127時間の残業で過労自殺した。他にも月190時間の残業で過労自殺した男性が労災認定されている。
2018.7 東日本銀行(コンコルディア・フィナンシャルグループ) 複数の支店で、算定根拠のない多額の手数料を顧客に請求した。また、ある副支店長が営業成績を上げるために不適切な融資を行い、約7億円の損失を出したケースもあった。
2018.8 エステサロン「スイート・ピア」 元社員が月80時間を超える残業があるなどの過酷な労働実態について申立書を提出。ハーフという理由で店長から人種差別的なパワハラを受けた。
2018.8 スルガ銀行 融資総額の約3分の1に当たる1兆円規模の投資用不動産融資が、不適切な手続きによって実行されていた。営業担当者は、経営陣から「有担保ローンで毎月1億円の新規融資」という厳しいノルマを課せられていた。

価値観を一致させる Sense of Ownership

意識やモチベーション、価値観の違いなどは、感情的なことではあるが重大な問題だ。なぜなら、それをすり合わせなければ、何をやっても意味を成さないからである。どのような戦略も、制度も、だ。

この難問を解く鍵が、まさに本稿のタイトル「Sense of Ownership(センス・オブ・オーナーシップ)」である。"当事者意識"とも訳されるが、ここでは「会社の理念・目的・行動規範と、個人の目的・価値観が一致していること」を指す。

例えば、私は以前に勤めていた会社で、約50億円の受注をいただいたことがあった。有頂天になって社長に報告すると、「それは理念に反するのでやらない。断るように」と一蹴されてしまった。私は誰よりも理念を大切にしていたつもりだったので、どこでそれを忘れてしまったのか、といまだに反省している。

もちろん、こうした判断は、利益が出ているからこそできることだ。しかし、逆に言えば、うまくいっている企業はこれができる。そうした企業は、離職率と採用コストが極めて低く、事業がストックビジネス(サブスクリプション型)で収益基盤が安定しているケースが多い。そこに多くの努力とリソースを投下しているため、精神的に余裕があるのも特徴と言えるだろう。

ある大手ホテルの人事戦略構築プロジェクトに携った際、最も驚いたのは、全体的に賃金が低いことだった(課長が一般的な新卒社員程度の給与で働いていた)。しかし、社員はいつも笑顔で開発・販売に勤しみ、顧客から愛され、みんな仲が良く、休日も一緒に過ごし、絶対にサボることなく、課題があれば集まって解決している。当然、業績も良い。新規事業も順調に推移していた。

なぜ、そこまでモチベーションが高いのかと聞くと、自社のミッションや企業姿勢への共鳴が理由だと誰もが話してくれた。自分がやりたいこと、目指すことと、自社が目指すことが一致していれば、人は喜んで働くのだと思い知らされた事例である。

Sense of Ownership 実現への3ステップ

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では、どのようにしてSense of Ownershipを実現するのか。まずは、自社の目的(理念やミッション、パーパスと呼ばれるような最上位概念)を見直すことだ。

理由は二つある。一つ目は、「社会貢献・社会福祉を第一に~」などと長々言われても、社員の心には響かないため。二つ目は、「設定当時の目的」が「今の目的」に適していないことが少なくないためだ。

ある企業の理念は「お客さまの快適の実現」だったが、モノがない時代に設定された理念だったため、現代の日本の若手社員の心には何も響いていなかった。そこで思いはそのままに、今の時代における「快適」を再定義した。

その後、社員とコミュニケーションを取りながら理念に共感してもらうとともに、採用においてはその共感を絶対条件とすることで、Sense of Ownership――会社と個人の目的が交わり始めた。

次に、方向性をより強化する、または転換する段階に入る。例えば、自動車メーカーは「移動体製造業」から「移動サービス業」に転換している。このように、大きな転換があると、これまでの常識で働いている人々は多くの変化を迫られ、残念ながら古参社員ほどそれに付いて行くことができない。

ここで経営者は、「何があっても突き進む」のか、「ゆっくりと自社を変えていく」のかを選ぶことになる。判断のポイントは、財務的な緊急度、経営環境、経営者や会社の希求度、社員の希望、採用市場などだ。

包み隠さず事実を言えば、ここである程度、退職者が出ることを恐れていては改革にならない。例えば、サイボウズは一時期、離職率が28%にまで高まったが、不断の改革を実現したからこそ今の姿がある。

最後に重要なのが、見えないものに投資する勇気だ。これまでの組織論では、【図表2】の左側だけが「見えているもの」だった。

【図表2】組織・人事における「見えているもの」と「見えないもの」

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しかし、「見えないもの」(社員同士が語り合う時間、モチベーションを上げること、より良い未来を考えること、社員の生産性を上げるためのITデバイス・システム導入など)に費用を使うことができる会社は、驚くほど少ない。社員が幸福な企業、創造性が高い企業、心理的な安全度が高い企業は業績が良い、イノベーションが起こりやすいなどのデータはあるが、自社においてそれを保証するものがないからだろう。

とはいえ、ここにリソースを割かなければイノベーションは起きない。非連続な変化を生み出すことができるのは人だけだ。加えて投資対効果も高い。このような例えはあまり使いたくないが、年収500万円の社員が利益1億円の事業を1年で実現すれば、単年度の投資対効果は実に2000%ということになる。

現代においては、社員が自らを生かし、喜々として毎日を過ごしてくれること自体が、会社の目的の一つではないだろうか。甘すぎると思われるかもしれないが、こうした変化は前向きに捉えたい。楽しいところ、素晴らしい仲間や目的があるところにしか、人は集まらないのだから。

タナベ経営 経営コンサルティング本部 部長 戦略コンサルタント 山村 隆 Takashi Yamamura

多種多様な業界の経営戦略構築から展開、人事制度構築から運用まで、幅広いコンサルティングで活躍中。経営幹部クラスの人材育成においても、経営視点からの指導が高い評価を得ている。ウェルビーイングと利益を同時実現する「人事研究会」のリーダーとして、全国のモデル企業の最新情報を継続的に研究、発信している。著書に『社員も顧客も幸せになる会社のつくり方』(共著、ダイヤモンド社)。経済産業大臣登録 中小企業診断士。WACA 認定 上級ウェブ解析士。

MARKET STATS

日本は本当に「先進国で最も不幸な国」?世界幸福度ランキング―― 日本58位

近年、さまざまな研究結果から、幸せな従業員が多ければ多いほど企業経営は安定することが分かってきた。とはいえ、日本で「私は幸せだ」と自覚する人は、一体どれだけいるのだろうか。

国連の「持続可能開発ソリューション・ネットワーク」が発表した最新版(2019年)の世界幸福度ランキングによると、トップはフィンランド。2年連続で「世界で最も幸福な国」に選ばれた。次いでデンマーク、ノルウェー、アイスランドなどと北欧諸国が続いた。上位20カ国のうち2カ国(12位コスタリカ、13位イスラエル)以外は全て欧米諸国が占めた。(【図表1】)

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出典:国際連合・持続可能開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)「世界幸福度報告書2019」

さて、日本はどうか。日本人の幸福度は世界156カ国・地域中、なんと過去最低の58位だった。同ランキングの集計は2012年から始まったが、日本はこれまでの最高位が43位(2013年)で、実は上位20カ国に入ったことが一度もない。しかも、2016年以降は50位台にとどまったままだ。当然ながら、先進7カ国(G7)では圧倒的な最下位である。

それにしても、世界第3位の経済大国で、世界最長寿の国でもある日本が、治安の悪さで知られるコロンビア(43位)や経済危機を繰り返すアルゼンチン(47位)よりも幸福度が下回るというのは、多くの日本人が納得しないだろう。

そもそも、このランキングは米ギャラップ社が実施する世論調査が基になっている。世界各地の調査対象者に現在の生活満足度を10段階(0:最低、10:最良)で答えてもらい、その平均値が高い国・地域順に並べたものだ。つまり、客観的な統計データからはじき出されたものではなく、あくまで個人の主観に基づく幸福度であることに注意を要する。

ちなみに、1位のフィンランドの幸福度数は「7.769」、それに対して日本は「5.886」。日本の数値は、"普通より少し幸せ"という水準で、他国より明らかに不幸なわけではない。謙虚な国民性が表れた自己評価とも言える。

実際、内閣府が毎年行っている「国民生活に関する世論調査」を見ると、現在の生活に「満足」「まあ満足」(以降、生活満足度)と答えた人の割合は、2018年6月調査分で計74.7%(前年調査比0.8ポイント増)となり、1963年の調査開始以来で最高となった。逆に、「不満」「やや不満」(以降、生活不満度)と答えた人は過去最低の24.3%だった。(【図表2】)


出典:内閣府「国民生活に関する世論調査」

同世論調査の結果をさかのぼって見てみると、東京オリンピック開催を控えた1963年は生活満足度が63.6%、生活不満度は30.9%だった。当時は高度経済成長期の真っただ中で、人々も希望に満ちあふれていたと思われるが、生活満足度は現在とそう変わらない。バブル崩壊(1991~1993年)の頃の推移を見ても、生活満足度は7割弱で、深刻な不況だった割には過半数の人が満足だと答えている。

不満度が4割に達した年は何度かあったものの、満足度が半数を下回ったことは一度もない。こうして見ると、日本人の幸福度は定量的に捉えると高くないが、定性的に捉えるとそう悲観するほど低くないことが分かる。

一方、同期間(1963~2017年)における日本の名目GDP(国内総生産)総額と、民間企業に勤める人の平均年収額を見てみると、名目GDPは26兆2069億円(1963年)から545兆1219億円(2017年)と20.8倍に、平均年収は42.1万円(1963年)から432.2万円(2017年)と約10.3倍にそれぞれ大きく伸びている。(【図表3】)

出典:内閣府「日本経済2018-2019 景気回復の持続性と今後の課題」(2019年1月)、国税庁「民間給与実態統計調査」
出典:内閣府「日本経済2018-2019 景気回復の持続性と今後の課題」(2019年1月)、国税庁「民間給与実態統計調査」

物価水準の変動を加味していないため単純に比較はできないが、日本は約半世紀の間に途上国から先進国へと驚異的な経済発展を遂げ、かつ所得水準が大きく向上したにもかかわらず、日本人の生活満足度はさほど上がっていない(6割→7割)という見方もできる。つまり、収入と幸福度は必ずしも一致しないということだ。

では、日本人はどのように働くことを「幸せ」だと感じるのだろうか。前述した内閣府の世論調査から、「どのような仕事が理想的か」という設問に対する回答の構成比を時系列(1997~2018年、複数回答)で追ってみよう。

1997年時点で、最も多かった回答項目は「収入が安定している仕事」(49.2%)だった。次いで「自分にとって楽しい仕事」(36.3%)、「自分の専門知識や能力が生かせる仕事」(35.5%)、「健康を損なう心配がない仕事」(23.0%)などが続く。

一方、2018年調査では、それぞれ上位三つの順位に変わりはないが、「自分にとって楽しい」の回答比率が57.8%と半数を超え、1997年調査に比べて21.5ポイントも多い。「収入が安定」は同10ポイント増の59.2%、「専門知識や能力が生かせる」は2.5ポイント増の38.0%だった。(【図表4】)

※1999年12月調査までは「職場で楽しく働ける仕事」出典:内閣府「国民生活に関する世論調査」
※1999年12月調査までは「職場で楽しく働ける仕事」
出典:内閣府「国民生活に関する世論調査」

この"楽しい仕事"の定義は人によって千差万別であるが、「やらされ感」のない、やりがいのある仕事こそが楽しい仕事ではないだろうか。

「自分で物事を決定できる」「選択の自由がある」仕事が幸福感を高めるという研究結果がある。神戸大学・社会システムイノベーションセンターの西村和雄特命教授と同志社大学・経済学研究科の八木匡教授は2018年8月、国内2万人に行ったアンケート調査を分析し、日本人が感じる主観的な幸福度は所得や学歴よりも「自己決定」が強い影響を与えるとの研究結果を発表して話題となった。

具体的には、人の幸福感は所得(世帯年収)が増加するにつれて高まるが、所得の増加率ほどは上昇せず、その上昇率も年収1100万円を境に下がっていく傾向が見られた。

西村・八木両氏によると、自分が進む道を自ら決定した人は、自分の判断で努力することで目的を達成する可能性が高くなり、成果に対しても責任と誇りを持ちやすくなる。その達成感や自尊心によって幸福感が高まるということらしい。

日本企業は従来、個人で自由に選択できる範囲が狭く、集団による意思決定や上長の指示命令に従うことが重視されてきた。企業が社員幸福度を向上させるには、現場への権限委譲をより進め、自己決定度の高い人材(自分の行動を自ら決められる人)を増やしていくことが望まれる。

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